アッシュが目を覚ましたら、今度こそ言おう。
『アッシュのことが好きだ』と……。
~愛しき人形~
「本当に、ムカつきますね~♪」
「えっ?」
ジェイドが笑顔でそんなことを言ったので、ガイは少し恐ろしいと思った。
「だっ、誰が?」
「もちろん、アッシュですよ♪」
今、ルークは主治医シュウの勧めでアッシュのいる病室へ行ってしまった。
「アッシュぐらいでしょうね。ルークをあそこまで哀しませることが出来るのは」
「そして、ルークを笑顔に出来るものあいつぐらいだろ?」
ジェイドの言葉にガイは付け足すように言った。
俺たちといるときでもルークは笑ってくれる。
でも、それはアッシュに見せる笑顔とは微妙に違う。
アッシュに見せる笑顔は本当に幸せそうに笑うのだ。
ルークが見せる感情は全てアッシュによって決まるのだ。
「……ますます、ムカつきますね~♪ アッシュが目を覚ましたら、一発譜術でもブチかましますか~♪」
「はは。そりゃいいや」
ガイはジェイドの冗談を軽く受け流した。
(……アッシュ、早く目を覚ませよ)
もうこれ以上、ルークの哀しい顔は見たくないから……。
* * *
音符帯。
そこにいるヴァリアスにも地上の異変に気が付いていた。
『ルークがアッシュの記憶を取り戻したようだぞ』
聞き慣れた声が自分の後ろから聞こえてきた。
「ローレライか……」
振り向くと、そこにはやはり彼がいた。
真っ赤に燃える炎のような赤い長髪が静かに揺れていた。
『どうやら、このゲームはアッシュの勝ちのようだな』
「…………」
ローレライはヴァリアスに近づきながらそう言ったが、ヴァリアスは何も答えなかった。
『どうせお前のことだ。まだ、何か企んでいるんだろ? だが、いくらやっても結果は同じだ』
「……そうだろうなぁ」
ローレライの言葉に力なくヴァリアスは呟いた。
「別に、もう何も企んでないよ。これが私にとって最後の賭けだったんだから」
『ヴァリアス……?』
今、自分の目の前にいるヴァリアスはまるで別人のようだ。
いつも人を小馬鹿にしているような笑みはそこにはなく、哀しそうな笑みを浮かべていた。
「……本当はわかっていた。ルークは必ず彼のことを思い出すことを。こんな賭けが無意味だということを……」
『だったら、何故こんなことをした。無意味だとわかっていたなら』
「何故だろうな。……強いて言うなら……諦めるためかなぁ」
『諦めるため?』
ローレライの言葉にヴァリアスは頷いた。
「ああ、あの二人の絶対的な絆を見せつけられたら、ルークのことを諦められると思ったから」
ローレライに言われる前からわかっていた。
あの二人の絆を断ち切ることなんて出来ないことを。
でも、それは違うと否定してみたかった。
少しでも、ルークが自分に無理向いてくれる可能性があるなら、それに賭けてみたかったのだ。
『ヴァリアス……』
「とっ、言ってもまだ、ゲームは続いているよ。彼が約束の日までに目を覚まさなければ私の勝ちだ」
そこには、先程の表情はなく、いつものヴァリアスの表情になっていた。
『お前は……』
少しでも同情した私が馬鹿だったか。
ローレライはそんなヴァリアスに呆れたように苦笑した。
そんなヴァリアスもローレライに笑いかけた。
私はまだ諦めない。
最後の最後まで足掻き続ける……。
* * *
ベルケンドの病室。
ルークはシュウの勧めでそこに通された。
扉を開けると、目に飛び込んできたのは一つのベッド。
そこにアッシュは眠っていた。
アッシュの身体にはいくつもの譜業装置らしきものと繋がれていた。
窓からは夕焼けの光が差し込んでくる。
でも、アッシュの紅の髪はその光にも負けていない。
むしろ、その光を吸収してより強く燃えているように見えた。
ルークはゆっくりとアッシュへと歩み寄った。
アッシュの顔を覗き込むと、そこにはとても安らかな顔をしているアッシュがいた。
こうしてみると、自分と同じ顔なのに、やっぱりアッシュの方が綺麗だとルークは思った。
ルークは近くにあった椅子をベッドの傍に置き、座った。
ルークはアッシュの頬に触れた。
アッシュの頬はとても触り心地がよく温かかった。
さっきは、動揺していてそんなこともわからなかったけど、今ならちゃんとわかる。
「アッシュ……俺、待ってるから」
アッシュが目を覚ますのをずっと。
ジェイドから聞いていた。
俺の魂と今の身体がなかなか調和しなくてずっと眠っていたときのことを。
アッシュは誰よりも俺の傍にいてくれたことを。
それを聞いて、俺は本当に嬉しかった。
だから、今度は俺がアッシュの傍にいるな。
アッシュが俺にしてくれたように。
ずっと、待っているから。
ずっと……。
人形シリーズ第25話でした!!
なんか、一気にヴァリアスがいい人になってしまったようないないような(どっちやねん!!)
とりあえず、後はアッシュが目を覚ますのを待つだけ~♪
カップラーメンが出来るのを待つように待とう(おい!!)
今回、何気にジェイドとガイの会話が一番おきにだったりしてww
H.18 12/31