ルークはこんな状態になっても俺に笑いかけてくれた。
だが、それは今までの笑顔とは違っていた。
感じることが出来なくなったルークが見せる不器用な笑顔だった。

~愛しき人形~

ルークが屋敷に戻ってからアッシュは出来るだけルークの傍にいた。
今アッシュがルークにしてやれることはそれだけだった。
眠ることが出来なくなったルークのために、アッシュは夜遅くまで起きていた。
だが、いつもルークはそんなアッシュを見て『無理しないで』と伝えてくる。
公務の量も半分以上に減らし、どうしてもしなくてはいけないものだけを行っていた。
そして、今日はピオニー陛下に謁見する為、グランコクマに行くことになっていた。

「すまない、ルーク。出来るだけ早く戻ってくるからな」

本当はルークも連れて行きたかったが、ルークに無理をさせてはいけないと思い屋敷に残ってもらうことにした。
ルークはアッシュの掌の上に『いってらっしゃい』と、文字を書いた。
そして、アッシュに笑いかける。
不器用な笑顔だったが、とても暖かかった。

「いってくる」

アッシュはそれに優しく微笑んで答えた。
そして、グランコクマに行く為、部屋を出た。





* * *





「それでは失礼します」

用も終わり、さっさと謁見の間から出ようとアッシュは足を動かした。

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

ピオニーに呼び止められた為、アッシュは仕方なく足を止めた。

「なんですか?」
「そんなに嫌そうな顔するなよ。ルークのことなんだが……」

アッシュの顔を見て、ピオニーは苦笑した。

「ジェイドから大方、話は聞いている。その後ルークに何か変わったことはないか?」
「いえ。今のところ特に変化はありません」
「……そうか。あれから一週間経つが、ジェイドの奴自分の仕事もしないで、ルークを治す方法を探し回ってるんだよな」

ピオニーは少し呆れたように溜息をついた。
だが、それは彼だけではない。
ガイやナタリアたちも自分の仕事を後回しにしてルークを治す方法を探している。
なのに、俺は……。

「おい。今、自分は何も出来ないとか考えていただろう」
「!!」

図星をつかれたアッシュはただ驚くしかなかった。

「図星か?……ったく、お前だってやってるじゃないか。ルークの傍にいてやることを。…それが一番重要なことだろ?」

本当はそうなのかもしれないと、心の中では思っていた。
だが……。

「お話中のところ、失礼します!」

メイドの声によって、アッシュの思考は止まった。

「なんだ? 急ぎの用か?」
「はい。たった今、ファブレ公爵様からアッシュさま宛にご連絡が入りまして……」
「父上から? 一体なんだ?」

ファブレ公爵の名前が出てきたので、アッシュはそのメイドに問いかけた。
それと同時に、アッシュは嫌な予感がした。

「はい。実は、ご連絡内容が……」

メイドは少し戸惑った様子を見せた。

「ルーク様がお倒れになったそうです」





* * *





「ルーク!!」

アレからすぐグランコクマから戻ってきたアッシュな自分の部屋の扉を勢いよく開けた。
部屋には、ガイたちが既に来ていた。

「アッシュ。ルークが……」

ナタリアが今にも泣きそうな声で言った。
アッシュはナタリアから離れ、ベッドへと近づいた。
そこで寝ているルークの顔色は蒼白くなっていた。

「ルーク……」

朝はあんなにも元気そうに見えたのに。
すると、ルークの瞼が微かに動き、瞼の下から美しい翡翠の瞳が現れた。
そして、ルークはアッシュを見つめ、アッシュがいる側の左手をアッシュへと伸ばした。
アッシュはその手を優しく包み込んでやった。
すると、ルークは嬉しそうに優しく微笑んだ。

(アッシュ、ありがとう)

今、ルークとは回線は繋がっていないのに、頭の中でルークの声が響いた。
それに、アッシュはただ驚くしかなかった。

(いつも、傍にいてくれて、ありがとう。俺……すごく嬉しかったよ)

久しぶりに聞いたルークの声。
それはとても心地よい声だ。

(……俺、もっと長くアッシュの傍にいたかったなぁ……)

ルークの声が聞こえると共に、ルークの瞳が徐々に瞼に隠されていった。
そして、完全に瞼が下りるとアッシュが包んでいた手に力が感じなくなった。

「ルーク?」

アッシュがルークに呼びかけても、もうルークは何も反応しなかった。

「おい! ルーク!! いくな!!」

アッシュが突然、叫んだので、ガイたちは驚いた。

「ルーク!!」

すると、ルークは淡い光に包まれた。
徐々にルークは光と共に消え始めた。
アッシュたちはそれを黙ってみているしか出来なかった。
そして、ベッドにはもうルークの姿は無くなってしまった。
結局、俺は何も出来なかった。
ルークの消えるのをただ見ているしか出来なかった。
アッシュの瞳から涙が溢れ出し、流れ落ちた。
失ったものは、あまりにも大きかった。
《聖なる焔の光》の名にふさわしく、いつも優しい笑顔で俺の傍にいたルーク。
ルークという名の光を失って、俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ。








人形シリーズ第14話でした!!
何気に、ピオニー陛下登場です♪陛下なら、何気にアッシュの考えてることを見抜けそうですよね?
シンフォニアの救いの塔でコレットの声がロイドに聞こえたのをここで利用してみました!!
ついに、ルークが消えちゃったよ~これからどうなることやらww


H.18 10/27