「アッシュ! 何処に行くのですか!!」
ナタリアは必死でアッシュを呼び止めるが、アッシュは走り続けた。
止まることなんて出来なかった。
あいつ、ルークの身に何か起きたのだから……。
~愛しき人形~
アッシュは、最後尾で歩いていた。
(…………遅い)
アッシュは何度も後ろを振り返っていた。
だが、いくら後ろを見ても、ルークは来ない。
すぐに戻ると言ってやがったのに。
アッシュは我慢が出来なくなり、フォンスロットを開いた。
(おい! ルーク!! 一体いつになったら戻って来やがるんだ!!)
ナタリアたちに気付かれないように、口には出さずにルークに怒鳴った。
『アッシュ』
すると、聞こえてきたのはいつもと変わらないルークの声だった。
その声を聞いて、アッシュは少しホッとした。
『がぁっ…………!』
ルークのこの声が聞こえるまでは……。
(ルーク?)
おかしい。
明らかに、今のルークの声は苦しそうだった。
「おい! ルーク!! 返事しろ!!!」
アッシュは思わず叫んだ。
その声を聞いて、ナタリアたちは足を止めアッシュを見た。
「おい! ルーク!!」
アッシュがいくら呼んでも、ルーク何も答えない。
「おい! ……くそっ!!」
アッシュは堪らず来た道を走って戻っていった。
「アッシュ! 何処に行くのですか!!」
ナタリアの声が聞こえたがそれを無視して走った。
止まることなど出来ない。
今、ルークの目を通して見えるものは暗闇だけだった。
早く行かなくては……。
一体、ルークの身に何が起きたんだ。
* * *
「アッシュを追いかけますか」
ジェイドの提案に皆頷いた。
突然、怒鳴ったかと思ったら行き成り、来た道を走っていったアッシュ。
そのときの顔を思い出すと、とても必死だったのがわかる。
そして、それはルークの身に何かが起きたことをここにいる全員がわかった。
「ああ、急いで追いかけよう」
「……ルーク」
ティアはルークが無事であることを祈るかのように呟いた。
そして、ティアたちはアッシュの後を追いかけた。
* * *
黒髪の彼は視線を下に向けた。
そこにあるのは、夕焼けのような赤い髪のアレが倒れている。
さっき刺した傷口から血が大量に流れ出し、アレの周りは赤一色と言っていいものになっていた。
アレの顔色も見る見るうちに、蒼白くなっていた。
彼は、ふとルークの髪を触った。
それは、とても触り心地がよく冷たかった。
「エビィル、よくやった」
自分の名前を呼ばれた彼は、男を見る。
自分を作った男を。
男はルークに近づき、薄い笑みを浮かべた。
「……これで、私の研究の完成する」
男はルークに触ろうとした。
その瞬間。
「がぁ!!」
男はエビィルにルークと同じように刺された。
「…………エ……ビィル。……何を……する」
「お前はもう必要ない」
「!!」
男は彼に発した言葉に驚いた。
エビィルは剣を引き抜くと、男の息の根を止めるため再び刺した。
それによって、男は事切れ倒れた。
もうこの部屋にいるのは、ルークと彼だけとなった。
こいつに、アレを触られたくなかった。
あの汚い手で、アレを汚して欲しくない。
エビィルはルークを抱きしめた。
まだ、アレの身体は暖かかった。
それは、アレが生きていることがわかる証だ。
すると、ルークの身体はエビィルの身体に取り込まれ、徐々に消えてゆく。
もうすぐだ。
もうすぐ、私の願いが叶う……。
「ルーク!!」
静かな部屋に一つの叫び声が響いた。
エビィルは視線を声が聞こえた方へ向ける。
そこにあったのは、燃えるような紅の長髪のアレの被験者。
綺麗な翡翠のその瞳は怒りに満ち溢れていた。
人形シリーズ第7話でした!!
アッシュがルークのところに辿り着きました。
アッシュはご立腹です。これからどうなることやら。
なぞの男は殺しちゃいました。そうした方が面白い(?)と思って。
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