「くそっ! 思っていた以上に手間とらせやがって!」
「……はっ、放せ……よ……」

バーナビーたちの隙を見て、一人では動けない虎徹の許へと駆け寄った爆弾犯は、虎徹を連れて逃走する。
虎徹自身、薬のせいで身動きができなかったことと、この時狙われたアニエスをブルーローズに任せたことで安心してしまった為、爆弾犯の行動に反応が遅れてしまった。
それから、何度か爆弾犯の魔の手から逃れようと必死にもがくがビクともしなかった。

(! ……まずい。……ここは!?)

ふと、虎徹は自分がいる場所が立体駐車場内であることに気が付くと焦り始めた。

「……おっ、おい! 今すぐ……ここから……離れろ……!」
「あぁ? そんなこと、できるわぇねぇだろ?」
「いいから、離れろ!じゃないと――」
「貴様のその罪、その身を以て償うがいい」

焦る虎徹の言葉をその静かな声がすべてを遮るのだった。






〜神様ゲーム〜








一瞬、虎徹は何が起こったのか理解できなかった。
ただ、今、自分が爆弾犯の手の中にいるのではなく、別の男――ルナティックの手の中にいることだけは理解できた。

「だっ、誰だ! お前!?」
「…………」

突如、目の前に現れたルナティックに対して爆弾犯はそう言ったが、ルナティックはそれを一切無視して虎徹を見つめていた。
そして、虎徹をまるで壊れ物を扱うかのようにやさしく地面へと下ろすのだった。

(俺……今、ルナティックに……助けられた?)

その事実に虎徹は、暫く思考が停止するが、辺りに響いた銃声でそれは引き戻される。

「タナトスの声を聞けっ!」
「やっ、やめろーーーっ!」
「あああああぁぁぁぁ!!」

爆弾犯にルナティックは青い炎の矢をセットしたボウガンを向けてそう言い放つ。
それを何とか阻止しようと虎徹は手を伸ばすが、ルナティックに届くことはなく、宙を彷徨う。
そして、その瞬間、辺りに爆弾犯の断末魔の叫びが響いた。

(…………まただ)

また、救えなかった。
青い炎に包まれて焼かれていく爆弾犯の姿を目にした虎徹の瞳から一筋の涙が静かに流れ落ちた。

「っ! あいつっ!!」

すると、何処からか馴染みのある声が聞こえてきた。
それは、間違いなくバニーの声だ。
バニーがせっかく見つけたウロボロスの手がかりを失って怒りに満ちているのが伝わってくる。

「…………貴方のせいだ」
「……っ!?」

その声が辺りに聞こえてきたかと思った瞬間、虎徹の視界が一変する。
それは、怒りで我を忘れたバーナビーが虎徹の胸倉を掴んだからだった。

「貴方があの時、大人しく待っていれば、こんなことにはならなかった。もう少しでウロボロスが何か掴めたのにっ!!」
「…………」

そうだ。バニーの言う通りだ。
あの時、大人しくトランスポーターでバニーの助けを待っていれば、もっと早くバニーが助けに来てくれたかもしれなかったのだ。
それなのに、俺は……。

「大体、あいつは何で貴方を狙ったんですか? 本当に口封じだけが目的なら、こんなやり方はあり得ないじゃないですか? 貴方、ウロボロスについて何か知っているんじゃないんですか!?」

爆弾犯の目的が何だったのか、正直訊きたいのは、虎徹も同じ気持ちだった。
けど、一つだけ思い当たる節があるが、それを話せばきっと「こんな時までふざけるんですか!?」と火に油を注ぐことが目に見えて想像がつく。
だから、今は黙るしかできなかった。

「答えろっ!!!」
「ちょっと! 何やってるのよ!!」

そんな俺の態度が気に入らいないのか、バニーが必死に問い詰めようと声を荒げたのがわかる。
身体を思いっきり揺さぶられて、さらに気持ち悪くなってきたが、何とかそれに耐える。
すると、何処からともなくロックバイソンたちが現れると、俺とバニーを引き離してくれて、俺はロックバイソンに支えられてなんと立っていられるようになった。
遠くの方でバニーがファイヤーエンブレムたちに叱られているのが、聞こえてくる。

(………違うんだよ、ファイヤーエンブレム)

悪いのは、バニーじゃない。
全部、俺なんだ。
俺がもっとうまくやっていれば……。

「…………ごめんな、バニー……」
「!!」

それを何とか伝えたくて、必死に笑みを作って口を開く。
声を出そうとする度に酷く吐き気に襲われるけど、これだけはどうしても伝えたかった。

「……俺なりに頑張ったつもりだったんだけど……やっぱ……ダメだったわ。ごめんな」
「………」

フェイスシールドの下にあるバニーの表情が一体どんな表情なのかわからなかったが、バニーは俺の言葉にただ黙って聞いていた。
そりゃぁ、そうだよなぁ。
怒って当然だよなぁ……。本当、ごめんなぁ……。

――――これで少しはわかったはずだ。お前が壊そうとしているものが、いかに困難なものかを。

ふと、頭の中にトキと交わした会話が過った。

(……ほんと、嫌っていうくらい……わかったよ……)

トキの言う通りかもしれない。今の俺には……。
そんなことを考えながら、虎徹は意識を手放すのだった。





















(…………ここは?)

次に虎徹が目を覚ました時に合ったものは、自宅の見慣れた天井ではなく、白い天井だった。
虎徹は、視線だけを巡らせると近くに点滴らしきものがあり、それが自分の腕に繋がっている事がわかった。
この状況から考えると、ここはどうやら病院の一室のようだ。
一体自分の身に何が起こったのだろうかと虎徹は記憶を辿り始めた。
確か、爆弾犯に襲われて、それでバニーたちに助けられて……。
そして…………。

「っ!!」

そして、全てを思い出した。
そうだ。俺は、また救えなかったんだ。
目の前で命の炎が消えるのをただ眺めているしか出来なかったんだ……。

「……鏑木さん?」

虎徹が目を覚ました事に気づいたのか、誰かがそう呼んだので、虎徹は声が聞こえた方へと視線を向けた。
すると、そこには、ユーリの姿があった。

「……鏑木さん、大丈夫ですか? 私が誰だが、わかりますか?」
「…………ペトロフ……管理官?」
「そうです。気がついて、よかった……」

ユーリの問いに虎徹がそう答えるとユーリは安堵の表情を浮かべた。

「とりあえず、医者に診てもらわないと……。今から、呼んで来ますので、少し待っててください」
「あっ、あの……ちょっと、待ってください」
「?」

医者を呼びに行こうと動き出すユーリに対して虎徹は咄嗟に声をかけてそれと止めさせた。
それを不思議そうに思ったユーリは再び虎徹へと目を向ける。

「あの……バニーたちは……?」
「ヒーローの皆さんでしたら、今は、警察の捜査の方に協力してもらっています。ここにいるのは、私だけです」
「そう……ですか……」
「……鏑木さん。…………何かありましたか?」
「へっ?」

突然のユーリの問いかけに虎徹は、目を丸くする。

「……何と言ったらいいのか、わかりませんが、鏑木さんが何処か疲れているように私には見えました。身体というより……心が、です」
「!!」

そのユーリの言葉に虎徹は、瞠目した。
まさか、ユーリにまでそんな事を言われるとは、思ってもみなかったから……。

「…………鏑木さん。私でよかったら、話を聞きますよ。一管理官としてではなく、知人としてあなたのことが心配なので」
「っ!!」

優しいユーリの言葉に虎徹の胸が熱くなるのがわかる。
けど、やっぱりダメだ。
この人を巻き込むわけには、いかない。

「……すみません。少し余計なことでしたね。今から、医者を呼んで来ます」
「…………てる?」
「?」

虎徹の表情からこれ以上の詮索はできないと判断したユーリは諦めて医者を呼びに歩き出そうとした。
その時、微かだが、虎徹の声が聞こえてきたのでユーリは振り向くとそこには真剣な眼差しを向けた虎徹の姿があった。

「…………管理官は――」
「ユーリと」

そう言って言葉を遮られた虎徹はきょとんとした。

「今は、管理官としてではなく、一人の知人、ユーリとして鏑木さんの悩みを聞いていますので、ユーリと呼んでください」
「……ユーリはさぁ……運命とか、信じちゃうタイプなの?」
「…………」

ユーリの言葉に少し戸惑いつつも、虎徹は今聞けるであろう最善の問いをユーリへと言葉を紡ぐ。

「もし、これからやることがすべて決められていることだって知ったら、ユーリならどうするんだ?」
「…………」

その琥珀の瞳が真っ直ぐユーリへと向けられ、真剣さもよく伝わってきた。
だが……。
その虎徹の言葉にユーリは思わず吹き出してしまったのだ。

「……ちょっ、ちょっと! こっちは真面目なんですよ! なのに……吹き出すなんて……」
「すいません。鏑木さんの口から、まさかそんなメルヘンチックな言葉が出るとは思っていなかったもので……」
「うぅ……。だから、言いたくなかったんだけどなぁ;」

ユーリの言葉に虎徹は頭を抱えた。
自分なりに色々と言葉を選んだ結果、こういう表現しか浮かばなかったのは事実だが、やっぱ言葉にされると辛い。

「……そうですねぇ。運命というものが本当に存在するかは、正直私にはわからないですけど……」

そんな虎徹の様子を見て、ユーリは少し考えながら言葉を紡ぐ。

「未来がどうなってしまうかと考えてしまうより、自分がどうしたいかと考える方が大事だと思いますよ」
「!!」
「私が言いたいのは、結果も大事ですけど、その為にどう動くかということも大事だと思います。……これが私の意見ですけど……回答になっていますかね?」
「えっ? あっ、はい! ……ありがとうごございます。……参考にさせてもらいます」

虎徹の表情を見つつ、ユーリはそう言うと虎徹は思わず、そう応える。
正直、ユーリの言葉に驚いてしまっている。

「では、私は医者を呼んできますから。鏑木さんは大人しく待っていてくださいね」
『虎徹! 大丈夫かっ!?』

そう言ってユーリが病室を出ていったのと、クロノスが虎徹の目の前に現れたのはほぼ同時だった。
そのあまりのタイミングの良さに虎徹は目を丸くしつつ、頷いた。

「おっ、おう……。大丈夫だけど……」
『本当か! 苦しいなら、今すぐに治す!!』
「だあっ! 余計な事すんなよ! 今から医者が来るんだから!!」

トキの気持ちはありがたいが、突然体調がよくなったら明らかに怪しまれるだろうが。
どうせ、やるんだったら、もっと早くに……。

「……ん? そう言えば、トキ。お前、なんであの時俺を助けてくれなかったんだよ? あそこでバニーが来なかったら、マジでヤバかったぞ;」
『う゛っ、そっ、それは……』

虎徹の言葉にクロノスは言葉に詰まる。
言えるはずなどない。虎徹は知らないのだ。
虎徹の"言霊"で我の動きを制限していることを……。
言葉には、力がある。声に出した言葉が、現実の事象に対して何らかの影響を与える。
その思いが強ければ強いほど、その力は強大になる。
あの虎徹の言葉は、無意識のうちに言霊となり、我を縛った。
そのことを知られれば、今後間違いなく厄介なことになるだろう。

「? どうしたんだよ?」
『べっ、別にいいではないか……。お前の相棒が助けに来たのだから』
「あっ……」
『あっ゛……;』

虎徹の表情を見たクロノスは後悔した。
今ここで、奴の名を出すべきではなかった。

「…………あのさぁ、クロノス……」
『ん? なんだ?』

そんなクロノスの表情を読み取ったのか、虎徹は恐る恐る言葉を紡ぐ。
だが、クロノスの顔を見た途端、その言葉が言えなくなってしまった。

「…………いや。……やっぱ、なんでもないや」
『…………』

きっと、俺が事の言葉を言ってしまえば、"負け"を認めてしまうことになるから。
だから、どんなことがあっても言ってはいけない言葉を……。
そして、虎徹が言おうとした言葉が何だったのか、クロノスは何となく気づいた。
だからこそ、今の虎徹にどんな言葉をかけていいのかわからなかった。

『……虎徹』
「鏑木さん。目が覚めたばかりで申し訳ありませんが、熱と血圧を測らせてもらいますね」

そんなクロノスの言葉と姿を遮ったのは、病室に入ってきた医者たちの声だった。
クロノスは、医者と虎徹のやり取りを俯瞰的に眺めていた。

(もし……あの時……)

もし、あの時虎徹が我に助けを求めていてくれれば、我は何も躊躇うことなくそれをやっただろう。
だが、実際それはなかった。
あの誰にも聞こえないような小さな声で呟いた虎徹は、確かに助けを求めていた。
だが、それは我にではなく、あの相棒に助けを求めていたのだ。
あの声を聞いたとき、凄く悔しかった。
何故、我ではなかったのか?
何故、奴だったのか?
今の奴は、虎徹を守るどころか傷付けるだけの存在でしかないのに……。
虎徹、あの時どういった気持ちであの言葉を言ってのか、教えてくれ。
神が、人間如きに嫉妬するなど、あってはならないことなのだからな……。
























神様シリーズ第3章第12話でした!!
なんだろう。書いていくうちにどんどん虎徹さんが可哀そうになっていっているのわ……。
ですが、そんな中、救世主が!!
ユーリさん!やっぱり、あなたは素敵です!!
そして、虎徹さんの言葉を聞いてユーリさんがルナティックとしてどう動くか!
その辺を今後どう書いていくかがポイントですね!!


H.27 2/1



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