「おい! 俺は、こっちだぞ!!」

トランスポーターから飛び降りた虎徹の目に映ったのは、例のパワードスーツがトランスポーターを大きく揺さぶっている姿だった。
それを見た虎徹はそう言うと、パワードスーツの意識を自分へと向けさせた。
すると、その声に反応するかのようにパワードスーツはトランスポーターを揺さぶるのをやめると、虎徹へとゆっくり向きを変える。

「捕まえられるもんなら、捕まえてみろよっ!」

虎徹は、敢えて挑発的な言葉をパワードスーツに向かって吠えると、そのまま走り出した。
パワードスーツは、そんな虎徹の姿を追うかのように動き出す。

(よし! 食いついた!!)

後はこのままバニー達と合流するだけ……。
そして、能力が回復さえすれば……。
そんなことを考えながら、虎徹はひたすら走るのだった。






~神様ゲーム~








「はぁ……はぁ……」

どれだけ走っただろうか?
あれからそう長い時間経ったわけではないのに、ひどく息が切れる。
やっぱ、まだ、本調子じゃないせいだろうか?
そして、バニー達すぐに合流できると思っていたのに、バニー達の姿を捉えることすらできていない。
それは、虎徹を狙ってパワードスーツが容赦なく攻撃を仕掛けてくるからだった。
夜中だからと言っても、ここが街中であることには変わりない。
できるだけ市民を巻き込まないようにとパワードスーツの攻撃を避けながら走っていたら、どんどんバニー達から離れていくのがわかる。
おそらく、それがこいつの狙いかもしれないが……。

(…………あと……もう少し……)

走りながら虎徹は腕時計に目を落とし、時間を確認する。
能力が回復するまで、あと1分を切っていた。
それまで逃げ切れば、バニー達と合流できなくても、独りで何とかパワードスーツの動きを止めることができるかもしれない。
そう作戦を考え直した虎徹は、あと数十秒を切ったその時間までパワードスーツから逃げ切る為、パワードスーツが入れそうにない建物と建物の間の脇道へと逃げ込み、そのまま物陰へと身を潜めた。
そして、物音を立てぬよう、静かに時計の針を見つめる。

(あと十秒! 九・八・七・六……っ!!)

ようやく能力が回復すると思ったその瞬間、虎徹の身体に激しい痛みと熱が襲い、体勢を崩した。
それに何とか耐えようと背中を建物に預ける。

「があっ! ……こっ、こんなときに……っ!!」

やっと、能力が回復したっていうのに……。
なんでこのタイミングで斎藤さんが打ってくれた薬の効果が切れるんだよ!

「だあっ!!」

すると、突然、虎徹の背中を預けていた建物が破壊され、その爆風で虎徹は吹き飛ばされる。
虎徹は咄嗟に受け身をとることができたが、薬が切れたせいかすぐに起き上がることができなかった。
だが、それは、薬だけのせいだけではなかった。
虎徹が身体を起こそうとしたその瞬間、虎徹の身体を何かに掴まれたのだ。
そう、それは、紛れもなく、パワードスーツの腕だった。

(しっ、しまった……!)

虎徹は、それから何とか逃れようと踠いてみるが、パワードスーツの腕はビクともしなかった。

「悪いなぁ、タイガー。もう鬼ごっこはここまでだ」
「はぁ……はなせ……よ……」
「そいつは、できない相談だな。なーに、大人しくしてたら、これ以上は何もしないさ。何せ、ボスの命令だからな」
「!!」

爆弾犯の言葉に虎徹は瞠目する。
爆弾犯のボス――つまり、ウロボロスのボスがこの件に関わっているとは思ってもみなかった。
一体、何故……?
だが、そんなことを考えることすら、虎徹にはできなくなっていく。

――――虎徹! 大丈夫かっ!! 虎徹っ!!

頭の遠くのほうから誰かが必死に呼びかけているのが聞こえてくる。
おそらく、この声はトキだろう。

――――虎徹! 早く、我の名を呼んで、助けを求めるんだ! それに、我は応える……。
(なっ、何、言って…るんだよ。そんなこと…でき――)
――――今は、そんなことを言っている場合か!いいから、我の名を呼べっ!!
(…………)

確かに、トキの言う通りだ。
このままだと、マジでマズいことになる。
ここは、諦めてトキに助けを求めるしか……。
そう思っているのに、口が思うように動かない。

――――虎徹! 虎徹っ!!
「…………っ!!」
「!!」

凡人ではまるで聞き取ることができないくらいの声で虎徹が何か言葉を紡ぐ。
その言葉にクロノスが瞠目したのと、パワードスーツの腕が破壊されたのは、ほぼ同時だった。

「……ホント……グッドタイミングだったなぁ。……バニーちゃん!」
「ったく! 貴方っていう人はっ!!」

それをやったのは、他でもないバーナビーだった。
バーナビーは、パワードスーツと虎徹の姿を捉えるや否や何の躊躇いもなく、パワードスーツの腕を破壊し、そのまま虎徹を抱きかかえるのだった。

「どうして、貴方はこうも勝手な行動をするんですか! おかげで余計な時間がかかったじゃないですか!」
「仕方……ねぇ……だろ……。市民を……巻き込むわけには……いかなかったし……」
「…………」

その虎徹の言葉にバーナビーは瞠目する。
この人は、こんな状態になっても人のことばかり考えている。
どうして、そんな風に考えられるのだろうか?
僕が一体、どんな想いでここまでやってきたのか、この人はわかっているのだろうか?

「タイガー!」

それに対してバーナビーが口を開きかけたが、それを遮るかのように一つの声が降ってきた。
それは、アニエスの緊急要請に駆けつけたブルーローズの声だった。
そして、それに続くかのようにファイヤーエンブレム、アニエス、ロックバイソンがバーナビー達へと駆け寄ってくる。

「バーナビー! タイガーは!?」
「ご覧の通り、とりあえずは無事ですが……」

ブルーローズの問いにそう答えたまま、バーナビーはある一点に視線を向ける。
その視線の先をブルーローズの達も追いかけると、そこには片腕を失ったパワードスーツの姿があった。

「あれをどうにかしないと……。アニエスさんと貴女は、この人のことをお願いします」
「えっ? ちょっ、ちょっと! バーナビー!?」

そう言いながら、抱えていた虎徹を一旦地面へと下ろすとバーナビーはパワードスーツへとさっさと向かっていく。
その行動に驚き、ブルーローズは思わず静止の声を上げたが、バーナビーはそれに一切聞く耳を持たなかった。
そんなバーナビーの行動にブルーローズは戸惑いを隠せなかった。
自分たちと向けたあくまでも冷静を装っているように見えたが、違う。
そこには、明らかな怒りがあった。

「…………ん」
「! タイガー! 大丈夫!?」

バーナビーをこのまま引き止めるべきか迷ったが、虎徹が小さく呻いたのを聞いてブルーローズは虎徹へと視線を送ると、身体に異常がないか確かめる。
虎徹の額には汗が滲んでおり、身体も熱が帯びていた。

「すごい汗。それに……熱い」
「おそらく、タイガーに使われた薬の影響かもしれないわ。ブルーローズ」
「はい」

アニエスの言葉にブルーローズは何を言われずとも、NEXT能力を発動させ、氷を生み出すとそれをハンカチで包むと虎徹の額へと乗せた。
これで少しでも虎徹の身体が楽になるといいのだが……。

「……ん。……あれ? なんで……ここは……?」
「タイガー! よかった!! どっか、辛くない?」
「えっ? あっ、あぁ……。ってか、ブルーローズ。……お前、なんで……ここに?」

確か、この事件に関わったのは、俺とバニー、それとファイヤーエンブレムとアニエスの四人だったはず。
なのに、なんでここにブルーローズがいるのか、虎徹にはわからなかった。

「私が呼んだのよ。あんたが襲われてるって聞いたから」
「えっ? そうなのか! ……ありがとうな。心配してくれて」
「べっ、別に! あんたのこと、心配して駆けつけたわけじゃないわよ! 私は……呼ばれたから来ただけだし……」

嘘だ。本当は、心配で心配で堪らず、ここへ駆けつけたくせに。
正直にそのことが言えなかった。

「……そっか。それでも……ありがとなぁ!」
「っ/// ばかっ///」

ブルーローズの言葉に虎徹は、ちょっぴり残念そうな顔をしつつもそう笑って言った。
どうせ、お礼を言ってもらうだったら、捻くれた形ではなく、素直に喜べるようにすればよかった。
自分に心配かけないように無理して笑っている虎徹を見たら余計にそう思ってしまう。

「……そう言えば……バニーは?」
「えっ? バーナビーなら、パワードスーツと……」

虎徹の言葉にブルーローズは、そう言いながら視線を変える。
すると、そこにはパワードスーツから降ろされた爆弾犯らしき男の姿とそれを取り囲むバーナビー、ファイヤーエンブレム、ロックバイソンの姿があった。
だが、どこか様子がおかしい。
バーナビーが爆弾犯に対して何やら乱暴に問い詰めているのを二人が止めているようにブルーローズはには見えた。
でも、一体なんで……。

「……悪ぃ。ブルーローズ、アニエス。あれ、止めてきてくれないか?」

そう見えたのは、ブルーローズだけではなかったらしく、虎徹が申し訳なさそうに二人に頼んだ。

「えっ? でも……」
「俺、今うまく動けないから、あれ止めたくても止められないんだよ。だから……頼むよ」
「……わかったわよ。もう! しょうがないわね!」
「タイガー、無理するんじゃないわよ。いいわね!」
「へいへい」

虎徹の頼みに初めは戸惑った二人だったが、こうもお願いされては、断ることができなかった。
その為、二人は仕方なく、虎徹をその場に残すとバーナビー達の仲裁へと割って入っていく。

「……ちょっと、あんたたち何喧嘩してるのよっ!」

ブルーローズとアニエスは状況から何故か喧嘩へと発展してしまったであろうバーナビーとロックバイソンをファイヤーエンブレムとも協力して引き離す。
二人の介入により、ロックバイソンについては少し落ち着きを取り戻したようだったが、バーナビーについては未だ興奮が冷めないようだった。

「邪魔しないでください。僕は、あいつに訊きたいことが――――!!」

興奮したようにそう言ったバーナビーの言葉が突如止まった。
その不自然さにブルーローズはバーナビーの視線を追いかけると、そこにさっきまでいたはずの爆弾犯の姿がなかった。

「! ……あの人は、何処ですか!?」
「えっ? タイガーなら、あそこで休んで……! いない!?」

バーナビーの言葉にブルーローズは慌てて虎徹がいたところを確認したが、そこにいたはずの虎徹の姿がなかった。
この二つの事実が示す意味は一つしかない……。

「貴女達、何てことしてくれたんですか!」
「うっ、うるさいわね! 大体、あんたたちが喧嘩なんかしなかったら、タイガーに頼まれることも、傍を離れるなかったのよ! こっちは!!」
「なんですか、それ? 大体、こっちは訊きたいことがあっただけなのに、それを邪魔されて困ったのは、こっちの方なんですけど」
「なんだと! 俺が悪いって言いたいのかよっ!」
「それ以外、どう言ったらいいんですか?」
「お前なぁ!!」
「もう! いい加減にしなさいよっ!!」

バーナビー、ブルーローズ、ロックバイソンの言い合いにアニエスが一喝するとその迫力に皆が黙った。

「とにかく! まだ、そんなに遠くには行っていないはずだから、タイガーを捜すわよ!いいわね!!」

アニエスの言葉に皆、頷き虎徹と爆弾犯を捜そうとしたその時、辺りに銃声と声が響いた。
その声は、間違いなく、虎徹の声だ。
そして、その声が聞こえたと思った途端、すぐに別の断末魔の叫びが辺りに木霊す。
その声が聞こえた方向へとバーナビーは、急いで向かうと、そこにいたのは、地面に座り込む虎徹の姿。
そこから少し離れたところで男が、青い炎で焼かれていた。
そして、虎徹の傍にはもう1人誰かいた。
体型からしておそらく男であろう人物の手にはボウガンが握られている。

「っ! あいつっ!!」

その光景から、その人物が爆弾犯を手にかけたのだということを理解したバーナビーは、咆哮を上げながら一気に男へと迫る。
それに気づいた男――ルナティックは、両手に青い炎を宿すとそのまま上空へと逃げていった。

「くそっ!!!」

ルナティックを取り逃がしたバーナビーは、激しく怒りを露わにして叫ぶ。

「…………貴方のせいだ」
「……っ!?」
「貴方があの時、大人しく待っていれば、こんなことにはならなかった。もう少しでウロボロスが何か掴めたのにっ!!」
「…………」

ルナティックを取り逃がした怒りから、バーナビーは、我を忘れ、虎徹の胸倉を掴み上げて心のままに叫ぶ。
それに対して虎徹はただ黙って何も反応しなかった。

「大体、あいつは何で貴方を狙ったんですか? 本当に口封じだけが目的なら、こんなやり方はあり得ないじゃないですか? 貴方、ウロボロスについて何か知っているんじゃないんですか!?」
「…………」
「答えろっ!!!」
「ちょっと! 何やってるのよ!!」

あくまでも無言を貫く虎徹にバーナビーはさらに口を荒げる。
胸倉を掴む手の力も自然と強くなっていることに気づかなかった。
それをバーナビーの後からやってきたブルーローズ達は、その光景を見るや否やすぐさまバーナビーから虎徹を引き離した。

「おい。バーナビー! 少しは、落ち着けよ!」
「これ落ち着いていられるか! こっちは――」
「あんた、タイガーの状態を見ても、そう言うつもり?」
「!?」

その静かなファイヤーエンブレムの言葉にバーナビーは漸く我に返る。
そして、今はロックバイソンの腕に支えられている虎徹の姿を見て愕然とした。
虎徹は、バーナビーが乱暴に問い詰めたせいもあるのか酷くぐったりとしていた。

(僕は……何を……)

僕は、一体何をやっているんだ?
今、すべきことは、この人の保護なのに……。
それなのに、僕は……。

「…………ごめんな、バニー……」
「!!」

酷く弱々しい声でそう言った虎徹の言葉にバーナビーは瞠目する。

「……俺なりに頑張ったつもりだったんだけど……やっぱ……ダメだったわ。ごめんな」
「………」

違う。そうじゃない。
この人は悪くない。
本当に悪いのは、怒りに任せて行動していた僕の方だ。
そう、わかっているのに、言葉が出てこない。
どうして、僕は……。

「っ!!」
「! おい! 虎徹! しっかりしろっ!!」
「今すぐタイガーを病院に連れて行くわよ! それと、警察を呼んで今すぐ現場検証してもらうから二手に分かれるわよ。バーナビー。……あなたは、こっちよ。いいわね?」
「…………はい。わかりました」

虎徹が突如呻き声をあげて体勢を崩したので、それを慌ててロックバイソンが支え直す。
虎徹の様態を見たアニエスはそう的確に指示を出す。
その言葉にバーナビーはただ従うしかなかったのだった。
























神様シリーズ第3章第11話でした!!
すっごい久しぶりの更新になってしましました;
それにしても、予想以上に虎徹さんが可哀そうなことになってきました。。。
そして、バニーちゃん。だいぶ暴走してますね。
これで兎虎になるのか、全税想像がつかないや(おいwww)


H.29 11/4



次へ