「えっ? オペラがお好きなんですか?」

スタジオ内の取材スペースにてバーナビーは雑誌の取材を受けていた。

「ええ。親が好きだったので。僕も……」
「ご両親を大切にされてるんですねぇ。素敵!」
「…………」

テーブルを挟んで向かい合っている女性記者は、バーナビーの言葉にうっとりとして表情を浮かべた。
だが、当のバーナビーと言えば、暗く沈んだ表情を浮かべていた。

「じゃぁ……次は、嫌いな物を教えてください」
「…………」

女性記者の問いにバーナビーは即答することはできなかった。

「あのぅ……お嫌いなものは……?」
「…………炎。……火が嫌いです」

頭に浮かんだのは絨毯を燃やしながら立ち昇る炎と倒れている両親の姿。
そして、そんな二人に拳銃を向けた人影。
その手の甲には、ウロボロスの紋章が刻まれていた。

「…………あと、嘘も嫌いですね」

そして、もう一つ浮かんだのが、あの男の顔だ。
あの男はすぐ嘘をつく。
そのせいであの男は何度死にかけ、僕を心配させた事か……。
だから、僕はあの男が嫌いだ。
嘘つきなあの男の事なんて好きになるはずなんてない。

「あの……次の質問いいですか?」
「! ……あっ、はい。どうぞ」

女性記者の言葉でバーナビーは、我に返ると優しくそう答えた。
それを見た女性記者は楽しげな表情を浮かべた。

「今日のファッションのポイントは?」
「…………ベルト?」

女性記者の質問にバーナビーは、少し戸惑いつつもそう答えるのだった。






〜神様ゲーム〜








「バーナビーさん。今日は、ありがとうございました」

今日の撮影が終わり、帰ろうとしたところをバーナビーは、声を掛けれたので振り返った。
それは、今日の撮影でお世話になったカメラマンだった。

「いえ、こちらこそ。貴方のような方に撮っていただいて、僕も光栄です」
「いえいえ、僕なんてまだまだで……。バーナビーさんにそう言ってもらえて嬉しいです」

バーナビーがそう言うとカメラマンは、少し照れたようにそう答えた。
先程までカメラを持って堂々としていた姿はそこにはわかった。
彼はこう言ってはいるが、彼自身若くしてこの業界にデビューし、今一番注目されているカメラマンである。

「…………あの、バーナビーさん。タイガーさんは、どうされたんですか?」
「あの人ですか? 僕もよくわかりませんが、何でもとある事件の実証実験に協力しに行ったらしいですよ」
「そっ、そんなんですか……。それは、残念だ……」

カメラマンの問いにバーナビーが、不思議そうに答えると彼は本当に残念そうな表情を浮かべた。

「あの……おじ……あの人がどうかしましたか?」
「あっ、その……今日……タイガー&バーナビーの撮影だと聞いていたので……タイガーさんに逢えることを楽しみにしていたんですよ」

バーナビーの言葉にカメラマンは、照れ臭そうにそう話し出した。

「…………僕、この事は誰にも話した事ないんですけど、実はカメラマンを目指したきっかけは、タイガーさんなんです」
「えっ!? あの人がきっかけ!?」

そう言ったカメラマンの言葉にバーナビーは瞠目した。
今最も注目される若手カメラマンがあの男とどう接したらそうなるのか、よくわからなかった。

「はい! ……タイガーさんがデビューしたての時に一回だけ写真集を出されたんです。その写真集を見た時、雷に打たれたような衝撃が走って……。僕もあんな写真を……タイガーさんを撮ってみたいと思った事がきっかけなんですよっ!!」
「あの人が……写真集を…………?」

知らなかった。
あの男は、こういったマスコミ関連の仕事は苦手だと言っていた。
そんな男が写真集を出しているんなんて、誰が想像できるだろうか……。

「まぁ、バーナビーさんが知らないのも無理ないとですよ。その写真集は初版が即完売しましたし、その後増版もされませんでし。なので、ワイルドタイガーのファンの中では超が付くほどのプレミアム品となっていますからね」
「そっ、そうなんですか……」

バーナビーの心境を察したのかカメラマンはそう言った。

(あの男の写真集がプレミアム品だなんて……)

あの男が写真集を出していたという事だけでも驚いたというのに、さらにそれがかなりのプレミアム品だという事に驚かされる。
一体、どんな写真集なんだろうか?

「…………あの……よかったら、見ますか? 写真集?」
「えっ……?」
「僕、いつもタイガーさんの写真集をお守り代わりに持っているんですよ。よかったら、どうぞ」

カメラマンの言葉に困惑するバーナビーをよそに彼はそう言うと、一冊の写真集をバーナビーへと差し出した。

「……せっ、せっかくなので拝見させていただきます」
「ええ、どうぞ」

そんな彼の行為を無下にできなかったバーナビーは写真集を恐る恐る受け取った。

(……これが……あの男の写真集…………)

あの男が出している写真だから少し気になったが、いざこうして手にしてみると妙に緊張する。
きっと、あの男の事だ。そんなに大したものじゃないだろう。
プレミアム品になっているのも極端に発行部数が少ないからに決まっている。
以前、あの男が所属していたトップマグは、中小企業の出版会社だ。
資金の関係で増版できなかっただけに違いない。
そうだ、きっとそうに違いない……。
この写真集自体は、別に大したもんじゃない。
そう言い聞かせるようにしてバーナビーはゆっくりと写真集を開いた。

「っ!!」

その途端、バーナビーは息を呑んだ。
そこに映し出されていたのは、王者のような強い光を帯びた瞳。
日々鍛え上げられた上半身には無駄な筋肉は一切ない。
そして、女性をも嫉妬させるような細い腰にすらっとした長い脚。
それはまさに神が創りだした最高級の美術品と謳ってしまっても誰も文句は言わないだろうと思ってしまうくらい素晴らしい肉体美だった。
カメラレンズに向けられたあの男の瞳は、琥珀色と金色のグラデーションで輝いている。
その力強い眼光は、獲物を狩る野生を生きる虎のようだった。
全体的に力強さを印象付けさえる作品にも拘らず、そこには妖艶な色気も漂わされていた。
こんな写真、今まで見た事がない。
おそらくこの写真を撮ったカメラマンは凄い技術を持っているだろうが、それ以上に被写体でもあるあの男が凄いのだろう。
もうその写真から目を離す事なんてバーナビーにはできなかった。

「……あっ、あの……バーナビーさん……?」
「! はっ、はい!!」

写真集を見て固まっているバーナビーを見て、心配になったのか思わすカメラマンはバーナビーに声をかけた。
それを聞いたバーナビーは、一瞬のうちに現実の世界へと引き戻され、顔を上げた。

「どうかしましたか? なんか固まっているように見えましたけど……?」
「あっ、いえ……。思っていた以上に凄かったので……」
「ですよね! この写真集でも、これが僕の一番のお気に入りなんですよっ! このタイガーさんの表情が本当に堪んないですよね!!」
「…………」

バーナビーの言葉にカメラマンは少し興奮気味で写真集について熱弁をし始めた。
それを聞きながら、バーナビーは再び写真集に目を落とす。
そこに映るあの男の表情は僕が知らない表情だ。
あの男は僕の知らない表情を他にももっているのだろうか?
知りたい。あの男の事を、もっと……。

「…………すみません。よろしければ、この写真集を僕に譲ってもらえませんか?」
「えっ?」

そう思わず口にしたバーナビーの言葉にカメラマンの表情が変わった。

「……いっ、いくらバーナビーさんでもそれはちょっと……; これは、僕の宝物ですし……」
「そこを何とかお願いします。お金の方はいくらでも払いますので……」
「…………わかりました。バーナビーさんにそこまで言われたら、仕方ないですね」

バーナビーに真っ直ぐな視線を向けられたカメラマンはそう言わざる得なかった。

「ありがとうございます」
「別にいいですよ。僕は、これよりももっといいものをタイガーさんで撮りますから」
「そうですか。貴方なら、できますよ。期待しています」

そう言ったカメラマンに対してバーナビーはお世辞ではなく、本心からそう言った。
それを聞いたカメラマンは嬉しそうに笑うのだった。
























神様シリーズ第3章第3話でした!!
バニーちゃんが虎徹さんのいないところで、虎徹さんの魅力を知る回になってます。
虎徹さんの写真集を見て誰か1人くらいカメラマンを目指してもいいんじゃないかと思って書いちゃいました♪
それにしても、バニーちゃんの我儘には困ったものですね;
このモブさんはいい人でしたが、私だったらいくらお金を積まれても絶対に渡さないよ!!


H.25 10/22



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