フロア中にあの時と同じようにけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

『お客様にお知らせします。只今、館内で非常警報が発生しました』

辺りにアナウンスが流れ、客や店員達がざわつきだす。

(ついに、動き出したか……)
「避難してください! 皆さん! すぐに避難してください!!」

そして、警備員がフロアにそう言いながら飛び込んでくるのを確認した虎徹は、すぐさま警備員へと駆け寄るのだった。






〜神様ゲーム〜








「ワイルドタイガーだ。どうした。火事でもあったか?」
「! ……じっ、実は、爆弾が仕掛けられたという強迫電話がありまして……」

虎徹がヒーローであることを名乗ってからそう訊くと、警備員は一瞬驚きつつも、声を潜めてそう告げた。

「で、場所は?」
「それが、具体的な場所などは一切……。犯人からも特に要求もなかったので、悪戯だと思うんですが……」
「……わかった。ありがとうな」

警備員からそれを聞くと虎徹はお礼を言った。
そして、虎徹から遅れて警備員に駆け寄ろうとしたバーナビー達の許へと歩み寄った。

「何が起きているんですか?」
「このビルに爆弾が仕掛けられた」
「「「「!?」」」」

そう問いかけるバーナビーに対して虎徹はそう告げた。
それを聞いた一同は皆驚いた表情を浮かべる。

「悪戯とかじゃないの?」
「いや。俺はそうとは思わない。……悪いが、ここを頼む」
「!!」

眉を顰めてそう言うアニエスに対して虎徹は、はっきりとそう言い切った。
そして、バーナビーの肩を叩き、彼をそう告げるとそのまま走り出した。

「ちょっと! 何処に行くの!?」
「すぐ戻る!」

アニエスの声を背で聞きながら、虎徹はそう言って走り続けて、フロアから消えていった。
一方のバーナビーは、自分が何を頼まれたのかすぐには理解できなかったが、周囲の様子を見て気付かされた。
客達は皆、不安そうな表情を浮かべてざわついていた。

「……大丈夫ですよ、皆さん。性質の悪い悪戯です。ですが念の為、避難してください。避難訓練だと思って」

それを落ち着かせる為、バーナビーは笑顔を振り撒いてそう言った。
そんなバーナビーの落ち着いた様子を見て、客達も徐々に落ち着きを取り戻して、避難をしだした。

「…………」

そして、バーナビーは虎徹が消えていった方向へと視線を向け、先程の虎徹の行動を思い出す。
あの誰より速く、迷いが全くなかったあの動きを……。
それは、まるで最初からこうなる事がわかっていたようにもバーナビーは感じた。

(……そんな訳ないか)

もしそうなら、あの男の事だ。
このビルに来た時点でもっと騒いでいるに違いない。
そう思い直したバーナビーは、避難誘導に専念するのだった。





















バーナビー達と別れた虎徹は、何の迷いもなくエレベーターホールへと向かい、ボタンを連打した。
そして、やって来たエレベーターにすぐさま乗り込み、天井の救出口を開けて上へと這い上がった。

「! やっぱり、ここかよっ!!」

その視線の先にあった仕掛けられた爆弾を見て虎徹は唇を噛んだ。

「おい、トキ! いるんだろっ!!」

虎徹しかいない空間で虎徹がそう叫ぶと一つの人影が姿が現わした。
それは、紛れもなくクロノスである。

『何だ、虎徹から呼び出すなんて珍しいな?』
「お前に頼みがある」
『頼み?』

虎徹の言葉にクロノスは眉を顰めた。

「お前なら、この爆弾の時間も自在に操れるんだろ?」
『当たり前だ。私は神だぞ』
「だったら、俺がここへバニーを連れて戻ってくるまでの間、この爆弾の時間を止めてくれっ!」
『私に頼まなくても、お前にもできるだろ?』

そんな雑用をさせるなと言わんばかりの表情をクロノスは浮かべてそう言った。

「俺はまだ、力のコントロールができてねぇんだよっ! それに、あの力使うとすっげぇ疲れるし……。だから、お前に頼んでるだろうがっ!!」
『そもそもそんな事をせずに最初から一緒に相棒をここへ連れてこればよかったのではないのか?』

ここに爆弾がある事なんて初めからわかっていたはずなのに、敢えて相棒を置いて虎徹一人でここにやって来た事がクロノスには理解できなかった。

「お前なぁ。そんなことしたら、市民がパニック起こすだろ? そうならないように、バニーには避難誘導を任せておいたんだよ」

あの時もバニーが避難誘導をしていてくれたから、市民はパニックを起こすことなく、無事に皆が避難する事ができたのだ。

『……何だ。案外、考えているんだな』
「っだぁ! 何だよ、その言い方はっ!!」

虎徹の言葉を聞いたクロノスは何処かつまらなさそうにそう言ったので、虎徹は思わず声を上げた。

「……で、どうなんだよ? やってくれるのかよ?」
『…………やってやらないことはないが、タダでとは言わないよなぁ、虎徹?』
「ぐっ……;」

クロノスの悪戯っぽく笑ってそう言ったので、虎徹は言葉に詰まった。
クロノスが今俺に何を求めているか、なんとなくわかる。

『さぁ、どうする? 虎徹…………っ!』

クロノスが虎徹へと顔を近づけ、今にもキスをされそうだった。
それを回避する為、虎徹は咄嗟にクロノスの口を手で塞いだ。

「……わっ、わかったよ! 帰ったら、チャーハン作ってやっからっ! ……なぁ?」
『…………仕方ないなぁ。その代り、帰ったら絶対作れよ』
「あぁ、わかったから;」

虎徹の提案に不満を感じつつも、好物の虎徹お手製のチャーハンが食べられることでクロノスは渋々その条件を呑むことにした。
そして、クロノスは爆弾へと己の手を翳した。
その途端、爆弾が淡い光に包まれ、時限タイマーが止まる。

『…………これでいいのだろ? 次に虎徹がここへ入ったと同時に力を解除するように仕込んでおいた。さっさと、お前の相棒をここへ連れてこい』
「おうっ! サンキューな、トキ!!」

クロノスの説明を聞いた虎徹はクロノスに対してニッと笑うと、バーナビーをここへ連れて来る為に虎徹はエレベーターの下へと戻っていった。

(……私もまだまだ甘いな;)

そう思いつつ、クロノスはその場から姿を消すのだった。





















「皆さん! 焦らなくても大丈夫ですから。順番にゆっくり降りてください!!」

展望フロアから非常階段付近でバーナビーは警備員に混じって、客達を誘導していた。
その様子を遠巻きからカメラに収め、アニエスはご満悦の表情を浮かべている。

「…………バニー」

そんなバーナビーの姿を逸早く見つけた虎徹は、バーナビーに近づき声をかける。

「爆弾を見つけた」
「! ……残り時間は?」

そう小声で虎徹がバーナビーに伝えると、バーナビーは少し驚きつつも冷静に聞き返してきた。

「……あったのね」

その声に虎徹とバーナビーが振り返るとアニエス達の姿があった。

「…………行くぞ」

そんなアニエスを無視してあの時と同じように虎徹はバーナビーを促して歩き出す。
それを見たアニエスは不満そうな表情を浮かべ、ケイン達へと振り返った。

「いい? このまま二人を追うから、ギリギリまで粘るわよ!」
「…………」

アニエスの言葉にケインとオランドは、互いに顔を見合わせる。
その表情は、明らかにアニエスの言葉に困惑しているものだった。

「何グズグズしてんの! 行くわよ!!」

そんな二人とは対照的にアニエスは、虎徹達に付いて行こうとする。
だが、それを阻止するように立ちはだかったのは、あの時と同様虎徹だった。

「あんたらも今すぐ非難するんだ」
「は? ふざけないで。こんなおいしい場面、みすみす逃げ出したら一生――」
「ふざけてるのはどっちだよっ!!!」
「!!」

虎徹の言葉に呆れたような表情を浮かべて文句を言おうとした。
だが、それを全て言い終わる前に虎徹が一喝した。
そのあまりにも真剣な虎徹の表情と声にアニエスは思わずたじろいだ。

「おたくらはショーのつもりかもしれないし、別にそれでも構わない。ただし、現場となると話は別だ」
「…………」
「俺達ヒーローには、常に市民を守る義務がある。……あんた達も俺が守る」
「っ!!」

何処までも真剣で真っ直ぐな琥珀の瞳を向けられてアニエスは言葉に詰まった。
だが、こっちも仕事なのだ。このまま引き下がるわけにはいかない。

「……けど、私達にだって、仕事が――」
「カメラなら、俺が回してやる。だから、頼むからここは避難してくれ」
「…………わかったわよ。もうっ!」

ここまで言われたら、もうどうしようもなかった。
そう感じたアニエスはカメラを虎徹に手渡すと、そのまま踵を返して非常階段へと足を進めた。

「………さて、行くか。バニー」

こうして、虎徹達はエレベーターの天井裏へと向かうのだった。
























神様シリーズ第2章第5話でした!!
ついに爆弾事件発生!!そして、今回はクロノスの魔の手から何とか逃れた虎徹さんでした♪
そう毎回簡単に虎徹さんにキスしてもらえると思ったら間違いだよ、トキ!
何手に期待していた人はごめんなさい;
次回にて本編第3話は終了となります!!


H.25 7/1



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