『アッシュ! ルーク!!』

ローレライは屋敷に着くと二人の名を呼んだ。
部屋に入ると、ベッドで眠るルークとすぐ傍にアッシュがいた。

~愛しき人形~

「アッシュ」

部屋に入ってきたアッシュを見て、ナタリアたちは駆け寄ってきた。

「アッシュ、ルークは……」
「ああ、大丈夫だ。生きてる」

アッシュの言葉を聞いて、ナタリアたちは安堵の表情を浮かべた。
アッシュはルークをベッドに寝かせて、自分はその近くに座った。
その様子を見たガイたちは、もう大丈夫だと思い部屋を出ようとした。
その途端。

『アッシュ! ルーク!!』

ローレライが二人の名を呼んで部屋に入ってきた。
その声は、いつも余裕のある声とは違い、何かに焦っているような声だった。

「静かにしろ! 今、ルークは寝てるんだぞ!!」

アッシュは出来るだけ小さな声でローレライに怒鳴った。

『アッシュ! 今すぐルークから離れろ!!』
「なんでだ! さっきからお前は、一体何なんだ!!」

俺とルークを行き成り地上に戻したかと思えば、今度はルークから離れろだと?
ローレライは何一つ説明しないのでアッシュには訳がわからなかった。

「…………うっ」

すると、突然ルークが呻き声を上げた。

「ルーク」

それを聞いたアッシュはローレライからルークに視線を移した。
ルークを瞼がゆっくりと上がった。

「ルーク! よかった、気がついたか」
「…………」

アッシュが声をかけてもルークはまだ、声が戻ってないのか返事を返してくれなかった。
すると、アッシュはルークの表情に違和感を感じた。

「どうした? ルーク、気分が悪いのか?」

ガイもそれに気付いてルークに話しかける。
すると、ルークの表情はいつものものに変わった。

「ガイ……ううん、大丈夫だよ」

ルークは優しく答えた。
アッシュが呼びかけても応えなかったのに。

「ルーク?」

アッシュは再びルークの名を呼ぶとルークはアッシュを見た。
だが、そこにさっきの表情はない。
ルークはまるで、怖いものを見るような怯えた表情でアッシュを見ていた。

「……あんた…………誰?」
「!!」

アッシュはルークの言葉に声を出なくなった。

「な、何言ってるの、ルーク。アッシュよ」

ティアは驚いたような声でルークに言った。

「……知らない。俺は彼のことを……」

ルークは首を横に振っていった。

「…………」

それを聞いたアッシュは無言で部屋から出て行った。





* * *





中庭に出たアッシュは一人佇んでいた。

――――……あんた…………誰?

ルークの言葉が何度も頭の中に響き胸を締め付ける。
ルークは俺のことを忘れてしまった。
それが俺が生きた証だったのに。
胸が、心が痛い。

「アッシュ!」

アッシュを追ってナタリアたちが中庭にやってきた。

「アッシュ、その……」

何か言わなければと思ったが、言葉が続かなかった。

「俺なら、大丈夫だ。それより、ナタリアたちのことはルークは覚えていたか?」

アッシュは優しく言った。
こんなところは本当にルークとアッシュは似ている。
つらいはずなのに、それを決して人に見せようとしないところが……。

「ええ、わたくしたちのことはルークは覚えていました」
「でも、何でルークはアッシュのこと覚えていないんだろう?」
『それは、あいつの仕業だろう』

アニスの言葉に部屋から出てきたローレライが答えた。

「あいつ?」
『ヴァリアスだ。そして、そなたたちがフェレス島で戦った少年は、あいつの一部だ。あいつがルークの記憶をいじったのだろう』
「ヴァリアス……」

ローレライの言葉にアッシュはヴァリアスの名を呟いた。
あいつがルークの記憶をいじった。
あのとき、アッシュがルークのところに辿り着いたとき、あいつがルークに何かしているように見えた。
そのとき、ルークの記憶をいじっていたのだろうか。

『我は、あいつのことだから、ルークを操ってアッシュを襲わせると考えたが、どうやらそれは外れたようだ』
「だから、あの時アッシュにルークから離れろって言ったんですね」
『ああ』

ティアの問いにローレライは頷いた。

「……あいつは、一体何者なんだ? 何故こんなことが出来るんだ?」
『それは――』
「それはね」

ローレライが言いかけたとき、誰かがその声を遮った。
すると、アッシュたちの目の前に漆黒の髪に藍色の瞳の男が現れた。

「それは、私が精神、つまり心を司る音素(フォニム)の集合体だからだよ」

ガイたちは、目の前に現れた男を見て驚くしかなかったが、アッシュとローレライは違った。
二人の瞳には、明らかに怒りが込められていた。

「ヴァリアス!」

アッシュの言葉にガイたちは彼がヴァリアスだとわかった。

「愛しい人に自分のことを忘れられたお気持ちはどうですか? 《聖なる焔の燃えかす》さん」

ヴァリアスはアッシュを見て楽しそうに不敵な笑みを浮かべて言った。








人形シリーズ第18話でした!!
はい。皆さん、予想していたと思いますが、ルークからアッシュの記憶を消しちゃいました!!
ローレライの予想は外れました♪別に、そっちでもよかったんですが、こっちの方が何かと面白いし…。
ヴァリアスが出てきたときのアッシュとローレライの反応が、さすが完全同位体ですねvv


H.18 11/18