(……ったく、私は一体、何をしているんだか……)

虎徹と別れたクロノスは独り、虎徹に言ってしまった事を思いだし、落ち込んでいた。
本当は虎徹にあんな事を言うつもりなんてなかった。
だが、虎徹のあんな姿を見ていたら、そう声を掛けずにはいられなかったのだ。
赤の他人についてまで自分のせいだと心の底から悔み、哀しんでいる姿を見たら……。
あのまま責め続けていたら、虎徹の心が壊れてしまうような気がしてならなかったのだ。
虎徹は、今までこのゲームに挑んできた者達とは明らかに異質だ。
あいつらは、自らの私利私欲の為だけに己の運命を変えようとしていた。
だが、虎徹な己の為ではなく、他の人の為に己の運命を、他の人の運命をも変えようとしているのだ。
だからこそ、他の者達とは比べ物にならないくらいに強大な壁にぶち当たる。
このままゲームを続けていれば、心が壊れてしまうのは間違いないだろう。
虎徹の心を壊したくない。
壊れて欲しくないからこそ早く諦めて欲しいのだ。
さて、これからどうしたものか……。

(…………それにしても、さっきから感じるこの違和感は何だ?)

クロノスは、先程から妙な違和感を感じていた。
それは、虎徹と別れる前からずっとの事だ。
今回は以前とは何かが違う。
それは、虎徹が酷く落ち込んでいる事だと思っていたのだが、それだけではない事に今気付いた。

(…………何故、あのパワードスーツが現れないのだ?)

そうだ。私が見た虎徹の記憶では、炎姐と別れた直後に虎徹はパワードスーツに襲われたはずだ。
なのに、今回に限ってそれがないどころか、パワードスーツの姿すら見かけない。
この小さな矛盾が何故か妙に引っ掛かる。

――――…………っ!!
『!!?』

突如、クロノスの耳に届いたのは、何処からともなく声にならない声。
それは紛れもなく、虎徹の声であることをクロノスはすぐに理解した。

『虎徹っ!!』

虎徹の危機を感じ取ったクロノスは、すぐさま虎徹の許へと急ぐのだった。






〜神様ゲーム〜








(はぁ〜。……僕は一体、何やっているんだ……)

一人自宅へと戻り、部屋へと入ったバーナビーは深く溜め息をついた。
そして、自分の手元へと目を向けるとそこには、一冊の写真集があった。
それは、あの男の写真集だ。
この中を見た瞬間、まるで雷に打たれたような衝撃が走り、気が付いた時にはこの写真集の持ち主に譲ってもらえないかと交渉していた。
何故、こんな事をしてしまったのか僕自身よくわからなかった。
こんなものを何故欲しいと思ってしまったのだろうか?

『……そんなの君自身が一番よくわかっている事でしょ?』
「!!」

すると、バーナビーしかいないこの部屋に一つの幼い声が響いた。
その声にバーナビーは視線を変えると、そこには幼い頃の僕が立っていた。
またかと、そう思ったバーナビーは溜め息をつく。

「…………いい加減、僕の前に姿を現すのは、やめてもらえませんか?」
『やめないよ。君が自分の気持ちに正直になるまではね』

そう言った子供の僕の言葉にバーナビーは怪訝そうに眉を顰めた。

「……それは、前にもはっきりと言ったはずです。僕はあの男の事が、嫌いだと」
『本当に? その写真集まで手に入れたのに?』
「こっ、これはちょっとした興味本位で…………」
『あの人のムービーもパソコンに保存しているのに? それって矛盾していない?』
「…………」
『……ねぇ、何でそこまで自分の気持ちを偽るの? 君にとって、あの人は――』
「黙れっ!!!」

バーナビーはそう一喝すると、子供のバーナビーを睨みつけた。

「今すぐ僕の目の前から消えろ。さもないと、その口が二度と利けなくなりますよ」
『…………弱虫』

バーナビーの言葉に彼はそうボソッと言うと、すうっとその場から姿を消した。

(何なんだ、一体!!)

あの亡霊はこうやって僕の目の前に時々現れてはそう言って消えるのだ。
一体、何の為にあれがそんな事をするのかわからなかった。
だが、それもこれも全部あの男のせいだろう。
あの男と出遭ってから、僕の人生は滅茶苦茶だ。
本当に腹が立つ。

(…………? 何だ?)

ふと、バーナビーは自分の携帯電話に違和感を感じた。
今日はあまり弄っていなかったが、間違いなく待ち受け画面にしていたはずのそれは、電話帳の画面を開いていたのだ。
そして、その画面の内容は……。

「! あの人……! 人の携帯を勝手に!!」

それは、あの男のもので、しかもプロフィール画像にはなんともふざけたような表情をしたあの男の写真へと差し替えられていたのだ。
勿論、僕はそんな操作をした覚えなどまるでない。
あの時だ。今日、撮影をしていた時にあの男は変に企んだような表情を浮かべていた。
これをその時に仕込んだに違いない。

「人の物を勝手に触るなんて、ありえないっ!!」

先程の件もありバーナビーは、一言文句を言わなければ気が済まなくなった。
バーナビーは、すぐさまPDAを操作するととある人物へと通信を繋ぎ始める。
だが、それはなかなか繋がらなかった。
それだけでも、バーナビーのイライラは募っていく。
そして、諦めかけたその時、漸く通信が繋がりあの男の顔が浮かび上がった。

「……ちょっと、僕を待たせるなんて、貴方は何回僕の時間を無駄にすれば気が済むんですか」
『あ〜〜〜、悪ぃ。ちょっと、立て込んでてな』

バーナビーがそう文句を言うと、男――虎徹は、苦笑してそう答えた。

(あれ? 何だ……?)

それを聞いたバーナビーは少し違和感を覚えた。
何かがおかしいと感じるのに、それが何なのかすぐに答えが出なかった。

『それにしても、どうしたんだよ? バニーちゃんから連絡くれるなんて珍しいじゃん?』
「…………貴方、僕の携帯に悪戯しましたよね? 金輪際、こういうくだらない事はやめてください」
『…………あ〜〜、そう言えば……そんな事した様な。…………悪かったなぁ……』
「…………」
(何だ。さっきから感じるこの違和感は……)

これはいつもと何だか変わらない会話のはずなのに、何かがおかしい。
どうしてだ? どうして、この人は……。

「……おじさん。……何かありましたか?」
『へぇ? べっ、別に……何もねぇけど?』
「本当に……ですか? 今の貴方、無理して笑っているように見えますが?」
『!!』

そう何気なく口にしたバーナビーの言葉に虎徹の表情は一変した。
それを見て、さっきから感じていた違和感がやはりこれだった事に改めてバーナビーは気付いた。
そして、虎徹は少し自嘲めいた笑みを浮かべた。

『…………本当、情けねぇな、俺って』
「おじさん……?」
『本当、何でもねぇよ。今はちょっと……上手く笑えねぇけど……明日になったら、いつも通り笑うからさぁ』
「…………」

その何とも哀しげなに笑う虎徹に対してバーナビーは何も言えなくなった。
違う。これじゃない。
僕が見たいと思ったのは、こんな顔じゃない。
いつものように人懐っこいようなあの笑顔が見たいのだ。
なのに、どうしてこの人はこんなにも哀しんでいるんだ?
その事を僕にどうして話してくれないんだ?
その哀しみをどうしたら取り除くことが出来るだろうか?
どうしたらこの人は……。

「…………あの……おじ……! おじさん! 後ろっ!!」

何かを言わなければと口を開いた瞬間、バーナビーの目に飛び込んできたのは、虎徹の背後から現れた黒い影。
その黒い影の手が虎徹へと忍び寄るのが見えたので、バーナビーは思わず叫んだ。

『えっ? …………がぁっ!!』

バーナビーの声に虎徹は、不思議そうに振り返った瞬間、黒い手が虎徹へと飛び、虎徹が近くの建物の壁へとぶつかる。
そして、その直後にその黒い手が虎徹の口を塞いだのがバーナビーの目に飛び込んできた。

「おじさんっ! ……くそっ!!」

それを見たバーナビーは、すぐさま自宅を飛び出し、斎藤へと通信を繋いだ。

『(どうしたんだい、バーナビー? こんな時間に連絡なんて……)』
「詳しいことを説明している時間はありません! とにかく、トランスポーターをブロンズステージへ向かわせてくださいっ! あの人が大変なんですっ!!」
『(! わかった。今すぐ、出動させよう)』

その只ならぬバーナビーの様子に斎藤は、すぐさま状況を理解したようにそう言った。

「お願いします。僕もすぐそちらに向かいます」

そうバーナビーは言うとすぐさま通信を切り、バイクに跨がるとアクセルを全開に回して発進させた。
何故、虎徹の事でこんなにも取り乱しているのか今のバーナビーにはわからないばかりか、それを考える余裕すらないのだった。





















(……くっそ……。これ、マジで……やべぇ……)

意識が朦朧とする中、虎徹はそう思考巡らせていた。
突如、背後から何者かに殴られた虎徹は、その衝撃で近くの建物の壁に激突した。
すぐさま体勢を立て直そうと振り返ろうとしたが、それより早く背後から伸びた黒い手が虎徹の身体を壁へと押さえつけ、もう片方の手で口を塞がれたのだった。
なんとかその手から逃れようともがいてみるが、何故かうまく力が入らずビクともしなかった。
虎徹の口を塞ぐのに使われているハンカチに薬が仕込まれているのか、酷い眠気と怠さに襲われたからだった。
このままだと、いつまで意識を保ってられるかわからないほど、本当にやばいと感じた。

「…………よぉ。久しぶりだなぁ。ワイルドタイガー?」
「!?」

声が聞こえた方向に虎徹は何とか視線だけを向けると、そこには見覚えのある顔があった。
それは、この前の爆弾事件の犯人だ。
虎徹は、この時漸く思い出した。
あの時、ネイサンと別れた直後にこいつに襲われた事を……。

「あの時は随分世話になったなぁ。おかげで、こっちはとんだとばっちりを受ける羽目になったんだ。そのお礼はたっぷりさせてもらわなくちゃなぁ?」
「…………っ!」

爆弾犯の言葉を聞いた虎徹は、本能的にやばいと感じた。
このままだと、間違いなく口封じの為に殺されると……。
この状況をなんと回避しなければ……。

「さてと、どう料理してやろうか…………だあっ!」
「っ!!」

爆弾犯が虎徹へと顔を近づけた瞬間、虎徹は己の口を塞いでいた爆弾犯の手を思いっきり噛んだ。
その予期せぬ虎徹の行動に爆弾犯は驚き、思わず虎徹から手を放した。
爆弾犯の手から逃れた虎徹は、なんとかその場から離れようとするが、薬の影響か思うように身体を動かせず、その場に崩れるように座り込んだ。

(やべぇ……。身体がやっぱ全然いう事をきかねぇ……)
「……っ! このぉ!!」
「があっ!」

それに激怒した爆弾犯は虎徹へと思いっきり蹴りを入れ、身体の自由がきかない虎徹はそれをもろに受けた。
その衝撃で虎徹は壁へと預けていた上半身が地面へと叩き付けられ、意識が飛びそうになったが何とかそれを保ち、爆弾犯を睨み付けた。
それを見た爆弾犯は、余裕めいた笑みを浮かべた。

「なんだ? お前、俺の事誘ってんのか?」
「っ! ちっ、ちが……っ!!」

爆弾犯の言葉に虎徹はそれを否定しようとそう口にしながら、起き上がろうとする。
だが、それを阻止するかのように爆弾犯が虎徹の肩を踏みつけた為、虎徹の表情が苦痛で歪んだ。

「いいなぁ、その表情。マジでそそるわ」
「っ! はっ、はな……せ……っ!」

それから逃れようと虎徹は必死にもがいてみるが、薬のせいかうまく身体が動かせずビクともしなかった。
そんな虎徹の様子を見て、爆弾犯はまるで面白い玩具を見つけたかのように嗤った。

(くそぅ……。どうする……?)

この最悪の状況を回避するのに虎徹は、一つの方法を頭に思い浮かべていた。
だが、それはなるべく使いたくない方法だ。
何故ならそれは、能力を発動させる事だからだ。
この能力をうまく使えば、薬の能力を無効化することだってできるだろう。
けど、俺は決めているのだ。この能力は、誰かを助ける為に使うと……。

「……そういやぁ、お前能力使わねぇんだなぁ? その方が楽なのに」

すると、まるで虎徹が今考えていたことがわかったかのように上から爆弾犯の声が降ってきた。

(なんだ……?)

何で、こいつはこんな事を敢えて言う?
俺に能力を使われたら困るのは、こいつのはずなのに……?
なのに何故、それを促すような事を敢えて言うんだ?
まるで、それが目的みたいな……。

(まさか……!)
「……わっ、悪ぃけど、そんな挑発に乗って能力を使うほど俺は軟じゃねぇんだよ」

爆弾犯の真意を察した虎徹は彼を睨み付けるとそう言った。

「それに……俺は人助けの為にしか能力は使わねぇって決めてるんだよ」
「そいつは、随分ご立派な信念なこって。けど、そのせいで自分がピンチになってるのもどうかと思うがな?」
「うっ……うるせぇよ。て……てめぇなんかの相手に……いちいち使ってられるかよ」
「へぇ〜。……その強がりいつまで続くか楽しみ――っ!!」

虎徹の言葉に爆弾犯は余裕の笑みを浮かべながら虎徹のシャツへと手をかけたその時だった。
その瞬間、何かを感じ取ったのか爆弾犯はその場から離れた。
すると、先程まで爆弾犯がいた場所が夜だというのにパッと明るくなる。

(? ……なんだ?)
「お゛おいっ! 何してくれてんだあっ!!」
「!!」

何が起こったのか状況が掴めないでいた虎徹だったが、その後すぐに聞こえたドスの利いた太い声で全てを理解した。
瞳だけを動かしてその声が聞こえた方へ虎徹は視線を変えるとそこにはよく知る人物が立っており、何故かその人物は息を切らしていた。

「…………何処の誰だか知らねぇが、あたしのタイガーに手ぇ出して、唯で済むと思ってんのかぁ! ごお゛お゛おぉぉぉら゛あ゛ああぁぁぁっ!!!」
「ファイ……ネイサン……」

そして、その人物の名を虎徹は静かに呟くのだった。
























神様シリーズ第3章第6話でした!!
前回の虎徹さんが襲われた際のバニーちゃんサイドの方も書いてみましたwww
相変わらず、バニーちゃんには子バニーの亡霊が付き纏っているようです。
そして、虎徹さんのピンチに最初に駆け付けたのは、やっぱりこの人でした♪
さぁ、次はクロノスか?バニーちゃんどっちだろうか??(●´艸`)


H.26 1/3



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