ルークは覚悟を決め、ゆっくりと扉を押して開けた。
そこには、アッシュのいた部屋より広大な部屋に一人の男が立っていた。
~愛しき人形~
「お待ちしていましたよ。ルーク・フォン・ファブレ。それとも、『レプリカルーク』と言うべきですか?」
男は薄い笑いを浮かべた。
その笑いは、とても不快にルークは感じた。
「あんた誰だよ」
「別に名乗る程の者ではありませんよ」
ルークは男を睨み付けて言ったが、それでも男はまだ笑っている。
あのとき感じたものは、この男からは一切感じなかった。
ルークは、視線を男から離した。
すると、男のすぐ後ろに扉があることに気付いた。
あそこの奥から、あのとき感じたものが感じる。
「どうして、俺を狙うんだ」
「私の研究に協力して欲しいのですよ。『レプリカ研究』を」
「!!」
まだ、続けているのか。
この研究のせいであれだけ多くの人々を傷つけたのに……。
ジェイドは、この研究を正しく使えるように、日々努力している。
だが、この男は決してそうではない。
明らかに、人を傷つける為だけにそれを利用している気がする。
「……断ると、言ったら?」
「力づくでも協力してもらうだけだ。エビィル」
男がそう言うと、あの扉が静かに開いた。
そこから現れたのは一人の子供だった。
短髪の髪は黒い。
アニスの髪も黒いがそれとは違う。
決して光を通さない、まさに漆黒だった。
瞳は、全てを見透かすような藍色の瞳。
だが、その瞳は心がないかのように、静かにまっすぐにルークを見つめている。
両手足首には、錘を付けている。
右手には子供の背より大きい剣が握られていた。
その子供を見ただけで、ルークにはわかった。
彼は…………。
「彼は私が作ったレプリカです」
やっぱりだ。
彼も、自分と同じ存在。レプリカだ。
ふと、ルークはさっきのアッシュの言葉を思い出す。
『十歳くらいの子供がこの譜陣を発動させていた』
アッシュの言った子供はたぶん彼だろう。
近くにいなくても、わかる。
彼の力がどれほど強力なものか。
「彼を止めることが出来るかな」
男が合図を出すと子供はルークに向かって斬りかかった。
(速い!!)
ルークはそのスピードに驚きながら、腰にある剣を抜き取り、それを受け止めた。
その衝撃は、とても子供の力とは思えないものだった。
受け止めただけで、手に痺れを感じた。
剣越しから、ルークは彼の顔を見た。
瞳はしっかりとルークを見つめ、不敵な笑みを浮かべていた。
その笑みに、ルークは少し恐怖を感じる。
彼は剣を押し、再び斬りかかる。
ルークはそれをなんとかかわした。
その後、彼は幾度となく攻撃を仕掛けてくる。
それは、とても機械的だったが、隙のない攻撃だった為ルークは受け止めるしか出来なかった。
「ほらほら、防御だけでは勝てませんよ」
遠くの方で嘲笑っているような男の声が聞こえる。
そんなことはわかっている。
だから、今は彼の隙が出来るのをひたすら待っているのだ。
すると、少し彼の動きが遅くなったように感じた。
(今だ!!)
ルークはその隙をつき、左足を斬りつける。
「!!」
彼はその痛みで膝をつく。
ルークは一気に勝負を決めようと剣を振り上げた。
その時。
ズキン
激しい痛みが頭を襲ってきた。
『おい! ルーク!! 一体いつになったら戻って来やがるんだ!!』
「アッシュ」
頭の中で響きアッシュの怒鳴り声を聞いたルークは、振り上げた剣を下ろしてしまった。
それが仇となった。
「がぁっ…………!」
『ルーク?』
ルークの腹に熱が走ったと思ったら、それはすぐに激痛へと変化した。
下へ視線をやると腹には剣が刺さっており、彼は不敵な笑みをこちらに向けていた。
(油断した…………)
そう思っていると、彼は勢いよく剣を引き抜いた。
その衝撃でルークは口から血を吐いた。
そして、ルークはそのまま倒れ込んだ。
傷口から、血が大量に流れ出てくるのがわかる。
「つかまえた」
ルークを見て彼は、微笑んだままルークにしか聞こえない声でそう言った。
『おい! ルーク!! 返事しろ!!!』
頭で響いて聞こえるはずのアッシュの声が遠くから聞こえるように感じる。
アッシュが必死で叫んでいる。
何か言わなければ………。
だが、ルークはアッシュに返事をすることなく、そのまま意識を手放した。
人形シリーズ第6話でした!!
ぎゃああああ!!ルークが!!!(おい;)一体ルークの運命は!?
アッシュがルークの所へ駆けつけますよ(ルークがこうなった原因はあんたじゃん!!)
H.18 8/28