この世界はなんて愚かで、醜く、残酷で、そして美しいのだろうか……。







〜神様ゲーム〜








『……実にくだらん世界になりさがったものだ』

一人の男がそう呟きながら、シュテルンビルトの街並みを見下ろしていた。
いや、見下しているといってもいいだろう。
漆黒の衣装を身に纏ったその男は、まるで夜空に溶け込むように存在していた。
しかし、この世界はいつの間にこんなにもくだらない世界になったのだろうか?
昔の世界はもっと輝いて見えていたが、いつからか世界が曇って男には見えていた。
それは、自分がこの世界の理を知ってしまったからだろう。
そのせいか自分は何かとても大切なものを失ってしまったような気がするが、それが何なのか月日を重ねるほどわからなくなっていった。
まぁ、わからないくらいのものだから本当は自分にとってはどうでもいいものだったかもしれない。

『……何も知らないくせに呑気な奴らだ』

何も知らないから、人々はこう呑気に暮らしていけるのだろう。
この世界に住む人々は何も知らない。
自分たちは世界に生きているのではなく、生かされているのだという事実を…。
ここにいる人々にはそれぞれ運命というものがあり、その定め通りに動いているだけだという事実を…。
そして、その運命によりこの街はあと数時間後には火の海と化すことを…。
とある科学者が生み出したアンドロイドが暴走し、この街を守るヒーローとかいう連中すら手に負えない状況に陥り、街は崩壊の道へと辿ることをここに暮らす彼らはまだ誰一人知らずにいるのだ。

『……? なんだ?』

ふと、視線を変えると男は人々がジャスティスタワーと呼ぶ建物から一筋の赤い閃光が伸びるのが見えた。

『……行ってみるか』

その光に少し興味を持った男はジャスティスタワーを目指すように地面を軽く蹴った。
男の身体はまるで背中に羽が生えたかのように空中に浮き、次に男の足が地に着いた場所はジャスティスタワーの最上階である。

「虎徹さん! 虎徹さーーーんっ!!」

そこで男が目にしたのは二人の男の姿だった。
一人は身体中傷だらけで、もう一人はその男を抱きかかえ必死に呼びかけているのが遠くから見えた。

(……あぁ、そうか。彼らか……)

彼らがこの街の運命のターニングポイントとなった者だ。
たった一人のヒーローの死により、仲間である彼は戦う気力を失い、アンドロイドの暴走を止めることができなくなるのだ。
彼がもう少し頑張れば、アンドロイドのセーフティーモードが発動することができたのに……。
しかし、たった一人の男の死がこの街の崩壊へと繋がってしまうのだから、この世界はどれだけ残酷なのだろうか。
まぁ、この街がどうなろうが自分には関係ないが……。
だが、この街の運命を決めた男がどんな奴なのか気になり、男は静かに二人へと近づいた。

『……っ!』

そして、二人の顔を見た途端、男は思わず息を呑み、目を奪われた。
金髪の綺麗な顔立ちだが、哀しみで顔を歪めている男ではなく、その男に抱きかかえられている彼の姿に……。
東洋系の顔立ちの彼は既に息が絶えているはずなのに、まるで眠っているかのように安らかな表情。
何処からともなく降り注ぐ光が彼を照らすことでそれをさらに神々しく感じられた。
まるで、美しい彫刻のようだと男は思った。

『…………美しい』
「……っ! 誰だ!?」

それを思わず口に出してしまった為、男の存在に漸く気が付いた彼――バーナビーが男へと鋭い視線を向ける。

『そうだなぁ……。強いて言うなら……神様かなぁ?』
「ふっ、ふざけるなあっ!!」

男のふざけた口調にバーナビーがキレ、男へと突っ込む。
突然、目の前に現れた男をバーナビーは敵と判断したのだろう。
男は何の考えもなく突っ込んでくるバーナビーを優雅に躱すと、先程までバーナビーが抱えていた彼を自分の腕の中へと収めた。

「虎徹さんっ!? 虎徹さんを放せっ!!」
『やーだ♪』

彼を奪われたバーナビーは必死に彼を取り返そうとするが、それを男はあっさりと躱すと、宙へと浮かぶ。

(虎徹というのか……。彼は……)

男はそう思いながら、彼――虎徹へと視線を向けた。
近くで見ると虎徹の顔がさらに美しく感じた。
もう開くことない彼の瞳は一体どんな色なのだろうか?
喜んだり、哀しんだり、怒ったりする時、彼は一体どんな表情を浮かべるのだろうか?
もう見ることのできない彼の生きた表情を見てみたいと彼は何故か思った。

「虎徹さんを……返せっ!!」
『……馬鹿か、お前は。そんなに大事なものなら、初めから手放すこと自体が間違いだったのだ』
「っ!!」

バーナビーが男に得意の蹴りを喰らわすが、それをあっさりと躱すとバッサリと冷たくそう言い放った。
その言葉にバーナビーは唇を噛んだのがわかる。
男の言葉は一理ある。
僕が虎徹さんから離れなければ、こんなことにはなっていなかったのだから……。
そんなことを考えていると男は退屈そうに息をついた。

『……まぁ、私にはどうでもいいことだけどな』

そう言うと男は再度、虎徹へと視線を向けた。
彼のことをもっと知りたい……。
今まで感じたことのない衝動に駆られ、男は虎徹の額に手を伸ばす。
男が静かに瞳を閉じるとそこから仄かに光が宿る。
それにより彼がこれまで辿ってきた軌跡が男の脳裏に浮かんでは消えていく。

(これは……面白い)

その軌跡にますます男は虎徹への興味を強めていく。

「! 貴様っ! 虎徹さんに、何をしているっ!!」

その光景を目の当たりにしたバーナビーは声を荒げて、再び男へ向かって加速しだす。
そして、男へ蹴りを喰らわす。
その行動を初めからわかっていたかのように男は、虎徹の額に乗せていた手をゆっくりとバーナビーへと向け、それを受け止めた。

「!!」

男が素手で蹴りを受け止めた為、バーナビーは瞠目する。
そしてその瞬間、男の手から衝撃波が出現し、バーナビーを吹き飛ばした。

「ぐあぁ!」

吹き飛ばされたバーナビーは地面へと叩きつけられた。

『あ〜あ。本当にうざいなぁ、お前は。折角、人が楽しんでいるところなのに……』

その様子を見た男は静かに地に足を着けると、まるでバーナビーを小馬鹿にしたかのように笑みを浮かべて言った。

『……でも、まぁ……。そのおかげでますます興味を持ったよ♪』

あんなクールで人のことなど関心がなさそうな男をあそこまで感情的に動かしてしまう彼のことを……。
ただの軌跡だけでなく、実際に動く彼の姿を見てみたいと男は思った。

『……光栄に思えよ。今回の遊び相手はお前で決定だ。虎徹……』

男はフッと笑みを浮かべるとそっと虎徹の唇に口づけを交わした。
その瞬間、眩いばかりの光が辺りを包み込んでいった。





















さぁ、すべての時間を巻き戻そうか。
一体いつの時間まで巻き戻そうか……。
そうだ、あの時間まで巻き戻そう。
そうすれば、きっと面白いものが見られるだろう。
すべての運命が廻り始めたあの日に……。

























タイバニ逆行パロ小説神様シリーズのプロローグでした!!
ついに書き始めてしまったよ!虎徹さん逆行パロ小説♪
プロローグでは謎の男を中心に書かせていただきました。
謎の男の正体は後々明らかにしていきます〜。それにしても謎の男とバニーちゃんの絡みが面白かったvv
この絡みが後々どうバニーちゃんに影響していく楽しみに。もしかしたら、何にも影響しないかもvv(えっ!?)
次回は、虎徹視点で逆行後の話を進めて書いていく予定です!


H.25 2/5



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