「こんばんわ。ヒーローの皆さん♪ 悪いけど、ちょっとだけ私達に付き合ってくれるかしらぁ?」

妖艶な笑みを浮かべてカーシャはそう言うと、リチャードとジョニーと共にヒーロー達の前にまるで謀ったかのように立ちはだかるのだった。


~君、思フガ故~

「はぁ? 悪いけど、俺達はあんたらに付き合っている暇なんてねぇんだよ。だから、あいつらとだけにしてくんないかなぁ?」
「だーめ♪」

カーシャの言葉にライアンは眉を顰めてブルーローズ達の方を指差してそう言った。
そして、そのままその場から離れようとしたライアンに対してカーシャはそう言いつつチャクラムを放ち、それを邪魔した。

「ちっ!」
「悪いけど、ここから先は誰も通すわけにはいかないのよ。そんな事したら、せっかくの計画が台無しになっちゃうもの」
「計画だと……?」
「そうよぅ。〝器〟を監視するっていう重要な使命をあの人があなた一人に任せると思ったの?」
「! ……ちょっと、待ってください」

ライアンとカーシャの会話を聞いたバーナビーは思わず口を挟んだ。

「……貴女、今虎徹さんの事を〝器〟と言いましたよね? それは、一体どういう意味ですか?」
「! …………へぇ。やっぱり、そっちの王子様の方が頭が冴えてらっしゃるのねぇ♪」
「おい……。それ、どういう意味だよ。虎徹はこの街を救う為に命を懸けているんじゃねぇのかよ!」
「そうね。……彼は自分の命を懸ければ、この街の人々全員が救われていると思っているわね。本当の真実を知らないから」
「!!?」

バーナビーの言葉を聞いたカーシャは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに面白いものを見つけたかのように笑ってそう言った。
そして、眉を顰めてそう言ったライアンに対して、カーシャが告げた言葉に皆瞠目する。

「ほっ、本当の真実……だと!? じゃぁ、マークさんが話したあれは……」
「そう。ちょ~っと、真実を捻じ曲げた作り話♪ そうじゃないと、あなたや彼が協力してくれなさそうだったしね」
「!!?」

そう言ったカーシャの言葉にライアンは言葉を失った。

「……これこれ。少しお喋りが過ぎるぞ」
「あら、いいじゃない? どっちにしろ彼らは、〝器〟の彼を止めようとしてるんだから」
「…………貴方達は、虎徹さんに本当は何をさせようとしているんですっ!!」

それまでカーシャの話を黙って聞いていたジョニーがそう言ってカーシャを窘めたが、それに対してカーシャはつまらなそうに言葉を返した。
そんな彼らのやり取りを見て、バーナビーは少し苛立ったように言葉を発した。
あの人は、自分の命を懸けることでこの街の人が救われると思っている。
だが、彼らの口ぶりからしてそれはありえない事だというのがわかる。
そして、彼らがあの人の事を頻りに〝器〟と言っている事がどうしても気になる。
一体、彼らは虎徹さんに何をさせる気なんだ。

「あら? そんなに聞きたいの? だったら、特別に教えてあげるわよ。≪女神伝説≫に隠された哀しき真実と一緒にね♪」

そんなバーナビーを見てカーシャは心底楽しそうにそう言った。

「……彼はね、その血を使って封印されて女神を解き放って、その身に女神を宿すことが出来る唯一の存在なの」

そして、カーシャの口から語られたのは、とんでもない真実だった。





* * *





はるか昔、人々がまだ正義という言葉を知らなかった時代に一人の女神とその弟神がシュテルンビルトの大地に降り立ち、小さな町を創りました。
女神は、少しでも人々の生活が豊かになればと思い、一部の人間に特殊な力を与えました。
しかし、それがきっかけとなり、町の人間達は欲望のままに略奪を繰り返しては、争うようになってしまいました。
女神と弟神は、そんな人々の醜い心を少しでも浄化しようと、人々から溢れ出る負の感情を自身の身体に取り込んで浄化してみるのでしたが、その量はあまりにも膨大でとても追いつくものではありませんでした。
そんな途方もないことを続ける中、二人は一つの希望と出会いました。
二人の行動に心動かされた一人の男が現れ、彼は皆に争いを止めるように呼びかけ始めたのです。
彼の名前は〝タイガ〟といい、彼も女神から特殊な力を授かった人間の一人でした。
彼は、女神から授かった特殊な力――己の血に触れたもののありとあらゆる病気や怪我を治す力を人々を助ける為に惜し気もなく使いました。
その為、彼は自らの力を使い過ぎてよく倒れてしまうのでした。
そんな彼の事を女神と弟神は心配しつつも好意を抱くようになり、彼の身を案じて1匹の蟹を彼の使い魔として与えました。
タイガのような人がもっと増えれば、この町はきっと良くなるだろうという希望を女神と弟神は抱くようになり、より一層人々の心の浄化作業に力を入れるようになりました。
だが、二人の想いとは裏腹に人々の心の闇はどんどん濃くなっていき、それを無理して身体に取り込み過ぎた女神はついに倒れてしまうのでした。
女神は、自らの体を癒す為に一度深い眠りにつくことになりました。
女神が深い眠りについた途端、それまで女神の力で護られていた町は様々な災いが襲うようになりました。
ある時には鋼の剣よりも硬き尖った光の雨が降り注ぎ、ある時には牛や馬が恐れをなして海へと飛び込み、ある時には多くの人々に眠りの病が襲うようになり悪夢に魘される日々が続きました。
このままでは、町そのものが滅んでしまう事を危惧した弟神は女神の病を治す為に一度天界へと戻り、薬を取りに行くことにしました。
しかし、女神が眠りにつくことで起こる災いに苦しむ人々は弟神の帰りを待つ余裕すらありませんでした。
多くの人々がタイガへと救いを求めたのです。
タイガの力をもってすれば、女神の病もきっと治せるはずだと人々は考えたのです。
弟神に女神に対して己の力を使うことを止められていたタイガでしたが、人々が苦しむ姿を目にしてそれを断ることが出来ませんでした。
タイガは使い魔の蟹を残して独り、女神が眠る神殿へと足を運び、女神の病を治す為、己の力を使いました。
その甲斐あって、人々の心の闇に侵されていた女神の身体は見事に浄化され、女神は目を覚ましました。
そして、目覚めた女神が最初に目にしたものは、女神が好きだったタイガの暖かな笑みではなく、血の気がなく冷たくなった変わり果てたタイガの姿でした。
女神の身体を癒す為にタイガは己の力を使い過ぎて、タイガは息を引き取ってしまったのでした。
その真実を知った女神はタイガを喪った事に哀しみ、そして絶望しました。
女神にとって唯一の希望が傲慢な人々によって奪われてた事を……。
そして、もう自分たちが何をやっても人々は変わらないのだという事に対して……。
そんな人々に対して女神は人々の救済を諦め、タイガが夢見ていた〝誰もが笑って生きられる世界〟に創りかえるべく、己の意志に賛同する者のみを残して全てを無に還そうと決意し、己の魂の一部をタイガに宿して町を覆い尽くすほどの暗く深い大穴を開けました。
天界から戻ってきた弟神はその全ての真実を知った上で正義の心を宿しだした一部の勇気ある人々と協力して女神を野望を止めようとしました。
そして、その甲斐もあり、弟神は自ら手を下して女神を封印することに成功しました。
しかし、その代償は大きく、〝神殺し・同族殺し〟の罪を犯した弟神も命を落とすこととなり、人々は完全に力を失うのでした。
弟神はこの悲劇が再び起きぬよう、女神が一目に付かぬところに隠して欲しい事と、封印自体が解けぬように人々が正しい心を持って支えあって生きる事を人々に言い残し、光となって消えました。
その弟神の言葉を受け、人々は女神の身体をこの地の地中深くに隠し、力に頼ることなく正しい心を持ち、支え合って生きるようになりました。
人々がその心を忘れぬ限り、女神が再び目を覚まして世界を創りかえる日は来ないでしょう……。





* * *





「…………それが、《女神伝説》に隠された本当の真実だと言うんですか」
「そうよ。真実というものは、いつの時代も哀しくて残酷なものなの」

カーシャの口から語られた≪女神伝説≫の内容を聞いたバーナビーがそう言った声は、その衝撃からか震えていた。
それを聞いたカーシャは、逆に楽しそうに言葉を返す。

「おいおい……。ちょっと待てよ! それが本当だって言うなら、虎徹の本当の能力ってやつはまさか……!?」
「そう。彼の本当の能力は、伝説に登場するタイガと同じ能力――己の血に触れたもののありとあらゆる病気や怪我を治す力よ。そして、その力が唯一封印された女神を解放する起爆剤になれるのよ」
「! まさか……貴方達の本当の狙いは……!?」
「私達の本当の目的は女神の封印ではなく、女神の解放よぅ♪」
「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」

そう言ったカーシャの言葉にバーナビー達は瞠目した。

「ちょっ……待ちなさいよ! どうして、あんた達は女神を解放されようとするわけ!? 今話した神話が真実なら、そんな事すればどうなるかあんた達だってわかるでしょ!?」
「あぁ。女神を解放すれば、女神は間違いなくこの世界を創りかえるべく動く。そして、多くの人間が死ぬ」
「だったら!!」
「けど、それは一部の人間の話♪」

ブルーローズの言葉を聞いたリチャードはそうあっさりと言った。
それに対してさらにブルーローズが言葉を続けようとしたが、それをカーシャが遮った。

「女神はね、全ての人々を見殺しにするほど残虐じゃないのよ。新たに生まれ変わる世界でも生きるにふさわしい者をこの四十年をかけて選別されてきたのよ」
「その存在が………NEXTだとでも?」
「ご名答♪」

バーナビーの言葉を聞いたカーシャはニッコリと微笑んだ。

「あと数時間もすれば、この世界は女神に選ばれた存在――NEXTだけの世界に生まれ変わるわ。それってとっても素敵だと思わない?」
「ふざけるなっ!!」

そう言ったカーシャに対してライアンが吠える。

「虎徹の命を弄びやがって! 何が女神だよ!!」
「あら? こっちとしては、寧ろ感謝してもらいたいくらいなのよ? 死んでもその身体は女神に使ってもらえるのだから。寧ろ私がそのお役目をしたい位なのに」
「なんだとっ!!」
「ライアン!!」

カーシャの言葉に今にも殴りかかっていきそうなライアンをバーナビーがそう言って静止させる。

「これ以上、彼らの話に付き合っている暇なんて僕達にはありません。……一刻も早く虎徹さんの許に行ってあの人を止めないと」
「そんな事位、ジュニア君に言われなくてもわかってるつーの!」
「だから、行かせないって言ってるでしょ!」

何とかこの場から離れようとする二人に対してカーシャが放ったチャクラムが襲う。
だが――――。

「スカーイハーーーーイ!!」
「っ!!?」

突如、聞こえてきた声と共に辺りに突風が巻き起こり、チャクラムの軌道が逸れる。
それにカーシャは驚いたが、それと同時にブルーローズの攻撃に気付いた為、優雅にそれを避けた。

「バーナビー君! ライアン君! ここは私達に任せて早くワイルド君の許へっ!!」
「! でっ、ですが……!」
「何よ? 私達だけじゃ不安だって言いたいわけ? 私達、これでも一応ヒーローなんですけど」
「そうだとも! だから、バーナビー君達は早くワイルド君の許へ急ぐんだ! そして急ぎたまえっ!!」
「…………わかりました。ここはお任せします!」

スカイハイとブルーローズの言葉に一瞬躊躇ったバーナビーだったが、彼らの事を信じて頷いてそう言った。

「ライアン! 楓ちゃん! 虎徹さんの許に急ぎますよっ!!」
「うっ、うん!」
「おい、待てよ! ジュニア君!!」
「逃がさないって………っ!!」

そう言ってバーナビーは楓の手を掴んで駆け出した。
そして、それに続くかのようにライアンもまた駆け出す。
そんな三人を阻止しようとカーシャ達はしたが、ブルーローズのフリージングリキッドガンがそれを許さなかった。

「何処に行くつもりよ? あんた達の相手はこっちでしょ?」
「ホント、ヒーローに背を向けるだなんて、随分とあたし達の事なめてくれるじゃない?」
「絶対に逃がさないんだから!!」
「フォフォフォ、随分と勇ましい子たちじゃのう。どれ、少し遊んでやろうかの」

ブルーローズ、ファイヤーエンブレム、ドラゴンキッドの言葉を聞いたジョニーは余裕の笑みでそれを迎え撃った。

「これ以上、貴様らの好きにはさせん! ワイルド君も返してもらうぞっと!!」
「さぁ! 覚悟するでござるよ!!」
「そうだぞ! てめぇら何かの企みで虎徹を死なせねぇぞ! ……今、俺の心は相当ロック! お前らの悪事を完全ロックだ!!」
「「「「あっ……」」」」

スカイハイ、折紙サイクロンに続いてそう言ったロックバイソンの言葉を聞いたリチャードを含めた何人かが思わず、声を漏らした。
その何処かで聞いたことのあるフレーズを聞いて……。

「ちょっ、ちょっと! こんな時に人の決め台詞パクらないでよね!!」
「バイソンさん;」
「ござる!!」
「すっ、すまん; つい、興奮しちまって……;」

決め台詞をパクられたブルーローズがそう声を上げると、ドラゴンキッドと折紙サイクロンが同意するかのように深々と頷いた。
それに対してロックバイソンは、申し訳なさそうに頭を掻きながらそう言った。

「…………まぁ、いいわ。二人の王子様とお姫様は、あなた達を倒してから追いかけさせてもらうわよ」
「はあ? 誰があんた達なんかに負けるのよ!」

そのやりとりを見てカーシャは少し呆れつつもそう言葉を返した。
そして、それを聞いたブルーローズは不機嫌そうに眉を顰めるとそう言い放つ。

「やれやれ。年寄りだからと言って舐めてもらっても困るんじゃけどのぅ」
「あぁ。俺達は、他のNEXT達と格が違うんでねぇ」
「そうよ。私達、こう見えてもとっても強いんだから♪」

ジョニー、リチャードがそう言った後に続けてカーシャはそう言うとNEXT能力を発動させ、己の分身を作り出していく。

「…………みんな。速攻で終わらせるわよ!」
「「「「「了解!!」」」」」

ブルーローズの問いかけに他のヒーロー達は力強く頷く。
そして、それが合図となり、彼らの戦闘が始まるのだった。








劇場版-The Rising-のIF小説第2弾の第8話でした!
そんなこんなで今回の話でカーシャ達も絡みだしてさらに事態は大変な方向へと進んでいますが、今回も虎徹さんは全然出てきません!!←おいwwww
じっ、次回はおそらくいっぱい出るはずです!((((;゚Д゚)))))))
そして、何気にカーシャさんに楓ちゃんの事を「お姫様」呼びさせて満足だったりしてます♪


H.26 6/13