「だああぁっ! 全っ然、うまくできねぇぞっ!!」 シュテルンビルトの街の中心部の位置するジャスティスタワー内にあるトレーニングセンターで虎徹はそう大声を上げた。 今、ここにいるのは虎徹一人。 いや、一応クロノスもいれると二人だけである。 『……本当、お前は単純だなぁ。こんな調子で本当に間に合うのか?』 「うっ、うるせぇなぁ! 絶対間に合わせるんだから、手伝えよ!!」 そんな虎徹に対してクロノスは呆れたように溜め息をついた。 クロノスは虎徹に頼まれてトレーニングに付き合っているのだ。 もちろん、タダではない。 虎徹が、チャーハンを作ってくれると言うからである。 虎徹曰く、無心で戦えるようになりたいのだと。 だから自分と思考で会話ができる我に手合わせになって欲しいと。 おそらく、これは時期に起きるジェイクとのセブンスマッチに向けての対策なんだろうが、今の虎徹では我に思考は筒抜け状態である。 とても、間に合う気がしない……。 『虎徹の思考もだが、それ以上に動き自体も単純だ。その辺もっと考えて動け』 「だあっ! それ、どういう意味だよっ!」 『言葉通りの意味だ。お前の攻撃は正直、心を読まなくてもわかる』 「なっ、なんだよ、それ!?」 『文句があるなら、少しでも私が与えた力を使えるようにするんだな。あの力を使いこなせるようになれば、お前の戦い方は格段に良くなるはずだ』 頭を抱える虎徹に対してクロノスは呆れたようにそう言った。 "時空を操る力"など、そうそうありはしないのだ。 この力だけでも充分に使えるはずなのだから、我としてはこっちから鍛えるべきだと思う。 だが、クロノスの思惑とは反するかのように虎徹は首を振った。 「お前、そう言う事簡単に言うなよなっ! トキの力、使うとこっちはすげぇ疲れるし、頭も痛くなるんだぞ;」 『だーかーら。そうならないように、これから特訓を……』 「?」 虎徹との会話が途中だったが、クロノスは言葉を切ると、突如姿を消した。 そのクロノスの行動に最初は疑問を感じたが、虎徹はすぐに状況を理解した。 このトレーニングセンターに誰かがやってきたのだ。 こんな遅くにやって来るのは、おそらくあいつだろう。 それを確認する為、虎徹は入口へと視線を向けるのだった。 ~神様ゲーム~ 「折紙! どうしたんだよ? なんか忘れもんでもしたのか?」 「あっ、はい……。ちょっと……手裏剣を忘れてしまって……」 そこにいたのは、虎徹が予想した通り、プラチナブロンドの癖のある髪に紫の瞳が印象的な少年の姿だった。 虎徹は少年――イワンにそう言葉をかけるとイワンは何処かたどたどしく言葉を返す。 そして、そのままトレーニングセンターの片隅に落ちていた手裏剣を拾う。 大事そうに手裏剣の埃を払いながらイワンは不思議そうに辺りを見渡し、首を傾げる。 「……あれ? タイガーさん、お一人ですか? ……さっき、話声が聞こえたような気がしたので、てっきりバーナビーさんがいるのかと?」 「へっ? あ゛っ、おっ、俺一人だけど……。ちょっと、声がデカかったかなぁ;」 「そうでしたか。すみません。何か、勘違いしてしまったみたいで……」 何気ないイワンの質問に虎徹は、そう苦笑いを浮かべて答えるしかなかった。 それに対してイワンは虎徹の言葉を素直に受け取る。 これが、バーナビーだったら、眉を顰めてされに追及されていただろうが……。 「……あの、タイガーさんはいつもこんな遅くまでトレーニングされているんですか? バーナビーさんと一緒じゃないんですか?」 「あぁ、バニーか……。あいつは、今日も取材なんだよ。あそこに俺がいても邪魔なだけだし……。だから、ちょっと特訓でもしようかなぁって思ってさぁ」 取材現場について行っても、みんなバニーにしか興味ないし……。 それに、何よりバニーが凄く機嫌が悪そうな表情になるのだ。 ルナティックの件について、バニーとは和解できたと思っていたのだが、どうやらまだ完全に許してもらえていないようだ。 なので、今は俺がやれることをやろうと思い、クロノスを巻き込んで特訓することにしたのだったが、なかなかそう簡単に成果は出ないのだった。 ――――……虎徹。その考えだが……おそらく、ハズレていると思うぞ。お前の相棒が不機嫌な理由。 (えっ? じゃぁ、一体何が理由なんだよ?) ――――それは……説明するのが……めんどい。 (なっ、なんだよ、それ!? わかるんだったら、教えろよ!!) ――――やだ。自分の胸に手を当てて考えるんだな。 とにかく、バーナビーが不機嫌な理由は別にあるのだ。 それは、彼自身も気付いていないのだから。 彼は、虎徹に不機嫌そうな表情を向けているのではなく、虎徹を見つめている取材スタッフに対してその表情を向けているのということに……。 これだから、無自覚な兎は質が悪い。 「…………あっ、そうだ! 折紙、この後暇か? よかったら、俺と手合わせでもしないか?」 「えっ? ぼっ、僕とタイガーさんとですか!?」 ――――おい、虎徹。それは、さすがに無謀じゃないか? 相手のお前の相棒ならまだしも、彼には……; 何を思いついたのか、虎徹は突然そう言わんに提案するのだった。 それを聞いたイワンは驚きを隠せない表情を浮かべ、クロノスについては呆れたようにそう言った。 「そっ、その……僕では、タイガーさんの相手にはならないかと、思うんですけど……」 「んなことねぇよ。だって、お前、いつも一人でトレーニング頑張っているじゃんかよ」 「!!」 そう言った虎徹の言葉にイワンは驚いた表情を浮かべた。 いつも誰にも気づかれないように。 いや、誰も気付かないであろうと思いながら、一人で黙々とトレーニングをしていた。 それなのに、タイガーさんはちゃんと気付いてくれていた……。 それだけの事なのに、胸が熱くなるのを感じる。 「頼むよ、折紙~! このまま俺一人でトレーニング続けてもあれだし……な?」 ――――なっ、なんだ、その言い方は! さっきまで、私とトレーニングしてたくせにっ! 大体、彼が引き受けるとは私には思えな……。 「ぼっ、僕なんかでよかったら、よろしくお願いしますっ!!」 ――――!! クロノスの予想に反して深々と頭に下げてそう言った。 イワンの行動にクロノスは驚いた。 それに対して虎徹は嬉しそうにニッと笑う。 「おう! こっちこそ、よろしくな! じゃ、早速始めるか!!」 「はっ、はい!!」 ―――――……解せぬ。……? こうして、虎徹はイワンとトレーニングを始める姿を見てクロノスは納得いかないとばかりに呟く。 だが、それと同時にトレーニングセンターの外の方から人の気配を感じ取ったが、それが徐々に離れていくのがわかったので、敢えてそれに触れることはせず、二人のトレーニングを見守ることにしたクロノスだったのだ。 「……よし、ちょっと、休憩するか」 「…………あっ、はい。……すみません」 イワンの様子から少し疲れが出だしていると判断した虎徹はそう言った。 それに対してイワンは少し申し訳なさそうにそう言うとその場に座り込んだ。 「別に謝らなくていいって。誘ったのは、俺の方なんだし……。ほら、水でも飲めよ」 「あっ、ありがとうございます」 それに対して虎徹は笑ってそう言葉を返すと、何処からともなくミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出すと、その一本をイワンへと手渡した。 ――――! ああああっ! そっ、それは、お前と一緒に飲む為に私が買ってきた奴なのにっ!! (別にいいじゃんか。……ってか、お前、喉渇くのか?) それを見たクロノスが悲鳴を上げるのに対して、虎徹はあっさりとそう言った。 ――――そういう問題じゃないっ! ……せっかく、私が虎徹と飲もうと思って買ったのに……。 (はいはい。わかったから、そういじけるなよ; 後で、俺のやるからさぁ) ――――! つっ、つまり、それは、私と間接キスをしてもいいと受け取っていいんだな♪ 「っ!!」 「どっ、どうかしましたか! タイガーさん!?」 拗ねるクロスに対してそう何気なく虎徹が言った言葉にクロノスは嬉しそうにそう言った。 そのクロノスの言葉に聞いた虎徹は、思わず口に含んでいた水を噴出し、それを見たイワンは驚きの声を上げる。 「だっ、大丈夫……。なっ、なんでも、ないから////」 「? そっ、そうですか? なら、いいんですけど?」 ――――これくらいのことで動揺するなんて、まだまだだなぁ♪ 私に何を言われても動揺しないんじゃなかったのかなぁ♪ (だあっ! うっ、うるせぇよ!! それとこれとは、話が全然違うだろうがっ!!) イワンの言葉に虎徹は何とか平然を装ってそう言ったが、その声は明らかに動揺していた。 そんな虎徹の様子を見てクロノスは楽しそうにそう言った。 「……それにしても、やっぱりタイガーさんは凄いです。今の手合わせでも、全然息が上がっていませんし」 「そんなことねぇよ。俺なんて、バニーの足引っ張ってばっかしだしさぁ……。それに、特訓の成果も全然出てねぇし;」 虎徹の言葉を聞いてイワンは、意外そうな表情を浮かべて顔を上げた。 「えっ? そうなんですか? そう言えば、タイガーさんは一体、どんなことを特訓しているんですか?」 「…………言っても、笑わないか?」 「はい。笑いません!」 「……どうやったら、無心で戦えるかなぁって」 「…………へっ?」 少し躊躇いつつも、そう言った虎徹に対してイワンは間の抜けた声を上げる。 「だっ、だからさぁ、何って言ったらいいかなぁ; ……例えば、今後のNEXTで心が読める奴が犯人だったら、どうやって戦って勝てるかなぁとか、考えながらシミュレーションをやってるんだけど、なかなかうまくできないんだよなぁ」 「タイガーさん、そんなこと考えながらトレーニングしているんですか!?」 虎徹の言葉にイワンは心底驚きの声を上げる。 この人は犯人がどんなNEXTなのかを想像してその対策を考えながら、トレーニングをしていたなんて……。 やっぱり、これが長年ヒーローとして活躍しているからこそ、そういう発想になるのだろうか……。 「うっ、うん、まぁ……。一応はな; けど、全然ダメなんだよなぁ。何かいい方法ねぇかな……」 ――――……虎徹。それを、彼に相談しても仕方ないだろうが; (いいじゃんか。相談するくらい……) 「…………僕だったら……」 少し照れ臭そうにイワンに相談する虎徹に対して、クロノスは呆れたようにそう言った。 彼に相談したって名案が出るとはとても思えない。 一番の近道は我との手合わせだろうに……。 そう考えていると、イワンが恐る恐る口を開く。 「……もし、本当にそんなNEXTを相手にするんだったら……頭を空っぽにするのに、僕だったら別のことを考えながら挑むかもしれないですね」 「? 別のことを考える??」 「はい。例えば、僕だったら……『ちゃんと今日は見切られたかなぁ』とか、『また、ブログが炎上していないかなぁ』とか、ですかね」 ――――……彼、想像していた以上にネガティブだなぁ; というか、さすがにこれはぐ――。 「そっか! そういう手があったか!!」 「!!」 ――――!! 何とも自信なさげにそう言ったイワンにそうクロノスは呟いた。 彼がネガティブなことは、虎徹の記憶を読み取っていたので大体は知っていたが、まさかここまでだとは思っていなかった。 それにしても、彼の提案した内容も我には愚策に思えた。 だが、イワンの話を聞いた虎徹は何かひらめいたのか、目を輝かせてそうイワンに言うのだった。 その反応にクロノスだけでなく、提案したイワン本人も驚きの表情を浮かべていた。 「そうだよなぁ……。無理に頭ん中空っぽにする必要なんてないのか! なんで、それに気づかなかったかなぁ……。ありがとうな、折紙!!」 「そっ、そんな……。僕は、全然……」 「んなことねぇよ! よし! そろそろ、休憩も終わりにして、またトレーニングを再開しようぜ!!」 「…………はい!」 そう言ってニッと笑う虎徹にイワンは少しだけ嬉しくなった。 不思議だった。 ずっと、気になっていたタイガーさんとこうして話をして、僕なんかの言葉でタイガーさんが笑っていてくれたことに……。 でも、その反面、不安にもなった。 僕なんかがこの人の傍にいてもいいのだろうかと。 僕なんかがこのままヒーローを続けてもいいのだろうかと……。 だだ、見切れることしかできない僕なんかが……。 そんな想いを胸に秘めながら、イワンは虎徹とのトレーニングを再開させるのだった。 神様シリーズ第4章第1話でした!! ついに新章突入しました! すぐに、ヒーローアカデミーの話を書こうかと思ったのですが、その前にちょっとだけ虎徹さんとイワンとの絡みを書きたくて寄り道です。 トレーニングが嫌いな虎徹さんですが、ジェイクとの戦いに向けて日々訓練をしているのです。 ちょっと、クロノスが、虎徹さんと飲む為にペットボトルを買っているのを想像したら、何か笑えましたww H.30 12/24 次へ |