ローレライは目の前にいるヴァリアスを睨みつけた。
その表情は、アッシュもルークも見たことのないもの。
怒りに満ちたものだ。
~愛しき人形~
ルークの屋敷前に突然二人が現れた。
「ったく、ローレライの奴。一体何なんだ!」
突然、音符帯から地上に戻されて、アッシュはローレライが一体何を考えているのかわからなかった。
それに、ローレライがヴァリアスと呼んだあの男。
ローレライと面識があるみたいだったが、それ以上あまりわからなかった。
ふと、アッシュは視線を下に移す。
アッシュの腕の中でルークは寝息をたてて気持ちよさそうに眠っていた。
(……よかった)
ルークは生きている。
その事実が何よりアッシュには嬉しかった。
アッシュはルークを起こさないように優しく抱きしめ、屋敷へと入って行った。
* * *
「久しぶりだね。あんたとこうやって話すのは」
ルークたちを地上に戻してから数分間、沈黙が続いていたが、その沈黙をヴァリアスが破った。
『……ああ、そうだな』
「あんたと話したのは、私がまだ人だったときと、音素の集合体になった直後だったな。
もう、千年以上も経つのか……」
ヴァリアスも昔は人間だった。
だが、ある日を境に徐々に自分から人間性が失われていった。
そんなときに彼が現れたのだ。
「あのときは、すごく嬉しかったな……」
『…………』
結局、自分は音素の集合体となったが、あのときローレライが必死となって元に戻る方法を探してくれたのが嬉しかった。
「……ねえ、さっきから何を怒ってるの?」
『当たり前だ! お前がルークにしたことを許せるとでも思っているのか!!』
ヴァリアスが首を傾げていったのを見て、ローレライはキレた。
『なんで、あんなことをしたんだ! ルークがどれだけ不安だったのか、お前にはわかってるのか!!』
あのとき、ルークはとても不安そうな顔をして自分の話を聞いていた。
自分が自分で無くなるのだ。
それをローレライは体験したのだからよくわかる。
だが、ルークはみんなを不安にさせないようにいつも笑っていた。
ルークが一番不安だったはずなのに。
あんな状況に陥っても人の心配ばかりしている、自分の半身。
その笑みを見ると胸が締め付けられる思いがした。
「……彼が欲しかったから」
ヴァリアスの声は真剣なものに変わった。
「ルークが初めてここに来たときからずっと欲しかった。今までこんなこと一度だって思ったことないのに……」
ここまで、欲しいと思ったことは初めてだった。
今まで、出来ないとわかったことはすぐに諦めていた。
自分が音素の集合体になるときもそうだった。
でも、今回は違った。
どんな手を使ってでも、彼が欲しかった。
あの美しい赤い光を諦めたくなかった。
『あんなやり方で、本気でルークが自分のものになるとでも思ったのか? おまえがやったことは、だた悪戯にルークを傷付けただけじゃないか!』
「だったら、あんたはどうんなんだ!!」
ローレライの言葉に、ヴァリアスは声を張り上げた。
「アンタだって、私と同じようなことをルークにしようと考えていたくせに! 自分のことを棚に上げて説教なんてするな!!」
『…………』
ヴァリアスの言葉にローレライは言葉が出なくなった。
(……こいつは我の心を読んだのか……)
確かに、昔だったらどんなことをしてでもルークを自分の傍に置いていただろう。
でも、今は違う。
今は自分のことより、ルークは幸せならそれでいいと思える。
ルークが笑ってくれたら、それでいい。
ルークの幸せなら自分も幸せだからだ。
『……だとしても、我はそれをしなかった。どんなことをしても、ルークはアッシュだけを見ているからな』
それは決して変わらない事実だ。
きっと、彼らの絆は何があっても壊れることはないだろう。
「……さぁ、それはどうだろうね」
『! どういう意味だ?』
ローレライの問いに、ヴァリアスはただ笑っているだけだった。
『……お前、ルークに何をした!』
「そんなに気になるんだったら、見に行ったらいいじゃん。きっと、面白いことになってると思うよ」
『……っ!』
ローレライはまだ、ヴァリアスに言いたいことがあったが、地上に行くことにした。
もし、自分の予想が当たっているなら、アッシュが危ないと思ったからだ。
ローレライは光となって音符帯から消えていった。
その様子をヴァリアスはずっと眺めていた。
もう、音符帯にいるのはヴァリアスだけとなった。
「……楽しみだなあ~。ルークが目覚めたときの彼の反応が」
一体、どんな表情をするだろうか。
ヴァリアスは、彼の表情を想像しながら不敵に笑った。
人形シリーズ第17話でした!!
あ~あ。とうとうローレライがキレちゃったしww
でも、何気にローレライもヴァリアスと同じことをしようと考えてたして~
にしても、ヴァリアスは黒いなぁ~。
H.18 11/11