~どんなにうちのめされても守るものがある~
人々は、私の事を偉大だと何故か讃えていた。
この世の理を外側にいる存在や神々の寵愛を一身に生きている天才剣士だと思っている者もいるようだった。
だが、それは決して違う。私に本当にそんな力があったのなら、救えたはずなのだ。
あの呪いから彼を解放させる事が出来たはずだ。
私は、大切なモノをを何一つ守れず、人生において為すべき事を為せずに死んだ者。
何の価値もない男なのだ。
『……だから、貴方は、ずっとここに留まっているつもりなのですか?』
私しかいない、暗闇の中で一つの声が響いた。
その声は、ひどく優しい声だ。
『もう貴方は、ここに留まるべき存在ではありません。新たに転生し、人々を正しく導く事が今の貴方にすべき事ではないのですか?』
「……その必要はない。私の意志は、彼らに託した。長い年月をかけ、人から人へ受け継がれる想いだけ人は強くなり、全てを終わらせる事ができる」
『ですが、人の想いは移ろいやすいもの。長い年月をかければ、悪い方向に捻じ曲がって伝わってしまう事だってあります。……正しい導き手がいない限りは』
「だから、私を転生させて、その導き手になれと言いたいのか?」
『…………』
私のその問いに声は、何も返さなかった。
その無言が何よりも肯定である事が分かる。
この声の主は、私を転生させて、また、彼と私を戦わせたいとでも言うのか?
なんて、世界は残酷なのだろうか……。
『……では、貴方は、その力をどのような事に使いたいのですか?』
「どのような……事、だと?」
『貴方は、この世にとても未練があるように見えますが……それは、一体何ですか?』
「…………」
その問いに私は、即答する事など出来なかった。
この世には、多くの未練を残してきたから。
一つだけ挙げるとしたのなら……。
いや、それももう無理かもしれない。私は、臆病になってしまったから。
『無言ですか。……なるほど。では、こうしましょう』
そんな私の態度を見てその声は、何処か楽しそうな穏やかな声で言葉を続けた。
『今から、貴方を転生させます』
「おい。私の意志は、無視か?」
『いえ。無視してませんよ。誰も人に転生させるとは、まだ一言も言ってませんよ』
「どういう事だ?」
『貴方を我々に近しい存在に……不死鳥に転生させます。そうすれば、並の人間には、貴方の姿を視る事もできない。つまり、貴方は、この世にいながら、存在しないものとなります』
確かにそれなら、ここにいるのとあまり大差はない。
では、このままここにいても問題ないのでは、という疑問も頭に過った。
『並の人間には、貴方の姿を視る事も見つける事も出来ない。それが出来た人は、貴方が心の底から守りたいと思う存在になりえる人だけです』
「なっ!? そんな奴……もう現れるわけない」
『そんなのやってみないと分からないのでははいですか? それとも……本当は、怖いのですか?』
「!?」
その声は、何とまで決して断言しなかったが、それが何なのかは、私にはよくわかった。
だから、それに気付かれないように私は笑ってみせた。
「怖いわけがない。もうそんな存在など私の前には絶対に現れないのだから」
『……では、こちらの提案に乗っていただけると受け取ってもいいでしょうか?』
その問いに私は無言で頷いた。
『わかりました。では、早速貴方の気が変わらないうちに始めます』
声がそう宣言した途端、周りに光が発現する。
優しく、暖かな光が徐々に大きくなって私の身体を包んだ。
『いってらっしゃい。よい来世を……』
その声を最後に私は、ここでの記憶は途絶えるのだった。
『……漸く旅立ってくれましたか』
暗闇の中で一つの声が響いた。
神々の寵愛を一身に生きたと謳われた天才剣士がここへやってきた時は、とてもひどい状態だった。
身体ではなく、心が、だ。
その心を癒すのにどれだけの年月をかけたか正直、わからないくらいだ。
だが、これ以上ここにいても彼の心が癒される事がない事を知っていた。
人の心を傷付けるのは、人だ。
故に、人の心を癒すには、人の心でないと完全にはできない事を知っていた。
だからこそ、彼を一刻も早くここから解き放ちたかった。
そして、全てを終わらせて欲しかった。
長い年月に渡って繰り広げられている鬼との戦いを……。
『………さあ。お前もそろそろお行き。私の可愛い子よ』
声の主の手の中には、小さな光があった。
その光は、まるで小さな太陽のような暖かな光だった。
この光は、まだ、小さすぎるから、きっと彼の事はすぐには見つけられないかもしれない。
でも、この光は必ず彼と出逢う。
そして、彼にとってかけがえのない存在になるだろう。
そのせいでこの光にも様々な試練に見舞われることになるかもしれない。
けど、この光なら大丈夫。その試練を乗り越え、力に変えてくれると信じているから。
小さな光は、ゆっくりと声の主の手から離れていくと暗闇の中に溶けるように消えていった。
『願わくば、彼らに幸多からん事を……』
それが、私の許を旅立っていった愛しき子たちに私が出来る事。
彼らが優しい光の下で暮らせる事を祈る事だけです。
* * *
あれから一体どれくらいの歳月が過ぎただろうか。
神に近しい存在へと転生させられた私は、ずっと独りでいた。
決して誰にも見つからないように暗い山奥の洞窟で身を潜めていた。
私の姿を視える存在などそうはいないのに、なるべく人気を避け、息を潜めてきた。
ずっと、このままでいいと思っていた。
それなのに、その静寂は、突如壊されるのだった。
この洞窟に誰かが足を踏み入れたのを感じた。
一体、どんなもの好きがこんな場所へ?
だが、どうせ、私の存在に気付く事などないだろうが……。
「あの……誰かいますか?」
洞窟内に声が響いた。その声は、子供の声だ。
こんな山奥に何故、子供がいるのだ?
親とはぐれて、遭難でもしてしまったのだろうか?
変に不安になった。
「誰かいます……よね? ……俺……匂いでわかりますよ」
だが、次に聞こえてきた子供の言葉に私は驚いた。
この子供は、迷ってここに来たのではなく、私という存在に気付いてここまでやってきたという事実を知って……。
『……帰れ』
「えっ? でも――」
『帰れと言っているっ!!』
子供が洞窟の奥に踏み込もうとしていた為、つい声を荒げてしまった。
その声に子供も驚いたようで足を止めたらしく、足音が聞こえなくなる。
『……ここは、お前のような子供が足を踏み入れるような場所ではない。さっさと家に帰れ』
頼むからこれ以上、踏み込んで来るな。
ただそれだけを思ってそう言った。
「……俺……悪い事しちゃったかな?」
そう言った子供の声は、何処か寂しげなものだった。
やはり少しきつく言い過ぎたかもしれない。
「…………わかりました! じゃあ、また明日遊びに来ますっ!」
『はあっ!?』
だが、その直後に底抜けに明るい声と言葉に私は、思わず変な声を上げてしまった。
「今日は、突然お邪魔してすみませんでしたっ! では、また明日!!」
『おっ、おい!!』
私の制止の声など耳に入っていないのか、その子供はさっさと洞窟を後にしていく気配を感じた。
一体、あれは何だったのだ?
あの子供は、自分が突然ここにやってきたから、私が怒ったのだとでも思ったのだろうか?
だとして、どうしたらそんな考えになり、あんな立ち振る舞いが出来るのだ?
その子供の思考を私は、全く理解する事が出来なかった。
それから、驚く事にその子供は、本当に次の日にまたここにやって来た。
そして、その次の日も、またその次の日もやって来ては、私に話しかけてきた。
私の反応などお構いなしに子供はずっと話し続けた。
大体の話の内容は、子供の家族の事が多かった。
妹や弟たちが可愛くて仕方ないや父や母が優しくて自慢の家族だという事を私に延々と聞かせてくる。
だが、それを何故か私は、不快には感じなかった。
子供から聞こえてくる声や微かに香る炭の匂いが何処か心地よくて落ち着いた。
そして、いつしか子供がここへやって来ることを楽しみに思うようになっていった。
そんなある日のことだった。その子供がいつもやってくる時間になっても声が聞こえなかったのは……。
『おっ、お前! 一体何があった!?』
そして、子供がやって来たのがわかった途端、私はそう子供に問いただした。
姿を見なくてもわかるほどの血の匂いが洞窟内に漂ったから……。
「あっ、ちょっと、ここへ来る途中で……熊に遭っちゃって……」
『くっ、熊だと!? 馬鹿かお前は!? 何故、そこまでしてここにやって来るんだ!?』
わからなかった。
ここにやって来なければ、この子供は、こんな怪我などせずに済んだはずだった。
私の事など放っておけばよかったのだ。
それなのに、何故……。
「だって……匂いがするから……」
『? 匂い、だと?』
「うん。……君から哀しいような……寂しいようなそんな匂いがしたから、俺。……傍にいてあげたいと思って……」
『!?』
子供の言葉を聞いて私は、言葉を失った。
そうだ。この子供には、伝わってしまうのだ。
匂いだけでこの私の存在を見つけてしまったこの子供には……。
『…………もういい。傷を診せてみろ』
「えっ? でも、ここくら――」
『明かりならある』
そう言った途端、暗闇しか存在しなかった洞窟が一瞬のうちに明るくなった。
いや。正確に言えば、私自身が輝きだしたのだった。
この時になって私は、漸くここを訪れて来ていた子供の姿を真面に見た。
額には火傷の痕があり、髪と瞳が赤みがかった色をしていた。
その子供を一目見ただけで彼が《赫灼の子》である事がわかり、美しいと思った。
子供の方は、私の正体が鳥だった事に驚いているのかポカンと口を開けたまま、こちらをジッと見つめていた。
『なんだ? そんなに私の姿に驚いたのか?』
「あっ、ううん。君の事は、匂いで鳥だって事はわかっていたから……」
(なんだ、わかっていたのか。つまらならいなぁ……)
「けど……思っていたより、ずっと綺麗だったから、見惚れちゃいました!」
『っ!!』
そして、次にその子供から発せられた言葉と屈託のない笑顔に私は思わず息を呑んだ。
そんな私の様子を見て、子供は不思議そうに首を傾げてくる。
「あれ? 俺、何か変な事、言ったかな?」
『なっ、何でもない……とにかく、傷を診せてみろ』
「はいっ!」
子供は、元気よく返事をすると素直に私に怪我を診せてくれたのだったが、それはとても酷い状態だった。
『…………お前、よくこれを我慢出来たなぁ』
「俺、長男だから!」
『いやいや。長男だからという理由で我慢できるレベルじゃないぞ、これは;』
はっきりとそう言い切った子供の言葉に呆れつつ、私は子供の怪我を治し始める。
といっても、普通に薬とかで治すわけではない。
私の流した涙を怪我している個所目掛けて落とすだけだ。
不死鳥である私の涙には、強力な癒しの効果があるからだ。
子供の怪我した所に見事に落ちた私の涙は、見る見るうちに怪我を治していった。
『……ほら、治したぞ。これからは、あまり無茶はするな』
「あっ、ありがとう! あっ! 俺、竈門炭治郎って言いますっ! えっと、君の名前は……?」
『私の……名前か? 私の名前は、よ……』
子供――炭治郎の言葉に互いの名前を知らずにずっといた事に気付き、それに答えようとした。
だが、私はそれを途中で止めてしまった。
なんとなく、私は自分の名前を炭次郎には、呼んで欲しいとは思わなかったからだった。
「よ……?」
『いや。……私には、名などないのだ。ただの鳥なのだからな』
「ただの鳥には見えないけど?」
『どちらにしても、名前などない。だから、炭治郎。……お前が私に名を付けてくれないか?』
「えっ!? 俺が付けていいのか?」
『ああ。お前が呼びたい名を私に付けてくれ』
「うーん……そうだなぁ…………」
私の頼みに炭治郎は、難しい表情を浮かべてながら考え込んでいる。
そして、長い沈黙の後、何かを閃いたのかパッと明るい表情へと変わった。
「……じゃあ、『飛鳥』なんてどうかな?」
『…………飛鳥、か。……うん。気に入った』
「よかった! それじゃあ、これからよろしくな! 飛鳥!!」
私が名前を気に入った事が余程嬉しいのだろうか、炭治郎は、にっこりと笑ってそう言った。
その笑顔はまるで太陽のようだった。
(あぁ……。本当に……アレの言う通りになってしまったなぁ)
悔しいが私は、あの声の主の言う通りになってしまっていた。
声の主は、私の事を見つける事が出来た人物が私が心の底から守りたいと思う存在になると……。
まさにそうだった。私のは、この笑顔を守りたい。
いつまでも、その笑顔を見ていたいと思ってしまっていた。
『あぁ、よろしくな。炭治郎』
こうして、私は漸く『飛鳥』という存在として、新たにこの世に生まれる事が出来たのだった。
* * *
何故、この世界は、太陽は、私の事を忌み嫌うようになったのだろうか?
私が望んだ事は、そんなにも悪い事だっただろうか?
それは、人なら誰しも願う事ではなかったのか?
少しでも長く生きたい。完璧な身体が欲しい。不変であり続けたい。
その望みの何処が悪かったというのだろうか?
せっかく、完璧な身体を手に入れたと思っていたのに、私は太陽に嫌われてしまった。
そのせいで、私は太陽の下を歩けない。
憎い。太陽が、憎い。
だが、私は決して諦めない。
陽の光を克服し、私は完璧な存在になるのだ。
必ず、この手に太陽を……。
「あの……大丈夫……ですか?」
その声は、突然聞こえてきた。
雪が降り続く空の下なら、昼間でもある程度活動する事が出来た。
人を喰らった後、雪を避け近くの小屋で少し一休みをしようと中に入った。
何故、そんな事をしようと思ったのか、私自身にもわからなかった。
側近の鳴女をすぐに呼んでこの場所から立ち去れば済むはずだったのに……。
そうすれば、またこうやって人に声を掛けられる事もなかっただろう。
私は、その声が聞こえた方へと振り向いた。
そこに立っていたのは、一人の幼い子供だった。
ここまで走ってやって来たのか、その子供は息が上がっていた。
そして、子供の髪と瞳は、赤みがかっていて美しかった。
「あっ、あの……大丈夫ですか? 血の匂いがしたんですけど……怪我とかしてないですか?」
どうやら、この子供は鼻が利くらしい。
先程、私が喰らった人間の血の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。
馬鹿な子供だ。そのせいで、自分が逆に喰われる事になるとは、知らずにノコノコとやって来たのだから……。
「ああ……。少し、怪我をしてしまったが、平気だよ」
「本当ですか? ちょっと、見せてください。俺、薬持っているので……」
「おっ、おい……」
子供は、私の話など真面に聞かず、スタスタと私の許へと近づくと血の付いた服の袖を捲った。
そこから、まだ治りきっていなかった人を喰らう時に出来た微かな傷が現れたので、少しだけ安堵した。
流石に無傷だと怪しまれていただろう。
だが、やはり素肌を見られる事は、気分がいいものではない。
私は、鬼だ。人とは違い、肌は青白い。
それを見れば、「今にも死にそうだ」とか「具合が悪そうだ」とか、大抵の人間はそう口走るから……。
「あっ! やっぱり、少し怪我してますね。それに……」
そう考えていると子供が何かを言っているのが聞こえてきた。
もし、あの言葉を口にしたら、その瞬間その首を刎ねてやろうと私は思った。
「肌が……今降っている雪みたいに白い。とってもきれいな肌ですね!」
「!」
だが、次に子供が笑ってそう言った言葉に私は固まった。
その言葉の意味を瞬時に理解する事が出来なかったからだ。
これは、私の事をきれいだと言ったのか?
あの雪のようにきれいだと?
「…………はい! 俺が持っていた塗り薬を使いましたので、もう大丈夫だと思いますっ!」
「っ!!」
そして、何処からともなく取り出した塗り薬を私に塗った後、そう言って子供は私に笑ってくれた。
その笑顔に私の心がざわついた。
なんだ、この気持ちは?
この暖かな笑顔は、まるで太陽のようだった。
欲しい。この小さな太陽が……。
「――――治郎。……炭治郎! 何処だ!?」
「あっ! 父さんが呼んでる! 俺、もう行かないと!」
だが、私の手がその子供に伸びるより速く、子供はその小屋から出て行ってしまった。
初めてだった。私は、欲しいものは、太陽以外全て手に入れてきたつもりだったのに……。
それなのに、この子供は意図も簡単に私の手から逃れてしまった。
そんな事許してなるものか……。
「…………炭治郎。……必ず、お前を……」
必ず、お前を手に入れてみせる。
そう鬼舞辻無惨は、決意するのだった。
それから、一体どれくらいの月日が経っただろうか。
あの小さな太陽の事をずっと捜しているのに、なかなか見つからない。
部下の鬼たちにも捜すように命令しているのに、誰一人私の前に炭治郎を連れて来ない。
なんて役立たずな奴らだろう。
逢いたい。あの小さな太陽に……。
あれを早く私の物にしたい。
仕方なく私もあれを捜しに外へと出る。
昼間だと、私の活動できる日など本当に限られている。
それでも動くのは、逢いたいからだ。
あの陽だまりのような笑顔に……。
私の肌を雪のように白くてきれいだと言ってくれた存在に……。
そして、炭治郎と出逢ったであろう場所の記憶を頼りに漸く彼の姿を捉えることに私は、成功したのだった。
出逢ったあの頃より、少し大きくなっていたが、それでもまだあどけなさが残る可愛らしい少年に炭治郎は成長していた。
だが、彼の成長以上に、私は彼が身に着けていたものに衝撃を受けた。
炭次郎の耳には、日輪の耳飾りがあったのだ。
初めて出逢った時には、そんなもの付けていなかったはずなのに……。
何故、炭次郎があんな忌々しい耳飾りを付けているのだ?
そして、何より――――。
「……炭治郎。……俺の傍を離れるなと言っているだろう」
「あっ、すみません。義勇さん!」
「また、鬼に襲われたらどうする?」
「その時は、義勇さんが守ってくれるでしょ? 前みたいに格好よく!」
「っ! ああ……そうだな……」
炭治郎は、私の天敵である鬼殺隊の剣士と共にいたのだ。
その剣士は、隊服の上から左右で柄の違う羽織を着用していた。
右半分が無地、左半分が亀甲柄の羽織だ。
そんな羽織を着用している剣士など今の鬼殺隊において一人しかいない事を部下から聞いていた。
それは、鬼殺隊の最高位の一人である水柱の冨岡義勇だと。
おそらく、これまでの部下たちが誰一人炭治郎の事を連れて来る事が出来なかったのもこの男のせいだろう。
だが、何故、この男と炭治郎は、一緒にいるのだ?
まさか、あの耳飾りについて何かを気付き、炭治郎の事を鬼殺隊に勧誘しようとでもしているのか?
そんな事になれば……。
「あっ、そう言えば、義勇さん! 今晩は何が食べたいですか?」
「…………鮭大根」
「ええっ!? またですか!? あまり偏った食生活は、よくないですよ!」
「……問題ない。炭治郎が作る鮭大根は、美味いから」
「いやいや。それは、全然関係ないですから。……やっぱり、義勇さんは面白いですね!」
「……そう……なのか?」
「はい! だから、俺、義勇さんと一緒にいると楽しいので、好きですっ!!」
その二人の会話を、笑い合う二人を見た私の中に何とも言えぬ感情が沸き上がってくる。
やめろ。そんな風に笑うな。
その笑顔は、私だけに見せろ。
お前は、私の物なのだから……。
そう思うのに、声が出てこなかった。
「…………そうか。……だが、やはり、鮭大根が食べたい。……明日には、ここを発たねばならないから……」
「えっ? そうなんですか?」
「……半年に一度は、顔を出さないといけない仕事がある。……本当は、行きたくないのだが……」
「そうなんですね。それなら、仕方ないですよ。……また、会えますか?」
「ああ。それが終わり次第、またここに顔を出す」
「わかりました! じゃあ、鮭大根と一緒に俺、明日のおにぎりも作りますね!!」
そして、次に聞こえてきた会話に私は驚いた。
明日になったら、水柱は炭次郎の許から離れる。
その口ぶりからして、その事を本当に嫌そうなのが伝わってきたが、それが出来ないという事は、おそらく産屋敷絡みの内容の可能性が高い。
だが、これは私にとっては、またとないチャンスでもあった。
水柱さえいなくなれば、炭治郎を攫う事など容易い事だろう。
この好機を逃すわけにはいかない。
それを実行すべく、水柱の気配が完全に無くなったことを確認した後、私は炭治郎の家を襲う計画を立てるのだった。
太陽のような少年は、二つの大きな存在との出会いを果たしていた。
一つは、心に大きな傷を負った優しき光。
そして、もう一つが己の欲望の為なら他者の犠牲など何とも思わない悪しき闇。
この光と闇との出会いが少年――竈門炭治郎の運命を変えてしまった事に彼は気付く事はないのだった。
新シリーズ小説の序章でした!!
アニメの鬼滅の刃にハマってしまい、その勢いで書き上げてしまいましたwww
何番煎じかわかりませんが、兄弟逆転パロのお話を書きたいと思っています。
原作開始前に、(不死鳥に転生した)縁壱さん、無惨さん、義勇さんそれぞれに炭治郎くんが出逢っていたら、どうなっていただろうかという妄想が若干入っています。
CPとしては、基本義炭を書こうと思ってますが、炭治郎君が好きなので、総受け(愛され炭治郎)になるかと思います。
また、この話は鬼滅の夢小説なので、考えていた裏話を大正コソコソ噂話として書いていきます!
【大正コソコソ噂話】
炭治郎くんと各キャラが出会った順番は以下の通りです。
無惨様:5~6歳頃(額に火傷ができる前)⇒飛鳥さん:6~7歳頃(額に火傷が出来た後)⇒冨岡さん:12~13歳
実は、無惨様が一番最初に炭治郎くんと出会っていて、約8年もの間探し続けています。
ある意味しつこい男ですねww
R.3 1/13