「あ〜あ、何で私が文句言われなくきゃいけないの!?」 トレーニングセンターにて、ブルーローズことカリーナの声が響き渡ったので、虎徹は思わずそちらに目を向けた。 どうやら、カリーナがファイヤーエンブレムことネイサンに愚痴を溢しているようだ。 「まぁまぁ、怒っても皺が増えるだけよ?」 「こっちは身を危険に晒してまでヒーローやってるのにさ!」 「会社には会社の事情があってね、仕方ない部分もあんのよ」 興奮気味のカリーナを何とか宥めようとネイサンはそう言った。 どうやら、昨日の事件の事についてカリーナは会社に何か言われたようだ。 昨日の事件でブルーローズはバニーに助けられて、ポイントを与えてしまったからだろう。 「…………ファイヤーエンブレムはいいわよ。自分がオーナーだから自由だし」 「でも、何もかも自由ってわけじゃないわよ」 「……友達にも内緒にしなきゃいけないし。こんなにも報われない仕事だと思わなかった。本当、みんなよくやってられるよね。誰も認めてくれな――」 「…………おい」 カリーナの言葉に虎徹は思わず口を挟んで、遮ったのだった。 〜神様ゲーム〜 「お前……何か勘違いしてないか?」 「何よ、勘違いって」 虎徹の言葉にカリーナは明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた。 今の彼女には、まだこの言葉は響かないかもしれないが、虎徹は言わずにはいられなかった。 「俺達はな、別に誰かに評価されたくて命を張ってるわけじゃねぇんだよ」 「「!!」」 虎徹の言葉に遠くでトレーニングを行っていたバーナビーの手が止まり、カリーナは瞠目した。 (ん? 何か、前と反応が若干違うような……) 「だっ、だからさぁ、あんまし周りの事は……」 「――――ってるわよ」 「へぇ?」 「そんなこと、あんたに言われなくたってわかってるわよっ!!」 「!!」 カリーナのその大声に、虎徹は思わずたじろいだ。 そんな虎徹の事は無視してカリーナはスタスタと部屋を出て行こうとする。 「おっ、おい待てって! まだ、話は終わって――」 「もう、うるさいっ! このポイントゼロ男っ!!」 「!!」 それを引き留めようとした虎徹に対してカリーナは、トドメとばかりにそう吐き捨てるように言った。 それを聞いた虎徹は、今度こそ動けなくなり、カリーナは部屋を出て行ってしまった。 言われる事は覚悟していたが、改めてそう言われるとやっぱ堪える。 「そんなに落ち込まないの。あの年代の女の子に、頭ごなしに説教しても無駄よ。難しいお年頃なんだから」 「ううっ……。別にそんなつもりじゃねぇんだけどよ……」 そんな虎徹は励ますようにネイサンは虎徹の肩を叩くとそう言った。 それに対して何とかそう答えると虎徹は、バーナビーがトレーニングを止めて、近くに来て虎徹の事をジッと見つめている事に気付いた。 「何だよ……」 「いっ、いえ別に……」 虎徹がそう言うとバーナビーは慌てて目を逸らした。 「俺、何が間違った事言ったか?」 「いえそうじゃなくて。……ただ、ちょっと……被ってしまって……」 「? 被った? …………何が?」 「…………」 そう虎徹が訊いても、バーナビーは答えず、ただ眼鏡を押し上げるだけで、結局今回もその意味がわからなかった虎徹であった。 (おっ! 今日も歌ってるな、ブルーローズ……) トレーニングを終えた帰りに、虎徹は行きつけのバーに立ち寄った。 バーの扉を開けるとそこから聞こえてきたのは、グランドピアノの音色。 そして、少女の歌声だった。 グランドピアノへと目を向けると、そこには弾き語りをしているカリーナの姿である。 彼女は、ヒーローをやる傍ら、歌手を目指してこうやってバーでアルバイトをしているのだ。 ヒーローも、歌手として夢も決して生半可な気持ちで彼女はやっていないのだ。 だが、今の彼女は悩んでいるのだ。 このまま本当にヒーローを続けていいのかと……。 虎徹はゆっくりとグランドピアノに近づくと、ピアノに凭れ掛かった。 カリーナは、虎徹が近くにいる事は全く気付いていないのか、演奏が終わって折角拍手を貰っているのに俯いて物憂いげな表情を浮かべていた。 「…………へぇ。思ったより、本気でやってんだな」 「!!」 虎徹がそう声をかけてやると、カリーナは驚いたように顔を上げ、虎徹の顔を見た途端、うんざりとした表情へと変わった。 「当たり前でしょ! 何カッコつけてんの?」 「えっ? ん?」 溜め息をついてカリーナがそう指摘をしたのに対して虎徹は、少しでもカリーナの気を紛らわせようと、敢えてあの時同じようにおとぼけたリアクションをとった。 それが、逆効果だったのか、カリーナの眉間に皺が寄った。 「……ねぇ、何で私に構うの。もうほっといて……?」 そうカリーナは、口を開いたが途中で言葉が途切れる。 それは、虎徹がカリーナへクチャクチャの一シュテルンドル札を目の前に差し出した。 「これ……少ねぇけど、チップだ。歌上手かったよ」 「!!」 虎徹が笑って、一シュテルンドル札をカリーナに手渡してやると、カリーナは驚いたように目を見開いた。 「歌一本でやっていくのも……いいんじゃねぇか? ……じゃぁ、邪魔して悪かったな」 「! ちょっ、ちょっと待って!!」 そして、虎徹はあの時と同じようにその場から立ち去ろうとすると、カリーナは慌てたように虎徹の腕を掴んで引き止めた。 「へっ?」 「! ごっ、ごめんっ///」 カリーナに手を掴まれるとは思っていなかった虎徹は、間抜けな声を上げた。 カリーナも咄嗟に虎徹の腕を掴んでしまった事に驚き、すぐに手を放すと俯いた。 その顔は明らかに赤面していた。 (なっ、何やってるの、私ったら///) 「おっ、おい? どうしたんだ? 顔、赤いぞ? 熱でもあるのか?」 「! なっ、なっ、なんでもないわよ////」 「? そうか? なら、いいんだけど……」 そんなカリーナには気付かず、虎徹はカリーナの顔を覗き込んだ。 間近で虎徹の顔を見たカリーナの心臓は一気に跳ね上がり、そう言った声は明らかに裏返っている。 カリーナの言葉に虎徹は不思議そうに首を傾げつつも、カリーナの顔を覗き込むのを止める。 「…………ねっ、ねぇ……あんたは……何でヒーローやってんの?」 「……ちょっと、話すか?」 少し落ち着きを取り戻したカリーナは本来、虎徹に訊こうとしていた事を虎徹に言った。 それを聞いた虎徹は、軽く息をついてからそう言うとカウンターへと歩き出し、席についた。 それに釣られるようにカリーナも後に付き、虎徹の隣の席に腰かけた。 そして、虎徹はバーテンダーに酒を頼み、カリーナはあの時同様ミネラルウォーターを頼んでいた。 酒を貰った虎徹はグラスをクルクル回した後、グラスに口をつけ、酒をゆっくりと飲んだ。 「…………お前さぁ……結構、真面目なんだな。誤解してたよ」 「!? ……別に真面目なんかじゃ…………」 「今だって、酒を頼まずにミネラルウォーターだろ? やっぱ、真面目だよ、お前は」 「っ!」 虎徹がそう言うとカリーナは驚いたように瞠目した。 あの時と同じように怒って帰ろうとするかと思っていたが、彼女は席から動かなかった。 「……なぁ、お前は何で歌ってるんだ?」 「…………好きだから。みんなに歌を聴いてもらいたいから……」 「同じだよ」 「えっ?」 虎徹はあの時と同じように優しくカリーナに問いかけてやると、カリーナはそう素直に答えた。 それを聞いた虎徹はそう言うと再び酒を口へと運んだ。 「俺は、困っている人を助けたいから、ヒーローをやっている」 「…………」 「動機なんてそんなもんだろ。誰かに認められるとか……どうでもいいんじゃねぇのか?」 「…………」 虎徹の言葉には何も返さず、ただ静かに虎徹の顔を見つめているだけだった。 神様シリーズ第2章第7話でした!! 今回から本編第4話になります! なので、今回はバニーちゃんとの絡みよりカリーナとの絡みが多めですっ! カリーナにポイントゼロ男と言われて凹む虎徹さんが何気に可愛いvv H.25 7/22 次へ |