『いい? 今日のあなた達の任務は人命捜索、及び救助よ!』
「はい、了解」

高速艇の軸先にいる虎徹は、マスクから聞こえてくるアニエスにそう返事をした。
バーナビーと二人で乗っている船は、時化に荒れ狂う波を超えて進んでいく。

『ただし! 今はまだ危険だから、指示が出るまで船上で待機。特に、ワイルドタイガー。迂闊に飛び出さないように』
「…………はーい、了解」

そうアニエスに釘を刺された虎徹は、あの時同様に適当に返事をするのだった。






〜神様ゲーム〜








『ブルーローズは何してんのよっ! ……何で連絡がつかないの!!』
「大丈夫だよ。そのうち、ひょっこり顔出すって」

未だブルーローズと連絡がつかない事にアニエスが苛立ったようにそう言ったのが聞こえた。
今回の事件は、シュテルン湾沖の海上油田プラントで起きた爆発事故だ。
既に作業員は殆ど避難が完了しているが、逃げ遅れた作業員が一人取り残されているのだ。
この事件を無事に遂行するには、ブルーローズの氷を操る能力が必要不可欠となる。
だが、肝心のブルーローズは現場には顔を出しておらず、連絡もつかない状況が未だに続いている。
その為、アニエスはヒーロー達の身を案じて待機させざる得ない状況なのだ。
虎徹はそれを全てわかった上で、少しでもアニエスの苛立ちを解消させるべく、おどけてそう言った。
心配しなくても、ブルーローズは必ず来る。
それは誰よりも虎徹が知っている事だった。

「…………随分と彼女の事、信用しているんですね」
「ん……?」

声が聞こえた方へと視線を向けると、そこには何とも不機嫌そうな表情を浮かべているバーナビーがいた。

「大丈夫だよ。あいつだって、立派なヒーローなんだからさ」
「そうでしょうか? 彼女にはヒーローとしての自覚がないようですし……」
「そんなことねぇよ」

バーナビーの言葉に虎徹は、はっきりと否定した。

「あいつは、必ずここへ来るよ。そう、俺は信じている」
「っ!!」

笑ってそう言った虎徹の言葉にバーナビーは瞠目した。
この男は、一体何処まで無防備に人を信じられるのだろうか?
それと同時に、何故だか無性に腹が立ってしまう。
この男が他の誰かを信頼できるという事が……。

「何なら、賭けてもいいぜ?」

そんな事とは知らない虎徹は、ニッと笑ってバーナビーに言った。

「…………そうですか。いいですよ」
「おっ! 意外に乗り気だねぇ、バニーちゃん! で、いくら賭ける? 一? それとも十?」
「いえ、僕は貴方ほどお金には困っていませんので」
「お前……それ、嫌味にしか聞こえねぇぞ;」

バーナビーの言葉に虎徹は溜め息をついた。

「……じゃぁ、何賭けるんだよ? 何か奢ればいいのか?」
「僕が勝ったら、貴方は僕以外のヒーローTVの関係者達と金輪際、喋らないでください」
「な〜んだ。そんなこと…………えっ?」

バーナビーの言葉に虎徹は目を丸くした。
今、バーナビーが発した言葉は、何かの聞き間違いではないと。
バニー以外と誰とも話すなってそんな事、バニーが言うわけないよなぁ……。

「あっ、あのさぁ……バニーちゃん。それってどういう事?」
「ですから、僕以外のヒーロー達やアニエスさん達と会話しないでください、という事です」
「…………ええっ!? いやいや、いくらなんでもそれは……;」
「何故です? 貴方は僕のパートナーなのですから、僕以外とは基本的に会話する必要はないはずですが」
「いやいや! それにしたってやりすぎじゃ――」
『ちょっと、バーナビー! あなた、いい加減にしなさいよっ!!』

そう虎徹の言葉を遮って声を上げたのは、二人の会話を一部始終聞いていたアニエスだった。

『ヒーロー達はともかく、何で私まで対象に含まれてるのよっ!!』
(えっ? 突っ込むとこそこなの、アニエス;)
「それは、ついでですよ」
(ええっ!? しかも、ついでなの!? バニーちゃん!?)
『ふざけないでよ! そしたら、誰がタイガーに指示出すのよっ! 彼を野放しにしろってでも言うのっ!!』
「ご心配なく。貴女の指示は僕がおじさんに伝えますから」
『ふっ、ふざけないでっ! そんな回りくどい事できるわけないでしょうがっ!!』
(…………こいつら、何でこんな喧嘩になってんだ? ってか、何で俺が賭けに負ける前提で話が進んでるんだよ;)

バーナビーとアニエスのやり取りを聞いていた虎徹は、呆れたように溜め息をついた。

『タイガー! こんなバカみたいな賭け、受けるんじゃないわよっ!!』
「へっ? なんでだよ? 俺、受けるよ、この賭け」
『「!?」』
(なんで、バニーちゃんまで驚いてんだよ;)

賭けの制止を促すアニエスに対して、虎徹はケロッとした表情を浮かべてそう言った。
それを聞いたアニエスは驚いたように息を呑み、何故かバーナビーも瞠目した。

『あっ、あなた、バカじゃないの!?』
「大丈夫だって。あいつは絶対来るから。……なっ?」
『…………もうっ! 人の気も知らないでっ! どうなったって、知らないわよっ!!』

笑ってそう言った虎徹に対して、アニエスはもう何も言えなくなったのか、自棄を起こしたようにそう言った。

「…………本当に、いいんですね?」
「おう! 男に二言はねぇよ!!」
「……そうですか。……では…………」
「?」

虎徹の言葉を聞いたバーナビーはフェイスシールドを下すと、NEXT能力を発動させた。

「彼女が来る前に、僕が事件を解決させたら、僕の勝ちですよね? お先に失礼します」

そう虎徹に言い残すと、バーナビーは高速艇から勢いよく飛び出していった。

「! ……あいつっ!!」

それを見た虎徹はすかさずNEXT能力を発動させ、バーナビーの後を追った。

『ちょっと、二人共! まだ、指示は出していないわよっ!!』

そんなアニエスの声を完全に無視して、虎徹とバーナビーは燃え盛る油田プラントの中へと消えていくのだった。





















――――しっかし、お前、すっごく相棒に愛されてるなぁ♪

燃え盛る炎の中を突き進む中、頭の中に呑気そうなクロノスの声が響いた。

(はぁ? 何処がだよ? どう考えたって、嫌がらせだろ、あれは;)
――――そうか? 私には、そういう風には映らなかったがなぁ……。

まるで、好きな物を誰にも触れさせないようにしているような。
好きな物を独占したがる子供のようだとクロノスは思った。
でも、まぁ、相手が相手なのだ。
片方は恋愛面に関しては人の気持ちがまるでわからない、超が付くほどの鈍感な虎。
そして、もう片方は己の気持ちに全く気付いていない無自覚な兎だ。
クロノスから見ると両方とも性質が悪いと言っていいだろう。
まぁ、それを利用して虎徹を自分のものにしようとしている私はもっと性質が悪いかもしれないが、それは一先ず置いておこう。

(あっ、そうだ、トキ。もし、俺がバニーとの賭けに負けたらお前とも口きけねぇからな)
――――はあっ!? 何故、そうなるっ!? 私には関係のない話だろうがっ!?

虎徹の言葉にクロノスは面食らったような声を上げる。

(いや、どう考えたってお前も俺の関係者だろ? お前が俺と今一番接してるわけだし……。だから、お前とも口きけねぇや)
――――お前は何処まで律儀なんだっ!!

ケロッとした感じで虎徹がそう言った事に対してクロノスは唇を噛んだ。
おのれ、バーナビー・ブルックスJr.めっ!
こんな形で私の楽しみを邪魔するとは……。
虎徹の言葉に内心喜びつつも、素直に喜べないのはお前の無自覚な嫉妬のせいだぞっ!

(まっ、まぁ……大丈夫だって; トキだってわかってるだろ? ブルーローズは必ず来るってことはさぁ;)

クロノスの只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、虎徹はそう補足するようにクロノスに言う。
虎徹の言う通りである。彼女は必ず姿を現す。
それはわかりきっている真実ではあるが……。

――――……やはり、心配だ。私は様子を見に行く! ……場合によっては、あの小娘を引き摺ってでも連れて戻ってくるっ!!
(えっ? えっ!? ちょっ、ちょっと、待てよ! トキ!!)

虎徹の制止も聞かず、クロノスはその場から完全に気配を消すと虎徹の傍から離れていった。

(あいつ……ブルーローズに何か乱暴な事したら、マジでしばく!!)

そんな事を考えながら、虎徹は人命捜索を続けるのだった。





















「やっと来たか。来るの遅せぇぞ!」
「…………来てあげただけでありがたいと思いなさい」

ブルーローズが現れたのは、作業員を無事スカイハイが救出し、プラント上部のクレーンが爆発を起こして崩壊した直後だった。
折れたクレーンが虎徹達目掛けて落ちてくるところをブルーローズのNEXT能力によって救われたのだ。
キラキラと雪の結晶が降っている中、虎徹はそう言うとブルーローズはいつもの女王様キャラで応えた。
彼女の様子を見る限り、トキに変なことはされなかったようなので、とりあえず虎徹は一安心をした。

「…………まさか、このタイミングとは……っ!」
「な、言ったろ? 賭けは俺の勝ちなっ♪」
「何!? あんた達、賭けなんかしてたの?」

首を振って心底悔しそうにしているバーナビーに虎徹は笑ってそう言った。
虎徹の言葉を聞いたブルーローズは、明らかに怪訝そうな表情を浮かべた。

「あ゛っ; けど、金は賭けてねぇぞ。お前が今日来なかったら、バニー以外の奴と喋れなくなってたけどなぁ;」
「「「「!?」」」」

ブルーローズの反応に慌てたようにそう口走った虎徹の言葉にブルーローズ達は瞠目した。

「……くそっ、後少しのところだったのに…………っ!」
「ちょっと、あんた達何賭けてんのよっ!」
「お前! 負けた時の事考えてなかったのかよっ!」
「そうだとも、ワイルド君! もし、ワイルド君と話せなるという事を考えただけで、私は……寂しい、そして哀しくなるぞっ!!」
「だっ、だって、バニーが俺がブルーローズが必ず来るって言ってんのに信じないんだもん;」

バーナビーが舌打ちしてそう呟く。
それを見た事で虎徹が言っていた事が本当であった事がわかり、ファイヤーエンブレム、ロックバイソン、そしてスカイハイが虎徹に畳み掛けるように詰め寄った。
それに対して、虎徹は不貞腐れたようにそう言った。

「バッカじゃないの!? もし、私が来なかったら、本当にどうしてたわけっ!?」
「う〜ん……悪ぃ、正直考えてなかったわ; 俺、お前が来るって信じてたからな!」
「っ!!」

ブルーローズの言葉に虎徹は困ったように首を捻ると、そうはっきりと笑ってそう言った。
それを聞いたブルーローズは思わず息を呑んだ。
嬉しかった。タイガーが自分の事をここまで信じて待っていてくれた事が……。

「それより、答えは見つかったのか?」
「…………困っているみんなを助けたい。動機なんてそんなもんじゃない?」
「…………そっか」

己の問いにブルーローズがそう答えると虎徹は何処か嬉しそうにそう言った。

(……本当は……ちょっと、違うけどね…………)

本当は今でも悩んでいる。このまま、ヒーローをやっていいのか……。
でも、こんな私でも信じて待っていてくれる人がいる。
私の力を必要としている人がいるのだ。
そう、私の目の前に……。
すると、凍り付いたプラントの上に立つブルーローズの姿にカメラが寄る。
それに気付いたブルーローズは微笑みながら、両手に持ったフリージングリキッドガンをクルクルと回してホルダーに収める。
そして、カメラに向かって魂の籠った決めポーズを取り出す。

「私の氷はちょっぴりCOLD! あなたの悪事を完全HOLD!!」

ねぇ、タイガー……。
私は、あなたのように困っている人を心の底から助けたいとはまだ思えないの。
でも、私の中に一つだけ確かな気持ちがあるの。
それは、誰かを助けようとするあなたの力になりたい。
あなたの傍にいたいという気持ち……。
今はまだそれじゃぁ、ダメかなぁ? タイガー……。
そんな想いを抱えて、私はこれからもヒーローであり続ける。
いつか、あなたに本当の意味で認めてもらえるようになる、その日まで……。
























神様シリーズ第2章第9話でした!!
鈍感虎と無自覚バニーの勝負は、見事に虎の勝利でした♪
ここで、あんなやり取りをしていた為、クロノスはカリーナの許に現れたのでしたww
みんな、虎徹さんと喋れなくなるのは嫌なんですよね〜。
次回から、本編第5話に入ります♪


H.25 7/22



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