「よう! バニーちゃん♪」
「ん?」

翌日、バーナビーが自宅のマンションから出て、エントランスを抜けるとそこにはアイパッチ姿の虎徹が立っていた」
そして、バーナビーの姿を見つけるとすぐに虎徹は笑みを浮かべてバーナビーに声をかけたが、それに対してバーナビーは素っ気なく返した。

「え〜っと、さぁ……ちょっと、街にでも繰り出さないか?」
「何ですか急に? 気持ちの悪い」
「っ!!」

バーナビーの言葉に虎徹は心底傷付いたような表情を浮かべた」
だが、そんな事とは気付かず、バーナビーは虎徹の横を通り過ぎようとした。

「ちょっと! 呼び方はバニーちゃんじゃなくて、バーナビーだって言ったでしょ! 変なあだ名付けないで!!」

その時、何処からともなく怒鳴り声をあげてアニエスが虎徹とバーナビーの前に現れた」
その背後には、ディレクターのケインとカメラマンのオランドの姿もある。

「いいだろ、別に……」
「よくないわよ! あと、バーナビーに一回断られたくらいで、変に落ち込まないの! こうなる事、初めからわかってたでしょうが!!」
「う゛っ……」

アニエスに痛いところを突かれた虎徹は、言葉を詰まらせた。

「あの……これは一体……?」
「昨日の撮影の続きですよ。ワイルドタイガーがバーナビーさんを誘って街に繰り出すという演出だったんですよ。バーナビーさんにも事前に連絡しておけばよかったんですが……」
「あぁ、そういうことでしたか」

一人状況を呑み込めていないバーナビーがそう問いかけると、ケインが申し訳なさそうにそう言った」
それを聞いたバーナビーは納得したように頷いた。

「いい? これはビジネスなの!」

バーナビーが横目で虎徹を確認すると、まだアニエスに説教されていた」
大の大人なのにみっともないと、バーナビーは思いつつ虎徹から視線を逸らし、ケイン達にその視線を戻した。

「…………で、僕はどうすれば?」
「いつも通りに過ごしていただければ」

バーナビーの問いに頭を掻きながら、申し訳なさそうにケインはそう言った。

「いつも通り。……わかりました」

それを聞いたバーナビーはそう言うと、虎徹を見てフッと笑った」
それを見て虎徹は、深い溜め息をつくのだった」






〜神様ゲーム〜








(……やっぱ、カッコいいよなぁ、バニーちゃんは……)

バイクで疾走した後、バイクからバーナビーが降りた途端、何処からともなく子供達がバーナビーの許へ寄ってきて囲まれた」
バーナビーが通行の妨げにならないように気を配り、ベンチに腰かけると子供達はバーナビーへサインをねだる」
それに対してバーナビーは嫌な顔一つせず、笑顔でその一つ一つを丁寧に応じていく。

「はい、どうぞ」
「わぁ! ありがとう!!」
「やっぱ、画になるわね」

そんなバーナビーをカメラに収め、アニエスは満足そうにそう言ったのが聞こえる」
そんな彼らの姿を虎徹は、バイクのサイドカーに乗ったまま眺めていた。

――――お〜い、虎徹。あの時みたいに子供達に自分のヒーローカード配ったりしないのか♪

すると、頭の中に直接クロノスの茶化すような声が響いてきた」
神様である彼にはこういった芸当もできるらしい。

(うっせぇなぁ。俺のカードなんて、誰も欲しくねぇんだよっ!)
――――おっ! わかってんじゃん♪ 偉い、偉い♪

それに対して虎徹が心の声でそう答えてやると、クロノスが人を小馬鹿にしたようにそう返してきた。

「なん……!」

その言葉に虎徹は思わず声を上げそうになったが、途中で留まることが出来た」
電話をしているわけでもないのに、いきなり大声を上げたら、誰だっておかしいと思うことぐらい虎徹にだってわかる」
気を取り直して、虎徹は再びバーナビーへと目を向けた」
バーナビーの髪が日の光に浴びて、さらに美しく輝いて見えた。

(……やっぱ、バニーちゃん。マジ綺麗だわ……)

綺麗な顔立ちで恰好いいバニーが俺の隣にいるなんて本当に勿体ないくらいだ。

――――……何処がだよ、あんなナルシストな奴。

何処かうっとりとした表情を浮かべて虎徹がバーナビーを眺めているのが気に入らなかったのか、不満そうなクロノスの声がそう呟いた。

――――あんな奴より、虎徹の方がよっぽど美しく綺麗だと思うがな? 寧ろ、奴にお前という存在が勿体ないと私は思うぞ」
(はあっ!? お前、四十手前のおっさんに何言ってんの!?)
――――美しいものを美しいと言って何が悪いのだ? それに私は神だ。貴様ら人間なんぞ私にとっては皆、赤子同然だ」
(あっ、赤子って……。それはそれで、問題じゃ……;)

クロノスの言葉を聞いた虎徹は深い溜め息をついた。

「…………ねぇ、タイガー」
「ん?」

その時、突如子供の声が聞こえてきたので虎徹は、その声の方向へと振り向くと一人の男の子が立っていた。

「ん? どうかしたか? おじさんの事なんて、別に気にしなくていいんだぞ」

バーナビーの周りにはたくさんの子供がいるが、虎徹の周りには誰もいなかった」
それを不憫に思ったこの子供は、俺に声をかけてくれたのだろう」
子供は素直でいるのが一番なのに、楓より幼そうな子供に気を使わせるなんて情けないと虎徹は思った。

「だから、バーナビーのところへ行って、サインもらってきな」

虎徹はその子供に優しく諭すように頭を撫でてやりながらそう言った。

「――――ない」
「えっ……?」
「僕はバーナビーのサインなんていらないもんっ!!!」
「!!」

あまりの大声とその言葉の内容に虎徹は瞠目し、周りの視線が一斉に虎徹へと集まる。

「…………確かに、バーナビーはカッコいいけど……けど、僕にとってのヒーローは、ワイルドタイガーだけだもんっ!! 僕から火事から助けてくれたのは……タイガーだけだったよ」

今にも泣きだしてしまいそうな表情でその子供は必死に虎徹へと訴えてくる。

「火事に遭ったあの時、僕一人しかいなかったからすごく恐かったんだ。このままパパとママに会えないまま、僕死んじゃうんじゃないかって……」
「…………」
「そしたら、いきなり僕目掛けて天井が落っこちてきて……僕本当にここで死ぬんだと思った」

火事の時の事を思い出してしまったのか、子供は酷く震えている」
だが、それでも子供は、言葉を続けようとする。

「でも、天井は僕に落っこちてこなかった。タイガーがそれを受け止めてくれたから」
(あっ……。思い出した…………)

この子供の言う火事とは、俺がバニーとコンビを組む数ヵ月前に起こったショッピングビルの火災事件の事だ」
俺達ヒーローが救援要請を受け、現場に到着した時には既にビル全体が炎に包まれていた状態だった」
後からわかった事だが、そのビルは既存不適格物件だったらしく、消防用設備が十分ではなかった為、通常より火の回りが早かったらしい」
その為、ヒーロー達に救助活動させる事は危険と判断され、俺達は救助された人達の応急処置を行っていた」
そう、一人の女性の悲痛な叫び声を聞くまでは……」
まだ、子供がビルの中に取り残されていることを必死に訴える女性に対して誰も動こうとしなかった」
いや、正確に言えば動けなかったと言った方がいいだろう」
今から救助に向かっても、助からないと誰もが諦めていたからだ」
だが、虎徹だけは違った」
目の前に救えるかもしれない命を見捨てる事が出来なかった」
だから、あの時アニエスの制止の声も聞かず、虎徹は燃え盛るビルの中へ一人入っていった」
そして、子供を見つけたのは、まさに天井子供目掛けて落下しているところだった」
それを見た虎徹は己の事など一切考えず、子供の許へと走り天井を受け止めた」
炎で熱くなった鉄壁をほぼ素手の状態で受け止めた為、火傷してしまったが、人の命が救えたのだからそれくらいで済んでよかったくらいだ。

「そっか……。お前あの時の……元気そうでよかったなぁ」
「僕、あの後大人の人たちが話しているの聞いちゃったんだ。……僕のせいでタイガーがケガしたって……。ごめんなさい」
「なーに、人を助ける事がヒーローの仕事なんだよ。それにあの時の火傷だって、ほら。綺麗に治ってるだろ?だから、あんま気にすんな」

虎徹は、両手をヒラヒラさせ、手の火傷はもう何ともないことをアピールしながら子供に優しくそう言った」
だが、それでも子供の表情は晴れなかった。

「けど……」
「何かして俺に謝りたいっていうんだったら、これからも毎日元気に過ごしてくれよ。それが、俺の一番の願いだからさ。……な?」
「タイガー……」

虎徹がそう優しく笑いかけてやると、漸く子供は少しだけ笑顔を取り戻した。

「……あのね、タイガー。僕には夢があるんだ。僕にはNEXT能力なんてないけど……僕もタイガーみたいに困っている人を助けらる仕事をしたいんだっ!」
「! ……そっか♪頑張れよ! 俺は応援するぞっ!!」
「本当? ありがとうっ! タイガー!!」

虎徹の言葉に子供の表情はパッと明るくなり、笑顔で虎徹にお礼を言った」
そして、誓いとばかりに虎徹とその子供は互いの拳をコツンッと突き合わせるのだった。





















「…………ちょっと、今のちゃんとカメラに収めていたでしょうね?」
「いっ、いえ……;」
「バッカじゃないのっ! タイガーのあんないい画、滅多に撮れないでしょうがっ!!」
「すっ、すみませんっ!」
「…………」
(あの子供、虎徹の良さをちゃんとわかっているな。違いの分かるいい子だ)

そんな虎徹と子供のやり取りを遠くから見ていた撮影隊はアニエスに怒鳴られ、バーナビーは静かに見つめていた」
そして、クロノスというと何故か満足そうな笑みを浮かべているのだった」
























神様シリーズ第2章第3話でした!!
アニメでは描かれていなかったけど、虎徹さんにはこういったファンが絶対にいるっと思って書いてみました♪
虎徹さんは大人だけじゃない!子供にだってファンがいるんだと思っています!
何気に、今回の虎徹さんとクロノスのやり取りが好きだったりしますvv
次回は、フォートレスタワービルへ!!


H.25 7/1



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