彼女は涙を拭き取ると、俺に言った。
「……おかえりなさい。アッシュ」
その言葉がとても哀しく聞こえた。
~silent lapse~
ナタリアたちと再会したアッシュは、バチカルへ帰ってきた。
本当は、帰るつもりはなかったが、ナタリアがどうしてもと言ったのと、他にいくあてもなかった為そうした。
ナタリアたちの話を聞いて、アッシュは驚いた。
それは、あれから二年もの月日が経っていたことだ。
自分は、ついさっきまで意識がなかったからか、あまり実感がわかない。
だが、二年もの月日は確かに経っていた。
自分が覚えているバチカルの風景と今のバチカルの風景が少し変わっていた。
そんなことを考えていると、あっという間にファブレ公爵邸に着いた。
自分が十歳まで暮らしていた家……。
ここに来たのは、あいつに会いに行ったとき以来だ。
ここは、いつ見ても変わらなかった。
扉を開けると入り口には、ずらりとメイドたちの姿。
そして、父上と母上の姿があった。
アッシュは驚いた。
この前、ここに来たときにあいつに無理矢理二人に会わされたときより二人はやつれていた。
「……アッシュ!!」
シュザンヌは、何の躊躇いもなく、アッシュに駆け寄り抱きついた。
「/// ……は、母上!?」
シュザンヌのいきなりの行動にアッシュは慌てた。
「よかった。私は、生きて帰ってくることをずっと信じていましたよ」
ふと、アッシュは、いつの間にか自分の近くにやってきた父親の顔を見る。
彼は、何も言わないが自分が知っているどの顔よりも優しい顔をしていた。
だが、何故だろう……。
アッシュは、二人とも嬉しそうな顔をしているのに、何処か哀しい顔をしているように見えて仕方なかった。
* * *
その後、彼らと食事を取った後、マルクトの軍人服の彼が大爆発について話した。
完全同位体の被験者は、同じ存在であるレプリカの情報を回収するため、音素乖離してレプリカを吸収し、被験者と再構成する。
その結果、レプリカに残して消滅し、被験者は二つの過去の記憶を持つことになる。
ナタリアらは、彼の話を黙って聞いていた。
そして、皆哀しそうな顔をしていた。彼の理論が事実なら、それはあいつはもう帰ってくることはないからだ。
そんな中、彼はこの理論を何でもないかのように淡々と話し続けた。
アッシュはそんな彼に対して何故か腹が立った。
* * *
アッシュは独りになりたいと重い中庭に出た。
ナタリアたちの傍にどうも居づらかった。
彼らは、自分を快く受け入れてくれたのに……。
だが、自分が今いる居場所は、決して自分のものではない。
あそこに、本当にいるべきなのは……。
そんなことを考えながら中庭を眺めていると、彼が近くにやってきた。
「おや? せっかく、自分の家の帰ってきたのに、ご両親とお話しないのですか?」
さっきと同じ、まるで感情が入っていない口調で、彼は言った。
「……お前は、何とも思わないのか?」
「はい?」
「あいつが、もう二度と帰ってこないことがわかっていて、お前は何も思わないのかと聞いている!!」
彼の平然とした態度に、アッシュは思わず怒鳴った。
何故、怒鳴ったのかアッシュ自身よくわからなかった。
ただ、彼の態度にさっきから腹が立っていたのは確かだった。
「……思ったところで、事態は変わらない。私たちは、事実を受け入れるしかできないんですよ。例え、それがどんなに哀しい結末であっても」
「…………」
彼の言うことは、確かに正しかった。
もう、自分たちは事実を受け入れるしかなかった。
「では、私はそろそろ帰らせてもらいます」
陛下にご報告しないといけませんしねと言い足し、彼は屋敷の入り口に一番近い扉のほうへ歩いていく。
「……ですが、こうなることがわかっていても、私はこの理論だけは、外れることを願ってましたよ」
「!!」
アッシュは、彼の方を向いた。
表情はさっきと同じはずなのに、何処か哀しげな表情に見えた。
「そうすれば、ルークを永遠に失うことはありませんでしたしね」
「お前……」
「もっとも、あなただけが戻ってきたことで、私の理論は実証されてしまいましたけどね」
彼は、哀しげな笑みを浮かべて言った。
そして、扉を開けて出て行った。
今まで、彼のあんな顔をアッシュは知らない。
彼も悲しんでいたのに、アッシュはさっき彼に言ったことを後悔した。
すると、タタル渓谷から聞こえてきたのと同じ歌が聞こえてきた。
あのときに聞いてものより、哀しい歌声に感じた。
ふと、アッシュは自然と彼女のところへ向かった。
まるで、彼女の歌に惹き付けられるみたいに……。
今回は、なんだか異様に長くなってしまいました。
ここで、ティアとも話すか迷いましたけど、長くなりすぎるのでやめました。
てか、アッシュはいつルークの部屋に入るのでしょうか?(^-^;)
次の話で、ティアと話してそれからルークの部屋に入る予定です。
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