「う~ん。なんか……違うんだよなぁ;」

そう言ってルークは、台所の前で格闘していた。
ロックスたちに教えてもらったレシピ通りに作っているはずなのに、なんか微妙に味が違う気がするのだ。
一体、何が悪いのだろうか……。
この調子だと、全然出来る気がしない……。
やっぱり、誰かに手伝ってもらうべきだろうか……。

「いや! ダメだ! これは、俺独りでやっぱやらないとっ!!」

そう考え直したルークは、自分で作った卵かけごはんを掻き込んで、再び台所の前に立つのだった。


~緋色の代償~

「はぁ~。今日も疲れた;」

ルークが食事を手伝いだして数日が経った。
相変わらずユーリは、ルークに避けられ続けていて真面に喋っていない。
本当に、オレがルークの面倒を見る役だったのかと思うくらいだ。
そして、今日は遅くまでクエストをしていたので、夕飯はおろか、食堂にすら行っていなかった。
だから、今日は流石に食堂の夕飯は期待できないだろう。
仕方ない。今日は、何か簡単なものを自分で作って食事を済ませて寝よう。
そう思ったユーリは、食堂へと足を運ぶ。

「…………あっ」
「! ユ、ユーリさん!?」

そして、ユーリが食堂に入った途端、目に入ったのは夕焼けのように赤い色だった。
その人物――ルークは、ユーリが食堂に来たことに心底驚いている。

「どっ、どうしたんですか? こっ、こんな時間に!?」
「それはお互い様だろ?」
「そっ、それは……」

ユーリのご尤もな質問にルークは言葉を詰まらせた。
そんなルークの姿を見てユーリは、溜息をついた。

「……オレは、今戻って来て軽く飯食いに来ただけだよ」
「えっ? あっ……。そう言えば、今日、ユーリさん夕方いませんでしたよね?」
(そういうことは、ちゃんと見てるのかよ……)

ユーリの言葉を聞いたルークは漸くユーリが夕飯の時に姿がなかったことを思い出したのかそう言った。

「で……お坊ちゃんは、何を――」
「うわーー! それは、ダメ!!」

ユーリの用事は言ったのだから、次はルークの番だと思い、ユーリは食堂の奥へと踏み込んだ。
その途端、ルークが大声を上げるが、ユーリは特に気にしていなかった。
それよりも気になったものがあったから……。

「なんだ、これ?」
「あああぁぁ;そっ、それはっ///」

ユーリは一つの鍋を指差してそう言うとルークは明らかに慌てた。
そんなルークの反応が面白いと思いつつ、ユーリは鍋の蓋を取った。

「あっ……こいつは……」
「っ////」

鍋の中身を見られたルークは、恥ずかしそうに赤面していた。
鍋の中には、チキンカレーだった。

「……もしかして……これ、坊ちゃん独りで作ったやつか?」

ルークは、恥ずかしいのか決して声は出さず、手で顔を覆いながらコクコクと頷く。

「……卵かけごはんだけじゃなくて、もっと他にも料理作れるようになりたくて、ロックスたちに教えてもらったんだけど、なかなかうまく出来なくて……」
「で、独りで練習してたと?」
「はい……」

ルークの言葉を聞いたユーリは、呆れたように溜め息をついた。

「なんで、オレに言わなかったんだよ。そしたら、練習に付き合ってやったのに……」
「そっ、それじゃぁ、意味がなかったんです! 他の人ならともかく、ユーリさんにはお願いできなかったんです!」

そのルークの言葉にユーリは怪訝そうに眉を顰めた。
そんなにオレだと、頼りないのかよ。
他の奴に頼めたかもしれないことをオレには頼めないことが、無性に腹が立った。

「だって、これ……ユーリさんに食べてもらいたかったから……」
「……えっ?」

だが、次に発言したルークの言葉にユーリは瞠目した。

「ユーリさん、嫌だって言ってたのに、俺のこと色々と面倒見てくれていたから……その……ちゃんと、お礼がしたくて……。だから、初めてちゃんと自分で全部作った料理は、ユーリさんに食べてもらいたくて……」
「っ!!」

恥ずかしそうにそう言ったルークのその言葉でユーリは、すべてを理解した。
何故、ルークが今までオレのことを変に避けていたのか?
何故、ルークが他の奴はよくてオレだけ食堂の手伝いを断ったのか?
それは、ルークが自分で作った手料理をオレに内緒で練習して食わせたからだった。

(…………こいつは、本当……)

なんで、そんな可愛いこと、しやがるんだよ。
それも、無自覚なことが余計にそう思わせる。
そのせいで、オレは、どんどんハマっていくことになるじゃねぇかよ……。

「……じゃぁ、それ、オレに食わせろよ」
「ええっ!?」

ちょっとした嫌がらせを称してユーリは、ニヤリと笑ってそう言った。
その言葉を聞いたルークは、心底驚いたような表情を浮かべている。

「でっ、でも、これは失敗作で……」
「だからって、それ捨てちまうのかよ? 流石、お坊ちゃんだな;」
「う゛っ;」

確かにユーリの言葉はご尤もだった。
食べ物を粗末にするのは決してよくない。
けど、これをユーリに食べさせるのは……。

「いいから、それ食わせろ。一応、スパイスは持っているし」
「えっ? 何ですか、それ?」
「それはなぁ……『空腹』だよ」

ユーリの言葉にルークは首を傾げた。

「『空腹』?」
「そ。人っていうのは、腹が減っていれば、何でも旨く感じるようになってるんだよ」
「…………そう……なんだ……」

ユーリのその言葉を聞いたルークの表情が少しだけ哀しそうなものへと変わった。
その言葉の意味がルークにはよく理解できたから……。
だから、その言葉が痛いほど突き刺さる。

「……まぁ、半分は冗談だけどなぁ;とりあえず、腹減ってることは本当だから、それくれよ」
「…………あっ、はい……」

そんなルークの表情を見て何かを感じ取ったのかユーリは、少しばかり申し訳なさそうにそう言うとルークにチキンカレーを皿に装うように皿を手渡してそれを促した。
それにルークは素直に従い、チキンカレーを皿へと装った。

「はい……。けど、本当に味の方は保証できないですから……」
「はいはい……」

そして、それをユーリの前に配膳したルークは念の為、そう忠告した。
ユーリは、それを軽く受け流すとチキンカレーを口へと運んだ。
その間、暫く沈黙が流れる。

「……やっぱり、まずかったですか?」
「…………」

その沈黙に耐え切れず、そう話を切り出したのは、ルークの方だった。
だが、ユーリは、それに即答することはなかった。

「……まぁ……初めて作った方にしては……まぁまぁじゃねぇ?」
「う゛っ……;」
「だからさぁ……」

そうチキンカレーを口にしながら、ユーリは話を続ける。
「坊ちゃんが作った料理は、暫くオレが食べてやるから、他の奴に食わせるなよ」
「えっ?」
「なんで、そこで驚くんだよ;」
「だって……もう作るなって言われるかと……」
「別に、練習すればうまくなるだろ? だから、それまでの毒味は、オレがしてやるから」
「……本当、ユーリさんは、厳しいなぁ;」

ユーリが本心からそう言っていないことは、ルークにはわかっていたので、苦笑した。

(……まぁ、嘘は言ってねぇし、これでいっか♪)

そんなルークの姿を見てユーリは、フッと笑った。
実は、ユーリはちょっとした嘘を言っていた。
それは、ルークの料理の味である。
まぁまぁとは言ったが、決して不味くなかった。
寧ろ、美味い方だった。
だから、これを他の奴には食べさせたくないと思った。
最近、ずっと避けられてたんだから、これくらいのことだったら罰は当たらないだろう。











こうして、ルークは数日間の食堂の手伝いのおかげで食事を真面に摂れるようにもなり、再びユーリと共にクエストをこなす日々に戻るのだった。








緋色シリーズ第5話でした!
はい。ルークがユーリさんを避けていた理由が漸く判明しました!
その理由が可愛すぎる!!ユーリさんの為にルークが頑張る姿を想像するだけで可愛い!!
おかげ、ユーリさんのルークに対する独占欲が増していきましたwww
ルークが作った料理を他のギルドのメンバーが食べられるようになるのは、いつになるやらwww


H.30 8/11