ヒーローなんて別にやりたくてやっているわけじゃない。 私にとって、一番大切な事は歌を歌う事。 今はバイトでバーで歌っているけど、いつか本物の歌手になる事が私の夢。 だから、ヒーローなんて……。 〜神様ゲーム〜 自宅の自分の部屋でカリーナはベッドに寝転んでいた。 その手には、虎徹から貰ったクチャクチャの一シュテルンドル札があり、カリーナはそれを無言で見つめていた。 ――――俺は、困っている人を助けたいから、ヒーローをやっている。 ふと、思い浮かぶのは、バーでそう言ったタイガーの言葉。 ――――動機なんてそんなもんだろ。誰かに認められるとか……どうでもいいんじゃねぇのか? 大人の余裕を見せつつそう言ったタイガーの穏やかな声が頭から離れなかった。 ねぇ、タイガー。私にヒーローをやっていく資格はあるのかな? 私は、タイガーとは違うの。 タイガーのように困った人を助けたいと思ってヒーローやっているわけじゃないんだよ。 会社が歌手デビューさせてくれる条件としてヒーローをやっているだけ。 そんな私がこのままヒーローを続けていていいのかな? タイガーの傍にいても……。 そんな事を考えていると突如部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。 「カリーナ。……少し、話せるか?」 「誰とも話したくない……」 聞こえてきた父――エリックの声にカリーナはそう素っ気なく返した。 「『ヒーロー辞める』って言ったそうだな。ママが心配してたぞ」 「だったら何? 散々、反対してたくせに」 「この前『ヒーローは二の次だ』って言ってたね。衣装の事も心配だけど……それよりもその気持ちが心配なんだ。そんな気持ちじゃ、いつか取り返しのつかない事になるんじゃないか」 「…………」 エリックの言葉にカリーナは何も答えなかった。 「……辞めたいと思うなら、辞めなさい。私は賛成だ」 その言葉を最後にエリックが部屋から離れていくのを感じ、カリーナはベッドから降りて部屋のドアを少しだけ開けた。 そっと階段を下りていくエリックの様子を窺ってみると、彼の手にはブルーローズのヒーローカードが握られている事に気付いた。 「もし、今お前が辞めたら、このカードもいずれ価値がでるかもな……」 何処か寂しげなその背中にカリーナは何も声をかけずに、後ろ手にドアを閉めた。 「…………親バカ」 そして、ドアに凭れ掛かるとそう小さく呟く。 その瞬間、机の上に置いてあったPDAが点滅しだすのと同時にカリーナの携帯電話が鳴った。 カリーナは少し迷ったが、携帯電話を手に取って電話に出た。 「…………はい」 『あっ、カリーナ? 急で悪いんだけどさ、出演予定の歌い手さんが急遽来られなくなって、申し訳ないけど今から来れないかな?』 「えっ? 今から……」 それは、バイト先の店長からの電話だった。 その内容にカリーナは、困惑したように点滅しているPDAに目を向けるのだった。 「では、次は当店の新人歌手、カリーナ・ライルです」 その紹介を受け、カリーナはステージへと上がる。 悩んだ結果、カリーナが選んだのはこのステージだった。 私は、もうヒーローを辞めるんだから……。 そう、私にとって本当に大切なのは……。 『現在、ヒーロー達が人命救助に向かった模様!!』 「!!」 バーに設置されたテレビモニターから聞こえてきたマリオの実況にカリーナは、モニターへと目を向けた。 そこ映っていたのは、高速艇の軸先からバーナビーとワイルドタイガーが飛び出している姿だった。 『彼らの活躍に期待したいところですっ!!』 「…………」 燃え盛る海上油田プラントの中へバーナビーとワイルドタイガーが、何の躊躇いもなく消えていくのをカリーナは見つめていた。 そんなカリーナを見てバーの店員は、カリーナに早く演奏をするように促す。 カリーナはそれに従うように、グランドピアノに向き合うと演奏しだす。 (ヒーローなんて……もう、私には関係ない…………) 命を懸けて戦っても誰も認めてくれないし、報われないヒーローなんて……。 そう、思うのにどうして……。 好きな歌を歌っているのにどうして、私の気持ちは全然晴れないのだろう? 「おいおい、たった一人助けるだけだろ! 何モタモタやってんだよっ!」 ピアノを弾いていた手が止まると、ふとカリーナの耳に入ってきたのは酔っぱらいの客の声だった。 「本当にヒーローかよ? 俺はお前らをヒーローとは、認めねぇからな!」 「!!」 ――――俺達はな、別に誰かに評価されたくて命を張ってるわけじゃねぇんだよ。 酔客の言葉を聞いて思い出したのは、タイガーの言葉だった。 「……別に、あんたに認められたいわけじゃないわよ」 タイガーは、こんな奴に認められる為に命を張っているわけじゃない。 タイガーは困っている人がいたら、助けずにはいられないの。 認められるとか、報われないとか、タイガーには関係ないのだ。 それなのに私は…………。 「だらしねぇ奴らだよ、本当。おい、誰か賭けねぇか! こいつらが救出できるかどうか、どうだ!!」 酔客のその言葉にカリーナは思わず、鍵盤を叩いた。 許せなかった。 今、命を懸けて必死に救出しようとしているタイガー達の事を馬鹿にされた様な気がして……。 「…………いい加減にしなさいよっ!!」 カリーナは立ち上がると、そのまま酔客にその怒りをぶつけた。 「あ? 何だお前。……何か文句でもあんのか!?」 「さっきから好き勝手言ってるけど、ヒーローがどんな思いで身体張ってるかわかってんの? 賭けなんかしないでよっ!!」 赤ら顔の酔客が不機嫌そうな表情を浮かべる。 そんな酔客に臆することなく、カリーナはそう言いながら、彼の手に握られていたシュテルンドル札をパッと振り払った。 「何しやがんだ!」 酔客は慌てて、床に落ちたシュテルンドル札を拾い出す。 そんな酔客を無視してカリーナはモニターに目を向けた。 それに映っているのは、プラント内で懸命に任務を遂行するヒーロー達の姿。 捜索を続けるドラゴンキッド、ドアをこじ開けるファイヤーエンブレム、そして――。 『依然としてヒーロー達は決死の捜索活動を続けております。しかし、未だ火の勢いは留まる事を知りません! まさに絶望的なこの状況! 燃え盛る炎の前には、さすがのヒーロー達も為す術なしかっ!?』 (どうしよう……) 本当は自分がすべきことが何なのかわかっている。 わかっているのに、どうしてだか動けなかった。 今更現場に向かったってもう遅いと思ったから……。 『…………何をしているんだ?』 「!?」 自然と拳を握っていたカリーナの背後から声が聞こえてきた。 その声の方向に振り向くとそこには見知らぬ男が立っていた。 『お前は、ここで一体何をしているんだ?』 「なっ、何って……そんなの…………」 男の言葉にカリーナは何故か即答する事ができなかった。 『ならば、聞き方を変えよう。……お前は今、何がしたいんだ?』 「!!」 見知らぬ男の言葉にカリーナは瞠目した。 私が今、何をしたいかなんて……。 『お前の力を今、必要としている奴がいるんじゃないのか?』 「…………」 男の言葉にカリーナは、静かにモニターへと再び目を向けた。 そこに映る瓦礫を持ち上げ、必死に人命捜索を続けているタイガーの姿を……。 私の力を今一番必要としてくれるのは……。 「…………行かなきゃ」 そう呟いたカリーナは、勢いよくバーから飛び出していった。 目指すは海上油田プラント。 そこへ向かう事にもうカリーナには迷いはなかった。 神様シリーズ第2章第8話でした!! 今回はほぼカリーナしか出ていない回となっきゃいました; 今回の回でカリーナにとっての虎徹さんの存在が大きなものへと変わっていくところを描きたくて書いてみたのですが、若干愚だ愚だな感じが; カリーナと話していた見知らぬ男はもちろん、クロノスですっ! クロノスが何であんな行動に出たかは、次回のお楽しみっという事で♪ H.25 7/22 次へ |