ふとアッシュは彼の言葉を思い出す。

『ルークが目を覚ますとき、あなたが傍にいてください。そうしないと、やっかいなことになりますよ』

~silent lapse~

「ナタリア!」

屋敷を出ると外でティアと話しているナタリアを見つける。

「どうしましたの?アッシュ?」

アッシュの徒ならぬ様子を見てナタリアは不安そうに言った。

「ルークを見たかったか? あいつが部屋からいなくなったんだ!」
「「!!」」

その言葉に二人は驚いた。
その表情からアッシュは二人がルークを見ていないことがわかった。
一体、ルークは何処に行ったんだ?
ルークは何をしようとしてるんだ?

「ルークなら、きっとラジエイトゲートに向かったと思いますよ」

声がするほうへ振り向くとそこに彼がいた。

「それは、どういうことですか? 大佐」

ティアはジェイドに問いかけた。

「今、あそこが一番第七音素(セブンスフォニム)が放出されているからですよ」
「!!」

彼の今の言葉でアッシュは理解した。
ルークは何をしようとしているのが……。

「だから、ルークが目を覚ますときに傍にいてくださいと言ったんです」

彼は呆れたようにアッシュに言った。
彼は初めからこうなることを予想してアッシュに言ったのだろう。
彼は自分よりルークのことを解っている。
それが、アッシュには悔しく思えた。

「私が乗ってきたアルビオールが、バチカルの前に待機しています。早く、ルークの所へ行ってください。出ないと、もう二度とルークに会えなくなりますよ」

その言葉に、アッシュは頷くとバチカルの外に向かって走り出した。

「一体、何がどうなっているんですか?」

まだ、彼らのやり取りを見ても理解していないナタリアとティアが不思議そうな顔をしていた。

第七音素(セブンスフォニム)が放出されているなら、ある人物に会える可能性がありますよね?」
「まさか、それってローレライのことですか!!」
「正解です♪」

ジェイドのその言葉でやっと、二人も理解した。

「そういえばどうして、大佐は今日ルークが目を覚ますと分かったんですか?」

ティアは不思議そうに、ジェイドに聞いた。
ジェイドの行動は偶然にしては、出来過ぎている気がする。
まるで、初めから今日ルークが目を覚ますことを知っていたかのようだった。

「それは……勘ですかねぇ♪」

なんとなく、今日ルークが目を覚ます予感がした。
だから、今日予定していたものは全て早めに片付けてバチカルに来た。
少しでも、最悪の事態を避けるために……。

「と言っても後は、アッシュに任せるしかありませんけどね」

ジェイドは静かに言った。
本当は、自分がルークを止めに行きたい。
でも、自分では今のルークを止めることは出来ないと解かっていた。
自分だけではない、きっと他の仲間でもルークを止められない。
今のルークを止めることが出来るのは、唯一アッシュだけだ。

「……そう解かっていても、悔しいですね」

ジェイドは二人には聞こえないような声で呟いた。





* * *





ラジエイトゲートに到着すると、アッシュはパッセージリングに向かって走り出した。
途中で何度か魔物に襲われたが、アッシュはそれを全てかわして走った。
今、魔物と戦っている時間などない。
一刻も早くルークのところに行かなければいけない。
やっとの思いでパッセージリングのところに着いた。
そこにいたのは、夕焼けのように赤い長髪の髪の彼。

「ルーク!!」

その声に彼の肩がビクッと動いた。
そして、恐る恐るアッシュの方に振り向いた。
綺麗な翡翠の瞳がアッシュに向けられる。

「……アッシュ」

久しぶりに聞くルークの声。
それはとても懐かしく感じ、とても心地いい声だった。
アッシュはルークに近づいた。

「このバカが!俺がどれだけ心配したと思ってる!!」
「…………本当に……アッシュ?」
「ああ」

アッシュは優しくルークに言った。
すると、ルークの瞳から涙が零れ落ちた。

「……よかった……俺っ…………」

ルークは泣きながら話す。
アッシュはそれを静かに聞いていた。

「……目が覚めたら、自分の部屋にいて……俺……また、アッシュの居場所を奪ってと思った。だから、ローレライに会って俺の代わりにアッシュを生き返らしてって頼もうと思って…………」
(やっぱりだ)

アッシュの予想は見事の的中していた。
ルークは、少し思い込みが激しいところがある。
もし、誰かに俺の事を聞いていたらそんなことはしなかっただろう。
それにしても、後一歩でも遅かったらあのローレライだ。
この機会に、ルークを音符帯に連れて行ってしまっていただろう。

「本当にアッシュだよな? 幻じゃないよな?」
(こいつは……)

さっき、肯定してやったのにまだ疑ってやがる。
どうしたら、こいつは信じるんだ。
すると、アッシュはルークの腕を掴むと、そのままルークを抱きしめた。

「! ア、アッシュ!?」

突然のアッシュの行動に、ルークは驚きを隠せない。

「……これでも、信じられないか?」

顔は見えないが、アッシュは少し照れた様子で言った。
ルークの涙も自然と止まっていた。

「……アッシュ、暖かい」
「当たり前だ。生きてるんだからな」
「うん……」

わかる。
あの純白の世界でアッシュを抱いていたときは、アッシュの身体は氷のように冷たかった。
だが、今のアッシュはとても暖かい。
それは、アッシュが生きている証だとルークにも解かった。

「……アッシュ」
「ん? なんだ?」

アッシュはルークの顔を見る。
自分より少し幼い顔つきの彼を。

「俺ずっとアッシュに伝えたいことがあったんだ」

少しルークの顔が赤くなった。
ずっと伝えたいと思っていたのに、いざ伝えようと思うと恥ずかしくなってきた。
でも、もう後悔はしたくなかった。

「俺、アッシュのこと好きだよ」

ルークは笑顔で言った。

「俺もだ」
「えっ?」

アッシュの言葉を聞いてルークは間の抜けた顔をした。

「何だ、その間抜けな顔は」
「だって、アッシュは俺のこと嫌いだと思ってたから……」

まさか、アッシュも自分のことを好きだ、と思ってもみなかった。

「それに気付いたのは、つい最近だったけどな。……それに、嫌いな奴の為にここまで来たりはしない」

アッシュは優しく言った。
その言葉だけで、ルークは嬉しかった。

「なんか俺、それを聞けただけで嬉しい。死んじゃってもいいくらい♪」
「お前なぁ。折角、目を覚ましたばかりなのに何言ってやがるんだ;」
「あっ、そうだったな」

これから、やっと二人で生きていけるんだ。

「じゃぁ、もう少ししてからでいいかなぁ?」
「お、おい;」
「じょ、冗談だよ」

困ったような顔をしたアッシュに対してルークは笑った。

「アッシュ、大好き……」

二人はいつまでもそこで抱き合っていた。
ただ、静かな時間だけが流れていた。






Fin...


silent lapseシリーズこれにて完結です!!
なんかアッシュとルークのやり取りを書いていたら、私が恥ずかしくなってしまいました。
また、新たな連載物を考え中です。今度はもっと、ルークの出現率を上げたいです!
今回の話はアッシュばっかりだったから。
ここまで、付き合ってくださって、ありがとうございました。
次回作も頑張って書きます!!


H.18 7/19