「ルーク!!」

声が聞こえたほうへルークは振り向いた。
そこに、彼がいた。
誰よりも大切な彼が……。

~愛しき人形~

「アッシュ!」

ルークはアッシュに駆け寄った。
よく見ると、アッシュは右足を負傷していた。

「アッシュ! 右足、怪我してる。大丈夫なのかよ?」

心配そうにルークはアッシュに言った。
だが、アッシュはそんなルークに対して、不快に感じたのか眉間に皺を寄せた。

「大丈夫か? 何言ってやがるんだ! それは俺がお前に言う言葉だろうが!!」
「えっ?」

ルークはキョトンとした顔をした。
アッシュの言っている意味がルークにはわからなかった。
別に俺はなんともないのに……。

「そんな傷で大丈夫なわけないだろ! 痩せ我慢もいい加減にしろ!!」

そんな傷? 痩せ我慢?
ルークはふと、視線を下に移した。
そして、ルークは自分の腹から血が流れていることに漸く気づいた。

(なんで……?)

確かに、さっき倒した彼に俺は腹を刺された。
でも、自分が目を覚ましたときすぐそばにナタリアがいて腹部の痛みもなかった。
だから、さっき負傷した傷はナタリアが治してくれたんだと、思っていた。
でも、実際はそうではなかったのだ。

「!!」

ルークは急に足に力が入らなくなり、倒れ込んだ。

「ルーク!!」

それはアッシュが何とか受け止めた。

「……アッシュ」

搾り出すかのように、ルークはアッシュの名を呼んだ。
何だろう、この感じは……。
今、自分が感じているのは痛みでもなく、アッシュの熱でもなかった。
だた、瞼が重いそれだけ。
ルークはその重さ耐え切れず、瞳を閉じる。

「ルーク! しっかりしろ!!」

アッシュは必死でルークに呼びかける。
だが、どんなに呼びかけてもルークは瞳を開けることも、答えることもなかった。

(いくな!)

俺を置いていくな!!


ナタリアたちはアッシュの傍にやってきた。
ティアとナタリアは再びルークに治癒譜術(ちゆふじゅつ)をかける。
だが、結果はさっきと同じだった。

「ダメ! 傷が塞がらないわ!!」
「クソ! どうしたらいいんだ!!」
『ルークを我に渡せ』
「!!」

アッシュたちは声が聞こえたほうに振り向いた。
そこに立っていたのは、アッシュと同じ燃えるような紅の長髪に翡翠の瞳。
顔立ちはとても大人びて見える。

「ローレライ」
「「「「えっ?」」」」

アッシュが呟くように言った言葉にティアたちは驚いた。
彼がローレライ。
第七音素(セブンスフォニム)の集合体。
その姿を見るのは、ティアたちは初めてだった。
ローレライはゆっくりとルークに近づいてきた。
そして、ルークの状態を見ると、少し表情が暗くなった。

『……思っていた以上にひどい状態だ』
「ルークをどうするつもりだ?」

アッシュがローレライに問う。

『ルークを音符帯の連れて行く、そしてそこで治療する』
「ここでは、出来ないのですか?」

ローレライの言葉に疑問を感じたナタリアが聞いた。

『ここは、第七音素(セブンスフォニム)が少ない。ここで、ルークの傷を完治させるのは不可能だ』
「……わかった」
「アッシュ!?」

アッシュの言葉に誰もが驚いた。

「仕方ねぇだろ! このままだと、ルークは死んじまうかもしれねぇだぞ!!」

それだけは、どうしてもいやだった。
ルークを失いたくなかった。

「アッシュ……」

それが痛いくらい、ナタリアたちに伝わった。
アッシュはルークをローレライに手渡した。

『……安心しろ。ルークの傷が完治したら、すぐにそなたの屋敷に送る』
「……頼んだぞ」

アッシュはローレライに言った。
その声はひどく震えていた。
それに対して、ローレライは頷くと、光となって消えていった。

「……では、そろそろここを出ましょう」

ジェイドの提案にティアたちは頷き、歩き出した。
ただ、アッシュだけはその場に留まってずっとローレライが消えたほうを見ていた。

「どうした? 足でも痛いのか?」

それに気づいたガイがアッシュに話しかける。

「……大丈夫だ」
「……そっか。だったら、さっさと行こうぜ」

そう言うとガイは再び歩き出した。
何か言いたそうだったが、ガイはあえてそれを言わなかったようだ。

(大丈夫だ)

ローレライにルークを任せておけば…。
きっとルークは元気に戻ってくる。
また、あの笑顔を見ることが出来る。
そう信じてアッシュは、屋敷へと戻るのだった。








人形シリーズ第10話でした!!
ローレライ登場で~す!!
ルークの危機にローレライが出てきましたよ♪
本当にルークは愛されてると思います。


H.18 10/4