「……そう言えば、禰豆子は、全集中の呼吸の常中は出来るようになったのか?」

そう何気なく問いかけたのは、炭治郎だった。
あの日以来、炭治郎は、暇さえあれば、積極的に蝶屋敷のお手伝いをやっていた。
元からジッとしている事が苦手な炭治郎にとっては、そのお手伝いはいい気晴らしになっているようだった。
だが、偶に自分が鬼である事を忘れてしまっているのか、普通に洗濯物を外に干しに行こうとする時は、全員に一斉それを全力で止められる事も暫しあったりする。

「えっ? 全集中の呼吸の……常中?」
「うん。全集中の呼吸を四六時中やっているのかなぁって、思ってさぁ」
「あっ! それ、私たちも気になってました!」

炭治郎の言葉を聞いた三人娘の一人であるきよもそう口を開いた。
人柄のいい炭治郎は、鬼であっても三人娘たちとはもうすっかり仲良しになっていた。

「朝も昼も夜も、寝ている間もずっと、全集中の呼吸をやっていますか?」
「えっ? ……やっ、やってないです……」

遠慮がちにそう言ったきよの言葉を聞いた禰豆子は、正直狼狽えた。

「やった事もないです。……そんな事、出来るの!?」
「はい! それが出来るのと、出来ないのでは、天と地ほど差が出るそうです」
「ぜっ、全集中の呼吸は……少し使うだけでも、結構辛いのに……それを……四六時中か……」

それを考えただけでも禰豆子は、震えそうだった。

「出来る方々は、既にいらっしゃいます。柱の皆さんやカナヲさんです! 頑張ってください!」
(あっ……そっか!)

今の言葉で漸く分かった気がする。
私とカナヲと一体何が決定的に違ったのか……。
きっと、これが出来る出来ないの違いだったんだと……。

「ありがとう、お兄ちゃん、みんな! 私、頑張ってみるねっ!!」

こうして、この日から禰豆子は、全集中・常中を取得する為の訓練に励むようになるのだった。


~どんなにうちのめされても守るものがある~


「……だっ……ダメだわ……。全然……出来ない!?」

全集中・常中の訓練を早速始めた禰豆子であったが、その過酷さ故、思わず庭で崩れ落ちてしまった。
全集中の呼吸を少しでも長くやろうとすると、死にそうになった。滅茶苦茶苦しかったのだ。

(はっ、肺が痛い! 耳も痛い! 耳の中がドクドクしている気がするっ!!)
「あっ!!」

鼓膜がおかしい感じがした。その感覚に堪らず、禰豆子は両手で両耳を押さえてみた。

「び……ビックリしたわ! 今、一瞬……耳から心臓が飛び出して来たかと……」

勿論、そんな事あるはずがないのだが、それくらい今の禰豆子にはきつかったのだ。
身体中がまるで心臓になったみたいにずっと、ドクドクしているし、息も苦しいとか苦しくないとか、そう言う次元はもうとっくに超えていたのだ。

(全然ダメだわ……こんな調子じゃぁ……)
「ねっ、禰豆子……。大丈夫か?」
「!?」

すると、そんな禰豆子の背中に誰かが声をかけて来た。
その声に禰豆子は、思わず振り向くと、日が当たるか当たらないかという絶妙な縁側の位置に兄――炭治郎が立っていた。
それを見た禰豆子は、慌てて炭治郎の許へと駆け寄った。

「おっ、お兄ちゃん! 何してるの!? こんな所に立っていたら、危ないわよっ!!」
「大丈夫だよ。禰豆子は、相変わらず、心配性だなぁ♪」

そんな禰豆子に対して、炭治郎はにっこりと笑ってそう言ったが、念の為、日が完全に当たらない場所まで炭治郎は移動してから会話を再開させた。

「禰豆子。焦る気持ちはよくわかるけど、そんなに焦ったらダメだ。いきなりじゃなくてもいいから、もっと少しずつやってごらんよ」
「けっ、けど……」

いくらやっても、状況は変わらない。
こんな調子で本当に全集中・常中が出来るようになるのか、心配になった。
そんな禰豆子の気持ちが炭治郎にも伝わったのか、少し考え込んでから炭治郎は口を開いた。

「んー……じゃぁ、まずは、基本に戻ってみるのは、どうかな? 禰豆子。呼吸の基本は、何だと思う?」
「呼吸の基本? うーんと……肺かな?」
「うん、その通りだぞ! って言う事は、呼吸が上手く出来ないのは?」
「それは……私の肺が……まだ、貧弱って事かな?」

そこまで考えて言った時点で、禰豆子は鱗滝の所で毎日やっていた基礎鍛錬の事を思い出した。
最近は、色んな出来事が起こり過ぎて、そういった鍛錬を疎かにしていたような気がした。

「そっか! また、ちゃんと、身体を鍛えなおさないといけないんだわっ!!」

つまり、もっと、早起きをして走り込んだり、息止めの訓練とかが、今の禰豆子には必要という事だ。
炭治郎の言う通り、そう言った小さな積み重ねが大事で、少しずつだが成長に繋がっていくのだ。

「ありがとう、お兄ちゃん! 私、また頑張って走り込みとか、息止めの訓練を再開してみるね!」
「あぁ! 禰豆子なら、きっと大丈夫さ! 禰豆子は、兄ちゃんの自慢の妹なんだから! 頑張れ、禰豆子!!」
「お兄ちゃん……」

その炭治郎の言葉といつもと変わらない優しい笑顔を向けられただけで、禰豆子はとても嬉しかった。
そして、もっと、もっと、頑張れる気がして来た。

「じゃぁ、早速、今から兄ちゃんと一緒に走るか!」
「えっ!? いっ、今から、一緒に!?」
「うん! ……ダメか?」
「えっ? えっ~と……」
『駄目に決まってるだろうがぁっ!!』

炭治郎のその問いに禰豆子が心底困っていたところに飛鳥がタイミングよく現れてくれてそう言った。

『炭治郎! 今、何時だと思っているんだ!? こんな日の高い時間に走り込みだなんて、無理に決まってるだろうがっ!!』
「え~っ! でも……」
『でもじゃないっ! ……禰豆子も炭治郎が、馬鹿な事を言ったら、容赦なく怒っていいからな』
「何だよ、飛鳥ぁ。人の事を馬鹿呼ばわりするのは、よくないぞ?」
『……炭治郎。自分が鬼である事を忘れて、そんな発言をする奴は、馬鹿以外何と私は表現したらいいんだ? そして、そう言う事言うのはこの口か?』
「あっ、飛鳥ぁ! いっ、痛いってば~! そっ、そんなに口引っ張るなよ~!!」

頬を膨らませながら、そう抗議する炭治郎に対して、飛鳥は呆れたようにそう言った。
そして、器用に翼を使って、炭治郎の両頬を引っ張るのだった。
その痛みに堪らず炭治郎もそう言って降参した。
そんな二人のやり取りを見て、禰豆子は今まで飛鳥は、結構大変だったんだなぁ、と改めて思うのだった。





* * *





「えっ? 瓢箪を……吹くの?」

あの日以来、何かと炭治郎と一緒に差し入れを持ってきてくれるようになった三人娘は、今日はおにぎりと一緒に二つの瓢箪を持ってきてくれたのだった。
今日のおにぎり担当は、炭治郎だったらしく、禰豆子にとって懐かしい味がした。
鬼になっても炭治郎の料理の腕は、全く落ちていなかった。

「そうです。カナヲさんに稽古をつける時、しのぶ様は、よく瓢箪を吹かせていました」
「へぇー、面白そうな訓練だねぇ。音が鳴ったりするの?」
「いいえ。吹いて瓢箪を破裂させてました」
「へぇー…………って、えっ?」

そのきよの言葉を聞いて、禰豆子はおにぎりを食べる手が思わず止まってしまった。
今のは、聞き間違いではないかと、思ってしまった。

「えっ? これ? これを?」

そして、念の為、その瓢箪を触って硬さを確かめてみた。
その瓢箪は、触ってもわかるくらいとても硬かった。

「こっ、こんな……硬いのを?」
「はい。しかも、この瓢箪は、特殊ですから、通常の瓢箪よりも硬いのです」
「ええっ!?」

それを聞いた禰豆子は、驚かずにはいられなかった。
カナヲの体格は、そんなに禰豆子とさほど変わらなかったはずだ。
それなのに、こんな硬い瓢箪を拭いて破裂させてしまうだなんて……。
そして、きよは更に恐ろしい事を禰豆子に伝えてきた。

「あと、段々と瓢箪を大きくしていくみたいです。今、カナヲさんが破裂させているのは、こちらです」
「!?」

そのきよの言葉を合図になほとすみが座敷の奥からズルズルと瓢箪を引き摺りながら運んできた。
その大きさは、彼女たちの身体と殆ど変わらないくらいの恐ろしく、大きな瓢箪だった。
そのデカさに禰豆子は思わず絶句した。

「へぇー……。こんな大きな瓢箪もあるんだなぁ!」

そんな禰豆子とは反対に、炭治郎はその大きな瓢箪に興味津々と言った感じで近づいていき、コンコンと叩いてみた。

「……これ、試しに俺が吹いてみてもいいかな?」
「はい! 大丈夫ですよ!」

目をキラキラとさせながらそう言う炭治郎に対して、きよはそう言った。
それを聞いた炭治郎は、嬉しそうに笑った。

「ありがとう! じゃぁ、早速……」

そして、炭治郎は、瓢箪を両手でしっかりと掴むと大きく息を吸ってそのまま一気に口を付けた。

「フーーーーゥッ!」
「頑張れー! 頑張れー!!」

炭治郎によって瓢箪の中に勢いよく空気が吹き込まれていく。
瓢箪からもメキメキと音が聞こえ始めたかと思った瞬間、バンッという音と共に瓢箪が一気に破裂した。
その時間は、三十秒も掛からなかったと禰豆子は思った。

「やった! 割れた!!」
「キャーー!」
「炭治郎さん、初めてなのに凄いですっ!!」
「よもや! これは、凄いなっ!!」

炭治郎が大きな瓢箪を破裂された事に大喜びする三人娘たちに紛れてとある声も響いた。
それは、もう禰豆子にとっては、大分聞き慣れてしまった声でもあった。

「竈門少年! 君は、全集中の呼吸も使えたのかっ!!」

そう、炎柱事、煉獄杏寿郎である。
彼は、何時この場にやって来たのか、禰豆子は全く気付かなかった。

「あっ、はい! ……この前、鱗滝さんに禰豆子の事で挨拶に行ったら、ついでに修行も付けてくれたんですっ!!」
「えっ? お兄ちゃん、そうだったの!?」

確かにこの前の柱合裁判で、炭治郎が鱗滝に会いに行った事は、鱗滝の手紙の内容で知っていた。
でも、まさか、それと併せてあの修行まで受けていたとは、夢にも思っていなかった。
それだけ、彼も炭治郎の事を認めて、気に入ってくれたという事なのだろう。

「うむっ! なるほどっ! 君を継子にした時に教える事が一つ減ってしまったのが、少し残念だが、それにしても、これは凄い事だっ!!」

そして、未だに炭治郎の事を継子にしようと勧誘し続ける煉獄もまた凄いと禰豆子は内心思っていた。

「だが! 呼吸の精度は、まだまだのようだから、その辺を教えてあげられそうだっ!!」
「えっ? お兄ちゃんは、ちゃんと瓢箪を破裂させられたのにですか!?」
「確かに破裂させられてはいたが、まだまだだぜ?」

煉獄の言葉に禰豆子が驚いていると、屋敷の天井から何故か宇髄が姿を現し、そう言った。
こんな光景を見ていると、偶にこの蝶屋敷の防犯面が心配になってくる。
今度、改めて、しのぶさんに相談しようかと、禰豆子は思った。

「宇髄の言う通りだっ! さっき、竈門少年は、微かに息継ぎをしながら、この瓢箪を吹いていたっ! 俺や宇髄なら、息継ぎもしないで、これくらいの瓢箪は約十秒もあれば、破裂させられるぞっ!!」
「そうなんですか! やっぱり、お二人は、凄いんですねぇ。……冨岡さんも……できるのかなぁ」

そう義勇の事を小さな声で炭治郎は、言っていたのは、一番近くにいた禰豆子にだけ聞こえた。
煉獄と宇髄は、ほぼ毎日と言っていいくらいここを訪れて来るのに対して、義勇はあの産屋敷と同行してやって来た日以来、一向にここへやって来る気配すらない。
義勇が未だに炭治郎の事を避けている事に対して、禰豆子は憤りを覚えている。
一体、何処まで意地を張れば、気が済むのだろうか?
禰豆子の体力が万全なら、今すぐにでも一発暗い蹴りをお見舞いした上で、この場に引き摺ってでも炭治郎にちゃんと会わせて話をさせたいと思っているというのに……。

「…………という事で竈門少年! 今の助言を聞いた上でこの瓢箪をもう一度、吹いてみてくれっ!」
「はいっ! わかりましたっ! 俺、やってみますっ!!」

そんな事を禰豆子が考えているうちに煉獄が何か炭治郎に助言したらしく、炭治郎に瓢箪を手渡していた。
その瓢箪は、どうやら煉獄が持参してきたものらしく、さっきのものよりかは、小さかった。
柱である彼のその辺についての話を聞き逃してしまった事に禰豆子は、若干後悔しつつ、炭治郎の事を見守った。

「それでは、行きますっ!」

そして、炭治郎が思いっきり呼吸をして、その口を瓢箪へと近づけようとした。

「ちょーっと、待った!」
「!!」

だが、その寸前で何故か宇髄が、その瓢箪を炭治郎から取り上げてしまうのだった。

「……炎柱ともあろう人が、こんな手を使うのは、どうかと思うぞ?」
「宇髄! 一体、何の事だろうか?」
「そこ、とボケるなよ。何で、こんな都合よく、お前が瓢箪なんかを持ち歩いているんだよ?」

その言葉を聞いて禰豆子は、ハッとさせられた。
これらの瓢箪は、今日偶々、三人娘たちから教えてもらったばかりなのだ。
それなのに、流石にこれは準備がよすぎる。

「自分の水筒用の瓢箪を使って、竈門との間接接吻を狙うとは、お前もよく考えたなぁ♪」
「えっ!?」
「うっ、宇髄! おっ、俺は、断じて、そのような……やっ、疚しい気持ちなどっ!!」
「そんなに動揺しといて、よく言うぜ」

明らかに動揺している煉獄に対して、宇髄は呆れたようにそう言った。

『…………それは、音柱。貴様にも同じ事が言えるのではないのか?』

すると、今まで炭治郎の影の中に身を潜めていた飛鳥が突如姿を現し、そう宇髄に言った。
いきなり、飛鳥が姿を現した事もあり、宇髄は動揺した。

「なっ、何の事だよ? 俺様は、別に疚しい事は、やってないぞ?」
『なら、その隊服のポケットにしまった奴を今すぐ出せ』
「! ……ちっ! 見られてたのかよ……」

飛鳥の言葉を聞いた宇髄は、若干驚きつつ、渋々言われた通りポケットにしまっていた物を出した。
それは、先程、炭治郎が破裂させた瓢箪の欠片の一部だった。
だが、一番の問題は、その欠片がどの部分だったかである。

『…………炭治郎が口を付けた部分を隠し持って帰ろうなど、疚しいにも程がある』
「宇髄! 君の方が、余程悪質ではないかっ!!」
「やっ、喧しい! 今のお前にだけは、言われたくねぇよ!!」
(まったく……どっちもどっちだろうが……)

そんな風に言い合っている二人を横目に飛鳥は、宇髄から奪ったその瓢箪の欠片を敢えて、皆から見えづらい縁側の隅の方に置いた。
その途端、黒い何かがそれを銜えて何処かに飛んで行ってしまった。

(まったく……どいつもこいつも世話が焼ける……)

それを唯一確認した飛鳥は、決して深追いはしなかった。
その代わりに、煩い柱二人を追い返すべく、再び炭治郎たちの許へと戻るのだった。





* * *





丁度その頃、義勇の屋敷に一羽の鎹鴉が舞い降りていた。
それは、義勇の相棒でもある鎹鴉の寛三郎であった。
その嘴には、何かが銜えられており、それを自分のお気に入りの場所において満足そうにしていた。

「…………寛三郎……戻っていたのか?」

そんな鎹鴉の姿を見つけが義勇は、新たな任務を持ってきたのかと思い、そう声をかけた。
そして、鎹鴉が巣としている場所にまたガラクタがいっぱいになってきている事に義勇はこの時気が付いた。
鴉は、他の鳥よりも光るものや目立つものに対して、必要以上に興味を抱く習性があり、それを巣に持ち帰っては溜め込むのだ。
だから、溜まり過ぎて来た時には、義勇がある程度選別しては捨てていたりしていた。

「…………また……ガラクタ集めをしていたのか?」
「違ウ! コレハ……ワシニモ……義勇ニモイイモノダッ!!」
「? 俺にも……?」

そう言って怒る鎹鴉に対して、義勇は少しだけ不思議そうな表情を浮かべた。
そんな義勇の許に近づくと、鎹鴉は本日の戦利品を義勇に見せた。

「コレダ」
「? これは?」

それは、笛のような、いや、笛にしては、形が歪すぎる何かだった。
これを見せられた義勇には、どう見てもガラクタにしか見えなかった。

「瓢箪ダ! シカモ、口を付ケル……部分ダ!!」
「…………やっぱり……ガラクタじゃ――」
「コレハ、炭治郎ガ……口デ吹フイテ……破裂サセタ奴ダ!!」
「!?」

その鎹鴉の発言に義勇は、瞠目した。

「こっ、これを……炭治郎が……?」

その欠片をよく見てみると、それが全集中の呼吸の常中を取得する際に練習でよく用いられている特殊な瓢箪である事に義勇は漸く気付いた。
それを炭治郎は、吹いて破裂させたという事は、彼は呼吸を使えるという事なのだろうか?

「炭治郎ハ見事ニコノ瓢箪ヲ……破裂サセテイタゾ! 音柱ガコレヲ隠レテ……持ッテイコウト……シテイタノヲ……アノ火ノ鳥ガ無事ニ……妨害シテタ!!」
「…………お前は、よく……持って来られたな」
「彼ハワシニハ……何モ言ワズニ……タダ見テ見ヌフリヲ……シテタゾ!!」
「…………」

その話を聞く限り、飛鳥は態とこれを持って行かせたのだと、義勇は理解した。
義勇は、暫くの間、その瓢箪の欠片から目が離せなかった。

「…………ソレハ義勇ニヤル!」
「! だが、これは、お前が……」
「ソンナニ物欲ソウニ……見ラレタラ……ヤルシカナイ! ダカラ……サッサト……炭治郎ニ……逢ッテコイ!!」
「!?」

その鎹鴉の言葉に義勇は、さらに驚いた。

「……義勇……オ前ハ……本当ニ……コノママデ……イイノカ? ……コノママダト本当ニ……炭治郎ハ――」
「もういいんだ」

その鎹鴉の言葉を遮ると義勇は、そのままその場から逃げるように離れた。
もう、俺はいいんだ。あの時、那田蜘蛛山で炭治郎の事を助けられただけで……。
あとは、炭治郎が選んだ奴と一緒にいられたら、それでいい。
それで、炭治郎が幸せなら、俺はもういいんだ。
そう頭では思っているのに、義勇はその瓢箪の欠片を手放す事は何故か出来なかった。









守るものシリーズの第52話でした!
今回から、禰豆子ちゃんは、本格的に全集中の呼吸の常中を取得しようと訓練を始めます。
それにしても、煉獄さんと宇髄さんを書いているのは、本当に楽しいですね♪
たまにこれが義炭である事を忘れがちなので、今回でそれっぽいのも少しだけ書けてよかったです。(さっさと、炭治郎くんの所に行けばいいのにね!)

【大正コソコソ噂話】
その一
あの日以来、飛鳥との約束を守って、炭治郎くんは飛鳥と禰豆子に毎日おにぎりを作ってあげています。
それがきっかけで、三人娘たちと一緒に蝶屋敷のお手伝いもするようになり、すっかり仲良しになっています。

その二
義勇さんの相棒である鎹鴉は、義勇に黙って炭治郎くんの様子を隠れて見ていました。
隠れているのは、義勇がなかなか炭治郎くんに会いに行かないからです。
※炭治郎くんが大好きなので本当は、正々堂々と会いに行きたいけど、義勇さんに少し遠慮してるからの行動です。


R.3 12/5