――――……私は、父上に昔のように元気になってもらいたかった。元気付けたくて……私は、父上に……"舞"を踊って見せたんだ。
――――……舞、をですか?
――――うん。……夢で見た舞を、ね……。

唐突に炭治郎は、あの時の瑠一郎との会話を思い出した。
瑠一郎と杏寿郎が喧嘩をしてしまった直後に瑠一郎と会話した時の内容を……。

――――……綺麗なその舞を見たら、父上も感動してくれる。心が動いてくれるのではないかと思って、頑張って兄上たちにも隠れてその舞を練習したんだ。

そう言っていた舞を炭治郎は、今、目の当たりにしていた。
その洗礼された剣舞は、本当に美しく、こっちが息をするのも忘れてしまいそうだった。
まるで、瑠一郎の周りだけ、時が止まっているのではないかと、錯覚してしまいそうになるくらいだった。
だが、炭治郎は、それ以上に驚きが隠せなかった。
瑠一郎が言っていたその舞は――。

「…………ヒ……ヒノカミ神楽!?」

そう。竈門家に代々伝わっていた厄払いの神楽であるヒノカミ神楽そのものだったからだ。


~悪夢は夢のままで終わらせよう~


身体は、とても軽かった。そして、とても熱かった。
まるで、ずっと杏寿郎の手を握ってもらっているような熱が身体中に帯びている感じがした。
だが、瑠一郎の動きは、今まで以上にキレが増していた。
あの舞のおかげで今まで使えなかった全集中の呼吸も何事もなかったかのように使えていた。
これなら、イケる。今なら、私でも猗窩座の頸を斬り落とせると直感できた。
呼吸を使って瑠一郎が猗窩座に斬撃を与えた個所は、何故だか今までと違って治りも遅いのか、猗窩座の動きも鈍り、そして焦りだしたのがこちらにも伝わって来た。

(イケる……。今度こそ……間違いなくっ!!)

今度こそ、間違いなく終わらせられる。
あの悪夢を自らの手で終わらせる事が出来ると瑠一郎は確信し、更に日輪刀を握り手に力が入った。

「今度こそ……終わらせるっ! 貴方のその頸を斬り落としてっ!!」

猗窩座へと日輪とを振ったこの時の瑠一郎には、何の迷いもなかった。
これで、全てが終わらせられる。
杏寿郎の事も守り抜き、親友の敵討ちも出来ると……。
そう信じて止まなかった。だが――。

――――やめてっ!!

突如、瑠一郎の耳に何処か聞き覚えのある声が響く。
そして、その声と共に己と猗窩座の間に白い蝶が舞った。

――――この人の事をまだ……殺さないでっ!!
「っ!?」

そして、その蝶の姿が人の姿へと変わった為、瑠一郎は瞠目した。
その少女の姿を見て、瑠一郎は理解してしまった。
今、目の前にいる存在が、本当は誰なのかを……。
それを理解してしまった途端、瑠一郎は今までにないくらい動揺してしまい、一瞬隙が生まれる。

「瑠一郎っ!?」
「がぁ……っ!」

その隙を狙って猗窩座が瑠一郎の脇腹に拳を向けた事、それを目にした杏寿郎が堪らず叫んだ事、そして、それを食らい、瑠一郎が口から血を吐いたのはほぼ同時だった。
その瞬間、瑠一郎の視界も真っ白になるのだった。





* * *





(……ここは? ……また……夢の中?)

次に瑠一郎が目にした光景は、ただ真っ白い空間に静かに粉雪が降り続けているという何とも不思議なところだった。
そんな幻想的な光景を見た瑠一郎は、また強制的に眠らせてしまったのかと思ったのだが、脇腹に痛みを感じ咳き込んでしまうと、また口から吐血してしまい、鉄の味が口の中いっぱいに広がった。
その事から、これは決して夢とは違う、別空間のようなものだと瑠一郎は理解した。
そして、ここへ自分を引き込んだであろう人物へと瑠一郎は、視線を向けた。

「…………貴女が……私の事を……ここに……?」
「…………」

その瑠一郎の質問に対して、恋雪によく似た少女は、何も言葉を返さなかった。
だから、仕方なく瑠一郎は、話し続けた。

「……貴女は……私が目を覚ました辺りから……ずっと……私の傍にいましたよね?」

そう。瑠一郎は、ずっと前から気付いていた。
ずっと自分の近くに何か小さな気配がある事に……。
他の化け物たちとは違って、決して自分に対して危害を加えて来なかったので、特に気にしていなかった。
だが、こんな形で猗窩座との戦いに干渉されるとは、正直思っていなかった。

「…………正直、こんなことをするつもりは、ありませんでした。けど……あなたが、あの人のことを……本気で手にかけようとしたから……」
「貴女は……恋雪さん……ですか?」
「違います。私は、〝コユキ〟です。彼女の……彼女が捨てた夢の……成れの果てです」

瑠一郎の問いにそうコユキは、はっきりと言った。

「もう、あなたは、気付いていますよね? あの人が……誰だったのか? ……人間だった頃のあの人の夢に触れたあなたなら、もう……」
「…………」

そうコユキに言われた瑠一郎は、すぐに返事を返す事が出来なかった。
まだ、その事実を認めたくなかったからかもしれない。
猗窩座があの狛治だったという事実に……。

「あなたは、あの人のことを〝親友〟と言ってくれました。それなのに、あなたは、あの人のことを救いもせずに、ただ滅するのですか?」
「彼は……猗窩座です。私の親友である狛治は……もうとっくに死んでいます」

鬼になった瞬間、狛治は死に代わりに猗窩座という存在が生まれた。
それに、私はただ彼の夢に触れただけで、本当に彼と一緒に時を過ごしていたわけではない。
一緒に時を過ごしたと思っているのは、私だけだ。きっと、彼も、私の事など――。

「そう言う割には、あなたの心は、酷く揺れているようですね。そんな状態で本当にあなたは、あの人のことを滅することが出来るのですか?」
「……彼が……いる限り……私が……兄上を失うという悪夢を……終わらせる事は……できませんから……」
「それでは、私が困るのです」

瑠一郎の言葉に対して、コユキはそう言った。
その間にも粉雪はずっと降り続いており、徐々に瑠一郎の体温を奪っていくのもわかった。

「私は、あの人には、幸せになってもらわないといけないのです。それが私という存在が産み落とされた理由なのです。ですから、その為にもあなたには、このままあの人が望む通り、鬼となってあの人の傍にずっといてください」
「……お断りします、と仮に私が……言った場合は?」
「その選択肢は認めません。それを選ぶというのなら、ここで私があなたのことを半殺しにして、あなたの意識を奪って、あの人にあなたのことを差し出すだけです。万全のあなただったら、無理だったかもしれませんが……今のあなたにだったら、私でもそれは出来そうですから」
「っ!!」

そう顔色一つ変える事なく言ったコユキに対して、思わず瑠一郎は息を呑んだ。
確かに先程の猗窩座の攻撃を諸に食らってしまった今の瑠一郎には、彼女の攻撃から逃れるのも難しいかもしれない。

「大丈夫です。あなたと触れ合ったあの夢は、特別ですから、時が経てば、あの人だってきっと思い出して幸せになってくれるはずです」

そう言う彼女の辺りには、徐々に粉雪が集まっていき、氷柱へと変わりその鋭い先端が瑠一郎の方へと向けられる。
そして、何より、彼女の表情もこの雪のように冷たかった。

「言っておきますが、あなたがここから自力で出ることは、ほぼ不可能です。出来るとすれば、私を倒して解除するしかありません」
「! …………どうして……ですか?」

その何気ない言葉に違和感を覚えた瑠一郎は、そう問いかけた。

「どうして、貴女は……自分が不利になるような事を……敢えて私に教えたのですか? そんな事を言えば……私が……貴女を倒すとは……考えなかったのですか?」
「別にこの程度で私が不利になるとは、思っていません。私は、手負いのあなたに負ける気はしませんので」
「そう……ですか……。どうやら……私も……まだまだのよう……ですね!」
「っ!?」

コユキの言葉を聞いた途端、瑠一郎は一気に駆け出すと、彼女へと近づいた。
その予想外の瑠一郎の行動にコユキは驚きつつも、氷柱を瑠一郎へと放った。
無数の氷柱が瑠一郎の事を襲ったが、それを全て躱した瑠一郎は、そのままコユキの背後を取ると、その頸に刃を向けた。
だが、刃を向けるだけで、決してその頸を斬ろうとはしなかった。

「……どうしましたか? さっさと殺せばいいじゃないですか?」
「別に私は……貴女の事を……殺したいとは……思っていません。貴女から……本当の事を……訊きたいだけ……です」
「! いっ、一体……何のこと、でしょうか?」

背後にいる瑠一郎には、彼女のその表情は見えなかったが、明らかにその声は動揺していた。
たったそれだけでも、瑠一郎は確信できた。やっぱり、彼女は――。

「……貴女の……本当の願いを……私に教えてください」
「あっ、あなたは、一体、さっきから何を言っているんですか? 私は、ちゃんと伝えたはずですっ!」
「それなら、どうして……私をわざわざこんな空間に……引き込んだのですか? ……あの時、貴女が姿を現しただけでも、きっと……いや、間違いなく……それは、叶っていたはず」

あの時、コユキの姿が目に飛び込んだだけで、充分に動揺したのだ。
きっと、あのまま戦っていたら、私は真面に猗窩座の事を相手にする事は出来なかっただろう。

「……貴女は、とても優しい人です。優しいから……ずっと、私の近くで……ただっ守っていてくれていたんじゃないのですか? 私が……貴女の姿をも見て……あの夢の事を思い出すのを恐れて……」

実際、さっき彼女は、こんな事するつもりはなかったと言っていた。
それは、私の事を考慮してくれていたのではないかと、そう瑠一郎は思わずにはいられなかった。
自分と関わった人物が鬼になってしまったという考えをまるで持ち合わせていなかった私の事を考慮して……。
実際、ショックだった。今でも、あの夢の中にいた狛治と今目の前にいる猗窩座が本当に同一人物である事を認めたくないくらいに……。
でも、この空間に連れて来られてから、少し頭が冷えたおかげで、別の想いが湧き上がって来た。
きっと、それが、彼女が本当に望んでいた事なのだ。

「……私が……優しい? 私は……あなたが倒して来た鬼やあの変な化け物たちと何ら変わらないのにっ!?」
「ですが、貴女には……ちゃんと、理性があります。……そして……自分自身の意志も……」
「だとしても、それでどうして私が、優しいと言えるのよっ! 今まで……私と……真面に話したことだってないあなたが……そうしてそんなことがわかるのよっ!!」
「それは……貴女が……彼女から生まれ落ちた存在だからです」
「!?」

瑠一郎が追う何の迷いもなく、言い切った事に正直コユキは驚いた。

「狛治の……夢の中にいた彼女は……とても優しい人でした。そんな彼女から生まれ落ちたのなら……私が、そう思っても……当然ではないのですか?」
「…………でも、私は、彼女ない。……彼女に成りえないっ!!」

そう言った彼女の声は、とても辛そうだった。きっと、泣いているかもしれない。

「そんなこと、わかっているのっ! 私は、彼女じゃないから、本当の意味であの人の事を……幸せにはしてあげられないんだってっ!! 私はただの……成れの果てでしかないって!!」
「……ですが……その想いを……また、誰かに……託す事は……できますよね?」
「…………えっ?」

そんな彼女の悲痛な叫びを聞いた瑠一郎は、刀を鞘へと納めると、コユキと正面から向かい合った。
やっぱり、彼女は泣いていたのか、その瞳からは止めどなく涙が溢れ出していた。

「……人は……自分自身では、叶えられない夢を……誰かに託す事が出来るんですよ。そうやって……夢や想いを……人から人に託す事で……それは更に強くなるんです」

そう。それは、まさに今の鬼殺隊の在り方にも近かった。
例え、鬼舞辻無惨を自らの手で倒す事が出来なかったとしても、その意思を、その想いを別の誰かに託しながら、今まで彼らは戦いを続けてきている。

「だから……そんな事、言わないでください。貴女は……彼女からちゃんとその想いを……託されて生まれたんですから……」
「っ! ……わっ、私にも……出来るものですか? 誰かに……託すなんてこと……」
「ええ、出来ますよ。私に……託してくださればいいんです。……きっと、今私が抱えている想いと……貴女のその願いは……同じはずなのですから……。ですから、改めて教えてください。……貴女の願いは何ですか?」
「…………何だか、よくわかった気がします。……あの人がまだ、あの夢の事をちゃんと思い出してもいないのに……どうして、あなたのことをこんなにも特別視していたのかが……」

そう言って笑った彼女の瞳からは、もう涙は完全に止まっていた。
そして、その笑みは、狛治の夢の中でよく見ていた狛治が大好きだった彼女の笑みによく似ていると瑠一郎は思った。

「……最期に……お話出来たのが、あなたみたいな人で本当によかった」

そう言った彼女の姿は、徐々に光の蝶たちへと変わっていく。
そして、瑠一郎の日輪刀ではない方の刀へと羽搏いていく。

「……優しい〝夢払師さん〟。あなたに……私の夢を託します。私の本当の夢は――――」

そして、その一羽が刀に触れた瞬間、瑠一郎は彼女の本当の想いに触れ、再び視界が真っ白になった。
その時の瑠一郎の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちていた。





* * *





「猗窩座あああぁぁぁっ!!」
「!?」

そして、気が付いた時には、瑠一郎はそう叫びながら、猗窩座へと一気に近づき、斬りかかっていた。
その瑠一郎の気迫に圧倒された猗窩座は、それを腕で受け止めるだけで精一杯だった。

「猗窩座ぁっ! お前は、一体、何の為に強さを求めているんだあっ!!」

猗窩座の身動きを封じたのを確認した瑠一郎は、そう必死に叫んだ。

「兄上は、弱き人たちを守る為にっ! 一人でも多くの人を救う為に強くなろうとしているっ! 決して、その力を己の為に使ったりはしないっ!!」

それは、母――瑠火の教えがあるからだ。
天から賜りし力で人を傷付けてはいけないと、私腹を肥やす事は許されないと、その言葉があったから杏寿郎は、どんな事があっても涙一つ流す事なく、頑張って来られたのだ。
そして、柱にもなれたのだ。

「だが、オレは違うっ! オレは……兄上のようには、なれないっ! オレは……自分の大切な人たちだけを守れたら、それでいいと正直思っているっ! この手が届く範囲にいる大切な人たちを守れるだけの力さえあれば、それ以上は決して望まないっ!!」

そう。それ以上の力や強さなど私には、必要ないのだ。
それ以上を望めば、その先にあるのは、破滅だけだとわかっているから……。

「なら、お前は、どうなんだ? ただ強さだけを求めるお前の手には、一体何が残るというのだ!?」
「っ!?」

言葉を紡ぐ度に口の中に鉄の味が広がっていき、更に気持ち悪くなっていく。
だが、今の瑠一郎にはそんな事すらどうでもよかった。
彼女から託された願いと自分自身の気持ちの為にその身体に鞭を打って猗窩座に呼びかけ続けた。
だが、いくら瑠一郎が必死に猗窩座を呼びかけても、彼はもうそれどころではなかった。何故なら――。

(! まずいっ。もうすぐ……夜が明けてしまうっ!!)

瑠一郎の背後の方から仄かに明るい光が差し込み、己の影が少しだけ伸びるのを見て、瑠一郎はそれを理解した。
さっきまでは、この光が差し込む事をずっと待っていた。だが、今はそうではない。
そのせいで、猗窩座はもうこの場から逃げる事しか考えられない状況に陥ってしまっている。
ここで、猗窩座を逃がしてしまえば、今度また何時彼に出会えるかわからない。
だから、まだ、逃がしてはいけないのだ。

(……ちっ! こうなったら、仕方ないっ!!)
「なあっ!?」

だから、瑠一郎は、日輪刀で猗窩座の片足を斬り落として体勢を崩させた。
何故か瑠一郎の日輪刀で斬りつけると、再生に時間がかかる事がわかっての行動だった。
そして、猗窩座の事をそのまま押し倒した瑠一郎は、彼の上に跨ると、杏寿郎の羽織を頭から被って猗窩座に覆い被さった。
この体勢なら、暫くの間は陽光を防ぐ事が出来るだろう。
杏寿郎の羽織をこんな風に使用してしまった事に対して、申し訳ないと思いつつも、瑠一郎は、尚も猗窩座に訴え続けようとする。
そんな予想外の行動を取り続ける瑠一郎に対して、猗窩座だけでなく、この場にいる誰もが困惑して、真面に動けなかった。

「お前……一体、何を考え――――」
「いいから、さっさと思い出せっ! お前は、オレと同じなんだっ! お前にも……守りたい人たちがいたんだよっ! それをお前は、全部忘れてしまっただけなんだっ!!」

彼女の最期の願いは、猗窩座に狛治だった頃を思い出して、今まで犯した罪をちゃんと償ってほしい。
これ以上、罪を重ねないでほしいというものだった。
それは、彼の事をまだ〝親友〟だと思っている瑠一郎も同じ想いだった。
だからこそ、猗窩座がどれだけ困惑しようとも瑠一郎は、必死に呼びかけ続ける。
例え、目の前にいる人物が、瑠一郎とあの夢で一緒に過ごした狛治とは違う人物だったとしても……。
彼の魂は、間違いなく同じはずなのだから……。

「…………頼む。……これ以上…………哀しませないでくれ……」

君の心は、そんなに弱くないはずなんだ……。
これ以上、彼女を、私を哀しませないでくれ……。

「…………狛治っ」
「っ!?」

この時の瑠一郎は、気付いていなかった。
その目から溢れ出した涙と共に自分が無意識のうちに、猗窩座の事を〝狛治〟と呼んでしまっていた事に……。
そして、それを聞いた猗窩座の中で何か変化が起こっていた事に……。

「…………? あか……ざ?」

その変化に気付いたのは、自分の目から溢れて頬を伝っていた涙を猗窩座が優しく手で拭ってくれた時だった。

「…………思い出したよ。……俺が何故……強き者を求めていたのかを……」

そう言った猗窩座の表情は、とても穏やかだった。

「それは……俺が捜していた奴が……とても強かった事しか、憶えていなかったからだ」
「? 猗窩座? それは…………っ!!」

その猗窩座の言葉に意味がよくわからず、瑠一郎が聞き直そうとそしたその時だった。
己の脇腹辺りに激痛が走ったのは……。

「ダメだろ、瑠一郎? 戦闘に使用しない刀をこんな風に無防備に放置していたら……。まるで、それで俺に刺してくれって言っているみたいじゃないか?」
「があっ!?」

それは、瑠一郎が持っていたもう一つの刀を使って猗窩座が瑠一郎の身体を貫いた為の痛みだった。
それにより、瑠一郎は、先程以上に吐血し、視界がぼやけ始めた。

「だが、おかげで漸く思い出せたよ。……お前こそが、俺とずっと一緒にいると約束してくれたあの強き者だったという事を……」
「はぁ……はぁ……っ」

そう言った猗窩座は心底嬉しそうに笑みを浮かべていた。
それに対して、瑠一郎は、真面に返事を返すことが出来ず、何とか呼吸を整えて意識を保つ事だけで精一杯だった。

「ありがとう、瑠一郎。……これで、俺は、お前の事を永遠に失わずに済んだ。その事を俺に思い出して欲しかったんだろう?」
(…………ちっ……ちが……う……そうじゃ……な……私……は……っ)
「もう大丈夫だ。……あの時の約束をちゃんと守って、これから俺たちはずっと傍にいよう、瑠一郎」
「…………っ」

甘く優しい猗窩座のその声は、そんな瑠一郎の抵抗すら妨害するようなものにも聞こえた。
そして、何よりも刀から滴り落ちる血によって、瑠一郎の体力はどんどん奪われていき、この時は意識を手放すしか出来なかった。









悪夢シリーズの第24話でした!
今回で漸く猗窩座との決着がつくかと思ったら、まだ着けることが出来ませんでした!!
そして、このタイミングで猗窩座があの狛治だという事実を知ってしまうという瑠一郎には、辛い展開にしてます。
けど、後々その事実を知ってしまった方が、彼は余計に傷付いてしまうと思います。
そして、最後の方の猗窩座殿の行動に「違う! そうじゃない!!」と何度も思いつつも、彼ならやり兼ねないだろう。。。

【大正コソコソ噂話】
その一
コユキは、今まで瑠一郎が闘ってきた化け物たちと同じような存在ですが、彼らと違ってちゃんと理性を持っていました。
なので、瑠一郎があの夢渡りをした辺りから、瑠一郎の事をちゃんと見極める為、ずっと静かに見守っていました。

その二
ハクが見つけて放置した弱々しい光とは、彼女の事でした。
だが、その結果、瑠一郎は、猗窩座=狛治だという事を理解してしまうのでした。

その三
瑠一郎は何の為に強さを求めるのかという自分自身の問いに対して、「自分の大切な人さえ守れればそれでいい」と言っていますが、それはつまり、猗窩座に匹敵する強さである必要がある為、ある意味物凄い強さです。
また、そういう考えを持っていることもあり、自分は柱には相応しくないと思っています。
※煉獄さんは利他的精神で、自分は利己的精神だと思っているからです。


R.3 11/27