「…………ったく……来るなら……もっと早く……来いよな……」
「何言ってるんですか。これでも急いだ方なんですよ」

ダブルチェイサーから降りてこちらに向かってくるバーナビーに対して虎徹はちょっと俯きながらハンチング帽で目を隠しながらそう言った。
バーナビーが来てくれただけでも嬉しいはずなのに、どうしてもそれを素直に言えなかった。
それに対してバーナビーは何処か不満そうにそう言葉を返した。

「それに……別に貴方を心配してきたわけじゃありませんから」
「じゃぁ、あたしの為に来てくれたのね!」
「いえ。貴女がいる事は知りませんでした」
「ゴオーッ!」

そして、素っ気なく言ったバーナビーの右腕にネイサンは抱きつくと嬉しそうにそう言った。
それに対してバーナビーはあっさりとそう言うとネイサンはブタ鼻を鳴らした。
「…………で、犯人は?」
「……逃げられた」
「そうですか……。せっかく、ポイントを稼げると思ったのに……」
「あぁ……そうかよ……」

ネイサンの腕を振りほどきながらそう言ったバーナビーの言葉に虎徹は思わず苦笑した。
そう言いながらもここへ駆けつけてくれたのだから、本当素直じゃないなぁ、バニーちゃんは。
まぁ、そう言う俺も素直じゃねぇけどぁ……。
けど、すごく不思議だ。
さっきまで、すげぇ気を張っていたはずなのに、バニーの顔を見た途端、それが無くなっちまった。
なんか……今、すっげぇ眠い……。

「…………おじさん? ……っ!?」
「タッ、タイガー!?」

虎徹の様子がおかしい事に気付いたバーナビーが問いかけた瞬間、虎徹はバーナビーへと倒れ込んだ。
それに驚きつつも、バーナビーはしっかりと虎徹を受け止めた。
それを見たネイサンはすぐさま虎徹の許へと駆け寄る。

「おじさん! ……おじさんっ!!」

バーナビーがいくら声をかけても虎徹は反応せず、ぐったりとしていた。
そんな虎徹の様子に次第にバーナビーも焦りだす。

「(バーナビー!早くタイガーを中へ!!)」
「! はっ、はい!!」

斎藤の声を聞いたバーナビーは虎徹を抱き抱えるとすぐさまトランスポーターに乗り込むのだった。






〜神様ゲーム〜








「斎藤さん。あの人は……大丈夫ですか?」

バーナビーは虎徹をトランスポーターの奥の部屋へと運ぶと斎藤が処置をするからとバーナビー達を外へと追いやったのだ。
そして、その数分後、斎藤が部屋から出てきたのでバーナビーはすぐさまそう問いかけた。

「(取り敢えずは、応急処置は終わったから、今は眠っているよ)」
「そっ、そうですか……」

斎藤の言葉を聞いてバーナビーは安堵の息をついた。

「(けど、ここだと簡単な処置しかできなかったから、早く病院へ運んだ方がいいぞ。タイガーに投与された薬はかなり強力なものみたいだから、効力を弱めるしかできなったからね)」
「! そっ、そうなんですか」
「(あぁ……。正直、さっきまで意識を保っていたのも不思議なくらいだよ)」
「…………」

自分が想像していた以上に虎徹の様態が悪い事が斎藤の言葉でわかり、バーナビーは返す言葉が見つからなかった。
だが、それと同時に一つの疑問後バーナビーの頭の中に過った。
どうして、あの人は……。

「どうして……あの人は、犯人に気付けなかったんだろう?」
僕と会話をしていたから反応が遅れた?
けど、それにしてもあの反応は鈍すぎる。
あの人は一応十年もヒーローをやっているのだ。
そんな人が仮にもそんなミスをするだろうか……。

「……そうね。いつものタイガーだったら、こんなヘマとかはしないでしょうね。……やっぱり、今日の事、相当凹んでいたのね。あの子」
「? それって……どういう事ですか?」
「今日ね。また、起きたのよ。例の焼死事件が。……しかも、あたし達の目の前でね」
「!!」

ネイサン言葉を聞いたバーナビーは瞠目した。
だが、ネイサンはそれを時に気にすることなく話を続ける。

「……タイガーは、その囚人を助けてあげられなかったことを自分のせいだと思っちゃってるわけ」
「そっ、それは……」
「もちろん、そんなのタイガーのせいなんかじゃないわよ。今日の事件だって、あたし達が刑務所にいる時にたまたま起きただけだし。まぁ、そのおかげで、あたしの疑いは晴れたけどね」
「(…………)」

ネイサンの言葉に斎藤は何か言いたげな表情を浮かべていたが、それを口にすることはなかった。
いや、実際は口にしていたかもしれなかったが、それをバーナビー達は聞き取ることはできなかった。

「でも、それがあの子のいいところでもあって、悪いところでもあるのよね。他人の痛みを自分の痛みのように感じてしまうことが」
「……貴女は、よくわかっているんですね。あの人の事を」
「当たり前でしょ? 伊達に長くあの子と一緒にヒーローをやってたわけじゃないのよ」

確かにそうだ。彼女は、僕なんかよりあの人と共にヒーローをやっているのだ。
だからこそ、彼女はあの人の異変にいち早く気付いてあの人の許へと駆けつける事ができたのだろう。

――――本当、何でもねぇよ。今はちょっと……上手く笑えねぇけど……明日になったら、いつも通り笑うからさぁ。

PDA越しに見たあの人の哀しげな笑みが頭から離れない。
あの時もあの人はきっとこの事を独りで悩んでいたに違いない。
どうして、あの時何か言ってあげられなかったのだろうか。
もっと、早くあの人の異変に僕が気付いていれば……。
そんな事を無意識に考えているバーナビーの手に力が入っている事に気付いていたのは、ネイサンただ一人だけだった。
そして、それに対してネイサンが口を開こうとした瞬間、トランスポーターの奥の部屋の扉が突如開いた。
そして、そこから現れた人物の姿にバーナビー達は瞠目した。

「ちょっ、ちょっと、タイガー! 何、着替えちゃってるのよ!? まだ、寝てないと!!」

そうネイサンが慌てて言うのも無理はない。
バーナビー達がいる部屋に現れた虎徹は、ヒーロースーツに身を包んでいたのだから。

「えっ? 俺なら、もう大丈夫だぞ。斎藤さんが治してくれたし?」
「……貴方、一体そんな恰好で何処に行くつもりですか?」

そんなネイサンに対して虎徹はケロッとした表情でそう言った。
それに対して、バーナビーはそう虎徹に言い放つ。
本当は心配なはずなのに、それが上手く表現できない。

「何処って……アニエスのところだよ」
「アニエスさんの? 何故?」
「さっき、俺を襲った奴。あいつは、こないだの爆弾騒ぎのエレベーターですれ違った奴だよ」
「!!」
「何それ? どういうことよ?」

虎徹の言葉にネイサンは訳が分からないと言った表情を浮かべたが、バーナビーはすべてを理解しような表情を浮かべた。

「じゃぁ、犯人の目的は……」
「そ。おそらく、犯人の目的は爆弾事件の時、自分の顔を見た人間の口封じだよ」
「ええっ!?」

爆弾犯の目的を知ったネイサンは、心底驚いたように声を上げた。

「で、その時一緒にいたのって……」
「ディレクターとカメラマン。そして、プロデューサであるアニエスさんです」
「そうだ。俺の口封じに失敗した奴は、次にアニエス達を狙いに行くはずだ」
「なるほど……」

虎徹の言葉にバーナビーは納得したようにそう言った。

「わかっただろ。だから、早くアニエス達のところに行ってやらねぇと……」
「ちょっと、待ってください」

そんなバーナビーの様子を見た虎徹はさっさとバイクに乗って外に行こうとした。
だが、それをバーナビーが虎徹の腕を掴んで阻止した。

「事情は分かりましたが、だからと言って貴方が動く必要はないはずです。大人しくしててください」
「けっ、けど……」
「そんな身体で一体何ができると言うんですか?」
「だから! もう平気だって言ってるんだろ!!」
「はっきり言って迷惑なんです! 今の貴方は足手まといなんですよっ!!」
「っ!!」

バーナビーの言葉が虎徹に突き刺さり、何も言えなくなった。

「……斎藤さん。トランスポーターをOBCに。アニエスさん達には僕から事情を説明します」
「! 行ってくれるのか、バニー!!」
「別に、誰も行かないとは一言も言ってないでしょうが。ですが、貴方はこの中で待機してもらいますからね。それと、アニエスさん達を保護したら、すぐに病院に行ってもらいますから。わかりましたか?」

そして、次にバーナビーが口から出てきた言葉に虎徹が驚いてそう言うとバーナビーは少し呆れたようにそう言葉を返した。
ただ、それだけのことなのに、虎徹は嬉しさからニッと笑った。

「ありがとうな、バニー!!」
「っ////」

その屈託のない虎徹の笑みにバーナビーは面食らい、思わず目を逸らした。

(なっ、何なんだ、一体……)

たかがおじさんが笑っただけなのに、何故こんなにも僕は動揺しているんだ?
僕は、おじさんのことなんて……。

「? どうかしたのか、バニーちゃん?」
「っ! なっ、なんでもないですよ! それよりも、さっさと貴方はスーツを脱いで休んでくださいっ!!」
「なーに怒ってんだよ? バニーちゃん??」
「別に怒ってなんかいませんよ!あと! 僕はバニーじゃなくて、バーナビーですっ!!」
「やっぱ、怒ってんじゃんかよっ!!」
「怒ってませんっ!!」
(……本当、いつになたら気付くのかしらね。ハンサムは;)

そんなバーナビーの気持ちを知ってか知らずか、虎徹はバーナビーの顔を心配そうに覗き込んだ。
その虎徹の行動にバーナビーは驚き、思わず声を上げる。
そんな二人のやり取りをネイサンは何も言わず、ただ見つめているのだった。





















「……ねぇ、ハンサム。もうちょっと言葉を選んだ方がいいじゃない?」
「はい?」
「あれ、きっとタイガーだから許される感じだったわよ」
「…………あぁ」

OBCに立体駐車場から少し離れた場所にトランスポーターを止めて、バーナビーとファイヤーエンブレムはダブルチェイサーに乗って駐車場へと向かていた。
仮にまたあのパワードスーツと鉢合わせになり戦闘となれば、あのトランスポーターは恰好の的となるだろう。
それをあの人はわかっていないのか、もっと近くまで付いてくと言って聞かなかったのだが、それをバーナビーは一切聞き入れなかったのだ。
ファイヤーエンブレムは、おそらくその時のやり取りのことを言っているのだろう。

「タイガーの事が心配なのはよくわかるけど、もうちょい言い方ってもがあるでしょ?」
「別に、あの人の事なんて心配してませんよ。ただ単に邪魔なだけです」
「本当に?」
「本当ですよ」
「ふーん……」

バーナビーがそう言うのに対してファイヤーエンブレムは何処か疑っているかのようにそう言うと深く息をついた。

「……まぁ、ハンサムがタイガーの事、どう思っているのかは、あたしには関係のない事だけど、一つだけ忠告しておくわ。……タイガーの事、変に傷付けたら、タダじゃおかないから」
「…………」

そう言ったファイヤーエンブレムの声は酷く静かなものだった。
その静かさがファイヤーエンブレムの言葉が決して冗談ではない事を物語っていた。
彼女のこんな顔を見るのは初めてだった。
一体、何が彼女をそこまで思わせるのだろうか……。

「ちょっと! 一体、どういう事よっ!!」
そんな中、一つの甲高い声が辺りに響いた為、バーナビーは視線を変えるとそこには、アニエスの姿があり、こちらへと歩み寄ってくる。

「さっき話していた事は、本当なの? タイガーは無事なわけ!?」
「あっ、はっ、はい……。とりあえず今のところは、大丈夫のようですよ」
「そう。………よかった」

アニエスの勢いにバーナビーは驚きつつも、何とかそう答えると、それを聞いたアニエスは安堵したように息をついた。

「先程お話した通り、犯人は貴女を狙ってくる可能性がありますので、僕らで保護しますよ」
「…………ねぇ、ハンサム。その事なんだけど、何か引っ掛からない?」
「何がですか?」

ファイヤーエンブレムの言葉にバーナビーは不思議そうにそう首を傾げた。

「今回の犯人の目的って、本当に爆弾事件の時に自分の顔を見た人間の口封じなのかしら?」
「それ、どういう意味ですか?」

現にあの人は、犯人の顔を覚えていたのだ。
だからこそ、あの人は犯人に襲われた。
それ以外、犯人の目的など考えられない。
そうバーナビも思ったからこそ、特にあの時の虎徹の言葉に疑問など感じなかったのだ。

「じゃぁ、何で犯人はタイガーをわざわざ薬を使って襲ったのかしら?」
「それは、あの人の動きを確実に封じて襲おうと思ったからでは?」
「だったら、初めからパワードスーツに乗って襲えばよかったんじゃないの? 顔を見られた相手の口封じだったら、その方がリスクが少ない気がするんだけど?」
「あっ……」

確かに言われてみれば、そうかもしれない。
仮に口封じに失敗してもパワドスーツに乗っていれば、また顔を見られるリスクは少なかったはずだ。
そして、その方が成功する可能性も高かったはず。
なのに、犯人は敢えてそれはせずにあの人を薬を使って身動きを封じた。
まるで、初めからそれが狙いだったかのように……。
でも、何の為だ? 一体、何の為にそんな事をする必要があるんだ?
これだとまるで……。

『バーナビー、聞こえるか!!』

バーナビーが一つの思考に辿り着こうとしたその時、スピーカーから斎藤のガナリ声が響いてきた。

「斎藤さん!? どうかしましたか? まだ、おじさんが駄々でもこねて暴れているんですか?」

トランスポーターを出る寸前まで虎徹が駄々をこねていた事を思い出したバーナビーはそう思い、斎藤に尋ねた。

『違う! たった今、トランスポーターがパワードスーツに襲われた! 犯人の目的はやっぱり、タイガーだ!!』

だが、次に聞こえてきた斎藤の言葉にバーナビーは愕然とするのだった。
























神様シリーズ第3章第9話でした!!
すっごい久しぶりの更新になってしましました;
「あぁ!もう!バニーちゃんは一体何をやっているんだよ!!」って叫びたくなる感じで書き上げてましたwwww
虎徹さんに対するバニーちゃんの行動が本当に矛盾してて歯痒いです;(それをやらしているのは、自分ですが;)
さてさて、虎徹さんの危機はまだ去らないようですが、これからどうなる事やら;


H.26 3/15



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