(うぅ……。何だか、今になって緊張してきた;)
「何だよ、坊ちゃん? 今頃になって緊張でもしてきたのか?」
「! なっ、何でわかったんですか!?」
「そりゃぁ、坊ちゃんの顔にそう書いてあるから」
「ええっ!? どっ、何処にですか!?」
(ホント、純粋というか、単純というか;)

ユーリの言葉を聞いてルークは、自分の顔を触っている姿を見てユーリは、思わず笑ってしまった。
ルークのこういったところが可愛くて堪らない。

「……ったく、そんなに緊張すんなよ。オレらが不安がっていたら、依頼人も不安になるだろ?」
「はっ、はい……。それもそうなんですけど……」
「じゃぁ、こういうのはどうだ」

それでもまだ、不安そうな表情を浮かべているルークに対してユーリは、ある提案を持ち掛けた。

「もし、この依頼がうまく出来たら、どっか美味いところに連れていってやるよ」
「ええっ! 本当ですか!?」

そのユーリの言葉を聞いたルークは、嬉しそうに瞳を輝かせた。

「俺、この前、ユーリさんが話してたフルーツパフェが美味しいお店に行ってみたいです!」
「おう! 終わったら、連れてってやるよ!」
「やった! ありがとうございます、ユーリさん!」

そのユーリの言葉にルークは、心底嬉しそうに笑って言った。

「あっ、そうだ! なぁなぁ、二人共。よかったら、一緒にパフェ食べに行かないか?」
「!!」

その思ってもみなかったルークの行動にユーリは、瞠目した。
オレとしては、ルークと二人っきりで行こうと思っていたんだが……。
だが、それに戸惑っているのは、オレだけでなく、誘われた二人も同じらしい。

「ぼっ、僕は……別に…………」
「ユーリさんが教えてくれるスイーツってすっごく美味いんだよ。だから、リオンとも一緒に食べたいなぁって。リオン、甘い物好きだし。……な?」
「…………わかった。一緒に行ってやる。けど、僕は、パフェが目当てなだけだからな!」
「うん! わかってるって;……ヴェイグは、どうする?」
「俺は……ルークが行きたいって言うなら、一緒に行くさ」
「ありがとうな、ヴェイグ!」

リオンとヴェイグの言葉を聞いてルークは、本当に嬉しそうに笑った。
正直、ルークと二人っきりで行くつもりだったユーリは、面白くない話だが、ルークが喜んでいるなら、仕方がない。
もう、この依頼をさっさと終わらせて、ルークたちとパフェを食べに行こう。
そう、ユーリの頭の中では、目的が変わっていたのだった。


~緋色の代償~

「いや、よく来てくれたね♪」
「あっ、あの……。今日は、よろしくお願いします!」

依頼主であろう男を目の前にしたルークは、そう言って頭を下げたが、明らかに緊張してくるのがユーリにも伝わってくる。
そんなルークの反応が余程気に入ったのか、依頼主は優しい笑みを浮かべた。

「あぁ、そんなに緊張する事なんてないよ。僕なんて、下級貴族なんだからさ」
(? 下級貴族……だと?)

こんな豪勢な馬車を用意し、更にオレら以外の護衛も雇えるだけの金があって下級貴族なわけねぇだろうが。
そう心の中でユーリは、呟いた。

「……ユーリさん、眉上がってますから;」
「あー、悪い。顔には出さないように気を付けるわ」

ルークにオレの眉が上がっている事に気付かれた為、ユーリはそう言った。
とは言いつつも、こいつがオレが嫌いな貴族であることには、変わりなのだからユーリは正直、それを治す気などなかった。

「……ん? 君は、何だか顔色がよくないみたいだけど、大丈夫かい?」
「あっ、えっ、え~っと……この前、ちょっと、怪我をしてしまって……」
「えっ? そうだったのかい? それに気付かず話をしてしまって、すまなかったねぇ」
「いっ、いえ、そんなことは!」

依頼主の言葉にルークは、慌ててそう言った。

「……じゃぁ、君は、私と共にこの馬車に乗って護衛を頼むね。他の皆さんは、他のギルドの人たちと一緒に外から護衛をお願いするよ」
「えええっ!?」

その依頼主の言葉にルークは、驚きの声を上げた。
自分一人だけがこの馬車のに乗って護衛を任されるなんて……。
ちゃんと一人で出来るだろうか、不安になった。

「……まぁ、何とかなるだろよ。そんなに緊張すんなよ」
「ユーリさん……」

その不安そうな表情が表に出ていたのか、ユーリが優しく髪を撫でながらそう言ってくれた。
不思議な気持ちになる。
この人にそう言われたら、俺は、本当に大丈夫なんだと、そう思えてしまうのだから……。

「では、よろしくお願いしますね」
「あっ、はい!」

ユーリとルークのやり取りを一通り見た依頼主は、そう優しく言うとルークを馬車の中へと促す。
それにルークは、頷くと素直に従って馬車へと乗り始める。

「…………よかったのか? ルークを一人にして」
「しゃーねぇだろ。実際にルークは、病み上がりなんだし。それに……」

ルークとのやり取りを見ていたヴェイグがそうユーリに話しかけてくる。
それに対してユーリは、頭を掻きながら視線を変える。
その視線の先には、他のギルドの奴らだ。

「……あいつは、いるだけで目立つからな」
「ふん。過保護が」
「そう言うお前だって、さっきからあいつらの事、睨み過ぎだ」
「! うっ、うるさい!!」

あの見た目だ。ルークは、いるだけで目立つから正直、護衛という類の依頼には向かないと、ユーリは、考えている。
それに、他のギルドの奴らの視線も妙に気になる。
そう思ったユーリがそう言うと呆れたようにリオンが溜め息をつく。
だが、彼もまた同じことを感じていたのか、奴らに敵意を剥き出しにしている。
その事を少し茶化すように指摘してやると不機嫌そうにそっぽを向いた。
ホント、坊ちゃんは一体どうやって、こいつを手懐けたんだよ。
とにかく、今回は護衛をしつつ、ルークに変な虫がつかないようにしなければならない。
そうユーリは、静かな闘志を燃やすのだった。





* * *





(う~ん……。やっぱり、一人だと緊張するなぁ;)

馬車の中に乗り込んだルークは、辺りをそわそわと見渡した。
馬車に乗るだなんて、ずいぶん昔の事だった。
殆ど、屋敷内で生活していたルークは、自分の父を見送る方が多かったが、一度だけこうして馬車に乗った事があった。
それは、アッシュと一緒に父上の公務について行った時だった。
その時の事を少しだけ思い出してしまった。

「そんなに緊張することはないよ。外にも護衛はついているんだし。……あっ、そうだ。よかったら、紅茶でも飲むかい?」
「えっ? でっ、でも……」

仮にも今は、仕事中なのだ。
いくら好意でそう言ってくれているとはいえ、ルークはそれに気が引けた。
それに、ユーリたちが外で頑張っているのに、俺だけ紅茶を飲んで休憩するのもおかしいし……。

「大丈夫。彼らにも、何か飲み物を渡すから……。はい、どうそ♪」
「あっ、はい……。ありがとうございます。いただきます」

が、結局、依頼主のその言葉に返す言葉が見つからず、ルークは紅茶の入ったティーカップを受け取ってしまう。
紅茶からは、微かに甘い香りがして少し落ち着いた。
火傷しないように息を吹きかけながら、少しだけ紅茶を啜って飲んだ。
この紅茶は、香りもだが、味も甘くて美味しかった。
きっと、この味だったら、ユーリも好きじゃないかなぁ……。

「…………ねぇ、君。一つだけ、訊いてもいいかなぁ?」
「はい。何ですか?」

すると、依頼主は、ルークの事を優しく見つめるとそう口を開いた。
それに対して、ルークは、少し不思議そうに首を傾げる。

「…………君って……『ルーク・フォン・ファブレ』だよね? ライマ王国の第一王位継承者の」
「!?」

だが、次に聞こえてきた依頼主の言葉にルークは、瞠目した。
一体、この人が何を言おうとしているのか、わからなかった。

「なっ、なにを……根拠に……?」
「その美しい赤毛の長髪に翡翠の瞳は、ライマ王国の王族の血縁の証。けど、君の場合、髪の色が他の血縁者とは明らかに異なっていたから、少し迷ったけど……。でも、こうも早くその人物に接触できるとは思わなかったなぁ。けど、これだけ仕込んだことは、やっぱり間違いじゃなかったね」
「いっ、いったい……なにを言って…………っ!!」

何とかしらを切ろうと言葉を紡ごうとしたルークだったが、それは叶わなかった。
ルークの身体を襲ったのは、強力なまでの睡魔で、今こうやって座っているのも辛い状況になりつつある。
ここで漸くルークは、彼らの狙いが自分であることに気付かされた。
ダメだ、早くこの馬車から降りて逃げないと……。

「おっと。そんな状態で逃げられるとでも?」
「っ!!」

何とか馬車から降りてユーリたちの許へと向かおうと馬車の扉へと手を掛ける。
だが、その扉を開く前に依頼主、いや、ルークの事を狙う男に阻まれ、そのまま馬車の椅子に押し倒された。
その衝撃にルークの睡魔が一気に加速する。

「……おやすみ、ルーク。良い夢を」

そして、男はルークの耳元でそう囁く。
それが引き金となり、ルークは意識を手放した。
そのことを確認した男は、ニヤリと笑うと馬車の前に付いている小窓をノックする。

「ターゲットを無事に捕獲した。目的地点になったら、奴らを振り切れ」
「わかった。一応、念の為、身動きが取れないようにしとけよ」
「あぁ、わかったよ」

仲間である御者の男の言葉にそう答えると彼は、ルークへとゆっくり近づき、思わずルークの髪の毛を触った。

「それにしても、ライマ王国の王族は、こうも上物とはね……。こりゃぁ、かなり高値で売れるぞ」
「おい。馬鹿な事言ってないで、さっさとしろ。あと、変に手を付けるなよ。あくまでも、今回は、無傷でってことなんだから」
「ちぇ……わかったよ」
「そこ。普通に残念がらない」

そう彼に釘を刺し、御者の男は、一気に馬車を加速させるのだった。








緋色シリーズ第10話でした!
ああっ!ユーリさんもリオンくんも他のギルドの奴らに敵意剥き出しで可愛い!!
そして、ルークは、お決まり通り、誘拐されてしまった。。。
次回、それに気付いたユーリさんたちがどう動くか!!


R.1 7/14