『虎徹! 大丈夫かっ!?』 虎徹の姿を見た瞬間、クロノスは愕然とした。 今、目の前にいる虎徹は、本当に苦しそうな表情を浮かべ、息も上がっていた。 自分と別れる前はそんな様子などなかったというのに、あの短い間で一体何が起こったというのだ? 前回の時は、こんな事は起こらなかったはずなのに……。 だが、そんな事は今はどうでもよかった。 一刻も早く虎徹を助けなればという気持ちでいっぱいだった。 『待ってろ。今楽に…………!』 クロノスはすぐさま虎徹を治療しようと虎徹の前に膝を付くと虎徹に手を翳そうとした。 だが、それを遮ったのは、他でもない虎徹本人だった。 〜神様ゲーム〜 「……悪ぃ、トキ。俺の事は……いいから……ファイヤーエンブレムを……フォローしてやって……くれねぇか?」 『! 何を言ってるんだ! こんな状態のお前を放ってそんな事できるわけないだろうっ!?』 己の手を掴み、そう訴える虎徹の言葉にクロノスは瞠目する。 あの炎姐のフォローをするのだって、虎徹の治療してからだって遅くはないはずだというのに……。 「頼む……トキ……」 『…………』 なのに、何故だ? 何故、自分はそれを強行できない? 虎徹の手を振り払えばいいだけの事なのに……。 自分の手を掴む虎徹の力はとても弱々しく意図もあっさりと振り払う事はできるはずなのに……。 なのに、できなかった。 あの美しい琥珀の瞳にジッと見つめられたから……。 『…………わかった。だが、奴の動きを止めるだけだからな』 「……サンキューな……トキ」 虎徹の言葉を聞くとクロノスは具現化を解除するとゆっくりとパワードスーツへと近づいて行った。 (できる事なら、この男を今すぐ殺してしまいたい……) 自分が少し虎徹から離れた隙に奴はとんでもない事をやらかしてくれたのだ。 だが、それは虎徹が決して望まない事でもあるので実際には殺らないし、殺れない。 あの男は、ルナティックによってこの世から葬られる天命なのだから………。 なら、私がやる事はただ一つだ。 あの男の動きを止めて捕まえる手助けをする。 そして、その後にゆっくりと虎徹を治療してやればいいのだ。 そう冷静になって思い直したクロノスは、金色の左眼を怪しげに光らせ、力を発動させるのだった。 この世で一番嫌いなものは何かと訊かれたら、それはあたし自身。 ヒーローとしてデビューする前のあたしだったらそう迷うことなく答えていたでしょうね。 化粧や衣服でいくら女性のように着飾ってみてもやっぱり男であることには変わりがないの。 そして、何よりも周囲の人々があたしに向ける眼差しが更にそう思わせたの。 そこあるのは、まるで化け物を見るような畏怖と嫌悪の眼差しだった。 それは、あたしがオカマであり、NEXTでもあったからでしょうね。 どうして、あたしは女に産まれなかったのだろうか? どうして、あたしはNEXTなんかになってしまったのだろうか? そんな、いくら考えても答えが出ない事に今までどれだけ悩んできたことだろうか……。 だから、それを少しでも忘れる為にも仕事に打ち込むしかなかったの。 そのおかげか、会社は今や7大企業の1つと言われるまでに成長したけど、それでも不安な事には変わりなかったの。 だから、少しでも自分の企業のアピールになればと思ってヒーローになる事を決めたの。 そうすれば、少しでも周囲の視線が変わるのではないかと思って……。 「何故、オーナがヒーローをやる必要があるのですか?」 「オーナがやらなくても、司法局の認可の降りたNEXTと契約すれば済む話じゃないですか?」 「ヒーローをやって、今の仕事が疎かになってもらっては困ります」 けど、ヒーローになる事を告げた時の会社の重役達の反応と言ったらとても冷たかったわ。 彼らは、あたしの仕事が滞る事を本当に危惧しているわけではなかった。 彼らが本当に危惧している事は、ヘリオスエナジーのオーナーがNEXTであり、尚且つオカマである事が世間にバレる事なのだ。 誰もその事を直接は口にしないけど、彼らが醸し出す空気や眼差しだけであたしはそれを理解したわ。 「あたしを凌ぐNEXTなんて今から探してもそうはいないわよ。大丈夫、こっちの仕事も絶対に疎かになんかにしませんから」 そんな彼らにそう言って黙らせたあたしはヒーローをすることになった。 あれだけの大口を叩いたのだから、仕事は絶対に完璧にこなして見せる。 そして、ヒーロー稼業もそれは同じ。 必ずキング・オブ・ヒーロー、いや、クイーン・オブ・ヒーローになってやるとそう意気込んでいたの。 「よぅ! おつかれさん♪」 そう、彼に逢うまでは……。 ヒーローとして初出動を無事に終えた直後に彼はそう言ってあたしの許へ歩み寄って来たのだ。 その屈託のない笑みを見た時と、正直あたしは面を喰らってしまったわ。 こんな笑みを向けられた事なんて今までに一度だってなかったから……。 「すっげぇなぁ、お前! 今日が初出動だってのに、大活躍だったじゃんかよ!!」 「は、はぁ……;」 「なぁなぁ、お前、この後暇? よかったら、ヒーローデビューしたお祝いを兼ねて俺らと飲みに行かねぇか?」 「!?」 「おっ、おい、ちょっと待てよ、タイガー!!」 彼のペースに巻き込まれつつ何とか返事をすると、彼から思ってもみない言葉が返ってきたので、更に言葉を失ってしまった。 だが、それを聞いて驚いたのはあたしだけじゃなく、彼の隣で話を聞いていたヒーローの男もだったようでそう声を上げた。 「今日は俺と二人で飲む約束だっただろ!」 「え〜っ? いいじゃんかよ、別に! こういうのは、大勢の方が楽しいだろ?」 「けっ、けどさぁ……こいつは……」 「? なんだよ……?」 そう言う彼に対して男はあたしに視線を向けて明らかに困惑した様な態度をとった。 それに対して彼は不思議そうに首を傾げたが、その原因が何なのかあたしには痛いくらいよく理解できた。 「……悪かったわね。あたしがオカマで」 「っ!!」 そして、あたしがそう言うと男は図星とばかりに狼狽えた。 わかっていた。それが、普通の反応だって事くらいは……。 そんな反応を今まで何度も見て来たのだから……。 だが、 「……はあ? なーに言ってんだよ、お前ら?」 「えっ?」 そう思っていたのに、彼はあたしが予想していたものとは全く異なる反応をしたの。 その時の彼の顔は本当に不思議そうな表情だった事を今でもはっきりと覚えているわ。 「男だろうと、女だろうと、ましてやオカマだろうと、んなもん全然関係ねぇだろ? 市民を守りたいっていう気持ちがあればよ!」 「っ!!」 その屈託のない笑みにあたしは息を呑んだ。 こんな笑みを向けられたのは、生まれて初めてだった。 「それにさぁ、あんな綺麗な炎操れる奴が、悪い奴なわけねぇしな♪」 「あたしの炎が……綺麗?」 「おう! まるで、本当に火の鳥が飛んでるみたいだったぞ!!」 初めてだった。あたしの炎を見て綺麗だって言われたのは……。 あたしの炎を見れば、誰もが怖がると思っていたのに……。 「だっ! とにかく! これ、これの連絡先渡しとくから、暇なら来いよ! じゃぁな!!」 「おっ、おい!待てよ! タイガー!!」 呆然と立ち尽くしているあたしに対して彼はとびっきりの笑みを浮かべながら、あたしに一枚の紙を手渡すとそのままその場を去って行ってしまった。 その後をもう一人の男が驚いたように追いかけていくのを見送った後、あたしはその紙を眺めて、気が付いたら口にしていた。 そこに記されていた彼の名前を……。 「鏑木・T・虎徹………」 そう。これがあたしとタイガーの最初の出逢いだった。 あの時タイガーと出逢っていなければ、今のあたしはいなかったでしょうね。 タイガーと出逢ったから、あたしは今のあたしを好きになる事ができたの。 だから、あたしにとってタイガーは特別な存在。 何があっても守りたい存在なの。 彼があの時のあたしに笑いかけてくれたあの笑顔を守りたいの。 それなのに、今はあたしのせいでタイガーは苦しんでいるの。 これ以上、タイガーに無理させるわけにはいかないわ。 何が何でも、あたしがタイガーを守らなければ……。 けど、一体どうすればいいのだろうか? あのパワードスーツの炎の威力はあたしの炎より強い。 せめて、動きさえ止められれば、あれを焼き払ってやれるのに……。 そうネイサンが考えた瞬間だった。 (! なっ、なに……この感じ……!!) それは、突然襲ってきた感覚だった。 背筋が凍りつくようなその感覚が身体の自由を奪った。 それは、まるで金縛りにあったような感じだ。 そして、その感覚に囚われたのはネイサンだけではなく、あのパワードスーツを操る男もだったらしく、動きがピタリと止まった。 (いっ、一体何が……?) 「ネイサン! 今だっ!!」 「!!」 すると、突如背後から聞こえてきた声でネイサンは我に返り、先程まで上手く動かせなかった身体が嘘のように動き出した。 「ファーーイヤーーーッ!!」 そして、透かさずNEXT能力を発動させ、炎を放つ。 狙うはもちろん、火炎放射器の結合部。 そこを集中的に炎を当てて溶かし、見事にパワードスーツから火炎放射器を脱落させた。 「さぁ! 大人しくしてもうらうわよっ!!」 『ちっ……!』 そうネイサンが言った直後にパワードスーツから男の悔しがる声と何処からともなくサイレンが響いたのはほぼ同時だった。 その方向に虎徹は視線を向けると道路の向こうからサイドカーに跨ってこっちに近づいてくるバーナビーの姿を捉えた。 その後ろには、あの時と同じようにトランスポーターもある。 「あいつ……」 『くそっ! さすがに分が悪いか……』 バーナビーの姿を見た虎徹の表情は自然と綻んでいた。 そして、その直後、爆弾犯の声が聞こえてきたかと思った瞬間、パワードスーツから閃光弾が発射された。 「待っ、待て! ……くっ!!」 それを見た虎徹は止めようとしたが、それより速く閃光弾が炸裂し、光が周囲を包み込んでいく。 虎徹はあの時と同じように光から目を庇う為、顔を背ける。 そして、光が収まった頃再び虎徹が顔を上げると、もうそこにはパワードスーツの姿は何処にもないのだった。 神様シリーズ第3章第8話でした!! 今回は主にネイサンの視点で書いてみましたっ!! そして、ネイサンは完全にライジングの影響を受けておりますっ!! そして、最後の最期で漸くバニーちゃんの登場!!遅いよ、バニーちゃん!! さてさて、これからどうするべきか……。 H.26 4/11 次へ |