「……で、なんでこのメンツで依頼やるんだよ?」
「あら? そんなに変な人選だったかしら?」

そう口を開いたユーリに対して、アンジュは不思議そうに首を傾げた。

(いやいや。どー見てもおかしいだろ、これ;)

ユーリは、ホールに集められたメンツを見渡す。
そこにいたのは、ユーリが面倒を見ているルーク。
これは、なんとなくわかる。
問題は、残りの二人だ。
その二人は、リオンとヴェイグであったからだった。


~緋色の代償~

「僕だって、好きでお前たちなんかと……」
「えっ? リオン、俺とクエストするの嫌だったのか? ……なんか、ごめんな」

ユーリの言葉にリオンは不快感を露わにしたのか、そう言って腕を組んだ。
それを聞いたルークは、申し訳なさそうにそう言うとリオンの表情は一変させる。

「! いっ、いや、別に、ルークとクエストをするのが嫌だって言ったわけじゃ……」
「大丈夫だ、ルーク。俺は、お前とクエストに行けるのは、嬉しいぞ」
「本当! ありがとうな、ヴェイグ!!」
「だっ、だから! 僕も嫌だとは一言も言ってないからな!!」
「リオン……。ありがとうな!」
(おいおい……マジかよ;)

まただ。こうやって、ルークは、簡単に人を巻き込み、魅了する。
だが、それがまさか、あんまり人と関わることを嫌うリオンにまで及んでいるとは……。
正直これ以上、ライバルを増やしたくないんだが……。

「実はね。今回の依頼主さんがちょっと変わってる人みたいなの」
「? ……変わった依頼主さん?」
「そうなのよ。依頼内容は、『貴族の護衛』っていうものなんだけどね。……メンバーについては『腕の立つ少年、または青年の"イケメン"』でという条件があったのよ。だから、ここは私の好みで人選させてもらいました♪」
「! 貴族の護衛だと……」

アンジュの言葉を聞いてユーリの眉が微かに上がったことにルークは、見逃さなかった。

(……やっぱり、ユーリは貴族の事、嫌いなんだなぁ……)

たったそれだけのことなのに、何故だろう。
胸の奥がチクチクと痛むのは……。

「あの……アンジュさん。その条件だったら、俺、絶対当てはまらないんじゃ;」
「………坊ちゃん。それだけだったら、寧ろ間違いなくお前は合格点だよ」
「えっ?」

だから、ルークは敢えて話の話題が変わるようにアンジュにそう言った。
だが、それに反応したのはアンジュではなく、何故かユーリだったので、ルークは不思議そうに首を傾げた。

(……ホント、無自覚なのかよ;)

この条件、剣の腕にしても、容姿にしても、ルークは圧倒的にクリアしているという自覚がまるでないようだ。
だが、それ以上に問題なのは……。

「けど、坊ちゃんを連れて行くのは、どーかと思うぞ。坊ちゃんに人の護衛はできねぇだろ?」
「なっ、なんですか、それ!」
「事実だろうが。坊ちゃん、人の護衛なんてやったこと、ねぇだろう?」
「う゛っ;」
「それに、この前の怪我だって、まだ完治してねぇし」
「うううっ;」

そのユーリの言葉に、ルークは言葉に詰まった。
確かに、そうだ。
ルークは、今までやってきたクエストは、魔物の討伐やアイテムの素材集めなどといった対人が関わるものは何一つなかったのだ。
そして、この前のクエストで少しやらかしたルークは、また怪我をしてしまっただった。

「大丈夫だ、ルーク。いざとなれば、俺がフォローしてやる」
「ありがとうな、ヴェイグ!!」
「! ぼっ、僕だって出来るだけ、フォローしてやる。……足手纏いは、ごめんだからな」
「リオンも……ありがとうな!!」
「「っ!!」」
(やられた……)

ユーリの発言をうまく利用して、ヴェイグとリオンがルークにフォローを入れる姿を見て、ユーリは内心舌打ちをした。
前々から思っていたが、ヴェイグはこうやって食堂でクレアと話すついでにルークと話をして徐々にルークからも信頼を得ている。
それが、ユーリには脅威でもあった。
オレに向けられるルークの信頼が、別の方向へと向けられるのではないかと思ってしまう。
それが、無性に嫌な気分になる。
こいつに対しての独善欲がどんどん強くなっていく。

「っというわけですし! ユーリさんが何て言っても俺はこの依頼、引き受けますよ!」

そう言って翡翠の瞳を輝かせている彼の顔を見たら、それを否定してやることがユーリにはできなかった。
なので、すべてを観念したようにユーリは溜め息をついた。

「……仕方ねぇな。けど、無理はすんなよ」
「はい! じゃぁ、アンジュさん、行ってきます!」
「えぇ、気を付けてね」

そして、いつも通りルークの頭を優しく撫でてやるとルークは、嬉しそうに笑ってそう言った。
それを聞いたアンジュはそう言ってルークに依頼書を手渡すとそのままルークたちを見送った。

「…………何だ、随分と珍しいメンバー編成だな」
「あら、戻りが早かったですね。リカルドさん」

すると、ルークたちと入れ違うように一人の男がホールへとやってきた。
その男――リカルドを見てアンジュはいつも通り微笑むが、何処かぎこちなかった。
それに気が付いたリカルドは、眉を顰める。

「どうした? 何か不安な事でもあるのか?」
「流石ですね、リカルドさん。私の事、ちゃんと見てくれているんですね♪」
「セレーナ。そうやって茶化すのはやめろ;」

アンジュの言葉を聞いたリカルドは、少し呆れたように溜め息をついた。
すると、アンジュの表情は真剣なものへと変わった。

「……私の思い過ごしだったら……いいんです。けど、ずっと胸騒ぎが治まらなくて……」

これが、唯の杞憂なら、どんなにいいだろう……。
でも、もしこれが当たっているとしたら、怖くて仕方ない……。

「なので、リカルドさんに一つ依頼をお願いしたいのです」
「……俺は、今クエストから戻ってきたばかりなんだが?」
「わかっています。でも、きっとこれは、リカルドさんにしかお願いできないことなので……」

そう。この依頼を遂行するのに一番適しているのは、彼だと思うから……。

「…………わかった。だが、その分、報酬はいつもより割り増ししてもうらうからな」
「ありがとうございます、リカルドさん。では、今回の依頼内容を説明させていただきますね」

そのリカルドの言葉を聞いたアンジュは優しく微笑んだ。
どうか、私の感じた嫌な予感が外れますように……。
そう心で願いながら、アンジュはリカルドに依頼内容を話始めるのだった。








緋色シリーズ第9話でした!
今回でルークとリオン君を絡ませちゃいました♪
ルークの純粋さにはリオン君もたじたじだと思うと可愛くて仕方ないですwww
そして、知らず知らずのうちにライバルが徐々に増えていくユーリさんは、相変わらず苦労人です;
何気にリカルドさんがアンジュさんの事を「セレーナ呼び」するのが好きだったりします♪


R.1 5/25