「ねぇ、タイガー!」

ブルーローズの歌声が小さく聞こえてくる楽屋付近の階段。
あの時と同様、座りながらブルーローズに蹴られた右の脹脛辺りを擦る虎徹に少年がそう呼びかける。

「なんであいつをやっつけなかったんだよ?」
「あいつ?」
「あの怪人、悪いヤツだろ? 何で捕まえるだけだったの?」
「…………」

少年の言葉に虎徹は困惑した。
あの時と同じことを言ってもきっと伝わらない気がしたからだ。

「何でって? ……俺たちは悪い奴を捕まえて、間違いを償わせるのが仕事なの」
「? 間違いを……償わせる? 悪いヤツは、やっつけなきゃ意味ないよ!」
「あのなぁ、悪い奴にだって家族はいるんだぞ。自分にとって大切な友達や家族が悪いことしつまったら、止めてやるだろ? 助けてやりたいって思うだろ?」
「!!」

俺たち、ヒーローの仕事は、ただ悪い奴を捕まえて終わりじゃないんだ。
その後、彼らが如何に更生していくかを見守ることもヒーローの仕事だと俺は思っている。
だから、俺はNEXTの力を人助けの時にしか使わないし、必要最小限までしか相手を傷つけることはしないのだ。

「……ぼっ、僕の友達や家族だって、そんなことする奴は、一人もいないもっ!」
「い゛っ!」

虎徹の言葉に少年は驚きの表情を浮かべたが、それと併せて不快そうな表情を浮かべた。
そして、少年は虎徹に近づくと、先程ブルーローズが蹴ったところと同じ個所を見事に蹴った。
その痛みに虎徹が声を上げる中、少年はそのままダッシュでその場から走り去ってしまった。

「はぁ……また……同じところを……;」

苦悶の表情を浮かべる虎徹は、少年が走っていった方向に目をやり、溜息をつく。
結局、あぁ言っても俺が言いたかったことは伝わらなかったんだろうなぁ、と思ってしまったのだった。






〜神様ゲーム〜








「君のお陰で素晴らしいチャリティーショーになったよ。ありがとう」
「あん? あっ……」

楽屋へと戻った虎徹がロッカーにフェイスシールドを置くと不意に誰かに声を掛けられた。
その声に振り向くとそこには、マーベリックの姿があり、隣にはロイズの姿もあった。

「『あっ』じゃないだろ? 社長が視察にいらっしゃったんだ。本来クビになってもおかしくない君に救いの手を差し伸べてくれた恩人だぞ」
「はぁ……あの……その節はその、何というか……こんちは」
「何が言いたいんだ、君は;」
「構わんよ。ロイズ君。一言お礼を言わせて欲しいと頼んだのは、私の方なんだから」

虎徹は一応お礼を言おうと言葉を紡ぐが、結局いい言葉が見つからなかった。
そんな虎徹の態度にロイズは呆れるが、マーベリックはロイズを制して紳士的な対応を見せた。

「いえ……俺は、別に何も……」
「それに、昨日は色々と大変だったみたいだね。身体の方は本当に大丈夫かね?」
「! あっ、はい! もう、身体の方は全然大丈夫なんで!!」

そう言って心配そうに虎徹の身体を触るマーベリックの手を虎徹は思わずそう言いながら、除けてしまった。
マーベリックのNEXT能力のことを知っているせいか、どうも彼に触られるのは、嫌な気がした。
そして、気のせいかもしれないが『このセクハラおやじ』とクロノスが呟いたのが聞こえた。
これでセクハラになるなら、お前が俺にやってることは、どうなんだよ;


そんなことを考えている虎徹に対してマーベリックは少し驚きつつも、紳士的な対応は変わらず続けている。

「そうかね……。けど、あまり無理はダメだよ。君もうちの"看板"ヒーローなんだからね」
「あっ……はっ、はい……」
――――何が"看板"ヒーローだよ。私の虎徹にセクハラしようとしといて……。
(トキ……。いちいちうるせぇ;)

クロノスの言葉に虎徹は思わず心の中でそう突っ込んだ。
それにしても、何でトキはマーベリックに対してこんな反応を取るのだろうか……?

「ところで虎徹君。この後、時間はあるかな?」
「えっ?」
「日頃の労いの意味も込めて、是非、君を招待したい所があるんだが」
「あっ、えっ、えーっと……。特に用はないですけど……」

マーベリックの言葉に虎徹は戸惑いを隠せなかった。
この後、何処に行くのか知っていたから……。
そこでまたバニーに会うことになる。
正直、今のバニーと顔を合わせるのが、怖い……。

「ちょっと、何を迷ってるわけ? 予定がないなら、行きなさいよ。社長が直々に君を招待してるんだよ」
「そっ、それは……そう……なんですけど……」
「いいから、行きなさい! これは、業務命令だからね!」
――――うわぁ、出た! 上司のパワハラ発言!!
(だから、お前は、もう少し静かにしてろって!!)

自分の声が俺の頭にしか聞こえないからだと思って……。
明らかにこの場の雰囲気と合わない口調でそう言ったクロノスの言葉に虎徹は頭を抱えた。

「まぁまぁ、ロイズ君。虎徹君……ダメかね?」
「…………はい。……大丈夫です」

そんな虎徹の様子にロイズは苛立ちを見せたが、マーベリックはそれを優しく制すると、そう虎徹に聞き返した。
その言葉に虎徹は覚悟を決めるしかなかったのだった。





















「斎藤君が新開発した超高濃度酸素カプセルだ。まだ、試作段階だが、疲労回復には持って来いだし、いい機会だから、君たちに試してもらおうと思ってね」

アポロンメディアのメカニック室にやってきた虎徹が目の前のカプセル型の機会を見上げる横でマーベリックはそう説明した。

「……君たち? それって――」

虎徹がそう言ったのと同時に入り口の自動ドアが開くと、そこからバーナビーの姿が現れた。

「バニー! お前……」
「…………マーベリックさんに呼ばれて……」
「…………」
「…………」

バツの悪そうな表情でバーナビーは虎徹から目を逸らした。
だが、それは虎徹も同じ気持ちだった。
今のバニーにどんな言葉にかけていいのか、わからない。

「彼は、このところ、疲れが溜まっているようでね。ちょっと、ナーバスなんだ。そのせいで今日は、君にも迷惑をかけてしまい申し訳なかった」
「いや……それは、全然いいんですけど……」
「…………」

マーベリックはそう言ってバーナビーの傍まで歩いて行くと、彼の背にそっと手をやる。
それに対して虎徹は、慌ててそう言葉を返した。
今日のことより、寧ろ昨日の自分の方が迷惑をかけてしまっているのだ。
だから、これ以上は何も言わない。
その重い空気に耐え切れなくなった虎徹は、逃げるようにカプセルの中に入って行った。

(……バニー。やっぱ、怒ってるのかなぁ)
――――どうだかな? ってか、会うのわかってただろ? あんな、パワハラ発言など無視して行くのを止めれば、よかったものの……。
(…………)

虎徹の思考にそうクロノスが反応したが、虎徹はそれに返答する気にはなれなかった。
とにかく、今は何も考えずに、身体を休めることにしよう……。

『どうだ、気分は?』

と、そこにカプセル内に設置されたスピーカーから斎藤の声が聞こえてくる。

『身体が軽くなってきたろ? 気持ちよく眠れそうじゃないか?』
「まだ、わかんないんですけど……」
『眠くなってきたか?どうだ? そろそろ眠くなってきただろう!? 寝たか!?』
――――……って言うか、こんな機械なんか使わなくても、私が疲れを癒してやると言うのに……。
「…………」

あの時同様、斎藤の声はどんどんエスカレートしていく。
それに加えてクロノスの声もあり、虎徹の心は休まる所か、イライラが募っていく。

『どうだ!? おい、タイガー!? 寝たのか!? おい、どうなんだ!? 答えろ!!』
――――何なら、私がここで疲れを癒してやってもいいぞ。……とっておきの方法で……♪
「だあぁっ! うっさくて、眠れねぇよっ!!」

斎藤とクロノスの言葉にそう虎徹は叫ばずにはいられないのだった。
























神様シリーズ第3章第14話でした!!
久しぶりにトキが言いたい放題の回となり、ちょっぴり書いていて楽しかったです。
それにしても虎徹さんが言うようにトキは何故かマーベリックには当たりが強いですねぇ;
虎徹さんが言うようにトキがいつも虎徹にやっていることは、セクハラという名の愛情表現です♪(おいwww)


H.30 5/24



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