ロイズに言われた通り、虎徹は刑務所へと向かっていた。 仕事の内容については、ロイズから一切説明されなかったが、既に虎徹はその内容について理解していた。 だから、あの時のように文句など一つも言わずに虎徹はロイズの言うことに素直に従った。 大切な仲間の殺人容疑を晴らす為に……。 〜神様ゲーム〜 「…………で? おたくらは、ファイヤーエンブレムが人を殺したって疑ってるわけ?」 あの時と同じように刑務所の一室に通された虎徹は、この時初めてここへ来た目的を司法局の人間から説明された。 そして、その説明を全て聞き終わった後、虎徹は静かにそう言うと、彼らに冷ややかな視線を送った。 「いっ、いえ……。彼女はヒーローですので……。でっ、ですが、彼女の発火能力を上回る装置など、どうしても存在しないですし……」 「だから、NEXTであるファイヤーエンブレムを疑ってんだろ? アリバイがあるにも関わらず」 「…………」 虎徹の言葉に研究員の一人がしどろもどろになりながらそう答えたのに対して、虎徹がそう返すと何も言い返せなくなった。 そんな彼らの姿を見た虎徹は、思わず溜め息をついた。 「…………もし、その死因が電撃による感電死だったらドラゴンキッドを、氷漬けによるショック死だったらブルーローズを、おたくらは疑ってたんだろうな」 「っ!!」 「ちょっと、タイガー。いくらなんでも言い過ぎよ」 「うっせぇ! 大切な仲間が殺人者呼ばわりされてんだぞっ! これが怒らずいられるかよっ!!」 「っ!!」 「タイガー……」 虎徹の発言に研究員達が言葉を失うを見てさすがに哀れに思ったのか、アニエスがフォローに入る。 だが、虎徹はそれに怯むことなくそうアニエス達に言い放つと、アニエスもそれ以上何も言い返せなくなる。 そんな虎徹の姿にただ一人、ネイサンだけはうっとりとした表情で見つめていた。 自分の為に虎徹がここまで怒ってくれることが嬉しくて仕方なかった。 きっと、このことをヒーローのみんな(特にブルーローズとスカイハイ)に話せば、間違いなく羨ましがることが目に見えて想像できてしまう。 「…………まぁ、おたくらの実験には協力してやるよ。……斎藤さん、ヒーロースーツの準備は?」 「(バッチリだ。いつでも、いけるぞ)」 周りの様子を見てさすがに少し言い過ぎたと思った虎徹は、息をついてからそう言うと斎藤にヒーロースーツの状態について確認した。 すると、斎藤は楽しげに親指を立ててそう返した。 「さっすが、斎藤さん♪ じゃっ、さっさと準備すっか……」 「あっ、ありがとうございます……」 「…………勘違いすんなよ。別に俺は、おたくらの実験に好きで協力するわけじゃねぇからな。全部、ファイヤーエンブレムの為だ。だから、ファイヤーエンブレムの冤罪が実証できたら、ちゃんと彼女に謝罪しろ」 斎藤の言葉を聞いた虎徹はニッと笑うとヒーロースーツを装着すべく、部屋を後にしようと歩き出す。 すると、研究員の一人がそう虎徹に声をかけた為、虎徹は一旦足を止めると彼らへと鋭い視線を向けた。 そして、彼らにそう言い放つとさっさと部屋を後にした。 (はぁ〜。やっぱり、素敵だわぁ、タイガーは♪) ネイサンのお尻の好みで言えばロックバイソンではあるが、タイガーが決して好みでないわけではない。 寧ろ、ネイサンにとって大切な存在だったからこそ、タイガーを穢したくないと思っているのだ。 誰に対しても接し方を変えないタイガーという存在にどれだけ救われた事か……。 こんな自分の事を大切な友人だと言ってタイガーの事を大切に思わないはずがないの。 そして、今もそう。 ここにいる誰もが自分を殺人者として疑いの目を向けている中、タイガーだけが自分の事を信じ、心の底から怒りをぶつけてくれている事が嬉しくて仕方ないの。 タイガーには悪いけど、ドラゴンキッドやブルーローズではなく、自分が殺人の容疑にかけられた事を感謝してしまうくらいなのよ。 そして、この実験が少しでも長く続くことが密かに願ってしまうの。 そうなれば、タイガーはあたしの傍にいてくれるでしょう? あのハンサムがずっとタイガーを独占しているのだから少しくらいあたしがタイガーを一人占めしたって罰は当たらないでしょう? だから、この時間が少しでも長く続くことを願うわ。 タイガーを少しでも長く独占できる時間を……。 「(しかし、珍しいなぁ。タイガーがあそこまで怒るなんて)」 「えっ? そうすっか?」 ヒーロースーツ装着する為にトランスポーターに虎徹が乗り込むとそう斎藤が口を開いた。 それを聞いた虎徹は不思議そうに口を傾げた。 「(バーナビーやヒーローTVの関係者に対しては、しょっちゅう怒鳴ってるのは見るが、そうじゃない人間には基本穏やかに接してるじゃないか?)」 「んなこと言ったって、ファイヤーエンブレムを殺人者呼ばわりされたら、いくらなんでも俺だって怒りますよ;」 斎藤の言葉を聞いた虎徹は苦笑雑じりでそう言った。 今回のこの実験に協力するのは二度目であの説明を聞くのだって二回目だ。 だから、落ち着いて対応できると虎徹は思っていたが、実際はその逆だった。 皆がファイヤーエンブレムを疑っているがひしひしと感じられ、気が付いた時にはああ言ってしまっていたのだった。 「つーか、ファイヤーエンブレムが殺人なんてあり得ないだろうがっ! あ〜〜、また思い出すだけで腹が立つーー!!」 「(…………で、結局のところ、犯人は誰なんだい? タイガーは、知ってるんだろ?)」 「…………」 先程のやり取りを思い出したかのように憤慨している虎徹に斎藤がそう言うと虎徹の動きがピタリと止まる。 「…………知ってるけど……知らねぇ」 「(? ……なんだい? その言い回しは?)」 「しっ、仕方ないじゃないですか! 俺が知ってるのは、あいつの名前くらいで、正体までは知らないんだし……」 この焼死事件、そしてこれから起こる焼死事件の犯人を虎徹は知っている。 犯人は、ルナティックである。 人を殺めた者に対して、死を持ってその罪を償わせようとする。 それを正義だと信じて行動するルナティック。 だが、俺はそれを正義だとは認めていない。 どんな理由があっても人を殺めてはいけないのだ。 それを今度こそ、あいつにわからせてやりたい。 そして、今日起こる殺人は絶対俺が止めてやる! その思いを胸に虎徹はヒーロースーツに身を包むのだった。 「は〜い。もういいですよぉ〜」 研究者がメガホンを手に持つとそう言って実験終了の指示を出した。 それを聞いたファイヤーエンブレムが炎を止めると、ファイヤーエンブレムの炎によって溶解した通路の手すりが音を立てて崩れ落ちた。 「あ゛〜〜〜っ、あ゛ぢ〜〜〜っ!!」 ファイヤーエンブレムの炎を一身に受け続けていた虎徹は、思わずその場に座り込むとフェイスシールドを上げて顔を出した。 ファイヤーエンブレムの炎を真面に受けるのはマーベリックの事件を除けばこれで二度目ではあるが、やっぱいつもより炎が激しい気がする。 まぁ、殺人者扱いされたら、力が入るだろうから仕方ないだろうが……。 「ちょっと、大丈夫? はい、これ水」 「おおっ! サンキューな♪」 それを見たファイヤーエンブレムは、そう言うと虎徹に一本のペットボトルを差し出した。 虎徹はそれを快く受け取ると一気に喉に流し込んだ。 すると、冷たい水が身体中に行き渡るのを感じた。 「ぷはぁ〜、生き返った!」 「もう、大袈裟ねぇ」 「だって、お前、いつもより炎激しく出してるだろ?」 「当たり前でしょ。人殺し扱いされたら力も入るわよぉ!」 「そうだよなぁ; 悪ぃ悪ぃ;」 ファイヤーエンブレムの言葉に虎徹はそう返事を返すと視線の先を変えた。 そこには、研究者達とアニエスが何やら話をしている姿があった。 データを解析する彼らは皆、難しそうな表情を浮かべている。 「…………ねぇ、タイガー」 「ん……?」 「あんたは本当に、あたしの事を疑ってないわけ? 一瞬でも疑ったりしなかったの?」 「はあっ?」 その声に虎徹がファイヤーエンブレムへと顔を向けると彼女はそう言った。 それを聞いた虎徹は呆れたように思わず声を上げる。 「バーカ。お前が人を殺すなんてどう考えたって有り得ねぇだろ? そんなわかりきった事、俺に訊くなよ」 「タイガー! もう、あんたってやっぱいい男だわ♪」 「だあぁっ! わかったから、くっつくなって! 暑いだろうがっ!!」 「もう、照れちゃって可愛いんだから♪」 「っ////」 虎徹言葉が余程嬉しかったのか、ファイヤーエンブレムは思わず虎徹を抱き締めた。 それに対して虎徹は喚いたが、ファイヤーエンブレムにはむしろ逆効果となり、さらに強く抱き締められる。 「ちょっとそこ! 何やってるの! もう一回やるわよっ!!」 「あら? 怒っちゃって♪妬いてるの?」 「っ/// うっ、うるさいわねぇ! さっさと、準備しなさいっ!!」 「はいは〜い」 その光景を目にしたアニエスがメガホンを手に取ると大声で叫んだ。 それを見たファイヤーエンブレムがからかうようにそう言うと、何故かアニエスは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。 そんなアニエスの行動に満足したのか、ファイヤーエンブレムはそう言うとやっと虎徹を解放した。 「悪いわねぇ、タイガー。もう一回付き合ってもらうわよ」 「気にすんなって! いくらでも付き合ってやるからよ!!」 「タイガー……」 ファイヤーエンブレムが申し訳なさそうに言ったのに対して、虎徹はニッと笑ってそう言った。 それを聞いたファイヤーエンブレムは、感激したように肩を震わせる。 「……俺が、お前の無実を証明してやるから。…………もうこれ以上、誰も殺させねぇ」 「! タイガー……。それって、どういう意味……?」 「! なっ、何でもねぇよ; さっ、さっさとやろうぜ!!」 ファイヤーエンブレムの問いに自分が今とんでもない事を呟いていた事に気付いた虎徹は、慌ててそう言って誤魔化す。 虎徹の言葉に疑問を感じつつも、ファイヤーエンブレムは再び元の位置に戻り、実験を再開させるのだった。 神様シリーズ第3章第2話でした!! 今回は見事なまでに炎虎となりました♪ 虎徹さんにこんな風にされたら、誰だって落ちるよ!! ファイヤーエンブレムが無実であることをわかっているからこそ、虎徹さんは逆に熱くなりそうですよねぇ。 虎徹さんはそう言う事は不器用そうだからww H.25 10/22 次へ |