「もう、何で明日もやんのよぉ……。データ不十分って信じらない! お陰でヒーローTV禁止って、もうぉ!」 刑務所内のグランドと金網越しに仕切られた通路を歩きながらそうネイサンは叫んだ。 その刑務所のグランドでは、サッカーをしている受刑者達の姿ある。 「仕方ないじゃない。今回用意した機材だけだと、上手くデータ解析できなかったわけだし……」 それを聞いたアニエスは、そうネイサンに言った。 こっちとしても、ファイヤーエンブレムがヒーローTVに出られないのはかなり痛手なのだ。 なんとしてでも、彼女の誤解をはらさなければ……。 「…………でも、犯人は本当にNEXTなのかなぁ?」 「そっ、それは……」 「だって、あたしより強い火を扱えるNEXTなんていないわよ。きっと」 「…………」 確かに、彼女の言う通りかもしれない。 だが、それでは実際に困るのだ。 そうでなくとも、今ファイヤーエンブレムに容疑が掛かっているのだ。 他に該当者がいなければ……。 「とにかく、明日もやるわよ! って事だから、明日もお願いね、タイ――」 そう言ってアニエスは、虎徹がいるであろう方向へ視線を向けた。 だが、そこに虎徹の姿は、何処にもなかったのだった。 〜神様ゲーム〜 「はぁ……。なんとか、間に合ったか……」 刑務所のとある建物の屋上へと上がってきた虎徹は、そう言うと息をついた。 アニエス達に気付かれる事なく、ここまで急いでやって来たのだ。 それもこれもこの後に起こるルナティックによる受刑者殺しを防ぐためだ。 上がった息を整えると虎徹は屋上の入り口に身を潜めてルナティックが現れるのを待った。 ――――本当にここにあいつが来るのか? (あぁ、間違いねぇよ。あの時、この屋上から気配を感じたんだからなぁ) あの時、グランドにいた俺は気配を確かに感じ、この屋上に人影を見た事を覚えている。 あれは、間違いなくルナティックだ。 ――――間違いないって……って、ちゃんと姿を見たわけじゃないんだろ? 気のせいじゃなかったのか? (だああぁっ! あれは、気のせいなんかじゃな……!) クロノスの言葉に虎徹が、そう返したその時だった。 突如、屋上に一つの人影が何処からともなく舞い降りてきた。 白いマントに身を包んだその人物は決して天使ではない。 奴、ルナティックだ。 ――――すげぇなぁ。本当に現れたなぁ……。 (だから、言っただろうっ! さてと行くか……) 『! おっ、おい、虎徹! どうするつもりだよっ!!』 そう言って屋上に出ようとした虎徹に対してクロノスは、慌てて具現化するとその前に立ちはだかった。 「決まってるだろがっ! あいつを止めるんだよっ!!」 『…………お前、それ本気で言っているのか?』 虎徹の言葉を聞いたクロノスは眉を顰めた。 『こんなことぐらいで、本気で人の運命を変えられるとでも思っているのか? お前一人が動いたところでそう簡単に人の運命は変えられはしないんだぞ』 「…………だから、このまま黙って見てとって、お前は言うのか?」 『それがあの人間の天命なら、仕方のない事だ』 「ふざけるなよっ!!!」 そう言ったクロノスに対して虎徹は声を張った。 「天命だから、運命だから仕方ないから諦めろだって? そんな事、できるわけねぇだろっ! 俺は、ヒーローだっ! 目の前に助かるかもしれない命を放っておけねぇっ!!」 『だが、お前が動いたところで何も――』 「そんなのやってみねぇとわかんねぇだろっ!!」 それでも尚、虎徹の言葉を否定しようと口を開くクロノスの言葉を虎徹はそう言って遮った。 「運命だろうが何だろうが、何もしなければ、そこで終わりなんだよっ! 変わるもんだって変わんねぇ! 動きさえすれば、そんなもんだって変えていけるんだよっ!!」 ――――……ねぇ、トキ知ってる? 人ってねぇ、気付いていないだけで、みんな自分の運命を変える力を持っているんだよ。 『!?』 そう虎徹が言った途端、クロノスの頭に一つの声が響いた。 ――――人の運命は単なる道しるべしかないの。それを良いようにも悪いようにも変えられるのは、その人の想いと行動なの。そんな人は自分の運命だけじゃなくて、他人の運命までも巻き込んで変えてしまうことだってできるんだよ。それって、本当に凄くい事だと思わない? まただ。またあの少女の姿が頭に浮かぶ。 顔も名もわからぬ少女の姿と言葉が何故か頭に浮かぶのだ。 一体、彼女は誰なんだ? 聞いたこともないあの言葉を懐かしいと思う反面、妙にイラつかせる。 想いと行動で運命は変えられる? そんな事は、有り得ない。 運命は、絶対なのだ。どう足掻いたって、変えられないのだ。 そうでなければいけないのだ。 そうでなければ、私がここにいる意味が……。 (…………って、私はさっきから何を考えているんだっ!) さっきから頭で考えている事は、どうもおかしい。 全く自分の身に覚えのない事をさも体験したかのように考えてしまっている。 もうこんな事を考えるのはやめよう。 そう思い、クロノスは改めて虎徹へと視線を向けようとしたが、さっきまでそこにいたはずの虎徹の姿はそこにはなかった。 虎徹がとっくにその場から離れている事にも気付かず、自分は思考を巡らせてしまっていたようだ。 クロノスは虎徹を探すべく、視線を巡らせる。 そして、虎徹の姿を捉えたと同時にクロノスは無意識のまま、その場から駆け出していた。 ルナティックが放ったボウガンの矢が虎徹目掛けて飛んでいくのを見たからだった。 「…………なぁ、こんなところであんた何してんだ?」 「!?」 何故か固まって動かなくなったクロノスの事は放っておき、屋上の外へと出ると虎徹はルナティックの背中にそう声をかけた。 それに驚いたかのようにルナティックは構えていたボウガンを思わず下すと虎徹の方へと振り返った。 「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだ。大人しく引き上げてくんねぇかなぁ?」 「断る。私には、やるべきことがあるのでな」 「やるべきことって…………人殺しか?」 「…………ふっ、だったらどうだと言うのだ?」 「なら、なおさら見過ごせねぇなぁ。俺、ヒーローだし」 そう言ったルナティックに対して、虎徹はあっさりとそう言った。 「では、一体どうするつもりだ?」 「そんなの決まってるだろ? 力づくでもあんたを止めるだけさ」 「ヒーロースーツも身に着けていない状態でか? 笑わせてくれる!!」 「!!」 ルナティックは虎徹の言葉にそう言うと、すぐさまボウガンを虎徹へと構えるとそれを放つ。 虎徹はそれを見た途端、能力を発動させると慌てることなく天高くジャンプしてそれを避けた。 そして、着地するとほぼ同時に己の腕時計に仕込んであるワイヤーをルナティックに向かって放つ。 虎徹の放ったワイヤーは、見事にルナティックの左腕に巻きつき、ルナティックを捕まえた。 その虎徹のまるで無駄のない動きにルナティックは、驚きを隠せずにいた。 「!!」 「よっしゃぁ! 捕まえたぞっ!!」 ここで奴を捕まえれば、もう誰も死なせずに済むのだ。 絶対に逃がしはしない。 その想いが自然とワイヤーを引く手に力が籠る。 そして、ワイヤーを一気に手繰り寄せようとしたその時だった。 『ちょっと、タイガー! 今、何処にいるのよっ!!』 「だあっ! アニエス!? 今、お前と話している場合じゃ……!」 突如辺りに響いたアニエスの声に虎徹は思わず怯んだ。 その一瞬の隙をルナティックが逃すはずもなく、ルナティックは瞬時に手から蒼い炎を出現させて、一気にワイヤーを焼き切った。 「だあっ!」 ワイヤーを焼き切られた反動で、虎徹はその場に尻餅をついた。 そんな虎徹に対して、ルナティックは再びボウガンを構えた。 その矛先は虎徹ではなく、グランドへと向けられる。 「タナトスの声を聞け!」 「っ! やめろっ! ルナティック!!」 「!!?」 それを見た虎徹はすぐさま立ち上がりそう叫ぶと、躊躇うことなくボウガンの照準先へと飛び込んでいく。 虎徹の言葉と行動にルナティックは驚きつつも、躊躇うことなくボウガンの引き金を引き、矢を発射させる。 矢はまるで吸い込まれていくかのように虎徹目掛けて飛んでいく。 この距離だともう分ける事は不可能だが、鼻から避ける気なんてない。 俺が避ければ、グランドにいるあの受刑者に当たってしまうのだから……。 なら、どうするかなんて何も考えていなかった。 あの矢を素手で受け止められるだろうか? 「えっ…………?」 そう考えていた瞬間、虎徹の視界が大きくブレ、身体が軽くなるのを感じた。 だが、それはまたあの力を無意識のうちに発動させたわけじゃないらしく、あの激しい痛みは襲ってこなかった。 感じたのは、身体が軽くなった事と、温かな温もりだった。 『虎徹! 大丈夫かっ!?』 「……! トキ!?」 「ぎゃああああぁぁぁっ!」 次の瞬間、虎徹の目に飛び込んできたのは、息を切らせて心配そうに己を見つめるクロノスの顔だった。 それにより、虎徹は自分がクロノスの腕の中、しかも空中に浮いている事が理解でき、そして次の瞬間愕然とした。 それは紛れもないあの時にも聞いた悲鳴が虎徹の耳に届いたからだ。 「! はっ、放せっ! トキ!!」 『おっ、おい! 虎徹!!』 その悲鳴を聞いた虎徹はすぐさまクロノスの手から離れ、無事屋上へと着地する。 屋上には既に逃亡したのかルナティックの姿は何処にもなかったが、今の虎徹のはそんな事はどうでもよく、すぐさまグランドへと目を向ける。 そして、虎徹の目に飛び込んできたのはあの時同様、蒼い炎に身を包まれた人の姿だった。 それを見た瞬間、虎徹は地面を蹴り、グランド目掛けてジャンプした。 「今、助けてやる! しっかりしろっ!!」 まだ、諦めたくない! 絶対に、助けるんだ!! そう思いながら虎徹はグランドに着地すると無駄のない動きで羽織っていたジャケットを脱ぎながら受刑者に駆け寄ると何度も何度も叩きつける。 (頼む。消すな!) まだ、消さないでくれ! この人の命の灯を……。 そう願いながら、虎徹は必死にジャケットを受刑者に叩きつけ消火活動を試みる。 やがて、消火に成功し、虎徹は受刑者を抱き上げた。 「おい! しっかりしろ、おい!!」 だが、虎徹がいくら身体を揺さぶっても受刑者の反応はなかった。 「…………おい! しっかりしろって! ……なぁ……なぁって!!」 虎徹がいくら身体を揺さぶっても、声をかけても受刑者の瞳が開くことはなかった。 受刑者はもう既に息をしていない。 「! ……ここで何がったの?」 「わっ、わかんねぇ。気が付いたらあぁなってて……」 「うううぅぅ……」 遅れてグランドへやって来たアニエスとネイサンは現状に驚きつつも、受刑者達に声をかける。 それに対して受刑者は困惑したようにそう答え、他の者は涙ぐんだ。 「誰か目撃者はいないの!?」 「…………俺のせいだ」 「……タイガー……?」 周囲を見渡してアニエスがそう言った時、虎徹はそう静かに呟いたのでアニエスとネイサンは虎徹へと視線を向けた。 「全部俺のせいだ! 俺が……もっと早く……っ!」 この人の事を助けられたはずなのに、俺は結局何もできなかった。 わかっていたのに、わかっていたはずなのに助ける事ができなかった。 俺は、選択を間違えたんだ。 ルナティックを捕まえれば、この人を助けられると……。 だが、実際はそうじゃなかった。 俺は、もっと早くこの人の許へ駆け寄って消化作業をしていれば、ジャケットじゃなくて消火器をつかって消火作業をしていれば、助けられたかもしれないのに……。 俺は未来に起きる殺人の事ばかり気を取られて、目の前の命を見殺しにする選択をしてしまっていたのだ。 そして、結局ルナティックも捕まえられずそれも防げなかった。 結局俺がしたことは、この人を見殺しにしたのと同じだ……。 俺の選択がこの人を殺したのだ……。 「……ちくしょう。……ちくしょうおおおあぉぉぉぉっ!」 「タイガー……」 グランドには虎徹の悲痛な叫び声が響き渡り、二人はただ見つめるしかできなかった。 そして、彼らはこの時まだ気付いていなかった。 そんな彼らを一人の男がずっと隠れて様子を窺っていた事を……。 神様シリーズ第3章第4話でした!! 初虎徹さんとルナティックとの対峙です♪その結果は、今回は残念ながらルナ先生の勝利となりました。 虎徹さんにはすっごく可哀想ですが……; トキの言う通り人生はそんなに甘くないのです。そして、今回でトキさんも何かを思い出したようですが……。 次回、虎徹さんが爆弾野郎に襲われたりします♪ H.25 10/22 次へ |