「アッシュ! 一体どこにいっ――」

ナタリアは、途中で言葉を失った。
その場にいた誰もがアッシュの腕の中にいる人物に目を向ける。
アッシュそっくりの彼に……。

「ルーク!」

~silent lapse~

「ところで、お前らなんでここにいるんだ?」

ルークを部屋で寝かせてきたアッシュが不思議そうに言った。

「あなたが朝突然お屋敷から出て行ってしまったので、わたくしがみんなをに呼んだのですわ!!」

ナタリアが腕を組んで言った。

「あのとき、声をかけたのにアッシュたら返事もせずに行ってしまって……」

そう言えば、途中で誰かに声をかけられた気がした。
でも、あのときはルークの所に行くことで頭がいっぱいだった。

「……すまない、ナタリア」

アッシュは素直に謝った。

「で、どういうことなんだ?」

ガイが話をきりだした。

「どうやって、お前はルークを連れて帰ってきたんだ?」

それは、ここにいる誰もが聞きたかったこと。
もう二度と会えないと思っていたルークを目にしたのだから仕方ない。
アッシュは溜息をつくと、ゆっくりとさっきの出来事を話し出した。





* * *





「なるほど、ローレライがルークを助けたと言うことですね」

アッシュの話を聞いて、ジェイドは納得したように言った。
ローレライが唯一彼の論理を変えられる存在だろう。

「じゃぁ、もうルークは大丈夫なんだぁ」

アニスが嬉しそうに言った。
他のみんなも安堵の表情に変わった。

「……だが、ひとつだけ問題がある」

アッシュは重い口を開いた。

「問題?」

ティアが不思議そうに言った。

「ルークの魂と新しい身体がまだうまく調和していないらしく、いつ目を覚ますかわからないらしい」
「! ……そんな…………」

場の空気が一気に暗くなった。
ルークが帰ってきたのに……。

「で、あなたはどうするんですか?」

そんな雰囲気を取り払うかのように、ジェイドがアッシュに言った。

「あなたは、ルークが目覚めるまで待つんですか?」

血のように赤い瞳がじっとアッシュを見つめている。

「俺は、ルークが目を覚ますまで、待つ。誰に言われたからそうするんじゃねぇ。 俺自身がそうしたいからするだけだ」

アッシュは、その瞳に屈することなく言う。
それに、あいつが目覚めたら、伝えたい。
”お前が好きだ”と……。

「そうですか。では、大丈夫ですね」

アッシュのその言葉を聞いたジェイドは、納得したかのように部屋を出ようとした。

「おい、旦那。もういいのかよ!」

そんなジェイドをガイはあわてて呼び止めた。

「アッシュがルークを待つと言うなら、別に私は異論はありません。そう言うガイは、何か意見でもあるんですか?」
「うっ……それは…」

ジェイドの問いにガイは言葉をつまらせた。

「……ですが、一つだけ約束してください。ルークが目を覚ましたとき、あなたが傍にいてください。そうしないと、あのルークですからやっかいなことになりますよ」

ガイからアッシュに目線を変えたジェイドは静かに言った。
アッシュはそれに頷いて答えた。

「では、失礼します」

それを確認した彼はさっさと帰っていった。
彼が言うまでもなく、アッシュはそうするつもりだった。
でも、一体なんだろう?
彼が言っていたやっかいなこととは……。





* * *





「どう、ルークは目を覚ました?」

久しぶりにバチカルに訪れたティアがナタリアに言った。

「それがまだですの。もう、あれから二ヶ月も経ちますのに……」

あれから二ヶ月の月日が経っていたが、未だルークが目覚める気配はなかった。

「……アッシュは、どうなの?」
「毎日、公務で忙しそうですけど、お屋敷にいるときはいつも ルークの傍にいるようですわ」
「そう……」
「……ルークは本当に目を覚ますのでしょうか」

ナタリアが俯いた。
こんなに月日が経っているのに、目覚めないルークを見るともう二度と目を開けないような気がして怖い。

「わたくし、アッシュが羨ましいですわ」

ずっと、ルークが目覚めることを信じて待ち続ける彼。
それを見るだけで、アッシュにとってどれだけルークが大切なのかわかる。
アッシュがルークを想う気持ちは誰にも負けないことを……。

「わたくしもアッシュのような気持ちを持ちたいですわ」
「……ナタリア」





* * *





「おはよう、ルーク」

アッシュはルークの話しかける。
決して返事は返ってこない。

「今日の公務はケテルブルクなんだ。 少し帰りが遅くなるかもしれないが、出来るだけ早く帰るな」

そう言いながら、アッシュはルークの頭を撫でる。
その感触はとても心地よかった。

「いってくる」

アッシュは部屋を出た。
部屋にいるのは、眠っているルークだけ。
すると、ルークの指が微かに動き、瞼をゆっくりと開けた。

「…………ここは?」

ルークはゆっくりと辺りを見渡す。
今いるのは間違いなく自分の部屋だった。

「……なんで?」

なんで俺は……。





* * *





「今戻ったぞ、ルーク」

公務から戻ったアッシュが部屋に入る。

「? おかしいな。朝、窓は閉めたはずなのに……」

窓を見ると、朝きちんと閉めたはずだったが、開いていた。
そこから心地よい風が入り、アッシュの髪を揺らす。
アッシュはベッドへと視線を移す。

「!!」

アッシュは驚いた。
ベッドで寝ているはずのルークの姿が何処にもなかった。








ついに、ルークが目を覚ましました!!
目を覚ましたのに、ルークがいなくなってしまいました。
次で、最終話になります。


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