「判決。ワイルドタイガーがヒーローTV内で起こした施設物破損について当局は、その行為により救出された市民がいない事実関係を認める」

ジャスティスタワー内の裁判所内にて判決文を読み上げるユーリの声が辺りに響く。
その内容を被告人席で虎徹は冴えない表情を浮かべながら聞いている。

「よって、賠償金の金額を、アポロンメディアの負担とする」
「はい……」
「これにて閉廷」

虎徹の返事にユーリはそう言うと木槌を叩いた。
判決を聞き、傍聴席に座っていたバーナビーは小さく溜め息をつくと、真っ先に立ち上がって法廷を後にするのだった。






〜神様ゲーム〜








「…………なぁ、何でお前が怒ってんだよ? 俺の問題だろ?」
「僕の問題でもあるんです! あんな判決、コンビとしてマイナスポイントですよっ!」

法廷を出たバーナビーの後を追いかけて虎徹がそう言うとバーナビーはその足を止めることなくそう言い返した。

「ポイントなんて関係ねぇだろ? 俺らは市民の為にだな――」
「いい加減にしてくださいっ!」

虎徹の言葉を遮ってそう言うとバーナビーは漸く立ち止まって、虎徹へと振り向いた。

「コンビ組んでからずっと我慢してきたんですけど、……もう、うんざりなんです、貴方のお節介!」
「お節介?」
「僕のプライベートに『ちゃんと飯食ってる?』とか首突っ込んできて……」
「そっ、それは別にいいだろ?」
「何かペース狂うんです! とにかく、貴方が良かれと思ってやっている事でも、周りに迷惑をかけてるって事わかってくださいっ!!」
「っ!」

そのバーナビーの言葉に虎徹は絶句した。
バニーにここでこう言われることなんてわかりきっていたはずなのに、それでも虎徹は心配でちょくちょくバニーに声をかけずにはいられなかったのだ。
だが、いざこうして言葉にして言われると、やっぱ傷付く。

「…………鏑木さん」

すると、突如背後から声が聞こえてきたので、虎徹は振り返るとそこには裁判官のユーリの姿があった。

「あっ、裁判官さん、どうしたんっすか? こんなところまで来て?」
「すみません。先日提出して頂いた書類に誤りがあったので…………」
「ええっ!? 何処ですか?」

ユーリの言葉を聞いた虎徹は、すぐさまユーリの手に握られている書類を覗き込もうとユーリへと近づいた。

「ここなんですが……」
「げっ! 本当ですね。すみませんでした;」
「…………」

ユーリが指摘した箇所を見て虎徹は、明らかに焦ったような表情を浮かべた。
そんな二人のやり取りをバーナビーは無言で見つめている。

「鏑木さん、今ペンとかお持ちですか?」
「あ゛っ、今持ってないですね;」
「そうですか。でしたら、私の部屋で修正をお願いします」
「あっ、はい」

ユーリの言葉に虎徹は素直に頷いた。
そして、ユーリの後に続いて歩き出そうとした。

「ちょっと、待ってください」

その時、バーナビーの声が辺りに響き、虎徹とユーリは足を止めた。

「…………その書類は、今日中に修正しないといけないのですか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
「でしたら、その書類をお渡して頂ければ、修正してお持ちしますよ」
「はあっ? お前、何言ってるんだよ? そんなの二度手間だろ?」

バーナビーの言葉に虎徹は首を傾げた。

「これくらいだったら、ちょっと行って書き直した方が早ぇだろ?」
「ですが! この後だって、まだ仕事が……」
「それ、お前だけの仕事だろ? お前、一人で行けばいいんじゃねぇのか?」
「!!」

口籠るバーナビーに対して虎徹は、不思議そうな表情を浮かべてそう言うとバーナビーは瞠目した。

「なぁ? 裁判官さんも俺一人でいいんだよなぁ?」
「はい。私は鏑木さんだけ来て頂ければ、何も問題ありませんよ。なので、バーナビーさんはどうぞ次の仕事に向かわれてください」
「…………」
「…………」
(えっ、え〜〜っと……何? この静けさ;)

虎徹の問いにユーリは笑みを浮かべてそう言うとバーナビーは、無言でユーリを睨み付けた。
それに対してユーリは顔色一つ変えることなく、笑みを浮かべたままバーナビーを見つめているが、その目は笑っていないかった。
そんな二人のやり取りを虎徹は、ただ不安そうに交互に見つめていた。

「……だっ! もういい加減にしろよっ! バニー! さっさと、次の仕事に行けよっ!!」
「っ! ……わかりました、僕はここで失礼させて頂きますっ!!」

そして、そんな状況についに見兼ねた虎徹は、バーナビーの肩を掴んで押すとそう言った。
虎徹のその行動にバーナビーは若干傷付いたような表情を浮かべたが、最後は若干自棄を起こしたように虎徹の手を肩から振り払ってそう言うとエントランスへと歩き出していった。

「…………すみませんね、変に時間とらせちゃいまして; 裁判官さんも忙しいのに……」
「いえ、私は大丈夫ですよ。……それより、鏑木さんも色々と大変ですね」
「? 大変って……何がですか?」

バーナビーの背中を見送った後、虎徹はユーリに向き合うと申し訳なさそうにそう言った。
それを聞いたユーリは、首を振ると虎徹に何処か同情するかのようにそう言った。
だが、虎徹は何の事を言われているのかわからないと言った様子で首を傾げた。

「…………いえ。何でもないですよ。それでは、行きましょうか」
「? あっ、はい……」

それに対して、ユーリはフッと笑みを浮かべてそう言うとだけだった為、結局虎徹はわからずじまいだった。





















「…………なぁ、裁判官さんって好きなヒーローとか、いるんですか?」

そう何気なく問いかけたのは、虎徹の方だった。
ユーリの部屋へとやって来た虎徹は、書類の修正を行っていたが、ユーリが淹れてくれた紅茶を誤って書類に溢してしまい、書類自体をダメにしてしまった。
その結果、虎徹は全てを書き直す羽目になってしまったのだった。
その為、書類修正には思っていた以上に時間がかかってしまった。
その間を何とか取り繕うと思った虎徹は、そうユーリに話しかけたのだ。

「私ですか? そうですね……。これと言ってはいないですね」
「そっ、そうですか……;」
「鏑木さんは、Mr.レジェンドがお好きなんですよね? 先日のテレビ、拝見させて頂きましたよ」
「えっ!? あっ、あれ、裁判官さんも見られたんですか!?」
「ええ。楽しく拝見させていただきましたよ」
「っ////」

ユーリにそう言われた虎徹は、恥ずかしさからか赤面する。
彼の言っているテレビとは、先日のバニーの特番の事である。
その番組の撮影の為、虎徹はバーナビーとフォートレスタワービルで撮影をした。
その際、Mr.レジェンドの事や幼い頃の体験についてつい口を滑らせてしまったのだ。
前回はあそこでの会話は全てカットされていたので、今回もそうなるだろうと虎徹は思っていたが、その予想に反して全て放送されてしまったのだ。

「あんなの流すなんておかしいだろっ!」と放送後にアニエスに抗議したが、当の本人と言えば「あら? とってもいい話だったじゃない?」と笑ってあしらわれたのだった。

「あっ、あんな話……テレビでするようなもんじゃないですよねぇ;全然つまんなかったし;」
「そうですか? 私はそうは思いませんでしたよ。……きっと、あの放送を見て勇気をもらったNEXTの方は、たくさんいらっしゃると思いますよ」
「…………」

そのユーリの言葉に虎徹は口を閉じた。
彼の言う通りなのか、あの特番が放送された日から会社には、バーナビー宛のファンレターだけでなく俺宛のファンレターも届くようになった。
その内容の多くは、『番組観ました。タイガーの話に感動しました!』や『タイガーの話に勇気をもらって、自分がNEXTであることを家族に告白しました』といったものであった。

「…………それに、あの番組のおかげで、私はあなたは興味を持ったのですから」
「えっ? 今、何か言いましたか?」
「いえ、何でもないですよ」
「? そうですか……」
「…………」

ユーリが何か呟いたようだったので、虎徹は聞き返してみたが、ユーリは苦笑するだけだった。
その為、虎徹はそれ以上聞かず、書類作成に専念するの事にした。
そんな虎徹をユーリは静かに見つめていた。

(彼は……私の求めるヒーローになれるのだろうか……?)

正直、彼の事なんて最近まで眼中になかった。
自分が興味を持ったのは、彼の相棒であるバーナビーの方だった。
バーナビーなら、自分が求めるヒーローになれるのではないかと……。
己の正義を貫けるヒーローになれると……。
だが、先日の特番を見てその考えが大きく変わった。
彼が何故ヒーローになった理由を、Mr.レジェンドとの出会いを聞いてから彼に対する見る目が変わったのだ。
彼はあの男に出会ったから、あの男の言葉があったからヒーローになったのだと……。
彼は他のヒーロー達の中では誰よりもあの男の影響を受けているのだと。
あの男の――父の影響を……。

「鏑木さんは、もし……Mr.レジェンドにまた会えるのなら…………会いたいと思いますか?」
「う〜〜ん。そうだなぁ……会いたいと言えば、会いたいと思いますけど……無理なんだろうなぁっと思ってます」

ふと何気なくそう訊いたユーリの言葉に虎徹は少し考えながらそう言った。

「けど……もし、会えるんだったら……ちゃんとお礼が言いたいなぁ。……あなたのおかげで、俺はヒーローになりましたって!」
「っ!!」

そして、そう言って優しく笑った虎徹を見てユーリは息を呑んだ。
その純粋で眩いばかりの笑顔を見れば、嫌でもわかる。
彼が本当にあの男の事を心の底から尊敬しているのだと……。
私が幼い頃に捨ててしまった思いを彼は未だに持っている事を………。

「…………はい。できましたけど、これでいいですか?」
「……あっ、はい。大丈夫そうです」
「よかった。時間がかかってしまって、すみませんでした。じゃ、俺はこれで失礼します!」

ユーリに書類を手渡すと虎徹は笑顔でそう言うと部屋から出て行った。
一人、部屋に残されたユーリはただ、虎徹から受け取った書類に目を落とし、先程の虎徹の笑顔を思い出していた。

(……あなたは、笑っていてくれるだろうか?)

もし、私が真実を打ち明けたら、あなたは今と変わらない笑顔を私に向けてくれますか?
私があなたが最も尊敬する存在であるMr.レジェンドを――自分の父親を殺めてしまった事を打ち明けても……。
それを言ってしまったらあの笑顔が壊れてしまうかと思うと決して言えないだろう。
それは、彼の笑顔をもっと見てみたいと思ってしまったからだ。
そんな事を望む資格なんて私にはないはずなのに……。
























神様シリーズ第2章第10話でした!!
今回から本編の第5話にはいりましたっ!!
そして、今回でついに虎徹さんとユーリさんが絡めたよ!!
バニーちゃんは虎徹さんがユーリさんの味方をしたのでご機嫌斜めになっちゃいました;
アニエスは何気にいい仕事をしています♪


H.25 8/4



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