「お疲れ様。明日も頼んだわよ」
「明日?」

一通り撮影を終え、トレーニングも終えて帰ろうとした虎徹に対してアニエスはそう言った。
それに対して虎徹は不思議そうにそう尋ねた。

「明日もあなたには撮影に協力してもらうから」
「……へーい」
「あら? 意外に協力的じゃない」
「仕方ねぇだろう。そうしないと明日に起きる事……!」

今とんでもないことを口走ろうとしたことに気付いた虎徹は咄嗟に口を両手で覆った。
思わずアニエスに明日起こる爆弾事件の事を話してしましそうになっていたのだ。

「明日? 明日何か起こるわけ?」
「あ゛っ、いや……何でもねぇよ……;」

虎徹の言動に違和感を感じたアニエスはそう問いかけたが、それを虎徹は笑って誤魔化そうとした。
だが、それでアニエスが納得するわけもなく、さらに問い詰める。

「何よ? 何かあるなら、言いなさいよ」
「いっ、いや; 本当に何でもないから……あっ! そうだ! バニーの企画でこんなの思いついたんだけど……」

それを何とかかわす為、虎徹はそう声を上げるとアニエスに何やら耳打ちをした。
それを聞いたアニエスの目の色が変わる。

「いいじゃない! それ、絶対バーナビーのファンが食い付くわよ!!」
「だろ!」
「でも、そんなもの何処にあるのよ? 何か当てでもあるわけ?」
「まぁな♪」

アニエスの問いに虎徹は、悪戯っぽく笑って見せた。

「…………そう。じゃぁ、頼んだわよ」
「おう! 任せとけ!」

アニエスにそう言うと虎徹は、トレーニングセンターを後にするのだった。






〜神様ゲーム〜








トレーニングセンターを後にした虎徹はある人物と連絡を取り、その人物に会う為、車を走らせた。
そして、とある一軒家の前に車を止めた。
ここへ来るのは、あの事件以来である。
っと言っても、その事件は今の時点では、まだ未来の事のなのだが……。

『こんなところに来てどうするつもりなんだ? 虎徹?』
「!!?」

アイパッチを装着し車から降りて、家の呼び鈴を鳴らそうとした瞬間、背後から声が降ってきた。
その声に驚いて虎徹は、振り返るとそこには案の定、クロノスの姿があった。

「トキ! 後ろからいきなり声かけるなっていつも言ってんだろうっ! ビックリするだろうがっ!!」
『う〜ん、そうは言われてもなぁ。私としては、それが楽しみでやってる事でもあるし……』

文句を言う虎徹に対してクロノスは悪びれる事もなくそう言ってのけた。

『で、ここに何の用がある? ここは、お前の相棒の家政婦だった女の家だろう?』

クロノスの言う通り、今呼び鈴を押そうとしている家は、バニーの家政婦をしていたサマンサ・テイラーの自宅である。
彼女は、あの事件の引き金として何者かに殺されてしまうのだ。
彼女が俺を尋ねて会社に訪れた時にちゃんと出会えていれば、そんな事にはならなかったかもしれない。

「ちょっとした頼み事だよ」
『頼み事?』
「もういいだろ! あんまし、サマンサさんを待たせるのも悪い」
『……わかったよ。つまんないなぁ』

だから姿を消してくれっと言わんばかりの表情を浮かべる虎徹に対して、クロノスは溜め息をついてそう言うとその場から姿を消した。
それを確認した虎徹は、改めて呼び鈴を押すのであった。





















「ごめんなさいね。急だったので、こんな物しか用意できませんで」
「いえいえ、お構いなく。俺が急にお訪ねしたのですから」

家の中に通された虎徹は、サマンサに促されてソファーに腰を下ろした。
すると、サマンサはそう言って紅茶とクッキーを虎徹に振る舞ってくれた。
サマンサの気遣いに虎徹が申し訳なさそうにそう言うとサマンサは優しい笑みの浮かべた。

「お電話で話されていた件ですが、あれから色々と荷物を整理してみたらいくつか見つかりましたの。こんなものでよろしかったかしら?」

そう言うとサマンサは数冊の古びたアルバムを虎徹へと手渡した。

「…………中を拝見してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」

サマンサから了承を得てから、虎徹はそのアルバムを開いた。

(わぁ、バニーちゃん、小さい。マジ、天使だわ……)

そこから現れたのは幼い頃のバーナビーの写真だった。
そこに映っているバーナビーの顔は、どれも活き活きとした表情でとても子供らしかった。
小さな頃のバニーはこんな表情もできたんだなぁ、と改めて思ってしまった。
そんなの事を考えながら、虎徹はアルバムを捲ってはその内の何枚かを抜き出していく。

「…………じゃぁ、これだけの写真、お借りしていきますね」
「ええ、どうぞ。番組にそれが映るのを楽しみにしていますね」

虎徹がそう言うとサマンサは、快くそう答えてくれた。
ここへ来た理由は、アニエスに提案した事と関係している。
アニエスにバーナビーのドキュメントをやるのにあたって、幼い頃のバーナビーの写真を使う事を提案したのだ。
その為にサマンサさんに無理を承知でお願いしてみたら、快く協力してくれたのだ。

「でも、本当によかった。坊ちゃんのパートナーだった方が思っていた以上に坊ちゃんの事を思っていてくださっていて安心しました」
「あっ、いや、俺はそんな……」

サマンサの言葉に虎徹は照れたように顔を掻いた。
それを見たサマンサはさらに安心したとばかりに安堵の息をついた。

「…………これからも坊ちゃんの事、よろしくお願いしますね。タイガーさん」
「……はい。俺なんかでよければ」

サマンサの優しい笑みに虎徹はそう返すと、サマンサの自宅を後にするのだった。





















(……これで、サマンサさんの事、俺は救えたのかなぁ?)

自宅に戻った虎徹はサマンサから借りた写真の中から一枚手に取った。
それは、幼いバニーとサマンサさんが手を繋いで巨大なクリスマスツリーの前で立っている写真だった。
あの時、トランスポーターでジャスティスタワーに向かう中、俺はバニーに記憶を取り戻した経緯を聞いていた。
バニーは、この写真を見たことがきっかけで事件の真相を思い出したと言っていたのだ。
そして、サマンサさんがあの時俺を尋ねてきた理由も俺に見せたい写真があるということを聞いていた。
今なら、それがこの写真だった事がわかる。
この写真を俺に見せようとして彼女は、何者かに殺されてしまった事も……。
つまり、この写真があの事件の本当のきっかけなのだ。
だから、この写真を彼女の手元に置いておきたくなかった。
彼女の手元にある事で彼女の死のきっかけになってしまうのなら……。
彼女が死んでしまう事で、バニーが悲しんでしまうのなら……。
それにしても、この写真何処に保管すべきか。
何故だかわからないが、この写真を手元に置いておくのは危険な気がしてならなかった。

「どーすっかなぁ……」
『なんだ、この写真?』
「!!?」

そんな事を考えていると突如、天井から声が聞こえたかと思うと手が伸びる。
そして、その手は虎徹が持っていた写真を掴むと、あっさりとそれを虎徹から奪い取っていった。

< 『あぁ、これはお前の相棒が記憶を取り戻すきっかけになる写真じゃんか♪結構、可愛げのある顔で映ってんなぁ♪』
「! かっ、返せよっ、トキ!!」
『やーだ♪』

そんなふざけた事をするのはこの家の中では、クロノスしかいない。
虎徹はそう言うと写真を取り返そうとしたが、クロノスはそれをあっさりと躱した。
先程感じていた危険な感じは、どうやらこいつのせいだったようだ。

『そーんなにこれを返して欲しいんだったら……私にキスしてちょうだーい♪』
「はあああっ!? おっ、お前何言ってんだっ////」

虎徹の行動を見たクロノスは悪戯っぽく笑ってそう言った。
それに対して虎徹は赤面して叫んだ。

『嫌ならいいよ。これ返さないから』
「う゛っ……」

クロノスの言葉に虎徹は困ったような表情を浮かべる。
それを見たクロノスは満足げな笑みを浮かべる。
やはり、虎徹を弄るのは非常に楽しい。
自分の言葉一つでこうも彼の表情がコロコロ変わる事が面白くて仕方ない。
だが、これ以上はさすがにやめておこうか。
あまり苛め過ぎて、虎徹に口を利いてもらえなくなったら嫌だし……。
そう思ってクロノスが口を開きかけたその時だった。

『っ!!?』

突然の事にクロノスの思考が停止する。
クロノスの頬に何かが触れた。
それは、虎徹の唇だった。
あの時交わした冷たい唇とは違い、温かく、優しい虎徹の唇が頬に触れている。

「…………これでいいだろ? これ、返してもらうからなっ!」

虎徹はクロノスから唇を離すとそう言ってクロノスの手から写真を奪い取った。
クロノスの思考が停止している事もあり、写真はあっさりと虎徹の手の中に戻った。

(…………この男は、本当に……)

彼は、自分の想像を何処までも超えていく。
あんな無茶な事を言われても応じないのが普通だろうに……。
何故、彼はそこまでできるのだろうか。
そこまでするほど、この写真が、相棒が大切だとでも言うのか……。

『…………どうせなら、口に直接して欲しかったなぁ……』
「っ//// 調子に乗るなっ!! 俺が口にするのは、本当に好きな奴だけなんだよっ!! お前、今日チャーハン抜きっ!!」
『え〜〜っ!』

ボソッとそう呟いたクロノスの言葉に虎徹は赤面してそう叫ぶのだった。





















撮影隊が帰った後の暗い部屋に風呂上がりのバーナビーが入ってきた。
バーナビーは壁一面を使った大型テレビをつけると、椅子に腰を下ろした。

『本日、シュテルンメダイユ地区に新たに建設されたフォートレスタワービルの完成記念式典が行われました』

画面にはフォートレスタワービルの外観が映し出された。
バーナビーはそれを見ながら背凭れに身体を預け、足を組みだす。

『なお、平和の象徴として、ビルのエントランスには初代ヒーロー、レジェンドの像が飾られ、その除幕式にアルバード・マーベリック氏が立ち会いました』

さらに画面には、幕が下がり、Mr.レジェンドの像が姿が現すところと除幕式で挨拶するマーベリックの姿が映る。

『このフォートレスタワービルがシュテルンビルトの新しい名所、そして、新たな平和のシンボルとなってくれる事を願います』
「…………」

少し冷めた表情を浮かべならがら、バーナビーは静かに画面に映るマーベリックを見つめていた。

――――さぁ、行こう。大丈夫。君はもう独りじゃない。

家の焼け跡に雨の中、傘も差さずに一人佇んでいた僕にマーベリックさんは傘を差し出しながらしゃがみ込んでそう言った事をよく覚えている。
バーナビーは徐にパソコンを操作しだすと、そこから次々とウインドウが立ち上がる。
ウロボロスの紋章や両親が殺害された事件の記事などがバーナビーの目に飛び込んでくる。

「…………俺は、未だに独りですよ……」

バーナビーがポツリとそう呟いたその時だった。

『……本当に、そうなの?』
「!?」

突如、自分しかいないこの部屋に声が響いたことに驚き、バーナビーは腰を上げ、その声が聞こえた方へと振り向く。
そこにいたのは両親を亡くしたばかりの頃の幼い自分の姿だった。

『本当に君は独りぼっちなの?』
「……何を言って――――」
『本当はいるんじゃないの? 僕にはわかるよ。君の隣にはちゃんと誰かがいるってことが』
「!!?」

バーナビーの言葉を遮って幼いバーナビーがそう言った事にバーナビーは瞠目した。
こいつは、僕に一体何を言わせようとしているんだ?
あの男が僕にとって大切な存在であるはずがないのに……。

「お前に何を言われようと、僕は独りだ。今までも、そしてこれからも……」
『…………やっぱり、君は可哀想な人だね。バーナビー』

そう言ったバーナビーに対して幼いバーナビーはまるで憐れむような表情でバーナビーを見つめた。

『そういうやり方でしか、君は守り方を知らないなんて……』

そして、その言葉を最後に幼いバーナビーの亡霊はその場から跡形もなく消えてしまった。

(一体、何だって言うんだ……?)

こんな方法でしか守れない僕が可哀想だって?
何故、そんな事を僕は言われなければいけないんだ。
大体、僕に守るものなんて何もないはずなのに……。

――――……けど、バニーだったらそれをカバーしてくれるだろうって、俺はわかってたぞ! ありがとな!!

ふと、脳裏に浮かんだのはあの男の笑顔だった。

(またか……)

何故、こんな事を考えているとあの男の顔が浮かぶんだ?
あの男と出遭ってから、あの男の事を考えない日は一度もなかった。
こんな事を考えている暇があるならば、少しでもウロボロスの情報を捜せばいいというのに……。

(……あの男は、何処まで僕の邪魔をすれば気が済むんだっ!)

そう怒鳴りたい相手が今ここにいない為、ただ一人バーナビーは窓の外を静かに眺めるだけだった。
























神様シリーズ第2章第2話でした!!
今回は虎徹さんとクロノスの絡みを多めにしてみましたvv
自分で虎徹さんにキスの提案をしていて実際にやられて面を喰らうクロノスが何気に可愛いかったりvv
一方のバニーちゃんといえば、自分の幼い亡霊が出てきてビックリな感じvv
幼いバニーちゃんが伝えたい本当の意味にバニーちゃんはいつになったら気付くかなぁ?


H.25 6/15



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