『違う! たった今、トランスポーターがパワードスーツに襲われた! 犯人の目的はやっぱり、タイガーだ!!』

そうスピーカーから聞こえてきた斎藤の言葉にバーナビーは耳を疑うのだった。






〜神様ゲーム〜








「トランスポーターが襲われたってどういう事ですか!? あの人は、無事なんですか!?」
『バーナビー達がトランスポーターから降りて数分経った頃にパワードスーツが襲ってきたんだよ! それを見たタイガーは、バーナビー達と合流しようとトランスポーターから降りてしまった!』
「なんですって!!」
「っ!!」

斎藤の言葉にバーナビーは言葉を失った。
それは、まさに自分が考えていた事と一致してしまったからだ。
だが、それと同時に全ての思考が停止するのを感じた。
ただ、そこにあったのは……。

「…………急がないと」
「? ハンサム……!」

そう静かに呟いたバーナビーの様子がおかしい事に気付いたファイヤーエンブレムが視線を変えた瞬間、バーナビーのヒーロースーツに光が帯びる。

「すみません。ここは任せますっ!!」
「えっ? ちょっ、ちょっと、ハンサム!?」

NEXT能力を発動させるとバーナビーはチェイサーを使う事なく、元来た道へを全速力で戻っていく。
その光景をファイヤーエンブレムは、呆然と見送った。

(……本当に……自覚がないの?)

自覚がなくて、瞬時にあんな行動が取れるのだろうか?
本当は、自分の気持ちに気付いているんじゃないの?
それとも……。

「ちょっと! 何してるのよ! 私達も早くタイガーのところにさっさと行くわよっ! 後、他のヒーロー達も大至急呼ぶから!!」
「えっ? あっ、そうね……」

ファイヤーエンブレムの思考は、アニエスの声で呼び戻された。
とにかく、今心配するとは、ハンサムのタイガーに対する感情ではない。
タイガーの安否である。
そう判断したファイヤーエンブレムは、アニエスと共にバーナビーの後を追いかけるのだった。





















(…………やっと、散ったか)

時を遡る事、数十分前。
トランスポーターに設置させたベッドに横たわる虎徹の近くに一つの人影が現れた。
光を全く通さないような漆黒の長髪に藍色と金色のオッドアイの男が……。
男―――クロノスは、虎徹が一人なるタイミングをずっと待っていた。
別にクロノス本人は、虎徹以外の人間の目の前に現れても何一つ問題ないのだが、虎徹が怒るのだ。
だから、ずっと、このタイミングを狙っていた。

『ったく、どうして、こうも無茶をするかね。うちの虎徹は……;』

もっと、早く我に助けを求めさえすればいいものの、虎徹はそれをしなかった。
今まで、我とゲームをしてきた多くの人間なら、すぐに我に救いを求めてきたというのに……。
本当、理解できない男だ。

『……とにかく、さっさとやるか』

先程、小声の男が虎徹に何やら処置をしていたようだが、所詮は応急処置に過ぎない。
だが、我の手に掛かれば、虎徹に投与された薬の効能を完全に無効化することができる。
そんな事を無断でやれば、また虎徹は怒るだろうが、正直知った事ではない。
今は、緊急事態なのだ。
そう思ったクロノスは、虎徹へと手を翳し、力を込める。
だが……。

――――と・に・か・く! 勝手に怪我治すのは今後は禁止! 次やったら、口もきいてやんねぇし、チャーハンも作ってやんねぇからなっ!!

突如、クロノスの頭に過ったのは、あのときの虎徹の言葉だ。
その言葉がちらついて、集中できず力が定まらない。

(くそっ! 一体、なんだというのだっ!?)

何故、今になってあの言葉を思い出す?
こんなもの、無視すればいいじゃないか?
今は、虎徹を治すことだけに集中しろっ!
虎徹の言葉をなんとか振り払い、再度、意識を集中させようとする。

――――うっせぇ! とにかく、ダメなものはダメだっ!!

「っ!!!!」

その瞬間、虎徹の言葉が頭に響いたかと思ったと同時にクロノスは、激しい頭痛に襲われた。
クロノスはその痛みに堪らず、虎徹に向けていた手を下した。
その途端、あれほどまでに激しく頭痛がしたというのに、それが嘘のように治まるのだった。
その予想だにしなかった事態にクロノスは、瞠目した。

「! ……まっ、まさか……"言霊"だとっ!?」

あの言葉には、それほどまでに力があったというのか!?
馬鹿な!? そんなこと、ありえない!!

「(……タイガー? 起きているのかい?)」
「!!?」

すると、ドアの向こうから人の声が聞こえ、こちらへと気配が近づいてくるのを感じた為、クロノスは慌てて姿を消した。
そして、斎藤が部屋の中に入ったのは、それとほぼ同時だった。

「(? 気のせいだったかい?)」

確かに人の気配を感じたのだったが、目の前の虎徹は眠っていた。
あの気配は、一体なんだったのか?

「…………ん? ……あれ? 斎藤さん? どうしたんっすか? バニー達、もう戻ってきたんですか?」

斎藤の気配を感じ取ったのか、虎徹は重い瞼を開けるとゆっくりと身体を起こして斎藤を見た。
そんな虎徹の問いに斎藤は首を横に振って答えると、虎徹は残念そうな表情を浮かべた。

「そっか……。まだか……」

出来る事なら、爆弾犯に遭遇することなく、戻ってきてくれるといいんだけど……。
そうすれば、あの出来事だって……。

「(……タイガー。少し、いいかい?)」

そんな事を考えているとふと、斎藤の声が聞こえてきたので、虎徹は視線を変えた。
そこにあった斎藤の表情は、何処か真剣なものに見えた。

「(タイガー……。前回の時も爆弾犯に襲われたんだったよね?)」
「あぁ……はい; 前の時もファイヤーエンブレムと別れた途端、パワードスーツに襲われて大変だったんですよ;」
「(…………)」
「どうしたんですか? 斎藤さん??」

虎徹の言葉を聞いた斎藤は、何故か難しい表情を浮かべた。
それが、何故なのか、わからない虎徹は首を傾げる。
別に何もおかしなことは言っていないつもりなんだが……?

「(タイガー。もう一度訊くけど、その時は、"パワードスーツ"を使って襲ってきたんだよね?)」
「そうですけど?」
「(……じゃぁ、やっぱり、前の時は薬を使って襲って来なかったわけだ?)」
「!!?」

斎藤の言葉に虎徹は漸く気付いた。
前回と今回の違いに……。
斎藤さんの言う通りだ。
前回の時は、いきなりパワードスーツで襲われたのだ。
なのに、今回は背後から突如、薬を嗅がされて襲われたのだ。
何故、そのことに今まで気づかなかったのだろうか。
斎藤さんが言いたいことは、つまり……。

「……つまり、斎藤さん、今回の犯人の目的は単なる口封じじゃないって言いたいんですか?」

そう虎徹がそう言うと斎藤は、肯定するかのように頷いた。

「けど、口封じじゃないなら、一体何が目的で俺なんかを襲うんだ?」
「(……それは、やっぱり、タイガーの能力を狙っての犯行じゃないのかい? 何かの拍子にタイガーの能力に気付いてさぁ)」
「そんな……あいつが俺の能力に気付くわけな――」

――――お前なら、この爆弾の時間も自在に操れるんだろ?
――――当たり前だ。私は神だぞ。
――――だったら、俺がここへバニーを連れて戻ってくるまでの間、この爆弾の時間を止めてくれっ!

「………あ゛っ;」

思い出した。
俺はあの時、トキに頼んであの爆弾の時間を止めたのだ。
爆弾犯なら、時限タイマーの時間を正確に把握していてもおかしくはないはずだ。
だから、時間が数分とはいえ、ズレたことに疑問に思われた。
迂闊だった。

「(? タイガー、どうかしたんだ?)」
「いや……。何でもないです;」
「(??)」

頭を抱える虎徹を見た斎藤は、不思議そうにそう尋ねた。
それに対して、虎徹はそう言って苦笑いを浮かべるのだった。

「(……とにかく、このことはバーナビー達にも伝えてなるべく早く戻ってきてもらおう)」

そんな虎徹に対して斎藤は、少し眉を顰めたが、特にその事には触れずにそう言うとバーナビー達と連絡を取る為に部屋を後にしようとした。
そのとき――。

「!!!」

突如、身体が――いや、大地が激しく揺れるのを感じた。

「(! なっ、何だ!?)」
「……どうやら、噂をしてたら、早速来たみたいですよ」

慌てる斎藤に対して、虎徹は落ち着いてそう言うとベッドから降りる。

「(! タッ、タイガー! 一体何をする気だい!?)」
「決まってるでしょ? 俺が囮になるんで、その間に斎藤さんはバニー達を呼んでください」
「(待つんだ、タイガー! いくらなんでも、それは危険すぎる!!)」

斎藤の問いにあっさりとそう言い、そのまま部屋を出ようとした虎徹を斎藤は慌てて引き止める。

「大丈夫ですよ。後少しで能力も回復しますし、仮にも俺、ヒーローですよ?」
「(だが、今のタイガーは、身体が万全じゃない!)」
「それなら、斎藤さんが治してくれたから――」
「(そこが重要なんだ)」

虎徹の言葉をそう言って斎藤は遮った。

「(いいかい、タイガー。ここにあったものでは、単なる応急処置しかできなかったんだ。ここでは、君に盛られた薬の効果を一時的に抑える薬を投与するしかできなかったんだよ)」
「? それって、つまり……?」
「(つまり、その薬が切れたら、またさっきの状態に逆戻りするってことだ)」
「!!?」

予想だにしていなかった斎藤の言葉に虎徹は、思わず息を呑んだが、それでも気持ちは変わらなかった。

「……ってことは、薬が切れて俺が捕まるのが先か、それより先にバニー達と合流できるかって事だけですよね?」
「(! むっ、無茶だ!?)」
「別に無茶じゃないですよ。あいつなら……バニーなら、やってくれますから!」

反対する斎藤に対してそう言うと虎徹は、ニッと笑った。
大丈夫だ。
バニーだったら、きっと駆けつけてくれる。そう、俺は信じてる。

「じゃ! そういうわけだから、斎藤さん。バニーへの連絡、よろしく!!」
「(ちょっ、タイガー!!)」

虎徹はそう言うと斎藤が止める暇など与えることなく、そのまま部屋を飛び出していく。
慌ててそれを止めようと斎藤も部屋を出るが、虎徹はもう既にトランスポーターから降りた後だった。
そして、先程まであんなに揺れていたトランスポーター内は、静寂を取り戻していた。
おそらく、パワードスーツがタイガーを追って行ったからだろう。

(まったく、タイガーは!!)

何故、こうも彼は無茶ばかりするのだろうか。
本当に彼は、自分が狙われているという自覚はあるのだろうか?
疑問だ。
だが、今はそんな事を考えている暇などない。
一刻も早く、このことをバーナビー達に知らせなければ……。
そう思い直した斎藤は、通信機のボタンを操作して、バーナビーに連絡を取るのだった。
























神様シリーズ第3章第10話でした!!
はい。すっごい久しぶりの更新です;ごめんなさいです;
今回は、バニーサイドとタイガーサイドを両方書けて満足してます♪
まだまだ無自覚バニーが発動しておりますが、ファイヤーエンブレムのいうとおり、ここまで来ると本当は気付いているんじゃないかと疑ってしまいますよね;
そして、トキのほうにも予想外な出来事が起こりましたね。
次回で、虎徹さんは無事にバニーちゃんと合流できるのか!こうご期待!!


H.27 2/1



次へ