ああ、アレはあの部屋へ入ったか。
思っていた以上に被験者とあれは強く繋がっている。
だが、心配することはない。
アレは必ずここへやって来るのだから……。
~愛しき人形~
ガイはゆっくりと扉を開けた。
そこはとても薄暗い部屋だった。
部屋には特に物は置かれていなかった。
ただ、部屋の中央にベッドが一つ置かれていた。
そこに横たわっていたのは、ルークより濃い赤の長髪の彼。
「アッシュ!」
ルークは思わず彼の名を叫ぶ。
(…………よかった)
アッシュは本当にここにいた。
ルークはアッシュに駆け寄ろうとしたが、それをジェイとがルークの腕を掴み、阻止した。
「何すんだよ、ジェイド!」
それに対してルークはひどく不機嫌そうに言った。
そんなルークを見てジェイドは呆れたように溜息をついた。
「まったく……あなたは。あのベッドの下に譜陣があるのに気付かないですか?」
「えっ?」
ジェイドの言葉でルークはベッドの下を見る。
そこには、確かに譜陣らしきものが描かれていた。
「たぶん、あの譜陣のせいでアッシュは眠っているのだと、思います。ティア」
「はい」
ジェイドに呼ばれたティアがジェイドのほうへ歩み寄る。
「あの譜陣を譜歌で消せますか?」
「……やってみます」
少し考え込んだティアはそう答えた。
そして、ティアは譜歌を歌い始める。
美しい旋律が流れ出すと、ベッドの下にあった譜陣は見る見るうちに消えていく。
譜陣が完全に消えると同時に、アッシュの瞼が微かに動いた。
そして、ゆっくりと瞼が開いた。
「……っ! ……ここは?」
「アッシュ!」
ルークはアッシュに抱きついた。
「! ルーク!」
ルークの行動にアッシュは明らかに動揺していた。
「よかった……。本当に……っ!」
「…………」
ルークの声は次第に泣きそうなものに変わっていた。
本当によかった。
アッシュが無事でいてくれて……。
「お取り込み中で悪いですけど、よろしいですか?」
「!!」
ジェイドの言葉にルークは慌ててアッシュから離れた。
「一体何があったんだ?」
いつもより、真剣な顔でガイはアッシュに言った。
「……どうやら俺はルークと間違えられてここへ連れてこられたらしい」
「えっ? 俺と?」
意外なところで自分の名が出たので、ルークは驚いた。
「ああ、誰かが『こっちじゃない』『レプリカの方だ』と言っていたのが聞こえた」
レプリカ
わかっているけど、その響きはやっぱり傷付く。
「ところで、この譜陣を描いたのは誰だかわかりますか?」
ジェイドはずっと気になっていたことをアッシュに問いかける。
「…………子供」
「えっ?」
すぐ近くにいたルークにも聞こえないような声でアッシュが呟いたので、ルークは聞き返した。
「十歳くらいの子供が譜陣を発動させていた」
アッシュの発言に全員が驚いたような顔をした。
「そうですか。……そろそろここから出ましょう。まだ色々と聞きたいことがありますが、ルークが狙われているみたいですし」
ジェイドの提案に全員が賛成した。
皆速やかに部屋を出た。
「ところで、帰り道はどっちなの?」
アニスの問いにルークは困った顔をした。
「え~っと、俺は何も考えずに進んでたから……」
「え~~~! じゃぁ、どうするの!!」
「大丈夫ですよ。こんなことになると思って、目印を付けておきましたから」
「さっすが、大佐!」
「いえいえ。では、いきますか」
そう言ってジェイドは先頭で歩き出した。
それに続いて他のみんなも歩き出す。
ルークもみんなの後に続いた歩き出す。
―――――――。
「!!」
ふと、ルークは足を止めた。
「ルーク?」
不思議に思ったティアが振り返ってルークを見た。
「わり。みんな先に行っててくれないか?」
「どうしてですの!」
「そうだよ。さっき、アッシュが言ってたことがわかんないのか!」
ルークの言葉にナタリアとガイは怒鳴った。
「……あの部屋にちょっと忘れ物しちゃって……。すぐに戻るからさ!」
「ルーク!」
ルークはそう言うと、部屋に向かって走り出した。
それをアッシュが引きとめようとしたが、ルークを引き止めことが出来なかった。
「……仕方ありませんね~。ルークの言葉を信じて先にいきますか」
ジェイドは溜息をつくと再び歩き出した。
仕方なくティアたちも歩き出したが、アッシュだけはルークが消えていった方をずっと見ていた。
「アッシュ、いきますよ」
それに気付いたジェイドがアッシュに言った。
「……ああ」
本当はここで待っていたかったが、仕方なくアッシュも歩き出した。
* * *
(ごめん、みんな)
本当は、忘れ物なんかなかったんだ。
あのとき、あの部屋より奥にある部屋からとても嫌な感じがした。
それがなんなのか確かめたかったけど、みんなを連れて行きたくなかった。
特に、自分のせいでこのことに巻き込んでしまったアッシュを……。
そんなことを考えて走っていたら、その部屋に辿り着いた。
その部屋の扉は、とても大きく黒い扉だった。
ルークはその扉に手を当てた。
(……怖い)
ルークの胸に恐怖が込み上げてきた。
だが、ルークは覚悟を決め、その扉をゆっくり押してあけた。
人形シリーズ第5話でした!!
アッシュに再開したのにすぐに別れてしまいました!
さぁ、扉の向こうにあるものとは一体なんでしょうか?
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