伝えたい。
彼に、この気持ちを伝えたい。
ルークは、歩く速度を速め、いつしか走っていた。
~愛しき人形~
アッシュとガイはまだ睨みあっていた。
だが、先にガイが折れ、溜息をついた。
「ったく、いいじゃないか。別に減るもんだないのに……。ところで、ルークは何かお前のことを思い出したのか?」
「……いや、何も……」
ガイの問いにアッシュの表情は暗くなった。
「……そうか、あと一週間しかないが、大丈夫なのか?」
そう、ヴァリアスと約束した日まであと一週間しかなかった。
だが、これと言ってルークはアッシュのことを思い出していなかった。
「だが、まだ諦める訳にはいかない。残りの一週間、俺はずっとあいつの傍にいるつもりだ」
それが少しでもきっかけになればいいと思う。
「……だが、俺にとって奴とのゲームなんでどうでもいい」
「えっ?」
アッシュの言葉にガイは驚いたような表情を浮かべた。
「俺は、あいつが笑顔でいられるならそれでいい。例え、どんな場所にいても……」
あいつが笑っているなら、幸せでいてくれるならそれだけでいい。
俺の傍にいなくても……。
「アッシュ……」
アッシュの言葉にガイは何も言えなくなった。
やっぱり、俺はこいつには勝てないような気がする。
ルークを思う気持ちは、誰よりもアッシュが強い。
そして、それはルークも同じなのだ。
だから、ルークに思い出して欲しい。
自分たちの前から消えて欲しくないからじゃない。
アッシュの隣にいるときのルークの笑顔が何よりも好きだから。
例え、それが自分に向けられていなくても……。
* * *
「ご主人様! 待ってですの!」
「あっ! ごっ、ごめん、ミュウ;」
ルークはこのとき、小さな身体でミュウが必死に自分のことを追いかけていることに漸く気が付いた。
ルークはミュウに駆け寄り、ミュウを抱え頭にのせた。
「落ちないように掴まってろよ!」
「はいですの!」
ルークの言葉にミュウは元気よく返事した。
それを聞いたルークは再び走り出した。
(アッシュさん、何処に行ったんだろう?)
先程、彼がいた辺りに行ったが、もうそこには彼の姿はなかった。
なので、彼がいそうなレプリカ施設建設地辺りにやってきた。
「……あっ」
ルークは突然足を止めた。
ルークの視線の先には彼がいた。
彼の隣にはガイもいて、二人は建設の監督者らしき人と話しをしているように見えた。
ここから見ていても、彼の燃えるような紅の長髪はとても栄えて見える。
「アッシュさん!」
ルークが大きな声で彼の名前を呼ぶと、彼はルークに気が付いた。
そして、ルークに優しい笑みを向けた。
自分が好きな笑みを。
ルークは彼のところに行こうと走り出そうとした。
その途端。
ガン
音と物に何かがルークの肩に当たった。
何があたったのか見るとそこにあったものは、何かの柱のようなものだ。
そこの自分の肩がぶつかったせいか不自然に柱は揺れていた。
「ご主人様! 危ないですの! 上ですの!!」
「えっ……?」
ミュウの言葉に、ルークはふと上を見上げた。
すると、ルークの頭上に何かが落ちてくるのがわかった。
「……あっ」
ダメだ。
今からでは、とても避けられない。
ルークはそう思い、目を瞑った。
「ルーク!!」
ガイの叫ぶ声が聞こえてくる。
その途端、誰かに押されたような感覚がした。
ズドォォン
押されたと同時に、けたたましい音が耳に入ってきた。
「……あっ」
目を開けると、そこに広がったのは大小様々な鉄棒とそして……。
「アッシュさん!!」
さっきまで自分がいた位置に彼が倒れていた。
ルークはすぐに彼に駆け寄った。
近くで彼を見たルークは言葉を失った。
彼の背には、鋭く尖った鉄棒が突き刺さっていた。
それは、まるで剣が突き刺さっているようだった。
「……ルー……ク」
「アッシュさん!」
ルークは鉄棒に触れないように気をつけながら、ゆっくりとアッシュを抱き起こした。
地面がアッシュの血で染まっていくのがわかる。
「…………ルー……ク……大……丈夫……か?」
アッシュは途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「俺は大丈夫だよ! それより――」
ルークが言葉を言い終わる前に、アッシュはルークの頬を触った。
頬はとても柔らかく、温かかった。
綺麗な翡翠の瞳が哀しそうに揺れている。
「……そう……か。……なら…………いい」
アッシュはルークに笑いかけた。
だが、徐々に瞼が重くなってきた。
アッシュはその重さに耐え切れず、瞳を閉じた。
「アッシュさん?」
それを見たルークはアッシュに呼びかけた。
だが、アッシュはそれに答えなかった。
「アッシュさん!!」
人形シリーズ第23話でした!!
アッシュが大変なことになってしまいました!!
ルークももう告白どころではなくなってしまいましたね;
これからどうなる!!アッシュよ!!
H.18 12/22