「あいつ……ちょっとカッコよかったすね」
「はぁ? 何処が……」

アニエスを先頭に非常階段を下りていく中、ふと先程の虎徹とのやりとりを思い出したかのようにケインがそう言った。
それに対して、アニエスは何処か悔しそうに言う。

――――俺達ヒーローには、常に市民を守る義務がある。……あんた達も俺が守る。

先程の虎徹の言葉と表情を思い浮かべると何故か鼓動が速くなってしまう事を感じていた。

(何で、私があんな奴にときめなくちゃいけないのよっ!)

その事が面白くないと思いつつも、彼女の顔は何処か嬉しさで綻んでいた。
アニエスは階段を駆け下りながら、携帯電話を取り出すと、電話をかける。

「すぐ中継車を回して! 私が直接指示する!」






〜神様ゲーム〜








「さぁ……どうする。バニー」

虎徹はバーナビーを連れてエレベーターの天井裏へと戻ってきた。
虎徹が天井裏へと這い上がった瞬間、クロノスの力が解け、時限タイマーが動き出す。
それにより、時限タイマーはあの時より六分ほど長い、十五分を示していた。

「…………」

バーナビーは爆弾へと近づき、爆弾の構造を確認するようにジッと見つめる。

「とりあえず、カメラに笑って見せるか?」
「…………どうして、ここにあるってわかったんですか?」

カメラを構えて、おどけて見せる虎徹に対して、バーナビーはチラリと虎徹へと視線を向けるとそう訊いた。

「出来たばっかのエレベーターがいきなり故障ってのもおかしいだろ」
「それだけ?」
「お前も見たろ、あの作業員。ケーブル弄ったにしちゃ綺麗過ぎるんだよ。服も手袋もよ」

バーナビーの問いに対して虎徹はあの時同様の答えをバーナビーに返してやるとバーナビーは視線を爆弾へと向けた。

「……なるほど。貴方にしては上出来ですね…………」
「だっ! だから、何でお前は上から目線なんだよっ!」

吠える虎徹を無視して、バーナビーはポケットから万能ツールを取り出して、慣れた手つきでドライバーを用意していく。
そして、真剣な表情で爆弾の解体を始めていく。

「…………ったく、仕方ねぇなぁ」

そんなバーナビーの様子を見た虎徹はフッと笑みを浮かべると、カメラを構えたままその場に寝転んだ。

「……? 何してるんですか?」
「何って? やることねぇから、寝てるんだよ。悪ぃか?」
「だったら、貴方も避難してください。僕、一人で爆弾処理は何とかしますから」

虎徹の行動にバーナビーは呆れたように言った。
それを聞いた虎徹は溜め息をつく。

「バーカ。相棒残して一人で逃げるほど、落ちぶれちゃいねぇよ」

それに今回は、以前より時間があるからと言っても、最後に切る導線がわからないことには変わりないのだ。
おそらく、またあれをやる事になるだろう。
なら、ここを俺が離れるわけにはいかない。

「…………」
「何だよ?」

そんな虎徹に対して、バーナビーは何も言わずにただこちらをチラ見してきたので、虎徹は眉を顰めた。

「いや……。相変わらず古臭いんですよ。考え方が」
「うっ、うるせぇ!」

やっぱり、この頃のバニーは素直じゃなくて、可愛くねぇ!
そんな事を思っている虎徹もそして、バーナビー自身も気付いていなかった。
彼の口元が嬉しさで綻んでいることに……。
そんな中、虎徹は静かにタイマーへと目を向けた。
残り時間は後十二分。

(……頑張れよ、バニー…………)

今の虎徹には、心の中でバーナビーを応援するしかできなかった。





















『本日十九時十五分、フォートレスタワービル内において、爆弾が仕掛けられたいう事件が発生! 従業員、客の全員が避難する騒ぎのなりましたっ!』

一方、その頃街中の大型ビジョンには、爆弾事件のニュースが流れており、多くの市民達が不安そうにそれを見つめていた。

『なお現在は、駆けつけたヒーロー達の活躍によって従業員、客共に避難は全て無事に完了した模様ですっ! しかし、まだ犯人の狙い、要求など一切不明の模様、完成間もないビルに突然降って湧いたこの爆弾騒ぎ! 果たして爆弾は本当にあるのか? それともただの悪戯なのか? 今後の経過が見守られますっ!』

そんなアナウンスが流れる中、モニターに映し出されるのは、人々を誘導するドラゴンキッドや脱出シートの下で人々を受け止めるロックバイソン、上空から人々を救出するスカイハイ達が活躍する姿だ。
そして、フォートレスタワービルの周辺にはパトカーが集結し、上空には中継ヘリが飛んでおり、重々しい空気が漂う。

『情報によりますと、なんとビルに偶然、居合わせたバーナビーとワイルドタイガーの二人のヒーローが爆弾処理にあたっているとの事です! ヒーロースーツもない彼らは、一体どんな心境で爆弾と向き合っているのでしょうかっ!?』

そして、マリオの実況が辺りに響くと、モニターにはヒーロースーツ姿のワイルドタイガーとバーナビーの映像が流れだす。

『もう残された時間の猶予はありません! 今やこのビルの命運は、アポロンメディアのニューコンビに託されたのでありますっ!!』
「……大丈夫かな、タイガー……」

警官達に雑じって、スカイハイとドラゴンキッド、ロックバイソンが集まるとモニターを見てドラゴンキッドが不安そうにそう呟いた。

「大丈夫さっ! ワイルド君ならきっと、上手くやってくれるっ! 私はそう信じているぞっ!!」
「スカイハイ……。うん、そうだよね! タイガーなら、きっと大丈夫だよねっ!!」
「あぁ。だから、我々はワイルド君を信じて待とう!!」
「うん!」

そんな、ドラゴンキッドを励ますように、スカイハイは彼女の肩をそっと叩くとそう言った。
それに勇気付けられたドラゴンキッドは元気よく頷いた。

「死ぬんじゃねぇぞ、虎徹……」

そんな二人のやり取りを聞きつつ、ロックバイソンはモニターから決して目を離すことなく静かにそう呟くのだった。





















バーナビーが黙々と爆弾処理を行っていく中、虎徹はただ静かにそれを見守っていた。
虎徹が口を挟まなくてもバーナビーなら問題がない事を知っているからだ。

「…………よしっ」

そうバーナビーが息をついたのはタイマーが残り六分を切った頃だった。

「いったか!」
「これで導線の処理は終わりました。後は……」
「何だよ?」
「トラップを避けるだけです」

虎徹の問いにバーナビーはそう言った。

「雷管を挟んでケーブルが上下に二本。どちらか正しい方を切断したら、起爆装置は作動しなくなります」
「……つまり、間違えたら、俺達は木端微塵って事だろ」
「そう言う事です」
(……結局、こうなるのか。やっぱ、あの時…………)

バーナビーの言葉を聞いた虎徹は唇を噛んだ。
やっぱり、あの時アニエスの制止を振り切ってでもあの爆弾野郎をとっ捕まえるべきだった。
だが、過ぎた事を後悔してももう遅い。
今は目の前の問題と向き合うべきだ。

「…………で、どっちなんだよ?」
「それがわかれば、とっくに切ってますよっ!!」
「!!」

虎徹の言葉に思わずバーナビーは声を荒げ、それに驚いた虎徹は瞠目した。

「あっ、その……すみません…………」
(何をやっているんだ、僕は……っ!)

これじゃぁ、まるでただの八つ当たりじゃないか……。
この人は、ただ質問していただけなのに……。
いくら、導線の処理ができたからと言って、起爆装置が停止しなければ意味がないのだ。
結局、僕は何もできないのだろうか――。

「…………残り時間はまだある」
「!!」

そんなバーナビーを察するかのように虎徹の声が辺りに響く。

「焦って答えを出す必要はねぇよ。ゆっくり考えればいい」
「ゆっくりって……あと、三分もないんですよ」
「まだ、三分もあるじゃねぇか」
「!!」

虎徹の言葉にバーナビーは驚きのあまり瞠目した。

「バニー……ゆっくり考えろ。上か下か。……答えは一つだけとは限らないぞ」
「あっ、貴方……何を言ってるんですか? この状況で頭がおかしくなったんじゃないですか」

バーナビーには、虎徹の言葉の意味がさっぱりわからなかった。
上か下、どちらかの導線を切る以外の選択肢なんて何処にもないというのに……。

「いいから、考えてみろよ。……俺は、お前の答えを待つ。お前なら、きっとわかるはずさ」
「!!」

この男は本気で言っているのか?
どう考えたってそんなものないじゃないか。
バーナビーはタイマーへと目を向けた。
残り時間はもうすでに一分を切っていた。

(上か……下か……)

上下のケーブルを交互に見てバーナビーは思考を巡らせる。
上か……下か……。
どっちの導線を切ればいいんだ?

――――バニー……ゆっくり考えろ。上か下か。……答えは一つだけとは限らないぞ。

導線を切らない方法。そんな方法あり得ない。
切らなければ、タイマーがゼロになった途端、爆弾するのだ。
この爆弾から今すぐ離れなければ、僕達は助からない。
そう、今すぐ離れなければ……。

(まさか…………!)

バーナビーは勢いよく虎徹へと振り返り、彼の顔を見た。

「ん? どうした? 答えは見つかったか?」

そこにあったのは、タイマーが残り二十秒を切っているというのに、何処までも穏やかな表情を浮かべたあの男の顔だった。

「答えは…………上ですっ!」
「! ……正解だ、バニーちゃん!!」

虎徹にそう言ったと同時にバーナビーは、NEXT能力を発動させた。
それを見た虎徹は嬉しそうにニッと笑って、バーナビーに遅れてNEXT能力を発動させた。
それと同時にカメラを放り投げ、上空へと高々とジャンプする。

「どりゃあっ!」

そして、そのまま虎徹は己の拳で天井のコンクリートを次々と粉砕していく。

「はあっ!」

バーナビーはそれを確認した後、爆弾を上空に向かって、豪快に蹴り上げる。
爆弾は物凄い勢いで空高く飛んでいき、それは上空で撮影をしていた中継ヘリさえも飛び越えていく。
着地した虎徹は、しっかりとカメラをキャッチすると、爆弾の行方をカメラに収めていく。
その三秒後、遥か上空で爆弾は爆発した。
まるで、花火のように街が照らし出され、観衆から大きな歓声が沸き上がるのだった。





















今日の業務がすべて終わり、バーナビーは自宅マンションへと戻ってきた。
今日は、あの男のおかげでドット疲れてしまった。
大体、あの男の考えは詰めが甘いのだ。
天井を突き破るなんて発想、短絡的過ぎる。

(……でも……ちゃんと、お礼は言うべきだっただろうか…………)

今回、その短絡的な発想のおかげで助かった事には変わりないのだ。
あの男の言葉がなければ、きっと今頃――。

(いや、これ以上考えるのはやめよう……)

そう思い直したバーナビーは気分転換の為、テレビのスイッチを入れた。

『…………えっ? バーナビー君?』

すると、放映されていたのは己のドキュメントだった。
しかも、運悪くあの男がコメントを求められている場面だった。

『最高のパートナーですよ。こう見えて俺達、結構、似てるところがあるんです!』
「…………」

それを聞いた途端、バーナビーは気分を悪くした為、テレビを消してパソコンを起動させた。
パソコンが立ち上がるとバーナビーは一つの動画ファイルをクリックし、再生させる。

『…………あいつは……生意気な奴だよ』

そこから流れたのは、あの男の映像。
先程の映像の前に撮られて物で、僕のイメージが悪くなるからというでボツとなった映像だ。

『俺の事を先輩だとも思ってねぇし、目上の人の態度もなってねぇし、熱くなると周りが見えなくなるし、すぐ泣く兎ちゃんだし、まだまだ子供だよ。あいつは……』
(人の事を酷い言いようだ)

しかも、僕の事を兎ちゃん呼ばわりもしている。
確かにこれでは、僕のイメージ悪くなってしまう。
だから、あの時のアニエスさんの判断は正しかっただろう。
そう、思っているのに、その映像を止める事も、目を離すこともバーナビーはしなかった。

『けど、根はすっげぇ真っ直ぐでいい奴なんだよ』

フェイスシールドによって覆われているのでこの時、あの男がどんな表情を浮かべているかわからない。
だが、この声を聞く限りとても穏やかな表情を浮かべているのではないかと想像してしまう。

『……だから、俺はあいつとコンビが組めて、本当によかったと思っている。俺の相棒は、あいつ以外考えられないさ』
「…………」

その何処までも静かで優しい声は、先程テレビで流れていたあの作られた言葉とぎこちない声とは大違いであった。
あの男の素直な気持ちが、これには感じられる。
最初、あの場でこの言葉を聞いた時のその衝撃は凄まじく、暫く動けなかったことをよく覚えている。
この映像がボツになる事がわかり、この映像を譲り受ける事ができないかアニエスに交渉していた。
何故、そんな行動をとってしまったのか僕自身よくわからなかったが……。
アニエスは何処か不満そうな表情を浮かべつつも、渋々この映像を譲り渡してくれたのだ。
つまり、あの男のこの言葉を聴けるのは、僕だけなのだ。
その事に何処か優越感を感じながら、バーナビーは再び動画ファイルをクリックし、映像を何度も再生させるのだった。





















『あ〜あ。やっちゃったね、君。折角のショーが台無しじゃんか』
「もっ、申し訳ありません」

その頃、フォートレスタワービルに爆弾を仕掛けた男は、誰かと電話のやり取りをしていた。
少年のような幼い声の電話の主の言葉に男の表情は、明らかに恐怖から強張っていた。

『しかも、よりによってヒーローにあんなオイシイところもって行かせてさぁ。……自分の立場、もうわかってるよね?』
「…………」
『まぁ、いいや。ボクもそんなに鬼じゃないし。言い訳ぐらいだったら、聞いてあげてもいいよ?』

恐怖からか声が出ない男に対して電話の主はそう呼びかけた。

「……じっ、実は、少し妙な事が起こりまして…………」
『妙な事……?』
「はい……それが…………」

男は、自分の身に起きた出来事と予め設定しておいたタイマーの時間から六分もズレて爆弾が爆発した事を電話の主に話した。

『…………へぇ、それはとても興味深い話だねぇ♪』

男の話を聞いた電話の主の声は、先程とは打って変わって機嫌良さそうなものへと変わった。

『……じゃぁさぁ、君にもう一度だけチャンスをあげるよ。君が接したというヒーロー、ワイルドタイガーをボクの許に連れて来て。そしたら、今回の失敗はチャラにしてあげるよ』
「ほっ、本当……ですかっ!?」

電話の主の言葉に男は心底驚いた。

『あぁ、もちろんだよ! あっ、でも、必ず生きたまま連れて来てね♪ もし、それも失敗した時は…………わかるよね?』
「っ! わっ、わかりました! 必ずあなた様の許へお連れしますっ!!」
『そっか、それはよかった♪ じゃ、頼んだよ』

男の言葉を聞いて電話の主の満足そうにそう言うと電話を切った。

「ずっるいなぁ〜。ボクを差し置いてまた、一人で楽しそうな事始めてるなんて」

爆弾を仕掛けた男と会話をしていたその人物はそう言うと窓の外を眺めた。
星座を意味する名前が付けられた街だけあって、窓から見える夜景はまさに星の輝きのようだ。

「……クロノスの奴、今度はどんな奴に目を付けたのかなぁ。逢えるのが楽しみだよ…………」

そして、そいつがどれだけ"イイモノ"か……。
逢える日を楽しみにしているよ、ワイルドタイガー……。
そして、その人物は歪んだ笑みを浮かべるのだった。
























神様シリーズ第2章第6話でした!!
今回で何とか本編第3話を終了させることができました!
最後はどちらかというとバニーちゃんよりなったちゃいましたねwwそして、バニーちゃんの無自覚ストーカー(?)の始まりでしたww
最後の件は入れるかどうか悩んだのですが、私の妄想が暴走した為入れちゃいました♪虎徹さん、色な人に狙われちゃうけど今後どうなっちゃうんだろう;
次回から本編第4話に入りますっ!!


H.25 7/1



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