「アッシュさん!!」

いやだ。
俺はまた彼を失うのか。

(……また? ……それはどういう意味だろう?)

ふと自分が思ったことにルークは疑問を感じた。
俺は彼のことを何も覚えていないのに……。
そう思った瞬間、頭の中に鮮明な映像が流れ始めた。

~愛しき人形~

――――約束しろよ!

それは最近いつも見る夢だ。
でも、これは夢とは違う。

――――絶対生き残るって!

必死な声で叫ぶように言った自分。
その声には哀しみも込められていた。

――――約束してやるからとっとと行け!

そんな自分に怒鳴るように彼は言い放った。
彼の顔は自分そっくりの顔。
夢ではわからなかった顔。
アッシュだ。
俺はアッシュと約束を交わして彼と別れた。
だが、アッシュは神託の盾(オラクル)騎士団のレプリカ兵に……。

ポタ

涙が頬を伝って流れ落ちる。

(思い……出した)

俺とアッシュのことを。
どうして、忘れてしまったんだろう。
こんな大切なことを……。

「アッシュ……」

ルークはアッシュを見た。
そこにいるアッシュはあのときと同じでとても安らかな顔をしている。

「アッシュ!」

ガイがルークのところへ駆け寄ってきた。

「何をしてるんだ! 早く治癒士(ヒーラー)を連れて来い!!」
「はっ、はい!!」

ガイの指示に兵士たちが大急ぎで走っていくのがなんとなくわかる。

「……アッシュ」
「ルーク?」

ルークの様子がおかしいことにガイは気付いた。

「アッシュ、目を開けてよ……アッシュ………」

ガイの目に映るルークは子供のように泣いていた。

「……いやだ……アッシュ……俺をおいていかないでよ!」
「ルーク!」

ガイがルークに呼びかけてもルークは答えなかった。
ずっと、アッシュに呼びかけていた。
今のルークにはアッシュ意外何も見えないのだ。

「アッシュ!!!!」

ルークの悲鳴のような声があたりに響き渡った。





* * *





アッシュはすぐにベルケンドの病院に運ばれた。
今は、集中治療室に入って治療を受けている。
そこへガイから連絡を貰ったティアたちは大急ぎで駆けつけた。
そこで見た光景にティアたちは言葉を失った。
そこには、子供のように何かに怯えるように震えているルークの姿。
上手く聞き取ることは出来ないが、しきりに何かを呟いていた。
その姿は見ているこっちも、痛々しく感じてしまうものだ。

「……さっきから、ずっとああなんだ」

それにガイは呟くようにティアたちに言った。
ガイはずっとこんなルークを見ていたのだろうか。
すると、集中治療室から主治医のシュウが出てきた。

「シュウさん、アッシュは……」
「出来る限りのことはしましたが。……後は、アッシュさんの体力の問題ですね」

シュウは真剣な表情でそう言った。
アッシュに刺さった鉄棒は運よく、心臓と肺から外れて刺さった。
だが、出血が多く、アッシュは意識不明となっている。

「……俺の……せいだ……」
「ルーク?」

苦しそうなルークの声にティアはルークを見た。

「俺があんなところにいたからアッシュは……」

どうして、こんなことになってしまったんだろう。
俺はただ自分の気持ちをアッシュに伝えたいと思っただけなのに……。

「大佐?」

すると、ジェイドはルークに歩み寄った。
そして……。

パン

乾いた音が部屋に響き渡った。

「だ、旦那!?」

ルークの頬をはたいたジェイドを見てガイは、驚きの声を上げた。
だが、それに驚いたのは、ここにいる誰もが同じだった。

「……少しは目が覚めましたか?」
「…………」
「ここであなたが喚いても、アッシュは目を覚ましませんよ。それでは、アクゼリュスのときと同じですよ」
「っ!」
「旦那! 何言ってるんだ!!」
「私は事実を言ってるだけですよ」
「けど!!」
「……いいんだ、ガイ」

ジェイドを咎めるガイにルークは静かに言った。

「……ルーク」
「いいんだ。ジェイドの言うとおりだから」

ここで後悔していても、何も変わらない。
起こってしまったことは、もう変えられないのだから。
今の俺は、アクゼリュスを崩壊した直後の自分と何も変わっていなかった。

「……ごめん、ジェイド」
「いいえ。それより、アッシュのことを思い出したようですね」

ルークの言葉にジェイドは優しい笑みを返す。

「……うん」

それにルークはコクリと頷いた。
思い出した。
俺とアッシュの全てを……。
一番、忘れてはいけないことを……。
これが俺が生きた証なのに忘れてしまった。

「そうですか。でしたら、もうやるべきことはわかりますよね」
「やるべきこと?」

ジェイドの言葉に意味がわからず、ルークは聞き返す。

「アッシュが目を覚ますのを待つことです」

アッシュがルークを連れ戻したときのように……。

「あっ……」
「わかりましたか、ルーク?」
「うっ、うん」

そうだ。
アッシュはいつも俺を待っていてくれた。
だったら、今度は俺が待つ番だ。
アッシュが目を覚ますのを……。
そして、アッシュが目を覚ましたときに言おう。
『アッシュ』って。
そして……。
『アッシュが好きだ』っと。








人形シリーズ第24話でした!!
ルークがアッシュの記憶を取り戻しました!!
アッシュのことを思い出したルークがちょっとヒステリーになってしまった;
そして、ジェイドさんの平手打ち!!一度はやらしてみたかっただ(おい!!)


H.18 12/26