何だろう、この感じは……。
俺はもう死んだはずなのに……。
何も感じなくなったはずなのに……。
今、感じるのは人の温もりだ。
ルークは瞳を開けた。

~愛しき人形~

「気がついたか、ルーク」

ルークの目に一人の男が映った。
漆黒の髪に藍色の瞳を男。
ルークは彼に似た人物を知っていた。
彼は、フェレス島で戦った少年エビィルにどこか似ていた。

「……あなたは?」
「私の名はヴァリアスだ」
「ヴァリアス?」
「そうだ」

ヴァリアスと名乗った男は優しく微笑んだ。
ルークは辺りを見回した。
どうやら、ここは音符帯らしい。
ということは、彼は音素(フォニム)の集合体だということがルークにはわかった。

「……ルーク」

すると、突然ヴァリアスはルークを抱きしめた。

「ルーク、私と共に生きてくれないか?」
「えっ?」
「そなたが初めてここに来たときからずっと好きだった。だから、傍にいて欲しい」

何一つ曇りのない藍色の瞳がルークを見つめている。
だが、ルークはヴァリアスの腕を自分の身体から解くと、ヴァリアスから離れた。

「……ルーク?」
「ありがとう、ヴァリアス」

ルークはヴァリアスに笑みを浮かべてに礼を言った。

「……でも、ごめん。俺はヴァリアスの気持ちに応えることは出来ない」
「! 何故だ?」
「……俺は他に好きな人がいるんだ」

アッシュ……。
俺にとって一番大切な人。
自分の気持ちに嘘はつけない。
俺はアッシュは愛している。

「……ごめんな。俺、地上に戻るな」

ルークはヴァリアスに哀しく笑って言った。
俺の力じゃ、地上に戻ることは出来ない。
でも、ここは音符帯だ。
きっと探せば、ローレライを見つけることが出来るだろう。
ローレライの力を借りて地上に戻ろう。
アッシュのいる地上へ。
ルークはそう思い、ヴァリアスに背を向けて歩き出す。

「…………いやだ」

ヴァリアスは小さな声で呟いた。
やっと、手に入れたのに……。
彼を誰にも渡したくない……。
たとえ、その相手と愛し合っていたとしても……。

「……そんなことさせるものか」

ヴァリアスの藍色の瞳が不気味に光った。

「えっ?」

すると、突然ルークの動きが止まった。

(身体が……動かない……!?)

ルークは前にも何度か同じように身体が動かせなくなったことはあった。
でも、今のはそれとは違った。
ヴァリアスはルークにゆっくりと近づいた。
そして、ルークは向かい合い、優しく抱きしめる。

「……本当は使いたくなかったが、仕方ない」

ルークは私を選ばなかったのだから。

「ルーク、私の目を見ろ」

ヴァリアスの言葉を聞いたルークは、ヴァリアスの瞳を見た。
だが、それはルークの意思とは関係なく見ていた。
そして、ヴァリアスの瞳を見ているうちに、何故か意識を保っていられなくなり、ルークは意識を手放した。
それを確認したヴァリアスは、ルークの額を自分の額に合わせた。

(どこだ……?)

どこにある。
ヴァリアスは意識を集中させるため、瞳を閉じた。
そして、ヴァリアスは探していたものを見つけた。
ヴァリアスはそれを少しずつ触れていった。

「ルーク!!」

だが、この声によってヴァリアスは集中させていた意識は途切れてしまった。
ヴァリアスは声が聞こえたほうに振り向いた。
そこには、いるはずのない燃えるような紅の長髪に翡翠の瞳の彼がいた。
彼は剣を抜き、ヴァリアスに向かって斬りかかった。
ヴァリアスはそれをかわしたが、それによってヴァリアスが支えていたルークは地面に倒れ込んだ。
だが、それを間一髪のところで彼がルークを支えた。

「攻撃がワンパターンだな」
「なんだと?」

ヴァリアスの言葉に彼はヴァリアスを睨みつけた。
それに対して、ヴァリアスは笑って返した。

『やはり、お前の仕業か。ヴァリアス』

ヴァリアスの後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り向くと、そこに彼がいた。

「ローレライ」

ヴァリアスは彼の名を呼んだ。

「どうして、バレたのかな? あんたにバレ内容にいろいろ工夫したんだけどな」
死霊使い(ネクロマンサー)が漆黒の髪に藍色の瞳の少年の話が出てきた。そんな容姿をしているのは、この世界ではお前くらいだからな』
「ああ、あの子か」

ヴァリアスは納得したように言った。

「あの子は私の一部だったからな。まぁ、ルークに倒されたから私の身体に戻ってきたけど」

ヴァリアスはそのことについて笑って答えた。

『……アッシュ、そなたはルークと共に先に戻ってろ』
「なっ、ちょっとまっ――」

ローレライにアッシュと呼ばれた彼は何か言いたそうだったが、ローレライはそれを無視して地上に戻した。

「随分、一方的に戻してけど、いいのかよ」

その様子を見ていたヴァリアスは、笑ってそう言った。

『別に、どうってことはない。それより……』

ローレライの目つきが変わった。

『我はお前と二人で話したい』

その瞳には明らかに怒りが込められていた。








人形シリーズ第16話でした!!
つうか、ローレライが怖い!!マジギレ寸前ですよ!!
次は、ローレライとヴァリアスの会話が中心になります。


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