「……あなたは、面談しなくてもよかったんですか?」

警察病院の「面談謝絶」と表示された病室の前で虎徹が立っていると、そこから現れたユーリに声を掛けられる。
そのユーリの問いに虎徹は首を振った。

「いや、俺はいいですよ。……一人でも助けられたと分かったなら、それで」
「…………」

そんな虎徹に対してユーリは静かに虎徹を見つめている。

「……なっ、なんか、俺の顔に付いてますか?」
「いえ。昨日会った時よりいい表情されているな、と思いまして」
「えっ!?」

その穏やかなユーリの言葉に虎徹は瞠目すると共に少し照れた表情を浮かべるのだった。






〜神様ゲーム〜








「その様子だと、鏑木さんの悩みは解消されたみたいですね」
「まぁ……その……一応は……」

ユーリの言葉に虎徹は、何処まで話そうか少し悩みながら言葉を続ける。

「……とりあえず、変に考えるのは、やめることにしたんです」
「?」
「なっ、何て言ったらいいんですかねぇ; ……俺がやりたいことをまずやってみようかと……。やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいかなぁ、って」

例え、それで未来が変わらなくても、もう変に後悔するのはやめた。
それより大切なのは、その後どう動くかだと、今回改めてそう思ったのだ。

「そうですか」
「はい。そう思えたのは、管理官や……あいつらのおかげなんですけど」
「あいつら?」
「あ゛っ、いっ、いや。何でもないです!」

虎徹の言葉にユーリは不思議そうな表情を浮かべたので、虎徹は慌ててそう言った。

――――……例え、どうなろうと、私は後悔しない。……これは私が選んだ選択なのだから……。

言えないよなぁ。
まさか、ルナティックに言われた言葉でそう思ったことの要因の一つだなんてことは……。

「……そうですか。とりあえず、鏑木さんが元に戻られてよかったです。変に悩んでいる鏑木さんは、変ですから」
「ちょっ、ちょっと、それどういう意味ですか;」
「言葉通りの意味ですよ♪」
「うぅ…; ひっどいなぁ、管理官殿は;」

ユーリの言葉に虎徹はそう言って溜め息をついた。
そんな虎徹の姿を見てユーリは、穏やかに微笑んだ。
彼とずっとこのまま話を続けられたらいいのに……。

「…………随分と、楽しそうですね」

そんなユーリの気持ちを邪魔するかのように病室から一人の男が現れた。

「バニー! ……どうだったか? 例のタトゥーはあったか?」
「……いえ」
「……そうか。あのアジトの犯罪組織……。ウロボロスじゃなかったのか」

虎徹の問いにバーナビーは、首を振ってそう答えた。
その予想通りのバーナビーの言葉に虎徹はそう言うしかなかった。

「もうジタバタしても仕方ありません。彼の意識が戻った時にまた、何か聞いてみます」
「……何だ。案外、冷静なんだな」

冷静なバーナビーの様子を見て、虎徹の安堵の表情を浮かべた。
ひとまず、この件に関してバニーは、もう大丈夫だろう。

「……お忙しいところ、無理を言ってすみませんでした」
「いえ。これも仕事のうちですので」

そして、バーナビーはユーリにお礼の言葉を言うとそれに対して、ユーリは穏やかな対応を見せた。

「管理官も大変すね。『面談の立会い』なんて地味な仕事を」
「まぁ、管理官と言えど、司法局の役人にすぎませんから。それに、どんな些細な仕事であっても、鏑木さんに会えれば、楽しくなりますし」
「えっ? 管理官殿。それ、どういう意味ですか? 何だか、嫌みにしか聞こえないんですけど……」
「そう思うんでしたら、あんまり物は壊さないでくださいね。鏑木さん」
「うわぁ、ひっど;」
「…………」

何処か楽し気に会話を続ける二人に対して、バーナビーは無言でそれを見つめていた。
何故だろう……。
この人が、他の誰かと楽しそうに話しているのを見ると無性にイライラするのは……。

「その心配は、もう必要ないです。おじさんのことは、僕がちゃんと監視しておきますので」
「バニーちゃん、監視って……;」
「……そう、ですか。では、それなりに期待しておきますね」
「それなりじゃなくて、十分に期待していてくださって構いませんから」
「…………」
「…………」
(なっ、なんか、この二人、めっちゃ怖い気がするんですけど;)
――――……虎徹。気持ちはよくわかるが、今はそこに触れるな;

バーナビーとユーリは、共に笑みを浮かべて会話をしているのに、なんか滅茶苦茶空気が重い気がする。
そう考えていると、何故クロノスからそう諭された。

「とっ、とにかく、今日は本当にありがとうございました!」
「……はい。また、何かあったら言ってください。あなた方への協力は惜しみませんから」
「あっ、はい……」

とりあえず、場の空気を変えようと虎徹がそう言うとユーリは笑みを浮かべてそう言葉を返した。
若干、『あなた方』が変に強調されて言われたような気がしたが、そのことには触れずに虎徹はここでバーナビー達と別れるのだった。





















『……しっかし、あの管理官も言ってたが、虎徹。お前、本当にいい表情になったよなぁ』
「どあっ! だっ、だから! いきなり、顔出すなって言ってるだろっ!?」
『いいじゃないか。別に近くに誰もいないし。それに、虎徹が驚く顔が面白いし♪』
「お前なぁ……;」

自宅へと向かう中、突然虎徹の目の前に姿を現したクロノスに虎徹は心底驚いたようにそう言った。
虎徹のその反応が面白くて仕方ないのか、クロノスは楽しそうにそう答えた。
それに対して、虎徹は呆れたように溜め息をついた。

『……あの管理官との会話から、お前は私とのゲームを続けると受け取っていいんだよな?』
「はあ? そもそも、誰が降りるって言ったかよ?」

静かな声でそう言ったクロノスに対して虎徹は、不思議そうな表情を浮かべてそう言葉を返した。

『他人の運命も変えられぬ奴が自分の運命を変えられると思っているのか?』
「つーか、逆じゃねぇ? 自分の運命を変えられないのに、誰かの運命を変えられるわけねぇじゃんかよ?」

クロノスの問いに虎徹はそう言葉を続ける。

「それに、やってみないことにはわかんねぇだろ? さっきも言ったけど、そこについて考えるのは、もうやめたんだ。俺は俺がやりたいように動く。それだけだよ。だから、もうトキに何を言われたって動揺なんかしねぇからな!」
『……そうか。つまらぬな』

ビシッと指をクロノスに指して、そう宣言した虎徹の態度に若干不満そうにそうクロノスは返した。

「…………けど、ありがとうな。心配してくれてて」
『……はあ? 何のことだ?』
「お前さぁ、昨日わざと俺にあんな冷たい言い方しただろ? 俺がムキになるってことがわかってて」
『!!』

虎徹の思わぬ言葉にクロノスは瞠目した。

『あっ、あれは、そう言った方が……お前が諦めると思ったから言っただけで……』
「嘘つけよ。だったら、今日のルナティックの事件で何であんなこと、俺に言ったんだよ?」
『そっ、それは……』
「ありがとうなぁ。トキのあの言葉がなかったら、俺……多分ダメになってたと思うわ!」
『っ!!』

その屈託のない笑みにクロノスは息を呑んだ。
本当……彼は我の想像を簡単に越えていく……。
正直、我自身も驚いているのだ。
あの時、何故、あんなことを言ってしまったのかと……。
そして、あの言葉は、遥か昔、誰かから言われたような……。

――――……答えろ。お前は一体、何がしたいんだ?

ふと、頭に過ったのは、そう我に対して誰かが問いかけてくる言葉だ。
その言葉に我は何の迷いもなく口を開く。

――――何がしたいかだって? そんなの決まっている! オレは、あいつのことを……。

「おーい、トキ。さっきから、ボーッとしてるけど、大丈夫か?」
『っ!!』

心配そうにクロノスの顔を覗き込んだ虎徹の顔がクロノスの目に飛び込んできて、我に返った。

『なっ、何でもないっ///』
「ん? なら、いいんだけど……」
『…………』

そして、虎徹の顔があまりにも近かったので、思わずクロノスは顔を逸らした。
その反応に虎徹は、少し眉を顰めたが、とりあえずは納得したのか、それ以上特に問いかけることはしなかった。

(……くそっ! さっきのは、一体何なんだ!?)

あれは、我の昔の記憶だというのか?
全然身に覚えのないあの記憶が……。
それにしても、今まで人間と関わってきた時には、こんなことはなかったのに、虎徹と絡んでからはそれが頻繁に起きているような気がする。
虎徹、お前は一体、我の何なんだ?

「んじゃぁ、さっさと帰ってチャーハン食うか!」
『おっ! いいなぁ♪ なら、私がわかめスープでも作るとしよう』
「おおっ! マジか! じゃぁ、さっさと帰ろうぜ!!」
(……まぁ、今はいいか)
クロノスの言葉に虎徹は嬉しそうな表情を浮かべるとさっさと自宅へ向かうべく、再び歩き出す。
今は、このことについては、深く考えないようにしよう。
どうせ、そんなに大した記憶では、ないのだろうから……。





















「……ねぇ。あいつは、今どーしてるの?」

シュテルンビルトのとあるビルに一人の子供の声が響く。
子供の顔は月明かりで照らされているが、薄暗い為はっきりとはわからない。

「ワイルドタイガーの件。あれから結構経っているのに全然連絡来ないじゃんか」

爆弾犯から連絡が一向に来ないことに不満そうな声を上げる。

「あ〜ぁ、これ以上、連絡寄越さないんだったら、本当に殺しちゃおうかなぁ……」
「その必要はありません。調べによると彼はもう死亡したようですので」
「? それ、どういうこと?」

子供の側近らしき男がそう言ったのに対して子供は眉を顰めた。

「つい先日、例の薬を使ってワイルドタイガーを襲ったようですが、謎のNEXTに生きたまま焼き殺されたそうです」
「はあっ!? 何それ! 組織の薬を勝手に使っといて、失敗したってわけ! マジ笑えるんだけど!!」

男の報告を聞いた子供は、本当に楽しそうに笑ってそう言った。

「……で、その謎のNEXTについて、何か情報は?」
「特にこれと言って目ぼしいものは、ありません。強いて言うなら、青い炎を操り、自らを『ルナティック』と名乗って犯罪者たちを断罪していることくらいです」
「ふーん。『ルナティック』ねぇ。これはまた、なかなかのネーミングセンスだねぇ♪」

そのNEXTが邪魔しなければ、今頃ワイルドタイガーはボクのところに来ていたかと思うと非常にムカつく。
けど、まだそんなに焦ることはないだろう。
彼を手に入れるチャンスはいくらだってあるのだから……。

「あ〜ぁ。どうせなら、見てみたかったなぁ。人が生きたまま焼かれていく姿を……」

きっと、それは何とも言えない奇声を上げて勢いよく燃えるんだろうなぁ。
その姿はきっと美しかったに違いない。
命が燃え上がる光景なのだから……。
本当に、見られなくて残念だ。
「さーて、次はどんな手を使って彼を手に入れようかなぁ♪」

ワイルドタイガー。
今から君に逢えるのが、楽しみで仕方ないよ。
君は、ボクが"欲しいモノ"を持っている存在だろうか?
もし、違うのだったら、彼をお前の目の前で壊してあげるよ。
その時、お前は一体どんな表情をボクに見せてくれるだろうか。
なぁ、愛しい神(憎き存在)クロノス……。
月明かりに照らされたその子供の笑みは、酷く歪んでいるのだった。
























神様シリーズ第3章第18話でした!!
虎徹さん完全復活!!
その後押しをしたのが、ユーリさん(そして、ルナティックww)とまさかのトキでしたwww
あ〜ぁ、バニーちゃんはいつになったら虎徹さんをちゃんと支えてくれる存在になるんだろうか……。
そして、最後にクロノスの記憶や謎の子供も出てきてました。この二人には、何やら因縁がありそうですねぇ
っと言った感じで、これにて第三章は完結となりますっ!
次章からは、折紙先輩やキッドちゃんが多めになります♪


H.30 9/30



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