アッシュは彼の日記を読み始めた。
どうしても、読まないといけない気がしたからだ。
~silent lapse~
あいつの日記は七冊以上もあった。
ここに来たときから、ずっと書き続けていたのだろう。
最初の頃は、とても読めそうにない文字がいくつも並んでいたが、それも徐々に無くなっていった。
アッシュは最後の日記を手に取った。
そこに書かれていた日付。
「ND2018 レムデーカン・レム 23の日」
あいつがこの屋敷から初めて出た日。
星の運命が動き出した日だ。
アッシュは、今まで以上に真剣に読み出した。
何故、俺はこんなにも真剣にあいつの日記を読んでいるのだろう?
そう思いつつ、ページをめくる手と、文字を追う目は決して止まることはなかった。
アッシュはページをめくるが、次のページは真っ白だった。
ここで、あいつの日記が終わった。
もう二度と書かれることのない日記。
(……知らなかった)
俺は、あいつのことを何も知らなかった。
あいつが超振動を使ったら、音素乖離をする虞があったこと。
それを誰にも言わなかったこと(あいつが言わなくても、ティアとジェイドにはバレたらしい)。
なのに、俺はあいつにひどいことばかり言ってた。
そんな俺にあいつは、いつも笑ってた。
自分が言ったことに、どれだけ傷付いていたのか知らなかった。
今更、あいつの気持ちを知っても遅かった。
ポタ
アッシュの翡翠の瞳から涙が流れ落ちた。
(なんでだ……)
何で、俺は泣いてるんだ?
アッシュは、涙を止めようとするが、決して止まらなかった。
(…………やっと、わかった)
自分があいつに抱いていた想いに……。
あいつが好きだということに。今更気付いても遅いのに……。
この気持ちを伝えることは出来ないのだから……。
何故、もっとはやく気付かなかったのだろう。
そしたら、この気持ちを伝えることが出来たかもしれない……。
「ルークっ……」
もう、涙は止まらない。
ルークへの想いが涙となって溢れ出す。
会いたい。
もう、二度と会えないとわかっていても……。
もう、この気持ちを止めることは出来ない。
暫く、泣き続けるアッシュは、いつしか深い眠りへと落ちていった。
* * *
「アッシュ、眠ってしまいましたわ」
応接間に戻ってきたナタリアが叔母であるシュザンヌに話しかけた。
「お城に戻る前に少しお話がしたかったですわ」
「まぁ、今日はアッシュも疲れたのでしょうね」
叔母は優しく微笑んだ。
「……叔母様、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「? 何かしら?」
「叔母様は、これからアッシュをルークとして扱うのですか?」
ナタリアは、真剣な顔つきで言った。
「それはしないわ。」
叔母は即答した。
「確かにアッシュはルークだったかもしれない。でも、あの子が私のとってルークなの。アッシュが、そうして欲しいって言うなら別ですけどね」
決して笑顔を絶やさず叔母は言った。
「それを聞いて安心しました」
本当は、聞く前からわかってた。
叔母は、ルークとアッシュを一人の人としてみていることを。
事実、今日何も言わずにアッシュを屋敷につれてきたのに叔母はアッシュだとすぐにわかっていた。
「では、今日はこれで失礼いたしますわ。また、明日暇がありましたら、伺いますわ」
「お休みなさい。ナタリア、また明日ね」
叔母の返事を聞きくと、ナタリアは一礼すると応接間を出た。
ふと、ナタリアはアッシュのことを思い出す。
部屋に入ったときにはもうアッシュは眠っていた。
でも、アッシュの顔には、泣いた跡が残っていた。
自分が覚えている幼い頃のアッシュは、一度も泣いたことなんてなかったのに……。
一体、彼は何を思って泣いていたのだろうか……。
* * *
その日の夜、アッシュは不思議な夢を見た。
自分がいる場所は何処までも続く純白の世界。
そして、自分はそこで何かをずっと探し続けている。
何を探しているのかもわからずに…。
すると、遠くのほうで光が見えた。
その色は夕焼けのような赤い光だった。
アッシュはその光に必死で手を伸ばす。
自分が探していたのは、この光だ。
その光を掴んだ瞬間、アッシュは目が覚めた。
やって、しまいました。
アッシュを泣かしちゃいましたよ(^-^;)
それにやっと、ルークが好きだということに気付いたし。遅すぎだよ。
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