――――俺と家族なろうぜ。…………な?

そう言って笑って俺に手を差し伸べてくれたあの人の姿が今でも目に焼き付いている。
あの人のあの笑みに俺はどれだけ救われた事か……。
だから、今度は俺があの人の事を救いたい。
あの人の笑顔を守りたい……。
その為に俺はこの街に戻ってきたのだ。
それなのに……。


~君、思フガ故~

きっかけは本当に些細な事だった。
十二年前、俺は両親を事故で喪った。
海外に親戚がいた為、迎えの準備が整うまで一時的に施設に預けられることになった。
彼らは「必ず迎えに行く」と俺には言っていたが、端からそんな気などない事を俺はわかっていた。
それは俺が化け物――NEXTであったからだ。
両親が亡くなったのと、俺のNEXT能力が目覚めたのはほぼ同じタイミングだった。
そのせいで周りの大人達は皆、口には出さないが、俺が両親を殺したんじゃないかと思っているのだ。
そんなわけあるはずないのにだ。
そんな馬鹿な大人達の空気を敏感に感じ取ったのか、施設にいる子供達も自然と俺の事を避け、俺はいつも独りだった。
別にそれが寂しいとは、思わなかった。
こんな奴らにどう思われたって何てことないって、そう思っていたのに……。

「人殺し」

突如、施設の少年からの言葉のナイフに俺の心は斬りつけられた。

「お前、自分の両親殺してここに来たんだろ? 親殺しておいてよく捕まらなかったなぁ」
そう少年が俺に話しかけてきたのは、施設に入って数日経った頃だった。
そいつは、ここのリーダー格のようでよく気弱そうな奴を虐めているのを遠くから眺めていた。
弱い奴ほどよく吠えると聞いたことがあるが、こいつもそうやって自分が強い人間だと周りの奴に見せつけているのだろう。
そして、今回損ターゲットが俺になったようだった。

「! 俺は、父さんと母さんなんて殺してないっ!!」

こんな奴、相手にする価値なんてないとわかっていたのに、思わずそう口にしてしまった。

「人を殺した奴って、みんなそう言うんだよなぁ」
「だから、俺は違うって言ってるだろっ!!」
「っ! 触るなっ! この化け物っ!!」
「っ!!」

違うと言っているのにそれでも奴がそれを哂って否定するので、思わず奴の腕を俺は掴んだ。
すると、それに驚いたのか奴は俺の手を思いっきり振り払うとそう言って俺を押し倒した。
突然の行動とその言葉に為す術もなく俺はその場へと尻餅をついた。
そんな奴の顔を見上げると、まるで汚い物を見るかのような嫌悪の眼差しを奴は俺へと向けていた。

「こらっ! そこ、何してるのっ!!」

すると、何処から自分達のやり取りを聞きつけた施設の大人達の声が辺りに響きこちらへと駆け寄って来た。
だが、馬鹿な大人達は押し倒された俺の心配をするのではなく、虐めっ子の奴の許へと駆け寄り、心配の眼差しを向けていた。

「先生~。ライアンが僕に向けて変な力を使ってきたんです。それで、僕怖くて思わず……」
「まぁ! そうだったの!? ライアン、ダメじゃないっ!!」
「っ! おっ、俺は何も――」
「こら、ライアン! 言い訳なんてよくないぞっ! ちゃんと謝りなさい!!」
「っ!!」
(なんで……)

なんで、俺の言葉は誰も聞いてくれないんだ?
俺がNEXTだから?
好きでNEXTになったわけじゃないのに……。
大人達は皆、こんな奴らばっかりなのか?
だったら、いっそ……。

「おい、ライアン! 聞いているのか!?」
「…………えろよ」
「なに………?」
「お前らなんか、みんな消えろよっ!!」

そう叫んだ時、俺の中で何かが弾ける音が聞こえた。
消えろ! みんな、消えてしまえっ!!

――――それがお前の望みか。だったら、手伝ってやるよ。

そう思った時、誰かが俺の耳元で囁いたかと思うと俺は無意識のうちに力を発動させていた。
俺の周囲に凄まじい重力が掛かり、その圧に周囲にいた人間全てが地面に這い蹲り、悲鳴を上げる声が聞こえる。

「ラッ、ライアン! やめなさいっ!!」

運よく対象範囲から外れた大人達が何かを叫んでいたが、俺にはその声がよく聞けなかった。

――――あんな奴らの声なんて聴く必要なんてない。

すると、俺の頭に声が響く。
その声の言う通りだ。あいつらは俺の声を聞いて聞いてくれなかったのだ。
だから、俺もあいつらの声なんて……。

「おい、どうした?何かあったのか?」
「! じっ、実は……」

すると、何処からともなくこの騒ぎを聞きつけたのか、見知らぬ男の声が耳に入ってきた。
男は何の躊躇いもなく施設の敷地内に入ると馬鹿な大人達へと駆け寄った。
それを見たあいつらは、その男にある事ない事を吹き込んでいるようだった。

「そうか。………おい、お前!」
「! ちょっと、それ以上近づくと危ないですよっ!?」
「えっ?そうなの?」

あいつらから事象を聞いた男は何の躊躇いもなく俺へと近づこうとしたのをあいつらは必死で制止させた。
それを聞いた男は不思議そうに首を傾げてそう言った。

「…………まぁ、いいや。お前! 馬鹿な事やめて、さっさと能力を解除しろっ!」
「うっ、うるせぇ! あんたには関係ないだろっ!!」
「じゃぁ、何でこんな事するんだよ?」
「……俺の事、人殺しだって言ったから」

男の問いにそう言った。

「ただNEXTってだけで、俺が父さんと母さんを殺したって! 俺だって好きでNEXTになったわけじゃねぇのにっ!!」
「…………お前ら、そんな酷い事あいつに言ったのか?」
「いっ、いや……その……」

今までの思いが弾けたように俺はそう向かって叫んだ。
すると、男は怪訝そうに眉を顰めるとあいつらへと視線を変え、そう言った。
男の問いに、あいつらはただただ戸惑った表情を浮かべていた。
それを見ただけで男が俺が言った事が真実である事がわかったのか、ただ呆れたように溜め息をついた。

「だから、こんな奴らいなくなればいいんだよっ! だから、俺の邪魔するなっ!!」
「…………悪ぃ。それはできないわ」
「なっ!?」

俺がそう叫んだ時、男がそう言ったので俺は瞠目した。
どうしてだ! こんな奴ら消えて当然なのに……。
なのに、どうしてこの男はそれを邪魔するんだよ!

「だって、そんなことしたらお前、本当に人殺しになるだろ?」
「!!」
「本当に殺してないなら、もっと堂々としてろよ。そんなすげぇ力あんのに、人を傷付ける為に使うなんて勿体ないだろ?」
「…………じゃぁ、どんな事に使えって言うのさぁ?」
「そんなの決まってるだろ?」
「?」

男の言葉の意味がわからず、俺は首を傾げた。

「その力は、人を助ける為にあるんだからさ!」
「っ!!」

ニッと笑ってそう言った言葉に身体中に衝撃が走った。
初めてだった。
父さんと母さんが死んでから俺の言葉なんて誰も相手にしてくれなかった。
みんな、俺の事を化け物のように扱っていた。
だが、この人は違う。俺を一人の人として見てくれて、ちゃんと話を聞いてくれている。
疎ましいとしか思っていなかったこの力を凄いと言って笑いかけてくれた。
ただ、それだけの事なのに心の中にあった黒い感情が徐々に解けていくのを感じた。

「だからさぁ、こんな馬鹿な事はもうやめるよ。文句なら、俺が聞いてやるから。…………な?」
「…………本当に話を聞いてくれるのか?」
「ああ! だから、今すぐ能力を解除しろ。話はそれからだ」
「…………わかった」

そんなくだらない奴らなんてどうでもよかった。
こんな事すぐにやめてこの人にもっと話を聞いてもらいたいと思った。
だから言われた通り、NEXT能力を解除しようとした。
だが――。

「!!」
「? おっ、おい。どうしたんだよ?」
「……力が……解除できない!?」

NEXT能力に目覚めたとわかってからこの力を真面に発動させたのは今回が初めてだった。
感情的に力を発動させたこともあり、いくら力を解除しようとしてもできなかった。

「何!? 暴走してるのかっ!?」

力の暴走。それを自覚した途端、己の力が急に恐ろしく感じた。
恐い。俺の言う事をきかないこの力をどうしていいのかわからなかった。
その不安な感情が伝染するかのように、周囲に掛かる重力が増し、地面が軋みだす。

「待ってろっ! 今、そっちに行ってやっからっ!!」
「待ってくださいっ! これ以上近づくのは、き――」
「うっせぇ! そんな事、今は言ってらんねぇだろうがっ! このまま、あいつを放っておけるかよっ!!」

男はそう言うと周囲の反対を押し切って俺へと近づこうと一歩踏み出す。

「ぐぅっ!!」

その途端、凄まじい重力が圧し掛かったのか、男の顔が歪む。
それを見ただけでもかなり辛そうな事が目に見えてわかるのに、それでも男は地面に這い蹲ることなくゆっくりと確実に俺へと歩み寄ってくる。

(嫌だ。止まれよ……)

この人を傷付けたくない。殺したくないのだ。
だから、この力を止めたい。
止めたいと思っているのに……。

――――本当にそうか? これは、お前が望んだ事だろ? みんな、いなくなればいいって。

ふと、頭の中に響いたのは、先程聞こえてきた声だった。
違う! 俺は、こんな事、望んでいなんかいない!
この人を傷付ける事なんて……。

「……大丈夫か?」
「!!」

すると、突然暖かな温もりに包まれた。
それは、いつの間にか俺の許までやってきていたあの男が俺の事を抱き締めてくれたからだった。

「……落ち着いて、俺の声だけに耳を傾けろ。いいな?」

そして、男は俺の耳元でそう優しく囁いた。
男のその声が何の抵抗もなく、俺の中へとすうっと入っていくのがわかった。

「その力はなぁ、お前自身の心なんだよ。お前が恐がると力もお前を怖がっていう事を聞いてくれなくなる。だから、その力を大切な友達だと思って扱ってやんないとダメなんだ」
「…………でも、どうやって?」
「じゃぁ、今お前の意識の中にあるものは何だ?」
「……黒い……影」

男の問いに俺はそう答えた。
自分の姿を象ったよな黒い影が俺を嘲笑っているものが見える。
きっと、あの声もこいつから聞こえたのだろう。

「…………そっか。やっぱ、ちゃんと力のコントロールができてねぇんだな」

それを聞いた男は何故か納得したようにそう言った。
普通の人間が聞いたら哂いそうなことなのに……。

「じゃぁ、そいつの事を優しく触れてやれ」
「! でっ、でも……」
「大丈夫だって!言っただろ? そいつはお前自身なんだ。何も恐がる事なんてねぇ。俺も傍にいてやるから」
「…………わかった」

正直、恐かった。
だが、この人がそう言うのなら、俺にもできるんじゃないかと思った。
俺はゆっくりと黒い影に近づくと、そっと手を伸ばした。
黒い影はそれに少しだけ驚いたようだったが、素直に受け入れる。

―――――……どうしてだよ。どうして、俺の事嫌うんだ? 俺はお前なのに……。

すると、黒い影からそう声が聞こえてきた。
その声から顔もない黒い影が泣いているように感じた。

「…………何か感じたことはあるか?」
「……泣いてる。どうして、俺の事嫌うんだって」
「そっか。そいつもお前がみんなに嫌われるのがいやだったみたいに、お前に嫌われるのがいやだったんだなぁ」

男の言葉で改めて気付かされた。
俺自身を無意識のうちに傷付けていた事を……。

「もうわかるよな? お前がやるべきことが何なのか?」
「あぁ……」

その男の言葉に促されるように俺は次の行動へと移す。
俺は黒い影を抱き締めてやるとそっと一言「ごめん」と囁いた。
お前の事傷付けて、恐がったりしてごめん。
でも、もう傷付けたり、恐がったりしないから。
だから、仲良くしよう……。

―――………その言葉をずっと待ってた。

すると、黒い影がそう言って笑みを浮かべたように見えた。
その笑みは先程までの黒い笑みとは違い、心底嬉しそうなのものに見えた。

――――俺の力をお前に託す。これから、よろしくな。もう一人の俺……。

そして、俺に向かってそう言い残すと黒い影が金色の眩い光へと変わり、その光が俺の身体の中へとすうっと溶け込んでいった。
その途端、発動していた力が収束していき、周囲の重力が元に戻った。

「…………戻った?」
「よく頑張ったな。これでもう……大……丈夫……」
「! おじさんっ!?」

そう声が聞こえた後、俺を包んでいた温もりが離れるのを感じ、視線を変えた。
すると、そこには意識を手放し、その場に倒れ込んだあの男の姿があった。
その姿を見た俺は、まだ名前の知らないその人物に向かってそう叫ぶしかなかった。





* * *





「すまなかったな。こんな時間まで付き合わせてしまって」
「………いえ。もとはと言えば、全部俺のせいだし………」

病室から出てきた黒人の男がそう言った言葉に俺はそう言った。
あの後、あの人はすぐに病院へと運び込まれて治療を受けていた。
俺の力が暴走したせいであの人は長時間、とてつもない重力に耐えながら、俺の意識と同調して力のコントロールの手助けをしてくれたのだ。
それがどんだけ身体に負担がかかっていたなんて想像しなくてもわかる。
あの人がこうなってしまったのは、全部俺のせいだ。

「…………まぁ、お前さんのせいだけじゃないさ。後先考えずに突っ走るのは、あいつの悪い癖なんだよ。こうやって病院送りにされるのも、今月だけで七回目だしな;」
「! なっ、七回……ってそんなに!?」
「あぁ、本当に困った奴だよ;」

俺が心底驚いた表情を浮かべると男は本当に呆れたように溜め息をついた。
通りであの人の上司であると言ったこの男は病院に駆け付けた際もあんなにも落ち着いてたわけだ。

「……坊主。あいつの顔、見ていくか?」
「えっ? でも……」
「大丈夫。あいつの治療はもう終わって、今はピンピンしてるから。それにその為に今まで残ってたんだろ? 行って来いよ」
「……うん」

男の後押しもあり、俺はあの人のいる病室のドアノブに手をかけ、扉を開けた。

「よぉ! お前、身体の方は大丈夫か?」

すると、そこにはベッドから上半身を起こしているあの人の姿あり、俺を見た途端そう言ってあの暖かな笑みを俺へと向けた。
自分の方が辛いはずなのに、この人は俺の事を心配してくれることが嬉しいと思いつつも、少し胸が痛んだ。

「俺は、大丈夫だよ。つーか、俺の事よりあんたはどうなんだよ?」
「俺? 俺は全然大丈夫だよ。伊達に身体は鍛えてねぇしなぁ♪」

俺がそう言うとあの人は、ニッと笑ってそう言った。

「それに、これは俺が勝手にやったことだから、お前はあんま気にすんなよ。俺、こんなのしょっちゅうやらかしてるからさ」
「それなら、あんたの上司から聞いた。今月だけで七回目だって事」
「げぇ! ベンさん、そんな事話しちまったのかよ;」

あの人はそう言うと苦笑しながら頭を掻いた。
ほんの数分しか話していないのに、人の表情がこうもコロコロと変わるのを見ていて飽きないと感じたのは初めてだった。

「…………なぁ、お前、これからどうするんだ?」
「? どうするって何がだよ?」
「このまま、あの施設にいるのか?」
「……できる事なら……いたくはない」

理由がどうであれ、俺が力を使ってあそこの連中を傷付けてしまった事には変わりはないのだ。
どんなに謝ってもきっとあいつらは許してはくれないだろう。
あいつらは、この人とは違うのだ。
出来る事なら、あそこへは戻りたくない。
まぁ、そんなことできない事だとわかっているが……。

「そっか。……じゃぁ、俺のところに来るか?」
「えっ?」

そう言われた事の意味が解らず、俺は首を傾げた。

「お前の能力はまだ不安定だし、ちゃんとコントロールできるようになるまで俺が特訓してやるよ」
「けっ、けどさぁ……」
「ん? 俺と暮らすのいやか?」
「いっ、いやじゃない」

いやじゃない。寧ろ、嬉しいくらいだ。
この人の傍にずっといられるかと思うと……。

「だったら、何にも問題ないじゃん♪」

そう言うとあの人は俺へと手を差し伸べた。

「俺と家族なろうぜ。…………な?」
「っ!!」

その言葉に、その笑顔に俺は思わず息を呑んだ。
嬉しかった。こんな俺に対して家族になろうとこの人から言ってくれた事が……。
それに何よりこの笑顔だ。
あの眩しいばかりの笑顔が俺へと向けられている。
この笑顔をずっと見ていたい……。
その想いから俺は、その手を取ろうとした。

「虎徹くんっ!!」
「「!!」」

その瞬間、病室の扉が勢いよく開いたかと思うと、一つの声が病室内に響き渡った。
その声に振り向くとそこには一人の女性の姿があった。
よく見ると彼女のお腹は少しだけ大きかった。

「とっ、友恵ちゃん!? どっ、どうしたの!?」
「どうしたのじゃないでしょ! 虎徹くんから電話貰った後にベンさんから電話貰って慌ててここへ来たんじゃない! どうして、ちゃんと身体の事説明してくれなかったのよっ!!」
「だっ、だって、友恵ちゃんは今妊娠してるんだよ。心配させて、身体にもしものことがあったら……」
「そう思うんだったら、無茶なことしないでよっ! これで何回目だと思ってるの!!」
「ごっ、ごめんって;」
「もう! 本当に気を付けてよね! もうすぐパパになるんだからっ!!」

彼女――友恵にそう言われたあの人――虎徹はただただその気迫に押されてそう言うのだった。
会話の内容から二人が夫婦であることがよくわかったが、それが何故か少し残念に感じてしまった。

「……あら? もしかして……この子がさっき電話で話してた?」
「そうそう。えっと……そういやぁ、名前なんだっけ?」
「ライアンだよ。ライアン・ゴールドスミス」

そして、友恵は漸くこの部屋に俺がいる事に気付いたのか、彼女はそう言った。
それに対して虎徹がそう言った事に俺がまだ彼らに名前を名乗ってなかった事に漸く気付き、俺は自分の名前を名乗った。

「あぁ、そうか! ライヤンか!」
「ライアンだって;」
「あぁ、悪ぃ; 俺は、鏑木虎徹。で、こっちが俺の奥さんの友恵だ」
「鏑木友恵です。話は虎徹くんから聞いているわ。これからよろしくね、ライアンくん」
「あっ、はい。よろしく……」

俺の名前を言い間違えた虎徹は苦笑雑じりでそう言った。
それを聞いた友恵は、先程まで虎徹を叱っていた時とは打って変わって、優しい笑みを浮かべて俺にそう言った。
それに対して俺は少し照れ臭そうに言葉を返した。

「おぅ! よろしくな、ライヤン!」
「だから、ライアンだって!!」
「だあっ!」
「ふふ……」

これが、俺と虎徹との初めての出会いでもあり、一緒に暮らすようになったきっかけだった。
それは俺が親戚に引き取られるまでの数ヶ月間だけだったが、俺にとってはかけがえのない時間だった。
虎徹が特訓してくれたおかげで俺は感情に流される事なく力をコントロールする事ができるようになり、この力を人の為に使おうと虎徹と同じヒーローになる事を目指し、異国の地でヒーローになった。
それも全て虎徹のおかげだ。
あの時、虎徹と出逢わなければ、俺は人の道を踏み外していたかもしれない。
虎徹という名の光に触れたから俺は前を向いて行けたのだ。
異国の地に旅立つあの日、俺は内に秘める想いを虎徹に告げることなく別れた。
あの時、虎徹は友恵さんと本当に愛し合っていて、俺なんかが入る隙なんてなかったからだ。
あの時はそれでもいいと思っていた。
虎徹が幸せなら、と……。
けど、久しぶりに虎徹と再会してその考えが揺らいだ。
虎徹は俺でも、友恵さんでもない奴の事を想っていたから。
それも、己の命を懸けてまでだ。
なぁ、虎徹。どうして、あいつの為にそこまでするんだよ?
どうして、あんたが想っている相手が俺じゃなくてあいつなんだよ?
もし、あの時俺があんたにこの想いを伝えていたら、あんたはそれに応えてくれたのか?
応えてくれたなら、俺はあの頃に戻ってこの想いをあんたに伝えたいよ。
そんな事、いくら望んだってできないことくらいわかっているけど……。
なら、今の俺にできる事は何だ?
それは、あんたの傍にいて守る事だ。
虎徹が命を懸けるように、俺も命を懸けてあんたを守るさ。
審判のあの日が訪れるまで。
だから、今はその日が訪れない事を願ってやまない。
そうすれば、ずっと虎徹の傍にいられるのだから……。








劇場版-The Rising-のIF小説第2弾の第5話でした!
今回は、ライアンと虎徹さんの出会いについて書いてみました♪
少しでも自分が、ライアンの事が好きになるように考えながら書いた今日この頃です。
そのおかげかちょっとだけライアンの事が好きになれたよ~(ちょっとだけかよ;)


H.25 10/22