『ごめんな、ライアン。――――』

この人は本当に卑怯だ。
いつもは俺の事を"ライヤン"と呼び癖に……。
そんな風に名前を呼ばれたら動けなくなるじゃねぇか。
考えていた思考までもすべて停止する。
その後に続いた言葉が俺にとって、何よりも聞きたくなかった言葉だったのに……。


~君、思フガ故~

「……何、ジュニア君? こんなところにいきなり呼び出したりなんかしてさ」

アポロンメディアの会議室の一室にライアンは入るとそう言った。
その中には、いつもと変わらない不機嫌そうな表情を浮かべたうさぎちゃんの姿があった。

「こ~んなところわざわざ使わなくたって、話なら何処だってできるっしょ?」
「……単刀直入に訊きます。貴方、虎徹さんに何をさせているんですか?」
「…………はぁ?」

自分の言葉を完全に無視してそう言ったバーナビーのその言葉にライアンは思わずそう声を漏らした。

「ジュニア君。何言ってるの? 変な嫉妬だったらやめてほしいんですけど……」
「ファイヤーエンブレムさん達から話を聞きました。この数週間であの人の体重が激減している事を」
「…………」

そう言うライアンに対してバーナビーはライアンに視線を合わせる事なくそう言葉を続ける。
「二部であってもあの人がヒーローであることには変わりはない。僕とコンビを組んでいた時は、あの人は何よりも体調管理を心掛けていました」

いつ、なんどきも人助けができるようにと、その精神は二部になっても、いや二部になり環境が変わったからこそあの人は、より一層それを心掛けるようになったのだ。
一部以上に体力勝負になる事が多い二部だからこそ、一部にいた時以上にトレーニングに励んでいたのを僕は見ていた。
事実、あの人とコンビを組んでいた時に見たあの人はとても四十代とは思えないほどの逞しい体つきだった事をよく覚えている。
あの人は着痩せするタイプなので、それを知っているのは僕を除けば極僅かだっただろう。

「だからこそ、虎徹さんの体重が激減している事は絶対におかしい。何か理由がない限り、今のあの人の行動は説明がつきません」
「…………で? その理由が俺だってジュニア君は言いたいってわけっすか」

バーナビーの言葉を全部聞いたライアンはそう言うと鼻で嗤った。

「悪いけど、それはとんだお門違いですよ。むしろ、俺は気を付けてくれって言ってるくらいなんですから」

虎徹は目を離すとすぐに無理をする。
それが、人の命が関わると特にだ。
それを注意しても虎徹は笑っていつも誤魔化すのだ。
もう少し、こっちの気持ちもわかってほしいのにだ。

「いくら俺と虎徹の関係に嫉妬しているからって変な言いがかりはやめてくださいよ」
「…………」
「けどまぁ、ジュニア君も心配したって事は俺からも伝えといてやるよ。ご忠告、どうもありがとうございました、ジュニア君」

そう言うとライアンはバーナビーの肩をポンポン叩くと会議室を後にしようと踵を返して歩き出す。

「…………本当は、付き合ってないくせに」
「…………はぁ?」

そして、その直後に背中越しに聞こえたバーナビーの言葉にライアンは足を止め、振り返った。

「ロックバイソンさんから貴方の過去を聞きました。貴方と虎徹さん、昔一緒に暮らしていたんですね」
「!!」

バーナビーの言葉にライアンは瞠目した。
あの牛、余計な事を喋りやがって……。

「この前のあの話もその時のものだったわけですね。貴方が虎徹さんに対する馴れ馴れしいあの態度のわけもこれで漸くわかりました」
「…………だったら何だって言うんだよ? だからと言って俺と虎徹が付き合ってねぇとは言えないだろうが? 過去なんて関係ねぇよ」
「それはどうでしょうか」

ライアンの言葉にそうバーナビーは言う。

「貴方には関係ないかもしれませんが、虎徹さんはどうでしょうか?」
「…………」

やめろ。それ以上は言うな。

「虎徹さんにとって貴方は、あの時の幼い子供のままなんじゃないですか?」

やめろ、それ以上は聞きたくねぇ……。
自然と拳に力が入っている事にライアンは気付いていなかった。
ただ、必死に自分の中に湧き上がってくる感情を抑え込んでいた。

「そんなあの人が貴方に恋愛感情を持つことなんて、絶対にある筈がない」
「っ!!」

その言葉を聞いた瞬間、ライアンの中で何かが弾けた。
それと同時に無意識のうちに能力を発動させ、気が付くとバーナビーが地面を這い蹲っていた。

「っ!!」
「あ~~っ、悪ぃ悪ぃ。あんまりにもムカつく事をジュニア君が言うから、つい能力使っちまったわ」

突如、とてつもない重力を掛けられ苦しそうに耐えているバーナビーの姿を見下ろし、ライアンは哂ってそう言った。

「けど、先輩も悪いんですよ。人の気持ちを逆撫でるようなことを言うから……。まぁ、これに懲りたら、少しは気をつけることだな」

そして、そう忠告を言い残すとライアンは能力を解除して再び会議室を後にしようとする。

「…………ふざけるな」
「……あん?」

少し咳き込みながら唸るようにそう言ったバーナビーの声にライアンは聞き逃さなかった。
ライアンが視線を変えるとバーナビーは、少しよろめきながらもゆっくりと立ち上がり、ライアンを睨みつけた。

「…………お前は……あの人の下で一体、何を学んだんだ? あの人だったら、こんな事くらいで絶対に能力を使ったりはしない!」
――――……いいか、ライヤン。能力をコントロールするには、まずは感情のコントロールからだ。実際に体験したからもうわかってるとは思うが、感情に任せて能力を使うのは危険だからぜってぇ駄目だからな。

ふと、頭に浮かんだのは、俺に能力のコントロールの訓練を付けてくれた時の虎徹の言葉だ。
そして、気付いた時にはライアンの目の前には、バーナビーの顔があり、いつの間にか彼に自分の胸ぐらを掴まれていた。

「僕達の力は、人を助ける為にあるんだ! こんなくだらない事で力を使うなっ!!」
――――その力は、人を助ける為にあるんだからさ!

お前に言われなくても知っている。
それは、虎徹の言葉だ。
そう言って虎徹が俺にニッと笑ってくれた事を今でも鮮明に思い出すことができるくらいなのだ。
虎徹と同じあの言葉をこいつは、さも当然のように俺に言い放った。
それだけでこいつが虎徹にどれだけ影響されているのかよくわかった。
だが、こいつと虎徹とでは全然違う。
言葉の重みが、背負っているものが違い過ぎるのだ。
だからこそ、この言葉を簡単に口にするこいつの事が無性に腹が立った。
今、虎徹がどんな思いでいるか何も知らないくせに……。
一層その事をこのままぶちまけてしまおうか……。

『ライアン&バーナビー、出動要請発令! 速やかに準備し、現場に出動してください』
「…………さぁ、行きますよ」

ライアンが口を開きかけたその時、突如エマージェンシーコールが鳴り響いた。
それを聞いたバーナビーはライアンから手を放すと、そう吐き捨てるように言ってさっさと会議室を後にした。
それを見たライアンは、思わず息を吐いた。

(あ~~~、マジでヤバかったぞ;)
あそこでエマージェンシーコールが鳴らなかったら、俺は間違いなく喋っていただろう。
そうなっていれば、折角の虎徹の苦労が水の泡となっていただろう。

(やっぱ、あいつとコンビは無理だ……)

俺が本当にコンビを組みたい奴、守りたい奴は虎徹なのだ。

――――大丈夫だって! バニーはあぁ見えてもすっげぇいい奴なんだぞ! お前だったら、バニーとだってうまくやれるって♪

あいつとコンビを組みことになった事に関して俺が愚痴った時、そう虎徹は笑って言った。

――――それにさぁ……お前とバニーってどことなく似てる気がするんだよなぁ。だから、きっとお前らはいいコンビになるって! なぁ?

そして、まるで子供扱いするかのように虎徹は、俺の髪をクシャクシャに撫でながらそう言った笑顔が今でも目に焼き付いている。

(…………どこがだよ)

俺とあいつのどこが似てるって言うんだよ、虎徹。
全然似てねぇじゃんかよ……。
だが、一つだけ俺とあいつには共通点があった。
それはお前だよ、虎徹。俺もあいつも虎徹じゃないと駄目なんだ。
だからこそ、俺は今すっげぇ怖ぇんだよ。
"あの日"を俺は、平然と迎えられるかと……。





* * *





時は満ちた……。
我が、悲願が漸く果たされる時が……。
全ての舞台は整った。
あとは、"あの日"を、女神伝説を祝う"ジャスティスデー"を待つまでだ……。





* * *





「あ~~~っ! 何でこんな日に限って出動って、ツイてねぇなぁ;」

ヒーロースーツに身を包んでいるライアンはそう言うと、深い溜息をついた。

「あいつら、祝日の日くらい休んでろって! マジでムカつく!!」
「事件に休日や祝日がるわけないでしょうが。そんなものがあるなら、僕たちヒーローは苦労しませんよ」

ライアンの言葉を聞いたバーナビーは呆れたように溜め息をつくとそう言うのだった。
今、二人が出動しているのは、最近世間を騒がしている謎のNEXT能力者三人組の件だ。
奴らは、世直しと称してシュテルンビルトの街の様々なところで無作為に暴れまわっているのだ。
あんな奴らをいつまでも野放しにしておけば、ヒーローの信頼に響きかねない。
そう考えているアニエスの気合の入れようと言ったら半端ではない。
奴らがまた姿を現したという情報を仕入れるやいなやすぐにヒーロー達全員を招集させたのだ。

「うっせぇ! こっちは、虎徹と約束があったんだよ! それをあいつらのせいで邪魔されたんだから、腹も立つだろうが!!」
「……あの人と……約束?」

そう言ったライアンの言葉を聞いたバーナビーの表情がフェイスシールド越しに険しくなった事をライアンは感じた。

「そうだよ。せっかく、虎徹とデートだったのにさぁ!」
「…………」
「何? ジュニア君、俺が虎徹とデートすることに妬いてたりする?」
「別に……妬いてません。ただ、よくそんなでまかせが言えるな、っと思いまして」
「はぁ?」

バーナビーの神経を逆撫でるつもりでそう言ったライアンに対して、バーナビーはそう言い返した。
それを聞いたライアンは思わず眉を顰めた。

「貴方とあの人がデートするなんて、あり得ませんから。なんせ、貴方とあの人は付き合っていませんし」
「なっ!?」

バーナビーがそう言った言葉にライアンは絶句した。
あの日以来、俺が虎徹の話題を出してもバーナビーはこの調子で受け流し、俺と虎徹とのやりとりを羨ましがるどころか同情の眼差しまで向けるようになった。
その俺を見下したような態度がマジで腹が立って仕方がない。
今すぐ能力を発動させてこいつを平伏せさせてやりたいが、そんな事をすればまた虎徹の事を持ち出してくるだろうからやらないが……。
本当、虎徹はこいつのどこがいいんだか……。

『ボンジュール、ヒーロー』

そんな事を考えていると突如、アニエスからの回線が入った。

『みんな、そろったわね。今日こそ、あの3人組を絶対に確保するわよっ!!いいわね?』
「「「「「「「「了解」」」」」」」」

そう言ったアニエスの言葉に皆そう答えると各自行動を開始すべく、動き出す。
それに倣うようにライアンも歩き出そうとした。

(…………なんだ?)

その直後、ライアンのヒーロースーツに一つの回線が入って来たので、思わず足を止めた。
それはいつものアニエスからのものとは明らかに異なった回線だった。
それに少し戸惑いつつも、ライアンはその回線を繋いだ。

『おおっ! すっげぇ!! 本当に繋がったぞ、これ♪』
「! なっ! こっ、虎徹!?」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

そこから現れたのは、見慣れた美しい漆黒の髪と琥珀の瞳を持つ男の姿。
それを見た途端、ライアンは驚きのあまり思わず彼の名を口にすると、それを聞いたヒーロー達の足が止まり、一斉にライアンへと視線が集まる。
だが、ライアンはそんな事とは知らず、ただ目の前のモニターに映る彼の姿に食い入っていた。

「どっ、どうなってるんだよ! なんで、虎徹が俺のスーツと回線を繋げられるんだよっ!?」
『あ~~、何か知らねぇけど、こっちから一方的に回線は繋げられるようになってるらしいぞ』
「なっ、なんだよ、それ!? 俺、聞いてねぇし!?」
『そんなの俺に言われてもなぁ; 俺だって、さっきマークさんにこの事教えてもらったばっかだし;』

ライアンの反応を見た虎徹は苦笑混じりでそう言った。

(…………ちょっと、待てよ)

そもそも、何でこんなものを俺のスーツにつける必要がある?
何で、虎徹がこれを今使う必要があったんだ?
こんなもの使わなくたって、またすぐに連絡なんて取れるはずなのに……。
それに、モニターに映っているのは、虎徹の自宅ではない。
明らかに何処かに向かっているのか、モニターの背景は動いている。

『マークさんから、聞いたぞ。例の三人組がまた現れたんだって? 今日も大変そうだなぁ……』
「……おい、虎徹。お前……今、何処に行こうとしてる?」
『けどさぁ、お前とバニーが力を合わせれば今度こそ、あいつらもきっと――』
「俺は、今何処に向かっているかって聞いているんだよっ!!!」
『!?』

ライアンの問いに敢えてはぐらかしてそう言った虎徹に対して、ライアンは声を荒げた。
それを聞いた虎徹は驚いたような表情を浮かべ、立ち止ったのかモニターの背景も止まる。
そして、徐々に虎徹の表情が哀しみを帯びたものへと変わっていくのがライアンにはわかった。

『…………そんなのお前なら、言わなくてもわかるだろ?』
「!?」

そして、虎徹の言葉を聞いたライアンは瞠目する。
それは、ライアンが想定し、一番避けたかった最悪の結果だからだ。
どうしてだ? どうして、マークさんはこんな大事な事を俺に教えてくれなかったんだ。
こんなにも大事な事を……。

「………俺も、すぐにそっちに向かう」
『! それは……駄目だ』
「なっ、何でだよっ!!」
『お前は、ヒーローなんだぞ? 俺の事なんかより、今目の前の事件と向き合うべきだ』
「そんなの知るかよっ! 虎徹が大変な状況なんだぞ……」

無理だ。無理なんだ!
今すぐにも、虎徹の許へと駆けつけたい。
こうなる事はわかっていたからこそ、最後まで一緒にいたのだ。
行くな。まだ、行かないでくれ……。

『ライヤン……』
「……行くな、虎徹。……俺……お前の事が――」
『ライアン』
「っ!!」

何とか虎徹を引き留めようとライアンは言葉を必死に紡ごうとする。
だが、それを遮るかのように虎徹の優しい声が響く。
その声にライアンの思考回路が停止する。
いつもは決して呼ばない俺の名前を呼んだから……。

『ごめんな、ライアン。――――』

優しい声、優しい笑みが俺の耳、目を捕えて放さない。
卑怯だぞ、虎徹。こんな時に限って俺の事を"ライアン"だって呼ぶなんて……。
いつものように"ライヤン"と呼べよ。
これじゃぁ、本当に終わっちまうじゃねぇよ……。

『…………じゃなぁ、ライアン』
「! まっ、待てよ! 虎徹ッ!!」

その呪縛から解放され、気付いた時にはもう虎徹からの回線は切れた後だった。
慌てて回線を繋ごうとしたが、先程虎徹が言っていた通り、こちらからいくら操作しても虎徹との回線は繋がらなかった。

(落ち着け……。落ちつけよ、俺!)

こうなる事なんて初めからわかりきっていた事じゃねぇかよ。
わかった上で俺は、ずっと虎徹の傍にいたんじゃねぇのかよ。
虎徹だって、それがわかっていたこんな真似をして俺を追いかけさせねぇようにしたんだろ。
だから、自分に言い聞かせろ。今目の前の事件だけに集中しろと……。
それが、何よりも最善な判断なんだと……。

――――…………じゃなぁ、ライアン。
「っ!!」

そう思い止まろうとした瞬間、ふと先程の虎徹の顔と言葉が甦る。
本当にいいのか? 本当にこのままで俺は、いいのかよ?
このまま本当に終わらせて、俺は後悔しないのか?
俺の本当の気持ちは――。

「ちょっと! どういうことなのっ! ちゃんと説明しなさいよっ! なんで、あんたとタイガーが――」
「…………せねぇ」
「えっ……?」

すると、いつの間にかライアンの許へとやって来たブルーローズが訳がわからないと言った感じでライアンに怒鳴った。
だが、ライアンはそれには全く答えず、ただ小さく己の決意を呟いた。
そして、ブルーローズの問いかけを一切無視してライアンは、踵を返すと歩き出す。

「! ちょっ、ちょっと、何処行くのよっ! 待ちなさいよっ!!」
「おっ、おい! 何処に行くつもりだっ! まだ、始まったばかりだぞっ!!」
「そんなの知るかよ。……こんな事件、お前らだけでやってろ」
「なっ、なんだと!?」
「ライアン君! 待ちたまえ! そして、待つんだっ!!」
「うっせぇんだよっ!! 俺の邪魔するなっ!!!」
「「「「「「「っ!!」」」」」」」

それに対して驚いたブルーローズは慌ててライアンの後を追い、ロックバイソンがライアンの行く手を遮った。
だが、ライアンはそれを諸共することなく静かに冷たくそう言い放つと、ロックバイソンを躱して歩みを進める。
そんなライアンの態度にヒーロー達が納得するわけもなく、スカイハイがライアンの肩を掴んだ。
その瞬間、ライアンは声を張り上げると、何の躊躇いもなく能力を発動させヒーロー達を地面へと平伏させた。
そして、そんなヒーロー達をライアンは踏み越えてさっさと歩きだした。
こんなところで時間を取られている暇は、今のライアンにはなかった。

『ちょっと、ライアン! 何してるの!? さっさと戻りなさいっ!!』
「うっせぇ! こんな事件、俺一人いなくなったって、どうって事ねぇだろうがっ!!」

この状況をモニターから見ていたアニエスが思わず怒鳴ったが、今のライアンにはそんな事位で怯まなかった。

『あなた、自分がヒーローだってことわかってるの!? ヒーローが目の前の事件から逃げ出して、いいと思ってるわけっ!!』
「…………大切な人を見殺しにするヒーローが、どの世界にいるんだよ」
『なんですって……?』
「…………?」

そう小さく言ったライアンの言葉にアニエスと唯一ヒーローの中でそれが聞こえたバーナビーが目を見張った。

「……俺はあいつを……虎徹を見殺しにしてまで、この街を救いたいとは思わねぇんだよっ!!」

やっぱ……俺には無理だ。どうしても、思えねぇんだよ。
この街が、こいつらが虎徹が命を張るほどの価値があるのかと……。

「…………今の話、どういうことなの?」
「!!?」

突如、響いた声にライアンは驚き、思わず能力を解除するとその声が聞こえた方向へと振り向いた。
そこには、ここにいるはずのない人物の姿。
あの人――友恵と一瞬見間違えるほどよく似た一人の少女が青ざめた表情を浮かべてそこに立っていた。

「かっ……楓ちゃん!? どうしてここに……?」

バーナビーはそう言うとすぐさま立ち上がり、虎徹の愛娘である楓の許へと歩み寄る。

「……どうしても、最近のお父さんの様子が気になって……。今、ここに来ないとお父さんに二度と会えなくなるじゃないかっていう気がして……気が付いたら、誰にも言わずにここまで来たの」
(この子は……本当にすごいなぁ)

楓の言葉を聞いたバーナビーは、彼女の行動力に驚かされた。
思えば、あの時も彼女がこの街に単身でやって来たからこそ、あの人はあの危機を脱する事ができたのだ。
あの人に危機が迫る時、彼女は必ずこの街にやってくるのだ。

「今は私の事なんてどうでもいいの! それより……さっきの言葉は本当なの!? お父さんを……見殺しって、一体何のことなの!? 答えてよっ!! 答えてくれるまで、ここは通さないんだからっ!!」
「っ!!」

楓はそう言うとライアンの前に立ちはだかり、両手を広げて少しでも小さな身体を大きく見せようとした。
楓のその言葉と行動にライアンは漸く怯み、困惑の表情を浮かべた。
俺が思わず口走ってしまった事は、一番聞かれてはまずい人物の耳にまでに届いてしまった。
これはどう言い訳しても、これ以上は隠し通すことはできないだろうあの言動を……。
さすがに、虎徹の娘である彼女に対して能力を使う事は出来ない。
悪い、虎徹。この事は誰にも言わずにそっちに俺1人で行くつもりだったけど、やっぱ無理だったわ……。

「…………虎徹に口止めされてたんだよ。知っちまったら、お前らが絶対止めるだろうからってな」

全てを諦めたかのように長い溜め息をつくとライアンはそう話をし出した。

「あいつは……虎徹は、自分の命と引き換えにこの街を守るつもりなんだよ」

そして、ライアンの口から出た言葉にバーナビー達は絶句するのだった。








劇場版-The Rising-のIF小説第2弾の第6話でした!
今回もライアン目線で話を進めていきました♪ライアンの性格を捏造できるのもあと僅かだと思うとちょっと寂しい気もしますね。
バニーちゃんに虎徹さんとの関係を指摘されて思わず、能力を使ってしまったライアンに少し同情します。
そして、次回で真実が明らかになる予定ですっ!!


H.25 11/24