『悪い事は言わない。もうこれ以上、炭治郎に関わるな』

そう言ったのは、他でもないあの鳥。美しい炎を身に纏ったあの火の鳥は、そう私に言い放ったのだった。


~どんなにうちのめされても守るものがある~


「イヤだーーっ! 正一君は、強いんだ!! 正一君に俺を守ってもらうんだ!!」
「やめてくださいっ! 正一くんは、嫌がっているでしょっ!!」

とある任務で禰豆子は、初めて他の鬼殺隊と一緒に任務を遂行した。
彼の名前は、我妻善逸。金髪に山吹色の鱗模様の羽織が印象的な少年である。
彼は、自分の強さに気付いていないのか、その任務で助けた兄弟の一人――正一という少年を一緒に連れて行くと言って駄々をこねているのだ。
彼は、聴覚が非常に優れており、禰豆子が嗅覚で鬼を判別できるのに対して、彼はその音から鬼を判別できるというすごい能力を持っているのだ。
そんな善逸に対して、禰豆子は容赦なく蹴りを喰らわせると、何とか彼らを善逸から解放する事に成功し、見送る事が出来た。

「もう! 善逸さん!! いつまでも、メソメソしないでくださいっ!」
「だっ、だって……!」
「……私……そういう人、嫌いですよ?」
「! わっ、わかったよ! 禰豆子ちゃんの為に俺、頑張る!!」
「はい! 頑張ってください! 善逸さん!」
「あああああぁぁっ! 禰豆子ちゃん! かわいいいいぃぃっ!」

そして、彼は、ちょっと女性に対してだらしないのか、甘いのかよくわからないのだが、禰豆子に対しては、いい所を見せようと色々と張り切る癖があるようだった。
これまでに接した事のないタイプに出会った直後は、かなり戸惑ったが、何故だか彼の事を嫌いにはなれなかった。
それは、彼の性根は非常に優しく、お人好しだという事が匂いを通じてわかってしまったからかもしれない。

「……そっか! 伊之助さんも山育ちなんですね!」
「ふん! お前と一緒にすんなよ。俺には、親も兄弟もいねぇぜ!!」

そして、もう一人出会ったのが、この嘴平伊之助という少年である。
彼は何故か上半身は裸で、猪の被り物を被っていた。
だが、先ほど、少し黙らせる為に蹴りを喰らわせた時にその下から現れた容姿に正直驚いた。
その顔立ちは、禰豆子から見ても女と見間違えるほどの、美しい顔立ちであったからだ。
そんな彼に対して善逸は思わず「ムキムキしてるのに、女の子みたいな顔が乗っかっている」と気味悪がったような言葉を言っていたくらいだった。
だが、あの筋肉を見なければ、間違いなく女の子と見間違えてもおかしくないと禰豆子も思った。
彼の凄い事は、それだけではなかった。伊之助は、自分が暮らしてきた山にたまたまやってきた鬼殺隊の隊士と力比べした結果、その人物から刀を奪い、最終選別の事や鬼の存在について知り、あの最終選別に参加したのだ。
つまり、彼は、禰豆子や善逸とは違い、育手も介さずあの最終選別に参加した結果、見事に鬼殺隊に入ったという事なのだ。
故に彼の使う獣の呼吸も我流である。

「俺は、必ず隙を見てお前に勝つ!!」
「はいはい。頑張ってください」

そして、先ほども言った通り、伊之助の事を少し黙らせる為に禰豆子は伊之助に対しても蹴りを食らわせたのだったが、それを受けた伊之助は一発で気絶してしまったのだった。
そのせいだか知らないが、伊之助は、禰豆子の事をさっきから妙にライバル視をしているようだった。
当の本人である禰豆子は、それについて特に気にする事なく、鎹鴉が案内する方向へと足を進めて行く。
その時――――。

(! なっ、なに……? この風? それに……この匂いは……?)

突如、不自然な風が吹いたかと思うと禰豆子は、不思議な匂いを嗅ぎ取った。
その匂いは、一度だけ嗅いだ事のある匂いだった。
そう。あの時、珠世の屋敷で嗅いだ匂いだ。

『……竈門禰豆子』
「!!」

そして、それは突然禰豆子の目の前に舞い降りてきた。
美しい炎を身に纏ったあの火の鳥が……。

「あっ、あなたは、あの時の……」
『悪い事は言わない。もうこれ以上、炭治郎に関わるな』
「!!?」

禰豆子がそう口を開いた直後、その火の鳥の言葉に禰豆子は思わず瞠目した。
この火の鳥の口から、兄――炭治郎の名前が出たから……。
この鳥は、お兄ちゃんの事を知っているのだろうか?

「そっ、それってどういう――」
『……先程の戦いを見させてもらった』

だが、禰豆子のそんな様子など、何も気にする事なく、火の鳥――飛鳥は、話を進めていく。

『アレの頸を斬り落とすのに、時間をかけ過ぎだ。アレは、数字を剥奪された鬼のようだったが、それでも一度は十二鬼月になった鬼だ。そんなアレにあんなにも手こずっていて、お前は本当にこの先やっていけるのか?』
「そっ、それは――」
『悪い事は言わない。鬼狩りなど、さっさとやめて、何処かの町で静かに暮らせ』
「…………」

その飛鳥の言葉に禰豆子は、すぐに返す言葉が見つからなかった。
やっぱり、私には無理なのだろうか……。

「ちょっとーー! さっきから、何だんだよっ! お前はっ!!!!」
「!!」

だが、その静寂をは打ったのは、見た目は頼りない少年だった。

「お前ーー! 禰豆子ちゃんの手とか、ちゃんと見たのかよっ! こんなにも可愛らしい禰豆子ちゃんの手は、すっごくマメだらけだったんだぞっ! それだけ、禰豆子ちゃんは頑張っているっていう証拠でしょうがっ!! 禰豆子ちゃんの頑張りも何も知らない癖にっ!! 変に禰豆子ちゃんが本当にやりたい事に口出しなんかするなよっ!!!!」
「そうだぞっ! こいつは、女なのに、蹴りもめちゃくちゃすげぇんだぞっ!!」
「!!」

善逸の言葉にそう続けて伊之助も言った。
それを聞いた禰豆子は、正直驚いたが、それと同時に胸が熱くなるのを感じた。
二人の言葉が、本当に嬉しかった。
だが、そんな二人に対して、飛鳥は冷たい視線を送る。

『……悪いが、部外者は、口を挟まないでくれるか? お前たちには、何も関係のない話だ』
「関係なくないっ! それに、俺は――」
『それ以上、口を挟むと言うのなら、二人共……燃やすぞ』
「ヒイイィィッ!!」
「!!」
「…………ありがとう、二人共」

必死に禰豆子の代わりに抗議する善逸たちに対して、そう飛鳥が言い放つと流石に黙った。
それを見た禰豆子は、二人にお礼を言って、再び飛鳥へと視線を向けた。

「……確かに、今の私は、まだ全然弱いかもしれません。それでも、私はやっぱり、諦めたくありません。目の前に助けるかもしれない命も……お兄ちゃんに会う事も……」
『…………その結果、炭治郎の身に危険が迫っても、か?』

その禰豆子の言葉に飛鳥はそう静かに言い放つ。
そして、禰豆子を見つめる目も若干険しいものへと変わったような気がした。

『……アレは、お前を餌にして、炭治郎の事を誘き出そうと考えている。炭治郎もそれがわかっているから、お前に逢いたくても自分からは決して動こうとはしない』
(やっぱり……そうだったんだ……)

薄々その事は、気づいていた。無惨が自分に対して、刺客を送り込んできた事と珠世さんの話を聞いてから……。
そして、何故、お兄ちゃんとなかなか出逢う事が出来ないのかも……。
お兄ちゃんは、私なんかよりも鼻が利くのだ。
だから、私がお兄ちゃんの匂いを感じるよりも早く、お兄ちゃんは私の匂いに気付いて接触を避けているのだ。
でも、一つだけ知らなかった。お兄ちゃんも私に逢いたいと思っていてくれていた事を……。
その気持ちをずっと押し殺している事を……。

「だったら、今まで以上に努力して、強くなるだけです! お兄ちゃんが私に安心して逢いに来られるくらいにっ!!」
『……その結果、炭治郎の身にもお前自身の身にも危険が及んでも、か?』
「そうならないように努力するの! 私は……お兄ちゃんの事を独りぼっちになんかにしたくないから! それに……」

飛鳥に鋭い視線を送られても、禰豆子にはもう迷いはなかった。

「それに! もう、ただ守られているだけだなんて、イヤだからっ!!」
――――飛鳥……。俺もこれからは、ちゃんと戦うよ。もう……ただ守られているだけなんて……俺は、嫌だからさぁ。
『!!?』

その禰豆子の言葉を聞いた飛鳥は心底驚き、瞠目した。
その言葉が以前、炭治郎が飛鳥に対して言ったものとほぼ同じだったから……。

(あぁ……。やはり、この兄妹は……よく似ている……)

なら、これ以上の忠告は、もう意味はないだろう。

『…………わかった。それが、お前の覚悟だというのなら、私はもうこれ以上忠告はしない。精々、頑張るんだな』
「あっ、はっ、はい! えーっと……?」
『飛鳥だ』

飛鳥は、それだけを禰豆子に言い残すと、翼を広げてふわりと宙を舞った。
そして、そのまま何処かへと飛び去っていく。

(あっ、飛鳥……?)

それが、あの日の鳥の名前なんだろうと禰豆子は思った。
その名は、初めて聞いたはずなのに、何処か聞き覚えのあるような気がしてならなかった。
一体、何処で聞いたのだろうか……?

――――お兄ちゃん。何処に行くの? 山菜なら、私がいっぱい採ってきたよ?
――――えっ? えーっと……。ちょっと、"アスカ"のところに……。
――――? アスカ?
――――! なっ、何でもないよ! すぐに戻るからっ!!
――――おっ、お兄ちゃん!?

あの時だ。あの時、お兄ちゃんから聞いたんだ。
あの時から、お兄ちゃんは、あの火の鳥と交流があったんだ。
そして、あの鳥は、今もお兄ちゃんの傍にいる。
私が、行く事のできないお兄ちゃんの隣に……。
その事に禰豆子は、少しだけ悔しく思うのだった。









守るものシリーズの第27話でした!
わーい!無限列車編の興行収入が311億円超えましたね!わっしょいっ!わっしょいです!!(∩´∀`)∩
そして、今回より善逸くんと伊之助が登場となります。
ちょっと、話が長くなりそうだったので、鼓屋敷の戦いや二人との出逢いにについては、今回端折りましたwww
代わりに(というかほぼメインかも)那田蜘蛛山編については、ちゃんと書きたいと思いますっ!!

【大正コソコソ噂話】
その一
善逸くんは、最終選別開始直後から禰豆子ちゃんの存在に気付いています。
※そして、禰豆子ちゃんに話しかける事をモチベーションに最終選別を乗り切ってました。
全てが終わった後、禰豆子ちゃんに話しかけようと思っていたのですが、例の彼が回し蹴りを受けているのを見て断念しましたwww
※そして、この時に禰豆子ちゃんが額に怪我している事も気付いています。

≪最終選別開始直後の善逸くん≫
(えっ! 何あの子!? めっちゃ可愛い!! 後で絶対話しかけようっ!!)

≪最終選別終了後の善逸くん≫
(えーーっ! 何、あの回し蹴り!? めっちゃ怖いけど、可愛いっ!!!! けど、怪我もしてるみたいだし……また今度にしよう;)

その二
原作同様、最終選別後は疲れていてその直後の事はあまりよく憶えていない禰豆子ちゃん。そのせいもあり、この任務で善逸くんと再会しても全然覚えていませんでした。
※また、再会時も原作同様、女性の人に泣きついていた善逸くんなのでしたwww

その三
女の事に関しては、ちゃんと見ている善逸くん。
なので、禰豆子ちゃんの手がマメだらけな事もいち早く気付いています。


R.3 1/13