(よしっ! 追いついた!!) 虎徹の必死な追跡もあり、あの時より早くライオン像に追いつくことに虎徹は成功した。 「ト……君!」 「!!」 一瞬、少年――トニーの名前を口に出しかけたのを抑えて虎徹は叫ぶ。 その声にトニーはあの時と同じように怯えた眼差しでゆっくりと振り向いた。 「降りなさい」 虎徹はできるだけトニーを刺激しないようにゆっくりと近づきながら慎重にそう言った。 「こっ、来ないでっ!!」 だが、虎徹の行動は感情が高ぶっているトニーには全く効果がなく、虎徹に向かってライオン像が咆哮すると、そのまま街中へと逃げる。 そして、楓のいるあの高層ビルの天辺に建てられたドーム型のスケートリンク場へ向かっていく。 (やべぇ!) 虎徹は力を最大限まで引き出し、スケートリンク場に向かってジャンプした。 〜神様ゲーム〜 「母ちゃん!?」 一気にスケートリンク場までやって来た虎徹はそのまま非常口のドアをぶち破るとそこに母――安寿がいた。 見慣れない新しいヒーロースーツに身を包んだ虎徹に安寿が戸惑っていることに虎徹は気付くとフェイスシールドを上げた。 そこから現れた顔を見て漸くそこに立っている人物が自分の息子であることに気付いた安寿はホッとしつつも、何処か不安そうな表情を浮かべた。 「虎徹? ……楓が……楓がいないのよ! きっとあの子、逃げ遅れて……」 「!!」 安寿の言葉に虎徹は瞠目する。 母の言葉は何度聞いても生きた心地がしなかった。 「……わかった。あとは何とかするから、母ちゃんは先に外に!」 安寿にそう告げると虎徹は迷うことなく、スケートリンクへと向かう。 通路を駆け抜けると、スケートリンクへと続く入口があったが、大量の瓦礫によって入口が塞がれていて、常人には通行不可能な状態となっていた。 そんな中、虎徹は天高くジャンプしてスケートリンク場側に着地すると、すぐさま入口を塞いでいた巨大な瓦礫を持ち上げた。 すると、逃げ遅れていた人々が一斉に外へと逃げ始める。 (……楓!) 虎徹は視線をスケートリンクへと向けるとそこにはあの時と同じようにスケートリンクの隅の方で気を失って倒れている楓の姿があった。 虎徹はすぐさま瓦礫を投げ捨て、楓の許へ駆け出す。 今度こそ、俺の手で楓を助ける為に……。 次の瞬間、あの時と同じように天井から瓦礫が音を立てて崩れだし、楓目掛けて落下しだす。 だが、決して間に合わない距離ではなかった。 今度こそ、助けられる。虎徹がそう確信したその時だった。 (えっ……?) 突如、虎徹の視界が一変する。 一瞬、何が起きたのかわからなかった。 あと少しで楓に手が届くところまで来た途端、虎徹の能力が切れ、それによりスケートリンク場に張られていた氷で足を滑らせ、転倒してしまったのだ。 「かっ……楓ーーーっ!!」 滑る氷面から必死に起き上がり、楓へと手を伸ばす。 頼む、届いてくれっ!と祈りながら……。 だが、その手は楓には届かず、無情にも楓の身体に瓦礫が落下する。 氷面に衝突した衝撃で辺りには大量の水蒸気が舞い、虎徹の視界と思考を奪う。 「楓……っ!」 守れなかった。 今度こそ、この手で守れると思っていたのに……。 「ありがとう、お兄ちゃん!」 「えっ……?」 ふと、聞こえてきた声に虎徹の思考が再び動き出す。 その声が聞こえた方に視線を変えると、そこには楓を抱えたバニーの姿があった。 あの時と同じようにバニーが楓を助けてくれたのだった。 「さ、早く逃げな」 「ありがとう!」 バーナビーの言葉に楓は笑顔で応えると、急いでスケートリンク場の外へと駆け出して行った。 「…………ありがとうな」 虎徹はバーナビーへと近づくと彼の背中にそう言葉をかけた。 「は? 貴方にお礼を言われる意味が分からないのですが」 「……だな」 不思議そうな表情を浮かべるバーナビーに虎徹がそう言った時、辺りにライオン像の咆哮が響く。 「助けてっ!」 その声に虎徹は振り向くと、ライオン像に襟を咥えられ、乱暴に振り回されている少年――アイザックはライオン像によって宙へと放り投げられる。 虎徹は迷うことなく、アイザックの落下地点へと能力が切れた状態で必死に駆け込んだ。 「あぶねぇ……」 既に能力が切れていたので、正直間に合うかどうか心配だったが、何とか間に合いアイザックを受け止めることに成功した。 「邪魔しないで……」 「……なんでこんなことをするんだ」 既にトニーの目的を知っているにも拘らず、虎徹は敢えてトニーに問いかける。 「僕のこと……仲間外れにするから……」 「仲間外れ……?」 静かにそう言ったトニーの言葉にバーナビーが何か考えながら呟く。 「そうだよ! 僕のこと気持ち悪いって無視するんだ!」 「だって、こいつ人形動かしたりするから……。NEXTだとか言ってるけど、人間じゃないってことだろ! 気持悪がられて当然だよ!」 「僕だって好きで能力が出たわけじゃないっ! ……絶対に許さない」 アイザックの言葉にトニーが声を荒げた。 それに共鳴するかのようにライオン像が咆哮し、虎徹とアイザックへとゆっくり近づく。 「……君の気持ちはよくわかる」 少しでもトニーの心を宥めるべく、虎徹は静かにトニーへと話しかける。 「嘘だっ!」 「嘘じゃない。……俺も……君と同じくらいの歳にNEXTになったんだ」 「えっ……?」 思いもよらない虎徹の言葉にライオン像の動きが止まる。 それを見た虎徹はゆっくりとアイザックを下すと再びトニーへと向き合う。 「……同じように友達からは気味悪がられてさ。……俺もこんな力なんて欲しくなかったって毎日泣いてた」 辛かった。NEXT能力に目覚めたことを家族に言えず、ずっと一人で抱え込んでいたあの日々は……。 一層のこと、死んでしまった方が楽なんじゃないかと考えたこともあった。 「……でもある日、レジェンドっていうヒーローが俺に教えてくれたんだ……。『その力は人を助ける為にあるんだ』って」 レジェンドのこの言葉が俺を救ってくれた。 今こうしてヒーローになったのもこの言葉があったからだ。 「そんなの無理だもん……」 「どうして?」 トニーの言葉に虎徹は優しく問いかける。 「だって、僕の力はヒーローみたいにカッコいいパワーじゃないから」 「大丈夫。いつか必ずその力が誰かの役に立つ時が来る」 「ホントに?」 「俺が約束する」 「絶対?」 虎徹の言葉が嬉しかったのか、トニーの表情が徐々に明るいものに変わっていく。 それに対して、虎徹はしっかりと頷いて見せた。 「ああ。だから、まずはみんなに謝って、警察に行くんだ」 「! 何言ってるんですか!捕まえないとポイントが――」 「お前は黙ってろ!」 「…………」 すると、それまで静かに二人のやり取りを見ていたバーナビーが驚いたように口を開く。 だが、その言葉を全て言い終わる前に虎徹が強く言い放つ。 それにバーナビーは虎徹の本気度がわかったのか、それ以上反論しなかった。 「……君は今日からその力をいいことに使うんだろ? だったら、そこから降りるんだ」 「…………」 虎徹は再びトニーと向き合うと優しくそう彼に告げた。 暫くの間、トニーは黙って虎徹を見つめ、その場から動かなかった。 虎徹はただひたすらトニーから動くのを待った。 そして、虎徹の想いが通じたのか、すべての覚悟を決めたトニーはライオン像から降り、虎徹へと歩み寄るのだった。 神様シリーズ第1章第9話でした!! ここで、トニーの話を終わらせるつもりが途中で力尽きました; 前回、楓ちゃんを助けられなかった虎徹さんが必死に行動を起こしたにも関わらず、前回より早く能力を発動させた為、それは叶いませんでした。 虎徹さんにはかわいそうなことをしましたが、そうしないと楓ちゃんがバーナビーのファンになるきっかけが無くなってしまうので、悩んだ挙句こうしました。 次回で、ついにトニーの話が終わりあの人が見え隠れします! H.25 2/24 次へ |