「お前……まさか……」
ルークを見てアッシュは愕然とした。
ルークはアッシュに哀しそうな笑みを向けた。
「お前……声が出ないのか」
~愛しき人形~
「ルークが喋れなくなっただって!!」
アッシュから信じられない事実を聞いたガイたちは信じられないと、言った顔をした。
「何かの間違いだろ! そんなの!!」
「俺だって、信じたくない。だが……」
あいつがどんだけ口を動かしても声という音は聞こえない。
もう、あの声を聞くことは出来ないのだ。
アッシュの苦しそうな顔を見たガイたちはそれを信じるしかなかった。
「それで……ルークは部屋にいるのですか」
「ああ」
ジェイドの問いにアッシュは頷いた。
「でも、アッシュだったら、ルークとフォンスロットが繋がっているから話すことが出来るんじゃなくて?」
「俺もそう思ってあいつに繋げようとした。だが、繋がらなかった」
あいつに繋げようと必死でフォンスロットを開くが決して繋がることはなかった。
聞こえてくるのは、ノイズのような雑音ばかり。
そして、それを続けていたら頭に激痛が走った。
『当たり前だ。もう、そなたとルークは完全同位体ではないのだからな』
ローレライの言葉がアッシュの頭に何度も響く。
俺とあいつはもう完全同位体ではない。
そして、ルークはいつか別のものへと変わってしまう。
「……何かルークを助かる方法はないのか?」
力なくアッシュはローレライに問いかけた。
『……我がもっと早くルークの異変に気付いていれば、ルークの身体からその音素を取り除くことが出来た。だが、今それをやれば確実にルークは死ぬ』
もっと早く気付けば、ルークを助けることが出来た。
だが、今それをすればルークの死を速めてしまうだけだった。
『だが、まだ我も諦めたわけではない。今からでもその方法を探してくる』
ローレライがそういってもアッシュの表情は暗いままだった。
『……本当は、ルークを音符帯へと留めておくつもりだった。そうすれば、少しでも症状の進行を抑えることが出来たからだ』
そんなアッシュを見てローレライは静かに話し出す。
『だが、ルークはそれを望まなかった。何故だかわかるか』
「…………」
『ルークは少しでも長くそなたの傍にいたい。そう言ったのだ』
「!!」
俺の傍にいたいから、ルークは戻ってきたのか。
そのせいで、死が速まるかもしれないのに……。
『我はもう行く。少しでもはやくルークを治す方法を見つけたいからな』
そう言うと、ローレライは光となって消えた。
「では、私たちもそろそろ、帰りましょうか」
「はっ! 何言ってるんだよ、旦那!?」
ジェイドの提案にガイは納得いかない様子で言った。
「私たちも、ルークを治す方法を探すべきです。ここで、ジッとしていても何も変わりませんよ」
「……そうですね。私たちがルークに出来ることはそれくらいだわ」
ティアは、ジェイドの言葉を聞いて賛成した。
「では、行きますか」
誰も、もう反対しないことを確認したジェイドは、入り口へと歩き出す。
「俺も行く」
アッシュもジェイドたちに着いていこうとした。
「駄目です。あなたはここに残ってください」
「! どうしてだ! 俺もルークを治す方法を探す!!」
あいつが死ぬのを黙って見ていることなんて出来ない。
「あなたがすべきことは、これではありません。ルークの傍にいることです」
「…………」
ジェイドの言葉にアッシュは返す言葉が見つからなかった。
「……では、行きますよ」
そう言ってジェイドは部屋を出て行った。
それに続いて、ガイたちも部屋を出て行く。
「アッシュ。……ルークのこと頼みますね」
最後に出たナタリア葉、アッシュを気遣うようにそう言って出て行った。
応接間にはもうアッシュしか残っていなかった。
ここで、ボーっとしているわけにはいかない。
アッシュは再び自分の部屋へと向かった。
* * *
「ルーク、入るぞ」
返事は返ってこないとわかっていたが、アッシュはそう言って部屋と入った。
そこには、さっきと同じようにルークがいた。
ルークはアッシュの姿を見るとアッシュの傍に駆け寄ってきた。
そして、必死に口を動かす。
だが、どんなに口を動かしても声という音は出なかった。
少し、ルークの顔が哀しそうな表情になる。
すると、ルークは何か思いついたのか明るい表情になり、アッシュの右腕を引っ張った。
「ルーク……?」
ルークの突然の行動にアッシュは戸惑った。
そんなアッシュを無視してルークは、アッシュの掌に自分の指を滑らす。
そして、掌に文字を書いていった。
「『みんなは?』」
アッシュはその文字を読んだ。
きっと、ルークは自分の掌に文字を書いて自分の聞きたいことを聞こうとしているのだろう。
「ナタリアたちは、帰った。お前を治す方法を探すって言ってたぞ」
ルークの問いにアッシュは答える。
すると、再びルークは指を動かす。
「『大丈夫か?』。……大丈夫だ。きっと治す方法は見つかる」
アッシュがそう言うとルークは何故か首を横に振った。
俺が言ったことと、ルークが聞きたいことはどうやら違ったらしい。
「『アッシュ、さっき苦しそうだったから』」
ルークの言うさっきとは、たぶん俺がルークに繋げようとしたときだろう。
あの時、頭に激痛が走り、思わず膝をついてしまったから。
「ああ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
アッシュはルークに優しく言った。
ルークの指がまた動き出す。
「……『無理しないでね』……っ!」
アッシュはその言葉を読むと、思わずルークを抱き締めた。
ルークは、アッシュの突然の行動に驚いたような表情を浮かべた。
「……俺はお前の傍にいたのに何も気付いてやれなかった」
誰よりも傍にいたのに、何も気付かなかった。
もし、気付いていれば……。
今、頭に浮かぶのは後悔ばかりだった。
「すまない、ルーク」
すると、ルークはアッシュの背中に手を回した。
そして、アッシュの背中を優しく撫でた。
まるで、『大丈夫だよ』と語りかけているようだった。
それがアッシュには余計つらく感じ、ルークを強く抱き締める。
本当だったら、ルークは痛がるくらいの強さだった。
だが、今のルークにはそれすら感じない。
俺の熱を感じてもらうことの出来ないのだから。
目の前にいる俺の愛しい半身は、確実に違うものへと変わっていく。
なのに、俺はルークに何もしてあげられない。
無力だ。
そんな俺にルークはいつまでも俺の背中を撫でてくれた。
こんな状態になっても、人を思いやっている彼。
今、一番つらいのはルークのはずなのに。
ルーク、お前が望むなら俺はずっと傍にいてやる。
だから、死ぬな。
俺を残して、行かないで欲しい。
俺はもう、お前のいないこの世界を生きていけないのだから。
人形シリーズ第13話でした!!
シンフォニアのコレットがロイドにしていたことをルークにやらせてみました!!
私にとって、シンフォニアの中では結構お気に入りの場面です♪
紙で書いて伝えるより、こっちの方が素敵ですよねww
一番は、フラノールの雪の中のイベントかな?(相手はもちろんクラトスで♪)
H.18 10/22