全てが真っ白なパレットの世界。
そこにあの子――コテツは、いた。


~しろいろコテツとくろいろライアンのおはなし~

全てが真っ白なパレット世界に独りポツンと白い子のコテツはいました。
けど、コテツは決して寂しくはありませんでした。
何故なら………。

「おはよう。私の可愛い子。お食事にしましょう」

それは、いつも同じ時間になると白い女の人がコテツの前に現れて食事を持ってきてくれます。
それにコテツは、いつも素直に従い食事を食べます。

「いい子ね」

コテツが素直に白い女の人に従って食事を摂ると彼女はいつもそう言って優しく頭を撫でてくれます。
その優しく暖かな手がコテツは好きでした。

「さぁ、お散歩に行きましょう」

そして、白い女の人は食事が終わるといつもコテツの手を引いて散歩へと連れてってくれるのです。
全てが真っ白なパレットの世界をコテツと白い女の人の二人だけで歩きます。

「さぁ、もう寝る時間よ。おやすみなさい」
「…………」

白い人とある一定時間一緒に過ごした後、彼女は必ずそう言ってコテツの頭を撫でるとコテツを残して外へと出ていきます。
コテツはその言葉に従って真っ白な白い部屋で独りで眠りにつきます。

「おはよう。私の可愛い子。お食事にしましょう」
「…………」

そして、また朝になると白い人は食事を持ってコテツの許に現れるのです。
コテツは、白いこの場所で毎日同じことを繰り返しています。
そう、毎日同じことを……。
けど、コテツはそれについて何も疑問を持っていませんでした。
コテツにとっては、それが当たり前のことだったからです。

「本当にあなたはいい子ね」

そして、何より白い人が笑っていてくれて、優しく頭を撫でてくれる。
そんな白い人のことが好きだったコテツは、同じ毎日を過ごしていました。
ずっと、変わることのない毎日をずっと……。
それが、ずっと続くことをコテツは信じて疑いませんでした。
そう、あの日が来るまでは………。





* * *





「さぁ、私の可愛い子。お散歩に行きましょう」

それはとあるある日の事。
コテツは、いつもと変わらず白い人に手を引かれて散歩をしていました。
いつもと変わらない散歩道。
いつもと変わらない真っ白な風景の中をコテツはただ歩いていました。
そして、いつもと変わらない白い人の優しい笑顔を見た瞬間、コテツはあるものを見つけて足を止めました。
それは、今まで白いもの以外見たことがなかったコテツにとって、初めて見る色でした。
白いものに囲まれて生きてきたコテツはその色が何という色なのかわかりませんでした。
故に、コテツはその色に興味を持ちました。
その色に触ってお友達になりたいと思ったコテツは、ゆっくりとその色に近づくとそっと手を伸ばしました。

「だめ!!!!」
「!!?」

その瞬間、辺りに白い人の声が響き渡り、コテツは白い人にグッと引き寄せられました。
その声に驚いたコテツは、ふと白い人の顔を見上げました。
そこにあったのは、コテツが知っている優しい笑みではなく、酷く恐い表情でした。
そんな白い人の表情をコテツは、初めて見ました。
白い人はそのままコテツの手を引いて歩きます。
その力はいつもより強く、そして酷く震えていたことにコテツは気付きました。
それから何の会話をすることなく、いつもの部屋へと戻ってくると白い人は、いつもとは違ってコテツの事を少し乱暴に部屋へと押し込むとそのまま乱暴にドアを閉めて出て行ってしまいました。
そして、その日を境に白い人がコテツの前に現れることはありませんでした。
コテツは、来る日も来る日も白い人のことを待ち続けました。
次の日も、その次の日も白い人が現れるのをコテツは待ちましたが、いくら待ってもあのドアから優しい笑みが現れることはありませんでした。
今まで当り前だと思っていたことが急になくなってしまったコテツは不安にも感じましたが、いつか必ず逢いに来てくれると信じて待ち続けいました。
そして、その間コテツは静かに瞳を閉じて思い出していました。
あの、初めて見た色のことを……。
白とは全く異なるあの色。
ふわふわと白い世界を彷徨っていたあの名前もわからぬ色。
そのことを思い出してみるとコテツの頭はそればかり考えるようになりました。
逢いたい。逢って、あの色のことをもっと知りたい。
あの色とお友達になりたいと、そう考えるようになりました。
そう想うようになっていたコテツは、自然とあのドアの前に立っていました。
そして、初めて自らドアを開けて外へと出ました。
いつもは白い人と一緒に歩く道をコテツは一人で歩いて行きました。
すると、コテツの耳に何かが転がったような、落ちるような音が聞こえてきました。
ですが、その音はあの白い人の声にも似ているようにも思いました。
コテツは、その音がした方に走りました。
そして、その先にいた人物を見てコテツは足を止めました。
そこに立っていたのは、コテツの知っている白い人ではありませんでした。
その人物は、全身真っ黒な服に身を包んだ黒い子――ライアンでした。
白い子――コテツとこの白いパレットの世界にいるはずのない黒い子――ライアン。
全ての色を支配する色の瞳を持つライアンはジッとコテツのことを見つめました。

「??」

そのライアンの行動にコテツはただ不思議そうに首を傾げて見つめ返します。
だが、ただコテツのことを見つめただけでライアンは、コテツに何もしないでコテツの横をすり抜けて歩いて行きました。
コテツは、ライアンのあの色が忘れられなくてライアンを追いかけ始めました。
ついさっき、自分が探していた色がこの色だったかは、コテツは覚えていません。
ただ、ライアンに触れたくて、仲良くなりたくて、ひたすら追いかけました。
それに気が付いたライアンは、駆け出しました。
その途端二人の距離はどんどん離れていきます。
しかし、コテツは決して諦めようとはしませんでした。
ライアンに触れようと必死に追いかけました。

「!?」

そのせいでコテツは足が縺れてしまい、派手に転んでしまいました。
転んでしまったコテツは、もうライアンに追いつかないだろうと思いつつ、顔を上げます。
しかし、コテツが見たのは少し離れた位置で立ち止まっていたライアンの姿でした。
ライアンは、コテツが決して手を伸ばしても届かない位置で待っていました。
コテツに触れることなくただ静かにコテツのことを見守っていました。
それを見たコテツは、すぐさま起き上がるとまたライアンを追いかけました。
コテツの行動を確認したライアンは、またすぐに走り出します。
こうして、二人の長い長い追いかけっこは始まったのでした。








獅子虎小説 しろくろシリーズ第1話でした!!
Pixivにはだいぶ前にアップしていたのですが、こちらへの更新は遅くなっちゃいました;
今回は、コテツとライアンの出逢い編となります!
いつも書いている感じではなく語り口調なのでちょっぴり書きづらかったです;
ちなみに、このお話で出てくる『白い人』は友恵さんをイメージしています(ノ)・ω・(ヾ)


H.26 11/12