夜空に浮かぶ赤い月をバックに黒い雲が風に吹かれて流れていく。
赤い月の下には刑務所があり、敷地内では懐中電灯を手に持ちながら警備の巡回を行っている。
そんな中、薄暗い刑務所内に汚い笑い声が響き渡る。

「そうだよ、あん時誘拐したガキがうるせぇから、ぶっ殺したんだよな!」
「それ、確か親も始末しなかった?」
「結局、全部殺しちまえばいいから、誘拐が一番安全かもなぁ」

そう話をしているのは、バーナビーがデビューした時に捕まった強盗犯達だ。
彼らは昔、自ら犯した殺人のことを笑い話として喋っている。
人の命を何だと思っているんだ。
こんな奴ら、生かしておく価値などない……。

「私語は慎め!」
「すみませ〜ん」
「さっさと寝ろ!!」

その声を聞きつけた看守が懐中電灯を持って現れると三人を注意した。
そんな看守に強盗犯達は笑って答えると、看守はイラついたようにそう警告すると、踵を返して去っていった。

(……時は満ちた…………)

そんなやりとりを全て聞いていた男は、その鉄格子へと近づいていく。
そして、右手にある蒼い炎の矢を左手のボウガンにセットすると、何の迷いもなく鉄格子へと放った。

「ぎゃあああぁぁぁっ!」

その瞬間、強盗犯達の絶叫が響き渡り、独房が青い炎に包まれる。
そんな光景を男は――ルナティックは、静かに眺めていた。






〜神様ゲーム〜








――――なぁなぁ、お前は撮影しないのかよ。虎徹?

そうクロノスが虎徹に問いかけてきたのは、今バーナビーがマンスリーヒーローの写真撮影をしているからだった。
今日の仕事は、バーナビーのマンスリーヒーローの写真撮影と雑誌インタビューであり、虎徹はその付添いでしかなかった。

「いいよぉ! サイコー、いい笑顔ください。そう、それ!」

カメラマンの声に虎徹は撮影現場の方に目を向けると、そこには白いジャケットと赤いシャツでコーディネイトされたバーナビーが様々な角度でポーズを決めていた。

(…………いいんだよ、俺は。バニーのカッコいい姿見れるし)

スポットライトに照らせれるバーナビーは本当に恰好よく、思わず見惚れてしまうくらいだ。

(……それに、俺なんかじゃ、全然モデルになんねぇよ;)
――――そんなことはないっ!!

そう言った虎徹に対ししてクロノスは猛抗議をし始める。

――――その長い脚に細い腰! 何処からどう見てもお前の相棒なんかより、虎徹の方が魅力的ではないかっ! 一体、愚かな人間共は何を見ているというのだっ!! 奴らの目は節穴ではないのか!?
(だあぁっ/// なっ、何でお前はそう言う事を恥ずかしげもなく言えるんだよ!? 聞いているこっちが恥ずかしいだろうがっ////)

そして、熱弁するクロノスの言葉を聞いた虎徹は思わず恥ずかしさから赤面した。

(そっ、それに、世間の評価の方がトキの偏った評価より正しいと俺は思うぞっ! ……実際、写真集、全然売れなかったらしいし……)
――――! ……いっ、今なんて言った? ……お前、写真集なんか出していたのか!?
(デッ、デビューしたての頃に一回だけだよ; でも、それは全然売れなくて廃版になったって、ベンさんからは聞いたけど……?)
――――…………虎徹、何故それを早く言わなかった!?

虎徹の言葉に思わずクロノスは声を上げた。

(なっ、何でって; そりゃぁ、聞かれなかったから……;)
――――とにかく! 帰ったら、その写真集を見せろっ! どうせ、持っているのだろうっ!!
(? 持っているけど……何で? 別に見ても面白くないぞ?)
――――いいから、見せろっ! 絶対にだっ!!
(わっ、わかったから; とりあえず、落ち着けって;)

今にもこの場に具現して出てきそうなクロノスの剣幕に若干押されつつ、何とか宥めようと虎徹はそう言った。
それにしても、なんでトキはたかが写真集一つでこんなにも熱くなっているだろうか?
俺のなんて見ても面白ところなんて一つもねぇのになぁ……。

(あっ、そういや……)

ふと、思い出したかのように虎徹はテーブルに置いてあるバーナビーの携帯電話を見た。
バーナビー達の様子を窺いながら、その携帯電話を手に取ると虎徹はカメラ機能と立ち上げる。
そして、こっそり自分のおどけた顔を撮影すると、携帯電話を元あった場所へと戻した。

(よし! これで、仕込みはバッチリだ♪)
――――…………どうせなら、私とのツーショットを撮ればよかったのに……。間違いなく、相棒は驚いて電話してくるぞ♪
(だっ! そんなもん、撮れるわけねぇだろうがっ!!)
「…………何、一人で顔芸やってるんですか?」
「!!」

クロノスとのやりとりに夢中になり過ぎて、バーナビーが背後にいる事に気付かなかった虎徹は、驚いたように顔を上げた。
そこには、あの時と同じようにジャケットを肩に担いで不機嫌そうなバーナビーの姿があった。

「あ゛っ; いや……。あ〜、この漫画がツボに入って入って入って。あはっ! あは……ははははっ;」

そのバーナビーの姿を見た虎徹は、慌ててテーブルに置いてあった新聞を手に取り、苦笑いを浮かべる。

「この三人……?」

すると、バーナビーは新聞のとある紙面に目を留めた。

「ん?」
「僕がデビューした時の……」
「はっ?」

そのバーナビーの言葉に虎徹は、新聞を裏返してみると、そこには強盗犯三人の顔写真が載っていた。
そして、その記事にはあの時と同じようにあの焼死事件に関する内容が記されていた。

「あっ……」

その記事を見た瞬間、虎徹は思わず声を漏らした。

(俺……知ってたのに…………)

この事件が昨夜起こる事を知っていたのに……。
それなのに、俺は何もしなかった。
そのせいでこいつらは、またルナティックに殺されてしまった。
俺が動いていれば、こいつらは死なずに済んだかもしれないのに……。

「おじさん……?」
「へっ?」
「どうかしましたか? 新聞を握り潰してますけど?」
「えっ?」

そうバーナビーに言われるまで虎徹は手にしていた新聞を握り潰していた事に気が付かなかった。

「あ゛っ、いや……。何でもねぇよ……」
「…………この三人、死んだんですね」

虎徹は、己が抱いていた気持ちを誤魔化すように笑ってそう言った。
だが、バーナビーはそれが引っ掛かったのか、新聞の記事へと目を向けた。
そして、その記事の内容を読んだバーナビーは冷たくそう口にした。

「! ……それだけかよ?」
「? 他に何が?」
「何だよ、その態度…………」
「えっ?」

そのバーナビーの言葉が今の虎徹には妙に癪に障り、思わずそう口にしてしまった。
虎徹にそう言われたバーナビーは、意味がわからないっといった表情を浮かべる。

「……お前、人が死ぬって事、どう思ってんだよっ! 人の命守んのが仕事じゃねぇのか!? お前、ヒーローだろっ!!」
「貴方の価値観を僕に押し付けないでください」
「あ?」

それを見た虎徹は、何かが弾けたようにそう声を張り上げた。
こんな事言っても今のバニーにはこの言葉はただ煩わしいものでしかない事なんてわかっていたが……。
だが、先程己が抱いていた後悔の念もあり、それを口に出すことを止める事は出来なかった。
案の定、虎徹の言葉を聞いたバーナビーは、虎徹に冷たい視線を送ってそう言い返してきた。
それを聞いた虎徹は、バーナビーを思わず睨みつけた。
そして、バーナビーも虎徹に負けじと睨み返す。

――――おい、止めろよ、虎徹! 今お前がやっている事は、単なる八つ当たりだっ!!
(!!)

クロノスの言葉に虎徹は我に返る。
トキの言う通りだ。俺が今バニーにしている事は、単なる八つ当たりだ。
あの三人を救えなかったことに対しての……。
その事に気付くと虎徹は、バツが悪そうにバーナビーから目線を逸らした。
バニーは別に何も悪くねぇのに……。
本当、何やってるんだよ、俺……。

「……あっ、はい、はいはい。今すぐワイルドタイガーを向かわせます」
「ん?」

すると、携帯電話で会話しているロイズの声が聞こえてきたので、虎徹とバーナビーはロイズへと視線を向けた。

「あぁ、バーナビーは今手を離せませんので、どうかワイルドタイガーで。はい。身体は丈夫ですから♪」

ロイズは、携帯電話で話しながら、虎徹の顔を見て笑みを浮かべた。

「あっ、あの……ロイズさん?」

その何処か見覚えのあるロイスの表情に虎徹は顔を引き攣らせるのだった。
























神様シリーズ第3章第1話でした!!
今回で本編第5話に突入〜♪やっと、ルナティックが登場ですよ〜♪
そして、今回の虎徹さんとクロノスのやり取りで虎徹さんの過去を少し暴露♪
虎徹さんの写真集があるのなら、絶対買うよ!私は!!
虎徹さんは八つ当たりだって言うけど、バニーちゃんのあの態度なら仕方ないよねぇ;


H.25 10/22



次へ